2018年1月22日

【海外出張者と駐在員のリスク管理】2017年の重大ニュース等から学ぶ

2017年も大きな出来事が繰り返し発生した。危機管理のプロであるオオコシセキュリティコンサルタンツの廣瀬シニアコンサルタントに、昨年の注目すべきニュースや出来事から教訓とすべきポイントを挙げ、本年の安全対策にどのように生かして行くかについて寄稿してもらった。

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2017年の出来事から学ぶ

(1)「イスラム国(IS)」掃討作戦終了

 2014年6月29日、「イスラム国(IS)」はカリフ制国家樹立を宣言して3年余でシリア、イラクの支配地からほぼ排除された。モスル攻略作戦が始まったのは2016年10月、掃討作戦では多くの犠牲者を伴いながら、2017年7月に作戦を終了した。

 シリアではISが首都と称するラッカも2017年10月に陥落、一部地域を除きほぼイラク、シリアから排除された。国家樹立宣言から排除までに時間と多くの一般市民の犠牲を伴いながらも、ともかく独自の論理と宣伝活動で地域を支配し、一般市民を虐殺するなどの恐怖支配を繰り返したISの大きな脅威はほぼなくなった。

 しかし、ISのリーダーを含む中枢部の幹部は別の場所に既に移動したと見られており、新たな戦略を練っているものと思われる。広大な支配地を別の地域で再び手に入れることはないが、主として治安情勢の悪化している様々な地域で活動を継続していくものと思われる。

 本年もISのネット上でのアピールやアフガニスタンで繰り返しているような組織と直結したテロの動きに注目していく必要がある。

(2)朝鮮半島緊張

 トランプ政権誕生以後の米国は、挑発を繰り返す北朝鮮に対して、軍事力行使も辞さない等過激な発言を繰り返し、偶発的な衝突が懸念され続けた年であった。韓国に進出している企業にとっては悩ましい1年であった。

 特に、北朝鮮側は相次ぐ弾道ミサイル発射や、6回目の核実験を行い、一方、米側は11月には空母三隻を動員した軍事訓練を行ったことから、両者間の緊張が最高に達したが、それでも日本企業等が国外退去する事態には至らなかった。

 北朝鮮は、今後も核弾頭搭載の弾道ミサイルの開発、核開発を進めて行く方針に変更はないと思われる。北朝鮮は、本年になって、平昌オリンピックに参加するなど韓国との対話姿勢を示しているが、北朝鮮の時間稼ぎとも言われており、朝鮮半島の緊張が一気に和らぐことは期待できない。一方、トランプ政権は米国への脅威が増すことになれば軍事力の行使へと舵を切る可能性は常にある。

 本年もまた、朝鮮半島情勢で悩ましい対応を迫られる1年となる可能性が高い。昨年同様に、情報収集、緊急避難、国外退避を想定して、万一の場合に備えておくことが必要である。

(3)トランプ大統領就任

 世界はトランプ大統領に掻き回された1年と言っていいだろう。内向きの外交政策は国際協調により世界の平和、安定を目指す方向とは逆方向に向かう結果となった。TPPからの離脱、ユネスコからの脱退、パリ協定からの離脱などのほかに、各国の治安情勢に影響を与えたエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題は、本年も尾を引くことになる。

 新年早々、暴露本が出版され、同大統領が激しく抗議した結果、本の売れ行きに一役買う結果となった。また、ロシア疑惑、或いは捜査妨害について大統領に直接捜査が及ぶ可能性もある。火の車状態になる可能性を秘めながらも、トランプ大統領は我が道を突き進むことになろう。

 何はともあれ、大きな権限を有するアメリカ大統領の一挙手一投足には、大きな影響力がある。企業としても、好むと好まざるとに関わりなく、同大統領の動静、言動に注意して行かざるを得ない。

(4)世界各地でテロ

 年初にトルコでは銃乱射テロ事件が発生した。イギリスでもテロが相次いだ。ローンウルフ或いはホームグローンによる単独テロが主だったが、ロンドン橋、さらにはバラマーケットを襲撃したテロ事件は、3人組によるものだった。

