2020年6月1日

後継者の見つけ方最新事情【中小企業の事業承継】

日本経済の基盤を強くするためには、雇用の大部分を占める中小企業の事業成長や生産性向上が欠かせない。中小企業の大きな課題と言われている事業承継について、最新事情を取材した。

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保証協会の保証枠が最大2.8億円拡大

 中小企業の倒産件数は減少傾向にある一方、経営者の高齢化や後継者不足による休廃業・解散企業は増加傾向で、最近は年間3万件台から4万件台で推移している。中小企業が培ってきた技術・ノウハウなどが次世代に引き継がれなければ日本経済の基盤を揺るがしかねない。

 こうした危機感の高まりから、国は円滑な事業承継を実現するための支援策を強化している。今年3月には、事業を引き継ぐ際に信用保証協会が引き受ける経営者の個人保証枠を拡大する制度を盛り込んだ中小企業成長促進法案が閣議決定された。

 認定を受けた企業は、保証枠が従来とは別枠で最大2億8000万円まで認められる。また、地域活性化に重要と認められた中小企業は、大企業へと成長した後も最大5年間は低利融資などの特例を受けられる。

優れた経営人材を社外から探し出す

 帝国データの調べによると、後継者不在率は6割を超えている。最近は少子化やキャリアの選択肢の増加などを背景に事業を親族へ引き継ぐことが当たり前ではなくなっている。社内に候補者が見当たらない場合は経営を任せられるような人材を外部から招く必要がある。

 そのような企業のエージェントとして候補者を探し出し、アプローチしてくれるのがリテインド・サーチ(ヘッドハンティング)会社で、経営者・経営幹部、高度な技術者や専門家などの獲得で利用される。求人内容が経営戦略に直接関わるだけに、守秘義務をはじめ競合他社との契約禁止などの倫理規定がある。一つのサーチ会社と独占的な契約を結ぶため、サーチ会社には適切な候補者を必ず紹介しなければならないというコミットメントが発生する。

 そうしたヘッドハンティングで豊富な実績を持つサーチ会社、兆(きざし)が中小企業の後継者問題を支援するため、後継者となる優れた経営人材を探し出し、後継者が自らオーナーとなって経営を担う「個人型M&A」というコンセプトでの事業承継支援を開始した。

 同社の近藤保代表は「近年は、他社に事業を引き継いでもらうM&Aという手法が知られ、仲介会社も増えています。しかし、彼らが対象にするのは手数料が多額となる中堅以上の企業に偏り、中小企業の後継者問題の解決にはつながっていないと感じます。また、事業を引き継いでもらう企業が決まっても良い経営者がやってこなければ、事業成長や社員の幸せは実現できません」と中小企業における事業承継の課題を指摘する。

 同社の支援による成功事例がすでに出ており、優れた経営人材が中小企業のオーナー経営者として活躍するケースが今後増えていくことが期待される。

親族など同族による事業承継は減少傾向

● 事業を承継した社長の、先代経営者との関係(就任経緯...

● 事業を承継した社長の、先代経営者との関係(就任経緯別、2017~19年)

(出所)帝国データバンク「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)

後継者を支える経営幹部の採用ニーズが高まる

 中小企業では後継者を支える経営幹部のニーズも高まっている。地域経済を支える企業が、経験とスキルを持つプロフェッショナル人材を採用する事業を内閣府が推進しており、過去5年間の採用成約数は8000件を超えた。内閣府は人材ニーズの高まりに応えるため、さらに5年間の事業継続を決めている。

 中小企業で経営幹部の採用が増えている理由について、内閣府の事業で経営者からの採用相談に応じている人材紹介会社アクティベイトの海老一宏社長は「既存事業の拡大(工場新設や海外進出等)に加えて、事業環境の変化やビジネスの高度化に対して既存の経営幹部の経験や知見だけでは対応できないケースが増えているからです。また、事業承継に伴って後継者をサポートできる人材や顧問を求める企業もあります」と説明する。

 内閣府は各地域でイベントを開催し、中小企業の経営者に対して、経営幹部採用の成功事例などの情報提供を行っている。
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内閣府「プロフェッショナル人材事業」のセミナーに多くの経営者が参加(写真提供:アクティベイト)

