2009年12月10日

新卒採用活動の課題と新たな動き 地方大学の眠れる原石を探す、質重視の母集団形成が主流に

政府が緊急雇用対策で新卒者の支援態勢強化を掲げているように、2010年春卒業予定者の就活戦線は学生にとって厳しい結果となった。一方、採用人数を絞り、質重視の採用に転換した企業にとっては、限られた優秀な学生を奪い合うという構図に大きな変化はない。 すでに2011年春卒業予定者の採用活動はスタートしており、採用担当者は多忙を極めている。学生のエントリーは増加する一方だが、限られた時間とコストの中で、優秀な人材を獲得するために、採用活動の方針を見直す動きも出てきている。新卒採用活動の課題と新たな動きを取材した。

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10年春の大卒内定数 前年比3割減

 世界同時不況の影響を受けて、2010年春の大卒内定数は2009年度実績と比較して約3割減少した。日本経済新聞社の採用状況調査では、2010年春の大卒採用内定数は2009年度実績と比べて28.6%減で、その減少幅は1995年度の同調査開始以来最大となっている。
 特にここ数年大量採用を行っていたメガバンクや米国で事業を拡大していた自動車・部品、電機の大幅な採用減が目立った。
 メガバンクでは、みずほフィナンシャルグループが2350人から980人減らし1370人。三井住友銀行は1949人から1000人減らし、949人に内定を出している。大和証券グループは833人を360人に減らすなど金融危機の影響をもろに受けた。
 メーカーでは、キヤノンが876人から340人、リコーが479人から296人、東芝が980人から590人と大幅に減らしている。
 一方で、内需関連企業は業績へのダメージが比較的少なかったこともあるが、「極端な採用抑制は世代間の断絶を生むことが、これまでの不況時の経験から分かっているので、不況になっても新卒採用は前年並みに行う」(大手食品メーカー)とする企業もあり、新卒採用の減少に一定の歯止めがかかっている。

エントリーを急ぐ学生 採用の効率化が課題

 今年もすでに2011年春大卒予定者の就職活動が始まっている。10月1日にリクナビ、マイナビなどの就職サイトがオープンし、同時に各社の採用ページも開設された。
 今年の就職活動の苦戦を目の当たりにした学生の動きも早い。学生に人気の高い大手化粧品メーカーでは、「自社採用ページを開設したその日に数百人のエントリーがあった」。
 就職情報サイトの閲覧の傾向も、昨年までとは打って変わって、これまで学生に見向きもされなかった中堅・中小企業に注目する動きが早くもでている。
 人気企業では、少ない採用枠に1万人以上の学生が殺到する。採用数が減少傾向にあることから、来年も採用担当者は選考に悩まされることが増えるだろう。採用担当者が少ない上に、採用にかけられる時間は限られている。
 2010年の採用では、日本経団連の倫理憲章に賛同している会社の多くは、4月から面接を開始し、4月中旬からは内定を出していた。効率的な採用を行うためにも、これまでのような数を重視する母集団形成から質への転換という工夫が求められる。
 採用の満足度で言えば、選考基準を厳しくした結果、中堅企業で「例年よりも良い人材を採ることができた」との声が多く、全体的に満足度が高まったようだ。
 学生の資質を見極めるためにインターンシップを導入する企業もあるようだが、現場への負担も大きく、希望者全員を受け入れることは到底不可能だ。また、負担を減らすために一日インターンなどを実施する企業もあるが、インターン期間を短くすると、学生の資質を十分に見分けることはできない、というジレンマも生じている。
 2010年の採用活動は、景気をにらみながらの動きが続いたため長引くことになった。こうした流れで、今年から面接回数を増やす会社や採用の通年化を考える企業も出始めている。
 採用数を絞り込んでいるといっても、優秀な学生を獲得したいという企業の姿勢は変わらない。厳選採用を基軸にしながら、採用手法も最近変化しつつある。

筆記試験や集団面接を廃止する企業も

 1つは書類や適性試験、あるいは実績校主義による選考基準を緩和し、フェイス・トゥー・フェイスによる面接重視の傾向である。
 その背景には直接会って本人の資質をじっくりと見極めたいというだけではなく、入社意欲の有無を徹底して確認し、内定辞退や短期離職を回避したいという狙いもある。
 たとえば大手医薬品メーカーは昨年まで実施していた会社説明会での筆記試験を廃止。エントリーシート提出者に自宅でのウェブテストを受けてもらい「説明会に参加できない地方の学生を含めた多くの学生と面接することにした」(同社採用担当者)という。
 また、大手情報系システム会社もウェブテスト通過者の学生を対象に面接を実施。さらに集団面接を廃止し、面接官2人で学生1人をじっくり観察する面談重視の姿勢をとる。採用学生も理系の情報系学部に限らず文系も含めた多様な人材の獲得を目指している。
 「文系でも十分に養成できる教育システムは完備している。逆に金融や流通を勉強していた学生が、その業界のお客様に対してこれまでの発想を超えたプログラムを生み出す可能性もある」(同社採用担当者)
 大手外資系製薬会社は、4月前の会社説明会に参加した学生を対象にウェブ上の適性検査の合格者全員と面接する。同社はエントリーした学生を対象にセミナーを2回実施。初回は製薬業界を取り巻く環境変化、2回目は現役社員に実務の話をしてもらう。
 「業界の競争環境や変化が激しいことを知り、たぶんついていけないと思う学生は2回目のセミナーには来ない。我々としては会社に入ってからこんなはずではなかったと思ってほしくない。2回の参加者を対象にウェブテストを実施し、合格者を約半分程度に絞り込み、その後の面接を1対1で行い、本人の資質を見極めている」(同社採用担当者)

