2017年6月14日

テレワークは理想的な制度か?在宅勤務のメリットとデメリット

近年、在宅勤務などテレワークを導入する企業が増えている。政府の「働き方改革実行計画」でも柔軟な働き方としてテレワークの普及を加速させていくことを掲げている。(文・溝上憲文編集委員)

 (12474)

在宅勤務のメリットの裏にある問題

 確かにイントラネットの活用やWEB会議といったITを駆使したコミュニケーションツールの進化も在宅勤務がやりやすい環境にはなっている。

 日本テレワーク協会が20~69歳の業務でメールを利用している就業者を対象に実施した調査(2015年12月)では「メールと電話さえあればオフィスに出勤しなくても仕事ができる」と答えた人は50.1%。「毎日出勤しないと仕事ができない」と答えた49.8%を上回っている。

 しかし、在宅勤務に対する働く人のニーズは高いが利用者は少ない。在宅勤務をしたい人は59.1%だったが、実際に在宅勤務をしている人は8.9%にすぎなかった。
 
 在宅勤務はワーク・ライフ・バランスの観点から社員のメリットの大きさが強調されている。確かに通勤時間がなくなることで時間の余裕が発生し、子育て世帯などにとっては便利な制度かもしれない。

 だが、メリットばかりではない。例えば労働時間管理である。多くの企業では始業時間、休憩、終業時間を上司に連絡することになっている。会社の終業時間が午後6時であれば、そのときに「本日の仕事は終了しました」とネットで報告しても、本当に仕事が終わったのか、もう仕事をしないのかどうかは分からない。

子育てや家事との両立は困難か

 本来であれば、在宅勤務であっても定時を過ぎて働けば残業代の対象になるが、残業時間を申請する人がどれだけいるのだろうか。他の同僚が会社に出勤して仕事をしているのに自分は在宅で仕事をさせてもらっていると負い目を感じている人は申請しにくいだろう。

 また、在宅勤務は電話応対など余計な雑用が回避され、仕事に集中できるので生産性も上がるという意見もある。だが、子育て世帯であれば小学生のお子さんは4時過ぎには帰宅する。友だちでも家に連れてきて、仕事をしているリビングのテーブルの周りで騒がれたりすれば仕事に集中できるとは思えない。そうなると残りの仕事は家事を終えてからの“持ち帰り残業”にならざるを得ない。

 労働政策研究・研修機構の調査(2015年)では、テレワークのメリットとして「仕事の生産性・効率性が向上する」と答えた従業員が50%を超えているが、長時間労働になりやすいと答えた人が約20%もいる。

在宅勤務における会社・本人双方のデメリット

 労務行政研究所が実施した人事担当者に対するアンケート調査でも、デメリットとして「子どもや配偶者が在宅中では仕事がやりにくい」「職場にいると気軽に仕事の相談ができるのに対し、在宅勤務は仕事のやりとりをメールと電話等でやらなければならず、限界がある」と答えている。

 育児・介護中の社員などに限定して在宅勤務を認めている企業も少ないが「自宅に専用のスペースを確保することが不可能な現状では、勤務時間と育児時間が混在せざるをえない。執務に集中できない状態で在宅勤務を行うことは、会社・本人の双方にとってデメリットしか生まない」という意見もあった。
 
 自宅に仕事ができる専用スペースがなければリビングでせざるをえない。ある電機メーカーが在宅勤務のトライアルを実施したところ、自宅に書斎がある社員は3割に満たなかった。例えば50代の男性社員がリビングで仕事をしていると、妻が掃除を始める。掃除機の音がうるさくて仕事に集中できないというアンケートの回答もあった。中には専業主婦の妻から「家で仕事なんかしないでよ!」と言われた人もいたという。
 
 それが嫌でパソコンを持参し、近所のカフェで仕事をしようという人も出てくるかもしれない。自宅以外で仕事をしてはいけないと言っている会社は少ないだろう。だが、自宅からカフェに向かう途中で交通事故に遭った場合はどうなるのか、あるいはカフェで何らかの事故に遭った場合はどうなるのか。