元気なうちから、次世代の経営体制づくりに着手

 人生100年時代と言われ、第一線で活躍している高齢社長は数多くいるものの、次世代に引き継ぐための準備には元気なうちから着手しておく必要があるだろう。

 そうした考えを持つ経営者を支援するため、中小企業の事業承継に関する情報発信サービスを手掛ける事業承継通信社は、経営コンサルティング会社エバーブルーと提携し、後継者育成プログラム「STEP」を3月から開始した。

 同社の若村雄介CEOは「事業承継では、経営者の交代という『点』ではなく、今後の成長戦略と人・組織を固めて次世代の経営体制づくりを進める『線』 の取り組みが本来は重要ですが、多くの中小企業ではそうした取り組みが先延ばしになっています」と話す。

 後継者育成プログラムでは「事業承継診断をもとに後継者や承継の方向性の話し合い」、「後継者候補を含む次世代経営チーム体制を組成」、「次世代チームを中心に企業理念、各種制度を磨きあげる」、「濃密な経営勉強会を通じて新チームの管理能力を向上」、「現経営者の引退と新経営体制、企業理念と制度の浸透、定着」、「新体制のもとで人と組織の安定、業績向上をはかる」といった流れを想定している。

 経営体制づくりを進める上では、社内の人間だけで自社の置かれた状況や強み・弱みを客観的に見ることは難しく、社員間の意識にズレがあることから、同社では現経営者に対して、引退を少しでも意識し始めたら外部の信頼できる専門家に相談することを勧めている。

課題解決に向けた実践的な指導を求める後継社長

 後継者の育成は企業規模を問わず経営者の最も重要な仕事だが、中小企業が独自に教育プログラムを用意することは容易ではない。また、親族内で後継者がすでに決まっている場合もあり、こうした背景を十分に配慮した的確な教育内容や指導方法が必要になる。

 経営コンサルティングを手掛けるアタックスグループの「アタックス社長塾」では、これまでに190人以上の中堅中小企業の後継社長・経営幹部が受講している。理想的な長寿企業を目指す「強くて愛される会社診断システム」で見つけ出した自社の課題を分析し、各講座内容を自社へ展開する実習などを通して“実践経営理論”がしっかりと身に付く仕組みを用意しているという。

 受講者の様子について、ディレクターを務める同社の小島健嗣氏は「課題をあぶり出し、解決するための実践的な指導へのニーズが高まっています。最近の傾向としては『現場社員との意識ギャップを埋めて、いち早く環境変化に対応していきたい』という悩みを持つ後継者が増えています」と話す。また、税理士法人を母体とする同社に対しては、財務面での的確なアドバイスを期待する受講者も多いそうだ。

 教育の専門家による体系化されたプログラムで学び、受講者同士が切磋琢磨して交流できるような、こうした社外の教育プログラムの活用も後継者の育成には有効だ。
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中堅中小企業の後継社長が1年間学ぶ(写真提供:アタックス社長塾)

複数のM&A仲介会社と提携して買い手を集める

 近年はM&Aを活用した事業承継が知られるようになり、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクといったM&A仲介会社が上場を達成し、業績を伸ばしている。こうした専業会社に加えて、法律・会計事務所や経営コンサルティング会社などM&A仲介を手掛ける事業者は数多い。

 人材サービス最大手のリクルートは、同社のサービス品質の条件をクリアしたM&A仲介会社と提携して買い手企業を集め、オーナー社長とマッチングする「事業承継総合センター」を2018年10月に立ち上げている。同センターの責任者を務める三木武人氏は「専任契約を結んだ仲介会社に任せたものの『着手金を支払ったのに買い手が見つからない』『強引にM&Aをさせられた』といったトラブルが一部では発生しています。こうしたトラブルを避けるためには、特定の相談相手に依存し過ぎず、複数の専門家に意見を求めたり、仲介会社を比較検討することが必要です」と強調する。

 同センターでは今年3月時点で買い手リストが8000社を超え、同社がオーナー社長から相談を受けて売却が本格的に検討されている案件だけで500以上あるという。サービス利用の際は、提携M&A仲介会社への着手金は不要で、M&A取引成立時の成果報酬のみとなっている。