メガバンク、学生1万人と面接

 数多くの学生との面接重視はエントリー数の規模に関係ない。かつてOB・OGが母校の学生に選考試験を受けることを働きかけるリクルーター制を実施していた銀行も、今は自由に応募できるオープンエントリー制を採用している。
 毎年2万人以上のエントリー数が集まるメガバンクは、書類の記載内容の不備を除いた学生および実際に試験会場に足を運んだ学生1万人を対象に面接を実施。
 初回のグループディスカッションで一言も話さない、人の意見を聞かないといった人を除いた7~8割の学生を対象に個人面接を行い、しかも面接回数を限定していない。
 「第1志望ですという学生でも、本当にうちに入りたいのか確認せずに内定を出しても迷って辞退する人もいる。そうなると本当に入りたいと思っている学生が入れなくなる。お互いが納得するまで最低7回の面接を繰り返している」(同行採用担当者)

選考指標は二極化 「共通化」と「多様化」

 もう1つの変化は面接官の選考指標の二極化だ。面接官の恣意的な判断を避けるために“目線を合わせる”共通のチェックポイントを設ける企業もあれば、あえて「一緒に仕事をしたいか」といったモノサシのみで基準を設けない企業もある。
 たとえば、従来個々の面接官の判断に任せていた製薬会社は、今年から共通の基準を設定して面接に臨んだ。
 その理由は「今までは見所があるとか個人的な感覚で判断を下していたが、どうしてもブレが生じてしまう。これを排除し、面接官の目線を合わせ、どのプロセスで何を見るかということを明確にした」(同社採用担当者)
 同様に大手外食企業は事前に面接官研修を実施し、学生のどこをチェックするのかという基準を明確化した。
 「たとえば人事面接ではオペレーション能力、リーダーシップ、ストレス耐性の有無をポイントに面接する。次の役員面接では、総合判断力や店長以外の仕事も担えるかどうか、将来的な配置も含めて本人の資質を見極めるようにしている」(同社採用担当者)
 これに対し、あえて基準を設定しない企業は、目線を統一化することで同質のタイプを採用してしまうことをその理由に挙げる。
 メガバンクの採用担当者は「学生はいろんな個性を持っている。必要な要素だけを取り出して人物を見極めることで、逆に見失ってしまう要素もある。面接を繰り返すことで本人の持つ長所を引き出していくことが重要だ」と指摘する。
 また、面接を人事部員のみで行うというサービス業の採用担当者は「人事部員は長年の採用経験もある面接のプロ。学生一人ひとりの資質を見極めつつ、彼はどこの部署なら活躍しそうだと、多角的な視点で判断している。共通の基準を設けることは、逆に同じようなタイプの人間が集まりやすく、組織としてつまらないものになるのではないか」と指摘する。
 経営環境やビジネスモデルが大きく変わる中で求める人材像が変化すれば、当然、会社を変えてくれる「変革人材」も必要になる。新たに人材指標を設ける企業もあれば、面接に数多くの他部署のリーダーを参加させる企業もある。

攻めの人材開拓 地方大学を積極訪問

 もう一つの変化は、エントリーを待つだけではなく、多様な人材の発掘を目的とする攻めの人材開拓だ。首都圏以外の全国の大学を訪問し、精力的な採用活動を展開する企業が増えている。
 たとえば大手食品会社の採用数は120人程度であるにもかかわらず、100校以上の大学を訪問。09年度入社者120人のうち、出身大学数は約60大学、1大学平均約2人の採用者を出した。
 また、外資系大手製薬会社も採用数は営業職100人程度であるが、北海道から九州の大学を20校近く訪問。同社の採用担当者は「地方の営業拠点の要請もあり、大学訪問を強化している。
 地方の大学に行くと、熱心に質問をしてくるし、眠れる原石ではないが質の高い学生も多い。こちらから待っているだけではいい人材は採れない」と指摘する。
 大手食品加工会社の採用数も40人程度にすぎないが、それでも同社も北海道から沖縄まで全国の大学を訪問している。その狙いは逆に採用数が少ないだけに多様な人物を集めたいという思いがある。
 「首都圏の有名校から採用しようと思えばできるが、それは絶対にやりたくない。同質の人材で固めてしまえば、経営的に難しい状況に直面したときに、新たな事業を生み出す人的資源が枯渇し、業績の回復ができなくなる恐れもある。多種多様な人材がいることが健全な経営につながる」(同社採用担当者)
 経営環境の変化が著しい今日においては、事業のリスクテイクと同様に人材の多様化によるリスクテイクも必要になっているのかもしれない。業績不振を受けて企業の採用数が減少していく中、逆に企業が求める人材の質のハードルは高くなっている。
 いかにして優秀な人材を発掘し、採用に結びつけるのか。採用担当者にとっては、買い手市場といっても決して楽観視できる状況ではない。
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