2009年4月30日

不況下でも強い、採用に積極的な優良企業 内需型の中堅企業を中心に優秀な人材の積極採用に動く

昨年後半からの世界経済の急落により打撃を受けた企業の人材採用意欲は大きく低下した。キャリア採用を停止し、新卒採用も抑制となる企業が多い中、内需型の中堅企業を中心に不況下こそ優秀な人材獲得のチャンスと見て積極的な採用に動いている。積極採用企業の動向を探った。

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景気急落で採用計画を見直し

 2010年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とする企業の選考活動が本格化している。日本経団連の倫理規定や大学側からの申し入れにもかかわらず、すでに昨年末から一部の企業では実質的な採用面接がスタートしており、内定を得た学生も出ているようだ。
 一方で、昨年後半からの世界経済の急落により打撃を受けた企業は、採用計画の見直しを余儀なくされ、採用計画人数の決定が大幅にずれ込んだ企業も多い。
 09年新卒採用は、求人倍率2.14倍(リクルートワークス研究所調査)を記録し、前年に比べ質を重視した「厳選採用」が進んだものの、学生有利の「売り手市場」であった。しかし、不況に突入した昨年秋以降、学生の内定獲得は難しくなり、厚生労働省が2月1日時点で調査した09年新卒内定率は86.3%と5年ぶりの悪化に転じている。
 雇用調整を急速に進めた結果、1月以降に希望・早期退職者を募集した上場企業はすでに81社(3月9日時点、東京商工リサーチ調査)という状況だ。また、厚労省は1月に採用内定取り消し企業の社名公表の指針を出した。3月23日時点で全国のハローワークが確認しているだけで、内定取り消しは1845人(404事業所)に上る深刻さだ。
 2010年の採用動向だが、東京商工会議所が会員企業を対象にした調査では、「採用予定あり」と回答した企業は41.3%で、前年比12.4ポイント減少。「採用予定なし」は29.2%で前年比10.6ポイント増加しており、企業の採用抑制傾向が強まっている。
 また、キャリア採用については3月の年度末まで欠員補充を除いて停止しているケースが多く、新卒採用の状況と景気動向を見極めている企業が多いようだ。

採用計画数は7年振りの対前年比マイナス

 3月16日に発表された日本経済新聞社の2010年大学新卒採用計画調査によると、採用計画人数は対前年比マイナス12.6%となった。マイナスに転じるのは7 年振り。
 業種別にみると、不動産・住宅マイナス30.6%、自動車・部品マイナス30.1%、銀行マイナス26.3%、電機マイナス22.0%の大幅減となっている。
 採用計画人数ランキング上位100社のうち、採用人数を増やす予定の企業が約40社あるものの、一部の企業を除き、ほぼ横ばいまたは微増にとどまっている。
 ここ数年、大量採用を続けた金融業界は、みずほフィナンシャルグループが1750人(09年実績2350人)で引き続きランキングトップ、日本生命保険が1150人( 同2004人)、三井住友銀行が1100人(同2105人)など、前年比で落ち込みが目立つものの大量採用の傾向が続いている。
 一方で、従業員数1000人未満企業の中小企業の09年新卒の求人倍率(リクルートワークス研究所調査)は4.26倍(1000人以上の企業は0.77倍)と著しく高く、採用に苦労する姿がうかがえた。
 また、業種別では金融業が0.35倍であるのに対し、流通業は7.15倍と業種間格差が激しい。「売り手市場」で、ここ数年厳しい採用環境が続いた企業や業績好調な優良企業では、大手企業が採用人数を減らす今回の不況期は、優秀な人材を獲得するチャンスとみており、積極的な採用を計画する企業もある。

