2012年3月27日

グローバル化で加速する経営人材の獲得 リテインド・サーチの現場から

 企業のグローバル化が進行する中、経営幹部やスペシャリスト採用でリテインド・サーチを活用し始めた日本の企業が増えている。一般的な人材紹介との違いや活用事例について、グローバルな人材サーチ大手4社のリテインド・サーチの現場を取材した。

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海外事業の拡大で経営人材の需要が増加

 リーマン・ショックを契機とした景気の低迷は、日本の消費市場の縮小という問題を改めて企業に突きつけるきっかけとなり、海外進出を大きく加速させることになった。また、東日本大震災によって拠点の分散化を進める動きもでており、中小企業をも巻き込んだグローバル化が一層進みそうだ。
 グローバル化による企業の経営戦略の変化について、妹尾輝男日本コーン・フェリー・インターナショナル社長は次のように話す。
 「リーマン・ショック以後、日本企業は業績を回復させるため、中国・アジア、インドなどの新興国市場へ進出したり、世界各国の現地法人を強化しています。また、円高が進行していることもあり、米国や欧州でも日本企業によるM&Aが検討されています」
 M&A情報会社レコフのデータによれば2010年の日本企業の外国企業に対するM&Aは371件で前年比24.1%増であった。2011年1~3月期も増加傾向で、前年同期の86件から13件(15.1%) 増加して99件となっている。金額ベースでは、日本企業による外国企業の買収の割合は、M&A全体の52.5%と5割を超えている。
 金額上位10件のうち、日本の企業による外国企業の買収は6件を占める。
 最近の大型M&Aをみると、「テルモが米医療機器メーカーのカリディアンBCTを買収、輸血関連機器分野で世界シェア5位から首位に」「キリンホールディングスが中国の華潤(集団)グループで香港の食品・飲料大手、華潤創業(CRE)と中国での清涼飲料事業を統合する。中国全土に最大級の店舗網をもつ有力パートナーと組み、中国の清涼飲料市場でリーディングカンパニーを目指す」
 海外での敵対的M&Aの動きも本格化している。
 「アステラス製薬や関西ペイント、王子製紙などに続き、アドバンテストが、システムLSI(大規模集積回路)向け検査装置世界3位の米ベリジーに対し買収提案をし、このほど正式合意した。米テラダインを抜き、世界最大手となる」というように、海外事業の強化に向けたグローバルなM&Aが加速している。
 日本企業のグローバル市場への本格参入に伴って、「現地法人の強化、新興市場の開拓、M&Aによる事業拡大などの理由で、海外において企業経営をマネジメントできる経営幹部、海外市場を開拓できる人材、金融・投資・M&A・法務に通じたスペシャリストが求められている」(妹尾氏)のである。
 こうした状況を背景に、経営幹部の獲得を専門とし、グローバルなネットワークを持つサーチ会社を利用する日本企業が増え始めている。

人材獲得を成功させるアセスメントの重要性

 サーチ会社の人材獲得手法は、一般的にはヘッドハンティングと呼ばれ、多様なサービス形態が存在する。
 今回取材した4社は、経営トップ(CEO、COO)や経営幹部(CFO、CIOなど)、そして専門性の高いスペシャリストを対象とするエグゼクティブ・サーチ会社であり、リテーナー方式のフィー体系をとるグローバルなリテインド・サーチ会社である。
 経営に携わった経験や特別なスキルがある人材は限られ、どの会社でも必要とされるため、自ら転職しようとする人は少ない。経験、スキルや能力が十分に備わった人材を獲得するとなると、より深いコミットメントが必要とされるためリテインド・サーチ会社の活用が適切だ。
 サーチのプロセスだが、依頼を受けたサーチ会社は、まずクライアントがどんな人材を必要としているのか、インタビューを実施する。
 ここでサーチの内容やプロセス、フィーについて説明を受ける。各社のフィー体系には若干の違いはあるが、支払額は、入社時に決まる年収の3分の1で、サーチの進展に応じて支払う。ミニマムフィーは700~800万円である。
 日本の人材紹介会社で普及している成功報酬のフィー体系とは考え方が根本的に異なり、コンサルティングに対する報酬と考えると理解しやすいだろう。成功報酬ではないので、契約を結ぶサーチ会社は1社だけである。サーチ会社も競合企業とは契約は行わないなど、ビジネス上の倫理を重視している。
 次に人材のスペックを決定する。その際、外部の人材市場を熟知するコンサルタントとのディスカッションは欠かせない。
 自社の経営幹部として活躍することができるかどうか、この判断を誤ると「入社したものの能力を発揮できずに辞めてしまった」という失敗が起きてくる。その上経営幹部の採用だけに事業や業績への影響も大きい。仕事内容だけでなく、経営方針やビジネスカルチャーも十分に考慮して、相応しい人材像を詰めていく必要がある。
 経営幹部を採用する場合には、候補者のアセスメントは当然だが社内の人材もアセスメントしておく必要がある。今回の4社では、コンピテンシーやEQなどをモデル化し、過去のデータから外部人材と能力を比較できる人材アセスメント・プログラムを持っている。
 アセスメントの重要性について、ハイドリック・アンド・ストラグルズのクリファード・ライト日本オフィス代表は次のように話す。
 「CEO・COO・CFO・CIO・事業部門長など経営計画を達成するための経営チームに人材を入れる時には、どのような人材が同じ方向性や考えを共有して行動できているのか、その行動特性を知る必要があります。経営幹部の獲得は、採用することが目的ではなく、勝つための経営チームを作ることが目的だからです」
 「また、社内の事業部長クラスで役員に昇格する力を持った人材がいることも多くあります。人材がいるにもかかわらず社外から登用すれば、社内のモチベーションは低下し、経営にマイナスに働くこともあります。社内人材とのベンチマーキングを行い、その相対的な市場価値を知るためにもアセスメントを実施することが有効です」
 獲得する人材のスペックが決まったら、いよいよ人材サーチが始まる。サーチ会社には、人材のリサーチを専門に行うリサーチャーがおり、クライアントが求める人材スペックに基づいて候補者のリスト作りを行なっている。これを「ロング・リスト」といい、数十人がリストアップされる。
 ここからさらに候補者を絞り込んだものが「ショート・リスト」で、このリストの中から接触する人物をクライアントが決定することで、コンサルタントが候補者と接触する。
 コンサルタントは、候補者と面談し、インタビューを行って人物をアセスメントする。適格者であれば、クライアント企業と面談するように説得して、約束を取り付ける。最終的にハイアリング・マネージャーが条件面を詰めながら入社を説得し、両者の納得が得られた時点で入社が決定するのである。
 決定するまでの期間は、早いケースで3カ月、一般的には6カ月はかかる。

