2017年8月22日

同一労働同一賃金法制化へ

 同一労働同一賃金に関する労働政策審議会の報告書が6月9日に出された。昨年12月20日に政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」、3月の「働き方改革実行計画」に次ぐものだ。今後報告書をベースに労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の改正案が出され、閣議決定を経て秋の臨時国会に提出される予定になっている。(文・溝上憲文編集委員)

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非正規社員が裁判で訴えやすくなる

 最大の柱は正規と非正規との間に処遇格差がある場合に非正規社員が裁判で訴えやすくすることにある。現行の労働契約法とパートタイム労働法でも不合理な待遇差を禁じる規定がある。労契法20条、パートタイム労働法8条では「労働条件の相違がある場合、その相違は不合理と認められるものであってはならない」と謳い、正規と非正規の差別を禁止している。
 ただし、不合理かどうかを裁判官が判断する場合は、①職務の内容(責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情――という3つの考慮要素に照らして合理的かどうかを判断することになっている。
 つまり、職務内容や責任の程度が違えば格差があるのは合理的だが、その他の事情の範囲が広すぎて非常に分かりにくい。
 しかも労働者が「この格差はおかしい」と裁判所に訴える場合は「何が不合理なのか」、つまりどこがどのようにおかしいのかを立証しなくてはならない。労働者にとって裁判のハードルが高く、しかも3つの考慮要素があるために勝つ見込みも保障されなかった。

労契法にも「均等待遇規定」が盛り込まれた

 そのため当初は、ヨーロッパにおける正規と非正規労働者の間の待遇格差を禁じたEUの労働指令などを参考に「待遇の相違は合理的なものでなければならない」とする差別禁止の条文を入れる案が有力だった。
 「待遇の相違は合理的なものでなければならない」という書きぶりにすれば、裁判では会社側が合理的であることの理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生することになる。
 ところが実行計画では経済界の反対もあり「不合理な待遇差を禁じる」という現行法制の枠組みを維持することになった。その上でそれを判断する先の3つの考慮要素のうち「その他の事情」の解釈の範囲が広いことから、その中に新たに「職務の成果」「能力」「経験」を例示として明記することにした。さらに労働者が司法に訴えを起こしやすくするために、非正規労働者が正規との待遇差に納得できない場合は、使用者が待遇に関する説明を義務化した点も大きいだろう。
 また、現行のパートタイム労働法9条では①職務内容と、②職務内容・配置の変更範囲が同一である場合の差別的取扱いを禁止するという「均等待遇規定」があるが、有期雇用契約労働者を対象とする労契法20条には「均衡待遇規定」しかなかった。そのため労契法にも「均等待遇規定」を盛り込むことにした。ちなみに均等待遇とは仕事の内容が同じであれば同じ待遇にする、均衡とは仕事の内容が違う場合は、その違いに応じてバランスをとってくださいという意味だ。

有期とパートタイムで同様の均等待遇規定・均衡待遇を明記

 有期とパートタイム労働者に関しては以上が主な改正点だが、今回、大きく追加されたのが労働者派遣法の改正だ。派遣労働者の同一労働同一賃金の対象者は言うまでもなく派遣先の正規労働者になる。
 だが、現行法には「派遣先の労働者の賃金水準との均衡を配慮しつつ」派遣労働者の職務の内容や職務の成果などを勘案して賃金決定を行うという配慮義務にとどまっている。審議会の報告書では、有期とパートタイムで同様の均等待遇規定・均衡待遇を明記することにした。その上で①派遣先の正社員との均等・均衡待遇とする、②派遣元と労使協定を結び、一般労働者の賃金水準と同等以上であることを課す決定方式――の2つのいずれかを選ぶ選択制とすることになった。②を設けた理由として、派遣先が大企業から中小企業に変われば賃金水準が下がることもあり得るといった理由に挙げている。
 派遣先社員と均等・均衡待遇をはかることになれば派遣元はコストアップを余儀なくされる。そのため法律に派遣元が待遇改善の原資を確保することができるように派遣先に派遣料金を上げることができる配慮義務も課すことにしている。
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