2018年5月30日

労務リスクを回避する 3つの取組テーマ

働き方改革を実行する上で、無期転換ルール、同一労働同一賃金、時間外労働の上限規制への対応は避けては通れない。「働き方改革関連法案」はまだ国会審議前だが、今から対応すべきことを中心に解説していく。(文・溝上憲文編集委員)

 (21490)

無期転換ルールへの対応は引き延ばし傾向

 今年の春闘では賃上げと並んで「働き方改革」が大きな焦点となった。政府の「働き方改革関連法案」の国会審議を前にすでに労使の取り組みが始まっている。1つは4月から本格化する無期転換ルールへの取り組み、2つ目が同一労働同一賃金問題、3つ目が罰則付き時間外労働の上限規制への対応だ。

 通算契約期間が5年超の有期雇用労働者に付与される無期転換権は2013年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象になる。契約期間が1年の場合、更新を繰り返して6年目の更新時を迎える2018年4月1日から無期転換の申込みができ、1年後の19年4月1日から無期労働契約に移行する。4月に5年超を迎える転換対象者は450万人と推計されている。

 パートタイム労働者の組合員が半数以上を占める繊維・小売業等の産業別労働組合のUAゼンセンには、通算契約期間が5年超の有期雇用労働者が3 〜4割を占める。
 今年4月2日時点でパート労働者277組合(約67万人)、契約社員115組合(約3万4000人)で無期転換ルールの実施を労使で確認している。そのうち通算5年を前に無期転換の実施を確認している組合はパート労働者で46組合、契約社員で32組合。人数ベースでは契約社員の3割以上にあたる。

 一方、無期転換への対応は全体的に遅く、雇止めの懸念も指摘されている。多数の顧問先を抱える社会保険労務士は「4月前に雇止めにするという経営者もおり、顧問先企業で雇止めするのは1割程度いる。3月末までに駆け込みの雇止めが多発する可能性もあり、4月以降、雇止めされた社員との間で訴訟も含めたトラブルが増えるのではないか」と指摘していた。すでに4月2日、雇止めされた日本通運に勤務していた女性が地位確認を求めて東京地裁に提訴する事案も発生している。
 こうした中で無期転換後の従業員の戦力化に向けた取り組みを始めた企業もある。一部上場企業の建設関連会社は昨年秋に1年前倒しして満4年目を迎えた時点で無期転換権を付与し、今年4月から無期転換に移行した。

 人事制度も見直した。従来は勤続年数やスキルに応じて1級〜6級の等級を設け、300 〜600万円の年収を支給していた。新制度は職務給に移行し、グレードを1 〜3に分け、グレード1が300 〜350万円、2が350 〜450万円、3が450 〜600万円(賞与を含む)とする賃金テーブルを設けた。さらに部門の推薦と試験によって正社員に登用する制度も新たに設けた。
 また無期雇用社員は転勤なしの勤務限定とし、正社員と同じ60歳定年、定年後は65歳まで継続雇用契約社員として雇用が保障される。さらに1年間を限度とする休職制度も利用できる。

 同社の仕組みの最大のポイントは職務給に移行することで毎年の評価によって昇給・降給が発生するだけではなく、グレードダウン(年収低下)も発生することだ。

 経営にとっては無期雇用による人件費の増大のリスクを抑制できるとともに、適正な評価とフィードバックの実施によって職務内容の変更によるグレードアップも実施するなど社員の意欲を喚起したいとの狙いがある。無期社員の戦力化を図る手法としては合理的な仕組みといえる。

多くの企業が無期転換ルール導入に取り組んでいる

●無期転換導入企業事例

●無期転換導入企業事例

(出所)厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」を基に本誌作成

同一労働同一賃金を意識した取り組み始まる

 無期転換後の処遇問題は、有期雇用労働者と無期雇用労働者の間の同一労働同一賃金の法制化とも関連する。同一労働同一賃金については、すでに2016年12月に政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」が策定され、17年9月に労働政策審議会から働き方改革関連法案の要綱が建議されている。法改正案は非正規労働者に均等待遇を義務づけるとともに「待遇差の内容やその理由等」に対する説明義務を課すもので、先の同一労働同一賃金ガイドライン案を法的に根拠づけるものだ。19年春闘ではガイドラインや法制化を意識した取り組みも始まっている。
UAゼンセンは18年春闘の方針でも「法改正の動きをふまえ、雇用形態間での均等・均衡処遇の取り組みをさらに進める。雇用形態間に不合理な待遇差がないかを検証し、不合理な待遇差がある場合には、人事制度の改定を含め是正する」としている。ガイドライン案は退職金については触れていないが「正社員との均衡等を考慮し、労使で合理的な制度を構築する」としている。
 また自動車総連は「同一価値労働同一賃金」の実現の観点から昨年秋に100項目のチェックリストを作成し、福利厚生や食堂の利用などについて加盟組合で検証し、実現できていない場合は経営側に要求することにしている。自動車総連の高倉明会長は「同一労働同一賃金の法制化によって法廷闘争まで持ち込まれるケースが増える可能性がある。今後はガイドライン案の充実が求められるが、我々も労使でより具体的な方向性を示していきたい」と指摘する。

