2014年8月20日

外資系企業の人材採用 競争激化で厳しさ増す

バイリンガル人材を採用ターゲットとする国内の外資系企業の採用環境が厳しさを増している。日本に進出する外資系企業の増加に加え、海外に目を向け始めた日系企業ともバイリンガル人材を奪い合う状況となっている。

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 外資系企業の人材採用が厳しさを増している。採用の現場からは、深刻な声が聞こえるようになった。
 一昨年、円安を背景に日本に進出した欧米系メーカーA社では、体制強化のために昨年からCFOをはじめ品質管理責任者など社員の中途採用を積極的に進め始めた。しかし、人材採用は思うようにいっていない。
 日本法人の責任者は、半年経っても希望するスペックの人材が確保できないと嘆く。同社の人材採用では、新卒を含めすべてのポジションに語学力を求められる。経営幹部層に要求するスペックはさらに高い。
 A社の採用責任者は、採用したい人材像について次のように話す。「CFOのポジションでは、日本の会計に精通していることはもちろんのこと国際会計にも通じていなければなりません。さらに、日本法人の財務を本社でレポートし、必要に応じて資金調達を求めることもあります」
 「そうした説明と交渉する力が求められるため英語によるコミュニケーション力は必須です。スタッフレベルでも本国との技術情報の交換など、最低限の英会話が求められます」と語学力の必要性を強調する。
 このように外資系企業では、本社との連携が頻繁なため英語が話せるバイリンガルであることに加えて、専門分野で高度なスキルを持つ即戦力の人材が求められる。
 人材採用に苦戦する外資系企業はA社だけではない。
 経済産業省が6月に発表した外資系企業動向調査によれば、外資系企業が日本で事業展開する上での阻害要因(複数回答、上位三つ)は、1位が「ビジネスコストの高さ」(78.5%)。
 2位が「日本市場の閉鎖性、特殊性」(44.3%)、3位が「製品・サービスに対するユーザーの要求水準の高さ」(41.7%)、そして4位に「人材確保の難しさ」(36.6%)が入る。さらに、1位の「ビジネスコストの高さ」の内容で最も多かったのが「人件費」であった。
 日本人の人材を確保する上での阻害要因(複数回答、上位三つ)については、1位が「給与等報酬水準の高さ」(59.2%)、2位が「英語でのビジネスコミュニケーションの困難性」(51.8%)で、この二つが過半数を超え、外資系企業の人材採用の最大の悩みとなっている。
 3位以下には、「労働市場の流動性不足」(28.5%)、「募集・採用コスト」(27.5%)、法定外福利水準の高さ」(27.2%)などが挙がる。

国内の外資系企業数はリーマン・ショック前の約2倍の水準に

 給与・報酬水準の問題は、アジア地域における日本の相対的な地位低下によってますます深刻になっている。
 欧米企業はアジアを今後の成長市場としており、これまでアジア地域で経済規模では最大だった日本から、中国、インド、インドネシア、ベトナムなどいずれも1億人を超える人口を抱え消費の拡大が期待できる地域に注目する。
 そのため、アジア地域のリージョン機能を東京からシンガポールや上海、香港に置くことが多くなった。日本からリージョン機能が失われることで、これまでのような外資系企業の魅力でもあったポジションや給与水準の高さは失われつつあり、候補者からみても外資系企業は昔ほど魅力的ではなくなっている。
 一方で、リーマン・ショック前後の日本経済の変化がバイリンガル人材の不足を加速させている。日本における外資系企業の数は、2000年代前半は1700社前後で推移していたが、07年の1583社を底に08年に2058社、09年には2795社と急増。
 12年の3209社まで5年連続で増加している。13年は前年比0.6%減と6年ぶりの減少となったが3189社と高水準だ(帝国データバンク調査)。
 特に08年はリーマン・ショックの影響を受けたにもかかわらず、外資系企業の総数が30%以上増加している。前年までの円安傾向で海外企業による日本への投資環境が改善し、また中国企業による日本市場への参入が大きく伸びたことが要因だ。
 その結果、13年時点の国内の外資系企業数は07年の約2倍となり、バイリンガル人材の採用は一層困難になっている。

海外に目を向け始めた日系企業とバイリンガル人材を奪い合う状況

 リーマン・ショックと国内市場の縮小で海外に目を向け始めた日系企業もバイリンガル採用に本格的に動き始めている。
 日本の製造業の海外売上高比率は02年度に27.9%だったが、13年度(実績見込み)には37.3%と約10ポイント上昇。海外生産比率も02年度の26.0%から、13年度には34.6%にまで高まる見込みだ(国際協力銀行調べ)。
 こうした輸出や海外展開に積極的な日本企業の課題は、「海外ビジネスを担う人材」の確保が大手企業では52.6%と最も高く、中小企業でも38.4%と最大の関心事となっている。
 特に現地化を進める大企業では「幹部候補人材の採用難」(47.0%)が約半数を占めている(JETRO調査)。海外との取り引きにかかわる人材の確保は採用における優先課題でもあり、争奪戦ともいえる状況が続いている。