在宅勤務中のケガは労災認定されるのか

 在宅勤務中に業務が原因で生じた災害は労災保険の保険給付の対象になる。実際に高い棚から物を取ろうとして腰痛になったとか、仕事中に上から物が落ちてきてケガをしたことで労災を認定されたケースもある。

 だが、会社の上司に「午後から駅前のカフェで仕事をします」と連絡をすればいいが、何も言わなくて出かけた場合の災害の認定はかなり微妙だ。在宅勤務の範囲内と思われるが、上司は何も聞いていないし、見てもいないので事実関係が分からない。労働基準監督署に通勤災害で労災申請しても認定されるには難しい事態も起きるだろう。
 
 申請すれば間違いなく会社と本人に問い合わせがあり、事実関係について聴取されることになる。本人が仕事をしていた、あるいはするつもりだったという証拠としてカバンにパソコンを入れていましたと主張しても、本当に仕事をしたのか、どんな仕事をしようとしていたのか厳しくチェックされるだろう。もし認定されなければ療養補償給付や休業補償給付も受けられなくなる。
 
 在宅勤務は必ずしも労働者にとってメリットばかりではなく、人事管理上の課題も多い。時間管理が表面的にはできていても、在宅でのサービス残業が横行するようではワーク・ライフ・バランスの趣旨からは本末転倒の事態になりかねない。

おすすめの記事

人事実務の重要判例「退職金減額」山梨県民信用組合事件

人事実務の重要判例「退職金減額」山梨県民信用組合事件
最近の労働裁判例の中から、人事実務の参考になる重要な裁判例として、山梨県民信用組合事件の最高裁判決(最高裁判所第二小法廷平成28年2月19日判決)を紹介します。
12 件

この記事が気に入ったら
「いいね!」しよう

日本人材ニュース|人材採用と人材育成の人事専門誌

関連する記事

勤務先にテレワーク制度がある割合は1割程度

勤務先にテレワーク制度がある割合は1割程度

 勤務先にテレワーク制度等があると回答した割合は雇用者全体のうち1割程度で、このうち半数はテレワーク制度を利用しており、そのうち7割がプラス効果を実感しているという実態が、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」でわかった。
職場にあると良いと思う制度、1位は「在宅勤務」 ソニー生命調べ

職場にあると良いと思う制度、1位は「在宅勤務」 ソニー生命調べ

 職場にどのような働き方や制度があると良いと思うか聞いたところ、「在宅勤務」と答えた人が最も多いことが、ソニー生命保険(東京・千代田、萩本友男社長)が実施した「女性の活躍に関する意識調査2017」で分かった。
今春闘で始まった「同一労働同一賃金」交渉 非正規は処遇改善、正社員はベアゼロが示す人件費原資の壁

今春闘で始まった「同一労働同一賃金」交渉 非正規は処遇改善、正社員はベアゼロが示す人件費原資の壁

2017春闘は大手企業の賃上げが伸び悩む一方、中小企業の賃上げや非正規社員の処遇改善が見られた。今年の春闘の大きな特徴は働き方改革に軸足を置く労使が目立っている点だ。そして、「同一労働同一賃金」制度の導入に向けた動きも出てきている。(文・溝上憲文編集委員)
自分が管理する組織の「働き方」に危機感を持っている管理職が44.7% P&G調べ

自分が管理する組織の「働き方」に危機感を持っている管理職が44.7% P&G調べ

 外資系消費財メーカーのP&G(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン、兵庫・神戸、スタニスラブ・ベセラ社長 )が従業員100人以上の企業で働く管理職1000人を対象に実施した調査によると、自分が管理するチーム・組織の現在の「働き方」に課題や危機感を持っている管理職の割合が44.7%だったことが分かった。部・課長よりも本部長で危機感を持っている人の割合が高い。
【著者が語る】経営改革は“人事”からはじめなさい

【著者が語る】経営改革は“人事”からはじめなさい

おの事務所 小野耕司 代表取締役コンサルタント

この記事のキーワード

この記事のライター

溝上憲文 溝上憲文

サイト会員限定記事

セミナー・イベント

プレスリリース