2010年12月1日

復活する人材紹介会社 黒字化経営の秘訣

2008年9月のリーマン・ショック以後、企業の採用は全面的にストップした。この影響をもろに受けたのが人材紹介業界である。多くの会社で売り上げが半減し、人材コンサルタントの解雇、事務所移転というリストラを実施せざるを得ない状況に追い込まれた。 そして、2010年、ようやく人材紹介会社は息を吹き返しつつある。いち早く黒字化に目途をつけた人材紹介会社の経営の秘訣を取材した。

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多くの人材会社が売上半減 かつてない経営難に悲鳴

 2007年度の決算では、人材紹介会社の多くが過去最高売上を計上していたが、08年度の決算では、ほとんどの会社が一転して売上は半減、赤字に転落した。
 経営健全化のために実施された主なリストラは、コンサルタント数を求人数に見合う適正規模にすることと、人員縮小に伴う事務所移転、賃金カットなどであった。だが、2009年になっても中途採用はストップしたままで、経営的に耐えられなくなった多くの人材会社が淘汰されていった。
 現在、業績が回復して残っている人材紹介会社は都内で約500社、全国で約1000社、最盛期の3分の1程度と推測される。他の事業と兼業している会社では、看板だけ残して人材紹介事業は実質的に開店休業状態になっている会社も多い。
 こうした状況を受け、09年度決算でも、ほとんどの会社が2期連続で赤字を計上することとなった。

信頼関係再構築で求人が戻る 解雇したコンサルを再び採用

 外資系人材紹介会社ロバート・ウォルターズ・ジャパン(東京都渋谷区、デイビッド・スワン社長)は、リーマン・ショック直後、主要なクライアントであった外資系企業からの求人が急速に減少した。同社のクライアントの8割を外資系企業が占めていたことも、影響が大きかった。
 従業員は現在120人、コンティンジェンシー・サーチ(成果報酬型サーチ)で、スペシャリストやミドル・マネジメント以上のグローバル人材を中心に紹介している。
 専門性を重視した経理、法務、人事、セールスなどの職種別チーム(ITは業界別チーム)が求人案件と候補者の双方を担当し、複数のコンサルタントが情報を共有する精度の高いマッチングが評価されていた。
 だが、企業の求人がストップした影響で、同社も従業員の一部を解雇せざるを得ない状況になった。
 当時を振り返り、スワン社長は「主要な業界・業種をカバーする人材を温存し、勤務歴の短い従業員には一時的に辞めてもらうしか方法がありませんでした」と苦しい胸のうちを明かす。顧客サービスとコンサルティングの質を落とさないように腐心したという。
 残ったコンサルタントは、求人案件の開拓に奔走した。スワン社長が重視したことは、顧客との接点を改めて強化することであった。すぐに求人が無くとも顧客への訪問活動を頻繁に行い、クライアント企業の社風や職場風土、事業内容を理解することで、信頼関係の構築に努めた。
 こうした活動が功を奏して、企業が新たに事業を模索し始めると、同社へは真っ先に求人の相談が入るようになり、今年は売上を大幅に伸ばしている。また、日本企業の事業戦略で特に求められるようになった“グローバル人材”の採用も、同社には追い風となっている。
 求人数の増加を受けて、1年前に解雇した従業員には声を掛けて再び呼び戻している。同社の手厚いコンサルタント育成プログラムを受けた人材を採用することで育成の手間が省け、さらに即戦力となるからである。
 再雇用したコンサルタントのモチベーションについて、スワン社長は「非常にやる気があり、早くも実績を上げ活躍しています」と目を細める。

「資金確保」と「リストラ」と「重要顧客と関係強化」

 日本で最も歴史のある人材紹介会社ケンブリッジ・リサーチ研究所(東京都港区、橋本寿幸社長)も1962年設立以来、かつてない業績の落ち込みを経験した。
 これまで最大の経営危機は、橋本社長が取締役時代の2002年に訪れた。米国で起こった同時テロ、旧態依然のオーナー経営による事業の停滞などによって、業績不振に追い込まれていた。
 当時、取締役だった橋本社長は翌年MBO(マネジメント・バイアウト)により経営権を取得し、さまざまな経営改革の実行によって事業の再生を果たし、業績のV字回復を成功させた。
 幾多の危機を乗り越えている橋本社長だが、「今回の危機はその時を上回っている」と話す。
 これまでの経験から先ず、資金の確保に着手した。政府保証の緊急融資を含め、最大限の融資を受けた。金融機関からは、これまでの橋本社長の会社再建の実績を評価され、要望どおりの融資を受けることができた。
 次に、リストラに着手した。二十数人のコンサルタントが在籍していたが、約3割の人員を解雇せざるを得なかった。そして従業員の減少に合わせて事務所も移転した。次いで、重要クライアントに対しては、さらなる信頼関係の構築を図り売上向上を目指した。
 橋本社長は、「私自身、管理部門出身で、かつMBOによる経営再建の経験も今回の危機の中で活かされました。資金の確保、リストラ、売上向上という課題に対し、一体として取り組んだことが、今日の成果につながっています」と分析する。
 「どんな状況にあろうと、経営者も一人ひとりのコンサルタントもやるべきことは、シンプルです。経営者はまず手持ち資金を厚くして、社員に事業継続に対する不安を抱かせないこと。またコンサルタントも日常のやるべきことを確実にやり抜くということです」と話す。
 同社では、経営指標としてコンサルタントは自己管理、自己完結を基本として、MI(mini-mum indicator)という指標を設定している。企業への「紹介件数」と「書類審査通過率」に対して、「紹介件数」は仕事の“量”を、「書類審査通過率」は“質”を表す。
 「伝統的に質重視の仕事をしてきているため50%以上の通過率が求められます。この数字を支えるのが質の高い人材の発掘とスクリーニング、それと顧客との継続的な関係です」(橋本社長)
 これらの施策によって、今年1月からは業績も徐々に持ち直し、コンサルタントの増員を開始している。