 すでに加盟組合のトヨタ自動車では今春闘で家族手当について期間従業員に対し、正社員と同等の子ども1人つき2万円を支給することを決めている。

「全社員共通人事制度」を導入クレディセゾン

 すでに先行してこの問題に着手している企業もある。クレジットカード大手のクレディセゾンは、非正規社員を含めた雇用形態による社員区分を撤廃して全員を無期雇用とし、賃金を含むすべての処遇制度を役割等級制度で一本化した「全社員共通人事制度」を2017年9月から導入している。

 同社の従業員数は約3900人。従来の同社の社員区分は無期雇用の総合職社員、専門職社員、有期雇用の嘱託社員、メイト社員の4つに分かれていた。総合職は全体の4割強の約1700人、専門職社員が約1200人、嘱託社員が約150人、メイト社員が約900人という構成だ。

 専門職社員や嘱託社員は特定の職務を担当し、メイト社員は定型的な事務や電話応対・営業サポートを担うなど業務範囲が限定されていた。また、メイト社員の労働時間は1日5.5時間の短時間勤務から7.5時間の間で選択できる仕組みであった。
 従来の人事制度は無期雇用の総合職と専門職社員は職能等級と職務等級があり、課長までは職能給・職務給の2本立て(部長職以上は昨年5月に職能等級を廃し、給与は職務給に一本化)。有期雇用の嘱託社員は職務に応じて個別に年収額を決定する月給制。同じく職務限定のメイト社員はスキルや習熟度別の賃金体系による時給制だった。給与以外の処遇では総合職と専門職には賞与や退職金制度があったが、メイト社員の一部を除いて嘱託社員・メイト社員には賞与・退職金制度はなかった。

 新たな役割等級制度の役割グレードは、一般職層がG1 〜G5の5段階。管理職層は大きくM(課長職)とGM(部長職)の2階層に分けた。グレードごとに期待する役割を定義しているが、G1は旧メイト社員の事務業務、G2は同じく電話応対・営業サポート業務と位置づけ、旧総合職・専門職・嘱託社員はG3以降に配置した。
27 件

この記事が気に入ったら
「いいね!」しよう

日本人材ニュース|人材採用と人材育成の人事専門誌

関連する記事

2018年 働き方改革 人事担当者が押さえるべき注目ポイント

2018年 働き方改革 人事担当者が押さえるべき注目ポイント

2018年は働き方改革がいよいよ本格的に始動する。その中でも4月から始まる無期転換ルールには早急に対応しなければならない。また、同一労働同一賃金、時間外労働の上限規制についても同様だ。様々な対応が迫られる中、人事担当者が押さえるべき注目ポイントを解説する。(文・溝上憲文編集委員)
先進企業に学ぶ 働き方改革の取組事例

先進企業に学ぶ 働き方改革の取組事例

 人事担当者にとって働き方改革をどのように実行していくかが注目されている。その中でも残業時間削減や有給休暇取得など、社員の長時間労働を是正しながら生産性を上げていくことが、目下取り組むべき事項とされている。先進各社の取り組みを例に、働き方改革をどのように推進していくか紹介する。(文・溝上憲文編集委員)
残業抑制策としてインターバル規制が法制化へ

残業抑制策としてインターバル規制が法制化へ

 政府の働き方改革実行計画に残業抑制策として、勤務間インターバル規制が努力義務ながらも盛り込まれた。インターバル規制の法制化は長時間労働の是正策になりえるか。(文・溝上憲文編集委員)
「残業を命じられたことがある」は6割強、20代、30代男性は8割前後 連合調べ

「残業を命じられたことがある」は6割強、20代、30代男性は8割前後 連合調べ

 残業を命じられたことがある人は6割を超えており、特に20代、30代の男性は8割前後となっていることが日本労働組合総連合会(連合)の調査で分かった。
今春闘で始まった「同一労働同一賃金」交渉 非正規は処遇改善、正社員はベアゼロが示す人件費原資の壁

今春闘で始まった「同一労働同一賃金」交渉 非正規は処遇改善、正社員はベアゼロが示す人件費原資の壁

2017春闘は大手企業の賃上げが伸び悩む一方、中小企業の賃上げや非正規社員の処遇改善が見られた。今年の春闘の大きな特徴は働き方改革に軸足を置く労使が目立っている点だ。そして、「同一労働同一賃金」制度の導入に向けた動きも出てきている。(文・溝上憲文編集委員)

この記事のキーワード

この記事のライター

溝上憲文 溝上憲文

サイト会員限定記事

セミナー・イベント

プレスリリース