日本企業で増えているグローバル人材のサーチ

 日本企業で増えている最近の依頼は、グローバル人材の獲得だ。人材の国籍を問わないケースもある。海外現地法人のトップや海外部門の責任者にとどまらず、グローバルな人事制度の構築や法務・リスクマネジメント体制の強化を担う管理部門の責任者にも、優秀な人材を世界中から探してほしいという依頼が多いという。
 このような場合には、どのようなサーチが行われるのだろうか。企業から東京オフィスが依頼を受けると、前述のような手順で人材スペックを決定していく。この人材スペックに従って、米国や欧州など全世界の拠点でサーチ活動を行い、候補者となる人材をリスト化する。その中から、獲得すべき人材を決定していくのだ。
 人材スペックの決定やリスト化の時点では、テレビ会議システムを使って、現地のコンサルタントや現地法人を交えたミーティングを実施することもある。
 海外に候補者がいるケースでは、候補者が在住する地域の拠点に在籍するコンサルタントが接触し、入社の可能性を探り、説得する。海外現地法人の社長を探し出すような場合でも同様のサーチ活動が実施される。
 グローバル人材の採用でサーチ会社が果たすことができる特徴的な役割について、佃秀昭エゴンゼンダーインターナショナル代表は、次のように説明する。
 「グローバル人材の獲得では、国籍不問、日本語不問という案件が増えてきました。日本人でなくともよいという場合、サーチの対象地域は全世界となります。グローバル・サーチ会社では世界中の拠点が一斉にサーチを行いますので、日本にいながらにして世界中の優秀な人材を候補者として探し出し、現地の拠点に在籍して地域を熟知したコンサルタントが候補者を説得することができます。これはグローバル展開するサーチ会社でなければできないことです」

リテインド・サーチ会社をうまく活用するためには

 サーチ会社を利用する際に、まず理解しておくべきことは、登録型の人材紹介会社から紹介されるような転職を前提に就職活動をしている求職者と、サーチで探し出した現職で活躍している候補者を混同してはいけないという点だろう。
 まだ転職を考えていない候補者との最初の面談の際に「うちの会社になぜ、応募したのですか」と質問してしまったという失敗談はよく聞くところだ。
 そして、リテインド・サーチ会社をうまく活用して優秀な人材を獲得するためには、採用決定の責任を明確にし、受け入れ体制を整えることが重要だ。入社を納得してもらうための説得はコンサルタント任せではなく、経営トップやハイアリング・マネージャーの熱意と積極的な協力が鍵になる。
 この点について、安田結子ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン代表は、次のようにアドバイスする。
 「候補者に入社してもらえるかどうか、最終的な場面で必ずハイアリング・マネージャーに説得していただきます。採用がうまくいかないケースというのは、ハイアリング・マネージャーや人事部がプロセスについて責任を持たず、熱意をもって説得をしないことがあげられます」
 さらに入社後、獲得した人材に存分に活躍してもらうためのハイアリング・マネージャーの役割として、「入社後に活躍できる能力やチームワーク力を重視したアセスメントをしていますので、能力面についてはすでに確認しています。しかし、当然のことながら、採用決定者は初めての異質な企業文化に入ってくるわけですから、”お手並み拝見”のように放置するのではなく1カ月後、3カ月後のフォローアップやメンタリングなど丁寧なサポート体制を充実させておくことが欠かせません」(安田氏)
 リテインド・サーチ会社が行っているサービスは、単に空きポストを補充するための採用活動ではなく、経営計画を達成するための人材戦略にフォーカスしたコンサルティング活動なのである。こうした点が、グローバルに競争力のある経営幹部を求めようとする動きの中で、日本企業にも理解され始めている。
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