ダイレクトリクルーティングを導入して採用コストを減らすことは困難

 外資系企業の採用難が深刻化しているにもかかわらず、本社から日本の人件費や募集・採用コストの高さを指摘され、ダイレクトリクルーティングの導入を指示されるケースが最近は目立ってきているという。しかし、ダイレクトリクルーティングが上手くいっているケースは多くはない。
 外資系企業の採用を支援するキャリアエピソード代表の備海宏則氏は、「転職に対して抵抗感がない欧米と保守的な日本ではそもそも転職に対する考え方が違うため、日本の中途採用市場におけるダイレクトリクルーティングの導入はより難しい」と話す。
 「欧米では、リンクトインなどのSNSを活用したダイレクトリクルーティングが主流になっています。一方、ヘッドハンティングが一般的ではない日本では、候補者が転職に慣れていないこともあり企業が直接スカウトメールを出してもうまくいかないことが多いのです」
 「また、人事担当者がヘッドハンターと同じように人材データベースを365日24時間見ているわけにはいきませんし、声を掛けた候補者に次々と会ってスクリーニングしていくような時間はありません。十分なリクルーティング体制を整えている企業は今のところ少数です」と指摘する。
 アマゾンやGE、オラクルなど日本でも知名度が高い一部の大手外資系企業ではリクルーターを採用して採用活動をしているが、人事に余力がない中堅・中小企業では同じようにはいかないだろう。ダイレクトリクルーティングを導入するにしても人材会社のサポートは必要になる。
 採用は人事だけがかかわると思われがちだが、それだけでは採用活動は機能しない。ダイレクトリクルーティングの導入に精通する採用コンサルティング会社プロッソ代表の牛久保潔氏は、導入の要点を次のように話す。
 「ダイレクトリクルーティングというとSNSやジョブボードを活用した採用と思われがちですが、それだけではありません。社員が名刺交換をした人や社員の知り合いなど、他社で活躍する様々な人が候補者になってきます」
 「こうした社内のあらゆる情報を個人情報保護法の範囲内でデータベース化して採用に活かしていくのです。そのため、採用は人事だけでなく社長も社員も全社で採用活動に関わっていくという共通認識を持たなければ成功しません」
 ダイレクトリクルーティングを導入して、思惑どおり採用コストは低減しているのか。
 「ダイレクトリクルーティングに取り組んで、データベースが充実して機能するようになるまでには2~3年はかかります。それまでは他の採用方法と並行して導入を進めなければならないですし、活動が成果に結びつくまで採用コストの低減は見込めません」(牛久保氏)
 欧米と違って、転職が一般的ではない日本ではダイレクトリクルーティングを導入してもリクルーティング体制の充実が必要なため、短期間に採用コストを減らすことはかなり難しいようだ。

新卒でもバイリンガルの日本人留学生の採用ニーズが拡大

 こうした中途採用におけるバイリンガルの人材採用の苦戦は、新卒採用にも影響を及ぼしている。
 人材サービス会社のディスコが日本人留学生のために米国で毎年開催しているボストンキャリアフォーラムは、昨年、209社の出展企業を集め過去最高の出展数となった。
 参加企業の業種や規模も、これまで中心だった大手企業やメーカー、外資系企業からサービス・販売会社、ベンチャー企業へと拡大している。
 企業側のニーズが拡大する一方でバイリンガル人材の数は減少傾向が続いている。文部科学省の日本人海外留学状況調査によれば、日本から海外への留学者数は04年の8万2945人をピークに7期連続で減少。
 11年には5万7501人にまで落ち込み、新卒採用においてもバイリンガルの採用競争は年々激しさを増している。

対日直接投資倍増でバイリンガル不足は明白、採用戦略の見直しが急務

 政府は戦略特区の優遇措置などで2020年までに現在の18兆円から35兆円へ対日直接投資倍増を打ち出しており、外資系企業を積極的に呼び込む考えだ。
 また、EPA・FTAやTPPなどによる規制緩和で国内企業の輸出や海外からの輸入も増加するとみられ、あらゆる産業で国際化が進行すればバイリンガル人材がさらに不足することは明白で、人材確保はますます困難になるだろう。
 これまでどおり採用基準を下げないまま必要な人材を計画数通りに確保するためには、質とスピードを意識したリクルーティング体制へと採用戦略を見直さなければならない。
 社内の人材リソースを見定めて最適な採用ツールや人材会社などを選択し、活用していくことがこれまで以上に重要になる。

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