不況期こそチャンスの積極採用企業

 総合フードサービス業のシダックスは、09年比4倍の220人の10年新卒採用を実施する。内訳は総合職70人、専門職(管理栄養士)150人。今年4月入社は、55人で内訳が総合職5人、専門職50人だから、総合職では14倍、専門職でも4倍に及ぶ。
 同社の主要事業は、カラオケ・ボックスと思われがちだが、本来の事業内容は多岐にわたる。
 持ち株会社のシダックスを中核に、病院・高齢者福祉施設の約800施設とオフィス・工場・大学・寮・保養所・ゴルフ場等の約1700施設の給食業務を受託運営するシダックスフードサービス、病院や大学内の売店約350店舗を受託運営するシダックスアイ、全国を網羅する一元物流システムを構築しているエスロジックス、食とカラオケを融合したレストランカラオケ約300店舗を運営するシダックス・コミュニティーなどの事業子会社が存在する。
 2007年には官公庁の車両管理等をトータルアウトソーシングする大新東を子会社化し、公的機関の支援事業分野の強化に乗り出した。
 これまで外食サービス業のイメージが強かった同社だが、「人が生まれ、人生を終えるまで、すべてのライフステージで食を中心としたサービスを提供する」ことをテーマに、食を中心としたインフラ産業として脱皮しつつある。
 今後は、さらに“食”を中核に「健康創造産業」「社会問題解決型企業」として、高度な要望に応えることができる企業へと事業を拡大する計画だ。
 こうした事業展開により、BtoB(法人向けサービス)、BtoC(消費者向けサービス)、BtoP(官公庁・自治体向けサービス)と異なる市場でのビジネスが可能となり、社会景気に左右されにくい構造を作り上げた。そして現在は特に、「病院や高齢者福祉施設におけるサービス分野では引き続き人材が必要」(同社)となっているのだ。
 今村三恵人材採用研修部課長は、「昨年までは、サービス業全体が採用には苦心していた。今年は良い人材を獲得するチャンス」と意気込む。昨年12月、新卒採用を強化するため、人事部とは別に採用研修に特化した採用チームを発足させたことからも、同社の採用にかける強い意欲が伝わってくる。
 総合職の場合、採用後、1年をかけて現場での経験を積む。「カラオケだけではない様々なフィールドがあることを知ってもらいたい」と今村氏は話す。今後、全国主要都市で説明会を開催し、優秀な人材を募る。

正社員採用を拡大、サービス向上が好業績につながる

 神奈川県を中心に大手家電量販店を展開するノジマでは300人を採用する。4月入社が180人強だから約1.6倍の伸びだ。
 家電量販店では、これまで繁忙期などの店舗販売をメーカーからの応援派遣に頼っていたが、同社では販売力強化のため正社員による販売に転換を図っている。
 「景気が悪くなればなるほど、お客様は商品や価格を他店と比較して回遊します。メーカーの販売応援は自社の製品には詳しいのですが、他社製品の知識がありません。そうしたお客様に満足していただくためには、商品知識のある販売員がお客様の選択やニーズに親身になって相談に乗ることでサービスを向上させることが必要でした」(同社幹部)
 こうした経営戦略が的中して、最終的に同社の店舗で商品を購入する顧客が増加し、好業績につながった。
 この延長線上にある人材戦略では、「自発的に考え、自らが変わることができるようなポテンシャルの高い人材の採用で、店舗を活性化させ、結果としてお客様に満足頂ける流れをつくる」ことが、大きな狙いとなっている。

環境分野の雇用創出に期待

 政府の雇用対策の一分野と目す環境分野の採用の現状はどうだろうか。米国ではオバマ大統領が就任早々、「グリーン・ニューディール政策」を打ち出した。シャープ、三菱電機、東京電力など省エネ技術や環境対応製品の開発に強みを持つ日本企業も市場獲得に乗り出している。
 環境分野の採用に詳しい人材紹介会社エコジョブ・ドットコムの根岸弥之社長は、
 「太陽光発電や次世代自動車などが注目されていますが、各社は不採算部門からの配置転換で人材需要をまかなっている状況です。環境に関連した機械設計や化学のスペシャリストを探している企業もありますが、企業が求めるスペックは非常に高くなっており、新たな雇用には結びついてはいません」
 「リサイクルや産業廃棄物処理、土壌汚染調査等の環境関連企業も、製造業の生産調整や不動産投資の減少に影響を受けて、採用を抑制しています」と話す。
 環境分野の仕事はあらゆる産業と結びついており、長い目で見れば雇用創出の可能性を大いに持っているが、企業が積極的に採用を行うようになるには、なお時間がかかりそうだ。
 日本における雇用創出の実現について根岸氏は、次のように指摘する。
 「取り組みが進む欧州では、企業や家庭で発電した電力が高く買い取ってもらえるなど、規制緩和や補助金による政府の後押しが大きい。その結果、環境に配慮した企業活動が重視され、環境分析関連企業、コンサルタント会社やシンクタンクなどが新しい雇用の場となっています」
 「日本では、まだ規制緩和が不十分で既得権益によって産業育成が阻まれている面があります。今後、政府の政策が雇用創出の鍵になるでしょう」
 政府は、4月にまとめる経済成長戦略で、環境分野の「低炭素革命」、医療・介護分野の「健康長寿」、農業・観光・コンテンツ分野の「底力発揮」を3つの柱に据え、最大60兆円の需要創造と200万人の雇用創出を目指す方針だ。新たな産業育成による雇用の拡大が期待されるところだ。
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