自社の強みを見直して強化 市場に合わせ量から質に転換

 コンサルティング・ファームとIT業界への人材紹介を行っているアクシスコンサルティング(東京都千代田区、山尾幸弘社長)もまた、企業の求人の減少で売上の約40%を失った。
 この危機に際し、山尾社長が最も重視し、方針として明確に掲げたことは、「従業員の雇用を守る」ということだった。
 とはいえ、コスト削減は避けられない。解雇しない代わりに、賃金制度を年俸制に切り替えた。また、求人案件の減少によって紹介業務ができないため、一時的にヒューマンリソースに関する他のビジネスも手掛け、実際に配置転換も行った。
 そして、関係強化のために多くのクライアントを訪問した。その中で、質問されたことは、「アクシスさんは、登録型ですか、ヘッドハンティングですか」ということだった。
 「人材市場の拡大とともに事業領域を広げたことで、提供するサービスが総花的になってしまい、クライアントから特徴が見え難くなっていた」と山尾社長は省みる。クライアントの声に耳を傾け、改めて自社の強みや取引関係を分析し、得意分野を見直すことになった。
 限られたメンバーで、効率よく売上を上げるためには、得意分野に対する強みを活かす必要がある。
 熟考の結果、「人材市場そのものが、量から質に変化しました。集中すべきは専門性を評価され、ブランドが認知されているコンサルティングとIT業界。その中でも、国内では800万円以上のハイスペック人材と絞り込みました。第2新卒や若年層は、リクルートエージェント、インテリジェンスに任せます」(山尾社長)と明確に割り切った。
 量から質への転換を図ったことにより、1~6月の業績は急速に復活を遂げている。「やらないことを決めることが、何より重要です」と山尾社長は強調する。
 さらにクライアントとの関係性を深め、改めて向き合う中でグローバル人材という新しいニーズもつかむことができたという。人材紹介業だけでは景気の影響を受けやすいことを痛感した山尾氏は、新しいビジネスを模索している。

逆転の発想で苦境を切り抜ける。“未来”がなければ継続は無い

 管理部門に特化した人材紹介では国内最大級の日本MSセンター(現MS-Japan、東京都千代田区、有本隆浩社長)は、今回の不況の影響をあまり受けなかった数少ない会社の一つだ。
 多くの人材紹介会社が50%超の売上減となる中、20%減に踏み止まり黒字を維持した。その強い経営の秘訣は、財務・経理、会計士を中心とした管理部門に特化した人材紹介で、圧倒的なポジションを築いているからだ。
 同社は1990年に創業し、バブル崩壊後の95年に管理部門特化のコンセプトを打ち出した人材紹介を開始している。
 折りしも、97年の山一證券の倒産をきっかけに、日本は大不況となり、管理部門を中心に数千人規模のリストラが行われた。その最中に大手監査法人などと提携して関係を強化、企業が必要とする人材に着目して、今日のポジションを築き上げている。
 今回の不況においても、その経験からさらに専門特化を打ち出している。管理部門の中でも法務に特化した人材紹介を強化した。一般的な法務分野には求人が少ないと思われがちだが、同社はそう考えてはいない。
 「法曹マーケットという大きな市場としてみれば、戦略法務、訴訟法務、コンプライアンス強化、国際法務と様々なニーズが企業にはあります。小さなことにフォーカスし過ぎると、全体が見えなくなり、チャンスを見逃してしまう」と有本社長は指摘する。
 不況期ほど、社会全体を見回してみれば、様々なビジネスチャンス、新しいビジネスの芽がある。未来を見据えたビジネス展開が必要になってくるという訳だ。今回の不況にどう立ち向かえばよいのか。有本社長はこう語る。「経営者があきらめた瞬間に企業の成長は止まる。こういう時期こそ、チャレンジが必要です」
 さらに、「逆転の発想で考えれば、時間は“今”だけではありません。これまでの仕組みが壊れれば、新しい仕組みが必要になってきます。“未来”のニーズを拾っていくという意識を持たなければビジネスの継続性はありません」と強調する。

転換に必要だった3つの対策 知名度の高い会社から求人回復

 人材マーケットは、“量”(採用数)を優先する時代から、“質”(人材スペック)を追い求める時代に急速に転換した。それにいち早く気付き、「事業転換に必要な十分な資金調達」、「優秀なコンサルタントの確保」、「顧客とのリレーション強化」という3つの対策に成功した人材会社が黒字化に成功し、生き残った。
 さらに、人材ビジネス全体を広く見回せば、強力なブランディングで顧客基盤を築いていた知名度の高い会社から求人が回復してきている点は見逃せない。リーマン・ショック以後、苦労の末に編み出した人材各社のさまざまなビジネスは、景気が回復した時に大きく萌芽するに違いない。
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