 スペインのバルセロナで発生したテロは、前日に近くのアジトで誤爆事件が発生し、リーダーが死亡した。グループは12名から構成されたと言われており、本事件では4名が拘束された。万が一、爆弾が使用されていれば、より多くの犠牲者が出た可能性があった。

 エジプトのテロも止まない。シナイ半島地域のISの影響を受けた過激派組織のテロは治安部隊に対する攻撃を中心に繰り返し実行されているが、昨年11月にモスクを襲撃したテロは300人以上の犠牲者を出した。犠牲者の数及びスンニ派のモスクが狙われたということから、大きな衝撃を与えた。また、ムスリム同胞団との関係が取り沙汰されている「ハスム運動」がカイロ近郊でテロを繰り返しており、3月に大統領選挙を控えたエジプトは、本年もテロに悩まされることになろう。
 アフガニスタンは、米軍などの支援を受けて国内の治安回復を目指しているが、IS、タリバンによるテロ攻撃の勢いは止まらない。米国政府はこれまで、パキスタン政府や軍の一部が「ラシュカレ・タイバ(LeT)」やイスラム過激派組織「パキスタンのタリバン運動(TTP)」などのイスラム武装組織を裏で支援していると強い不満を募らせている。本年早々、テロリストの出撃拠点はパキスタンとして米政権は同国のテロ対策への取組みを非難し、経済支援の凍結を発表したが、パキスタンはこれを否定している。パキスタン国内においても、アフガニスタン国境を中心にテロが頻発している。本年も、両国でテロは続く。米国とアフガニスタン、パキスタンの連携がなければ南西アジアのテロは防止できない。

 ソマリアを拠点とするアルシャバブ、ナイジェリア北部を拠点とするボコ・ハラム、北アフリカ、西アフリカでテロを繰り返しているアルカイダ系のイスラム過激派グループも昨年同様にテロを行う。これらのグループは襲撃後、目標の場所を占拠するテロを実行することがあり厄介である。

 邦人が多く活動するアジアにおいても、フィリピン、インドネシアでISに忠誠を誓うイスラム過激派組織がテロを実行しており、本年もその傾向は変わらない。

 動機は未だ解明されていないが、昨年、ラスベガスで高層階から銃撃した事件は、これまでのアメリカの銃乱射事件としては、過去最悪の犠牲者を出した。同事件を模倣した事件が散発したが、テログループやローンウルフが模倣した同種乱射事件を敢行することが懸念される。

 本年も、テロ組織の動向、テロの発生状況を見落とすことなく分析し、社員がテロに遭遇しないための注意喚起を行っていく必要がある。

(5)ロンドン高層住宅火災

 ロンドンの高層住宅火災の映像を、危機管理担当者の皆様はどのような思いでご覧になっただろうか。

 海外に展開する企業、団体職員、留学生などの多くは、集合住宅に居住している。都市開発の進む国では、多くの邦人が高層マンションに居住し、或いは高層ビルに事務所を構えており、ロンドンで発生したような火災に遭遇する可能性がある。

 高層ビルでは、年に最低1回は消防訓練や避難訓練が行われているが参加する人は少ない。非常階段の位置、火災時の対応について実際に確認していない人もいる。昨年、ミャンマーのホテル火災で邦人が死亡している。

 非常口の確認、地震、火災発生時にどうすべきかを最低限確認する癖をつけておくことが必要である。

(6)ジンバブエクーデター

 政治的対立が治安の不安定に結びついている国がいくつもある。権力争いに明け暮れ、国内治安の確保は二の次である。

 昨年、体制変化があったのはジンバブエだった。流血事態は避けられたが、一歩間違えばそのような事態を招く可能性があった。本年も国外退避までに至ることはないが、そのような緊張事態に至る国が出てくるかもしれない。

 民主主義が定着していない国々の選挙の時期が要注意である。本年も、各国で選挙が実施され、与党、野党支持者が対立する場面が予想される。大統領選挙、議会選挙などが開催される国は、事態の推移を確実に把握していく必要がある。
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