 こうしたサービスによってM&A仲介会社の専門分野や買い手企業に関する情報入手が容易になれば、M&Aによる事業承継を希望するオーナー社長は助かるだろう。

オーナー社長と買い手企業のマッチングを促進

● リクルート「事業承継総合センター」の仕組み

● リクルート「事業承継総合センター」の仕組み

(出所)リクルート「事業承継総合センター」ウェブサイト

◆◆◆専門家に聞く 中小企業の事業承継を成功させるポイント◆◆◆

社外の異質な才能を持つ人材と出会う機会を増やす

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アクティベイト 海老 一宏 代表取締役社長

 内閣府のプロフェッショナル人材戦略の取り組みでは8000人以上の成約が実現するなど、中小企業が人材紹介サービスを利用して経営幹部を採用する動きが広がっています。

 外部から経営幹部を採用する理由は、既存事業の拡大(工場新設や海外進出等)に加えて、事業環境の変化やビジネスの高度化に対して既存の経営幹部の経験や知見だけでは対応できないケースが増えているからです。また、事業承継に伴って後継者をサポートできる人材や顧問を求める企業もあります。

 今やどの企業も社外の異質な才能を持つ人材を受け入れていくことが欠かせません。中小企業の経営者はこれまで以上に社外の人材と出会う機会を増やし、積極的に情報収集することが重要になっています。

引退を少しでも意識したら、次世代の経営体制づくりに着手する

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事業承継通信社 若村 雄介 代表取締役 CEO

 事業承継では、経営者の交代という「点」ではなく、今後の成長戦略と人・組織を固めて次世代の経営体制づくりを進める「線」の取り組みが本来は重要ですが、多くの中小企業ではそうした取り組みが先延ばしになっています。

 また、経営体制づくりを進めるにしても、社内の人間だけで自社の置かれた状況や強み・弱みを客観的に見ることは難しく、社員間の意識にズレがあることを理解しておくべきです。経営幹部に後継者となることを打診したものの断られるという話は珍しくありません。

 親族や従業員への承継、他社への譲渡(M&A)など、どのような形になるとしても、経営者は引退を少しでも意識し始めたら次世代に引き継ぐために何から着手すべきかを、外部の信頼できる専門家に相談することが必要でしょう。

現経営者と後継者のパイプ役を担える存在を社外に得ておく

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アタックス 小島 健嗣 アタックス社長塾 ディレクター

 当社の後継経営人財育成機関「アタックス社長塾」では、課題をあぶり出し、解決するための実践的な指導へのニーズが高まっています。最近の傾向としては「現場社員との意識ギャップを埋めて、いち早く環境変化に対応していきたい」という悩みを持つ後継者が増えています。

 そのような後継者の悩みを解決するためには、後継者が現場社員から信頼を勝ち取る必要があります。自社を取り巻く環境を理解し、後継者自身が高い熱量をもって取り組める経営課題を設定し、やりきることが重要なポイントです。また、多くの経営承継に接する中で実感するのは、現経営者と後継者だけで率直に話し合うことの難しさです。現経営者と後継者のパイプ役を担える存在を社外に得ておくことも後継者育成を成功させるポイントです。

M&Aトラブルを避けるために仲介会社を比較検討する

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リクルート 次世代事業開発室 三木 武人 オーナー社長のための事業承継総合センタープロダクトオーナー

 M&Aは情報の非対称性が大きい取引であるため、十分な情報を持たない売り手のオーナー経営者は不利な状況に置かれがちです。専任契約を結んだ仲介会社に任せたものの「着手金を支払ったのに買い手が見つからない」「強引にM&Aをさせられた」といったトラブルが一部では発生しています。

 こうしたトラブルを避けるためには、特定の相談相手に依存し過ぎず、複数の専門家に意見を求めたり、仲介会社を比較検討することが必要です。

 また、M&Aを進める上では決めなければならない事項が非常に多くあります。売り手として何を優先したいのかを事前にはっきりさせておくことが、買い手との交渉をスムーズに進めるためには必要です。
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