2011年10月25日

東日本大震災から半年、回復遠い被災地の雇用~失業長期化でモチベーション低下の懸念、ホワイトカラー求人は専門技能者のみ

 3月11日に発生した東日本大震災から半年が経過した。被災地の雇用はどうなっているのだろうか。津波の直撃を受けて被災地の中で最も多い死者・行方不明者を出した宮城県石巻市、大手企業の主要拠点がある仙台港周辺を中心に、現地を取材した。

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復興計画の遅れで更地は放置されたまま

 被害の大きかった宮城県沿岸地域の多くは、がれきが片付けられ更地になってきている。今後、この更地の上に何を作るのかは、復旧・復興への政府の取り組みが遅れる中で、さまざまな規制があり、地方自治体だけでは計画すら立てられない状況だ。
 仙台と石巻を結ぶJR仙石線もどこに新しい線路を敷くかが決まらず、不通が続いている。ようやく更地にした土地には何も建設されることなく、しばらくこのまま放置されることになりそうだ。
 石巻湾岸の主要産業である水産業は津波による壊滅的な被害を受けた。水産加工工場をはじめとする会社は、一部を除き営業を停止したままで、従業員を雇用できる状態にはない。半年が経っても津波に襲われた建屋や機械をそのまま放置している会社もある。
 復興に向けた全体計画が示されないために、事業者は工場を再建できず、雇用回復につながる動きは、半年経っても生まれていない。

震災前よりも少ないハローワーク来所者

 石巻ハローワークを訪れ、担当者に話を聞いた。失業者が職を求めて混雑しているのだろうと想像していたが、意外にも来所者はまばらだった。被災の状態が落ち着き始めた5月頃から求職者が増え始めたそうだが、現在は一日平均80人~ 100人程度。しかしこれは、震災前の150人前後を大きく下回っている状況だという。
 家を流されて仮設住宅に入居する人、家族を亡くし悲嘆にくれる人など、依然として働く環境が整わない人も多くいるのだが、ハローワークへの来所者が少ない理由の一つには、失業給付が切れる時期が大きく影響している。
 被災状況が軽かった人は、すでに自宅の片づけなどは終わっており、本来は、一刻も早く仕事が必要な状態になっているはずだが、失業給付がある期間は積極的に職に就こうとする行動には出ていないようだ。
 事業者は「求人を出しても多くの人は失業給付を受けており、いまは人が集まらない」と話し、街で声を拾うと「片付けは終わって、失業給付をもらいながらパチンコをしている人も見かける」という話も。被災地住民の間でも、被災状況の違いで支援のあり方に対して不公平感が生じてきている。
 取材時は、11月半ばごろから順次失業給付が打ち切られるということだったが、失業給付がさらに延長されることが決まった。しかし、安易な失業給付の延長は失業者の働くモチベーションの低下を招きかねない。
 一方で、多くの人が希望する正社員の求人が被災地には非常に少ないことも事実だ。ハローワークの玄関に貼り出されていた「フレッシュ求人」を見ても、ほとんどが短期間のアルバイト・パート、契約社員だった。
 石巻では震災で1万人の離職者が出ており、石巻ハローワークでは求職者の急増を予想して石巻駅前には、新卒や正社員の求人を対象としたカウンセリングルームを設けている。しかし「いまのところ求職者の出足は鈍い状態」(石巻ハローワーク担当者)だという。

大手企業の事業縮小で雇用環境の悪化が進む

 石巻港には、日本製紙の主力工場があり、9月16日にようやく生産を再開した。しかし、従来の生産を大幅に縮小する計画で、雇用者数の削減は避けられない状態だ。
 仙台港周辺の被害も大きかった。キリンビール、ソニー、JFE、新日鉄、東洋製罐などの工場が立地するほか、トヨタ自動車の積み出し拠点となっていた。港に隣接するキリンビール仙台工場は9月26日に製造を再開したばかりだ。
 仙台に拠点を持ちホワイトカラーの人材紹介を行うアクティベイトの海老一宏社長は現在の雇用環境を次のように話す。
 「被災地域の企業には、事業の縮小を検討することも多く、今後、雇用の縮小が懸念されます。一方で、復興需要による雇用拡大はいまのところ現れていません。ホワイトカラーで需要があるのは、一級建築士や管理技師といった特殊な技能を持った専門人材だけです。震災以前から地方経済は疲弊しており、今回の震災で一層産業が衰退してしまうのではないかと心配しています」
 大手企業の事業縮小が進めば周辺の関連企業にも大きな打撃を与えることになり、被災地の雇用環境の悪化は避けられない。

一刻も早く復興計画を立て、産業の再生で雇用を創出

 東北地方の経済団体である東北生産性本部の中村嘉一郎事務局長は、企業の被害状況を次のように話す。
 「3月11日の震災では、工場などで大きな被害が出ましたが、これまでの経験からBCP対策が進んでいたこともあり、復旧作業は順調に進んでいました。しかし、4月7日に発生した余震がさらに被害を拡大させたこともあって心理的なダメージが大きかった」。
 さらに中小企業については、「震災以前から、地方ではシャッター街が増えており、財政的な余力がなく再生できない会社も多いのではないか。深刻な状況です」
 一方で、仙台市内は震災直後こそ、インフラの停止で影響がでていたが、すでに通常の状態に戻っている。
 東北有数の繁華街である国分町は、震災による損害調査や測量、工事関係者など復興関連の関係者で混雑しており、「震災後半年で、昨年一年分の売上を記録した」(飲食店経営者)という店もある。市内のビジネスホテルも稼働率が高く、予約が取り難い状態が続いている。
 中村氏は、震災によって被害の少なかった仙台への労働力の集中がさらに進むのではないかと懸念する。
 「宮城県の高卒就職率は全国で3番目に低い。東北では、求人数が少ない周辺県から求職者が仙台に集まってくる構造となっています。宮城県の高校卒業者が押し出され、就職率が低下しているのです。震災で仕事を失った被災者がさらに流入してくると、就職率が一層落ち込むのではないか」
 震災からすでに半年。失業保険を頼りに生活を続けるのは限界にきている。モチベーションの低下も著しい。被災地に雇用の受け皿がない中で、地元で働くことをあきらめた若者や働き盛りの世代はふるさとを離れ始めている。
 被災地の雇用を増やすために復興計画を一刻も早く立て、産業を再生することで、再び働く場を創出することの重要性を実感した。
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