組織・人事

外国人労働者の受け入れは、人手不足に一石を投じることができるか

改正出入国管理法が成立し新たな在留資格「特定技能」が設けられ、今年4月から外国人労働者の受け入れが拡大される。特に介護や建設業界等では人材不足を打開する解決策となるのだろうか、現状を踏まえ考察する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

改正出入国管理法により人手不足に一策

「4月からの外国人労働者の受け入れに向けて取り組んでいるという話はよく聞くが、まだ国の政策が見えていない部分があり、具体的な受け入れ策をどうするのか検討中という企業が多い」

こう語るのは外国人の人材派遣と職業紹介事業を展開するフルキャストグローバルの首都圏営業部グローバル人材課の佐藤啓和課長だ。改正出入国管理法が成立し、新たな在留資格「特定技能」が設けられ、今年4月から外国人労働者の受け入れが拡大される。

これまで「専門的・技術的分野」の高度人材しか受け入れてこなかったが、深刻な人手不足に対応するために単純労働者にも門戸を開くことになる。

新たな在留資格「特定技能」は2つ

新たな在留資格「特定技能」は、通算5年間滞在できる「特定技能1号」と在留資格が更新できる専門技術的な労働者の「特定技能2号」の2つ。単純労働者に近いとされる1号の対象者は農業、介護、建設など人手不足が深刻な14業種。政府は2019年度から5年間の累計で最大34万5000人の受け入れを見込む。政府はこのうち現行の「技能実習生」からの移行を45%と見込んでいる。

政府は法改正に伴う政省令の骨子案を公表しているが、「特定技能1号」の受け入れについては詳細に定まっていない部分も多い。1号の資格要件は「従事しようとする業務に必要な相当程度の知識または経験を必要とする技能を有していることが、試験その他の評価方法により証明されていること」、そして「基本的な日本語能力があること」とされている。

受け入れにかかるコスト面が未だ不明瞭

しかし、技能の内容は受け入れ業種ごとに異なるが、どの程度の技能が求められるのかも現時点では明らかになっていない。日本語能力も一般的な試験をクリアする以外に業種ごとの日本語能力試験も今後作成される。また企業などの外国人労働者の受け入れ機関(特定技能所属機関)以外に、労働者を支援する「登録支援機関」があるが、どこまでのサポートが義務づけられるのか明確になっていない。

また、受け入れ事業者にとってコストがどのくらい必要になるかは未知数だ。政府の基本方針では、すべての業種の受け入れ機関(特定技能所属機関)または登録支援機関は、①外国人に対する入国前の生活ガイダンスの提供(外国人の理解できる言語で行う)、②保証人となることその他の外国人の住宅の確保に向けた支援の実施、③生活のための日本語習得の支援――など9項目の支援が義務づけられている。

前述した登録支援機関の役割が不明確なまま、コストも含めて事業者がこうした支援策をどこまで実施できるのか見通せない状況にある。

介護職員1万人以上を擁する大手介護施設運営会社は現在受け入れの準備を進めている。同社の担当部長はどれだけのコストがかかるのか見えていないと言う。

「今後の人手不足を想定し、外国人の手を借りたいという思いがある。技能実習生に関しては人件費以外に入国前費用が30~40万円、監理団体の監理費が毎月5~6万円かかる。また技能実習後1年で日本語能力試験のN3をパスさせないといけませんし、専属のトレーナーを配置するなど育成のコストと手間もかかる。それに対して特定技能は直接受け入れることで監理費はかからないかもしれないが、入国前のガイダンスなど要件のハードルが高いので技能実習生よりコストが高くなる可能性もある」

賃金は外国人労働者にとってどう見えるか

入社後の教育プログラムも検討中だ。例えば日本人用のマニュアルを改訂し、外国人にも理解しやすい内容にするなど教育内容の見直しも始めている。また同社の賃金体系は技能レベルに応じて昇給する仕組みであり、賃金水準は業界でも高く設定している。定着率の向上には有利だが、一方で「入国前に賃金の高い他の対象業種に流れる可能性がある」(担当部長)と懸念する。

介護分野について介護労働者の労働組合である日本介護クラフトユニオンの染川朗事務局長は「介護業界は受け入れたい企業とそうでない企業の二つに完全に分かれている。一方、多くの中小零細事業者はコストと手間がかかるので採りたくても難しいと考えている」と指摘する。

また、染川事務局長は「他の業種に比べて魅力があるのか疑問だ」と指摘する。「賃金は日本人と同等以上にすることになっていても、当初は無資格のままだと、多くの事業者が法定最低賃金と連動させている。そうなると外食業や宿泊業など賃金の高い他の業種よりも水準は低くなる。仮に出稼ぎ感覚で来る人が多ければ介護を選んでもらえない可能性もある」

他の業種も安閑としてはいられない。物販・小売業の人事部長は「当社は全国に店舗を置いているが、地方の店舗は地域別最低賃金を睨みながら時給を設定している。出稼ぎ目的でくる外国人が多いことを考えると、おそらく大都市圏に集中し、地方では十分な人材を確保できなくなる恐れがある」と語る。

現段階では様子見の企業が多数

同社は時期を見て準備を検討したいとしているが、現段階では様子見の企業も多いという。

「経営者の中には教育や指導にお金と時間をかけると損した気分になる経営者は多い。今度は日本語を教え、住居も手配しないといけない。今後家族を連れてくるとお金もかかる。そこまでして人を確保したいと思っている大手企業は少ないのではないか」

外国人は日本語もたどたどしく、生活習慣や文化の違うところで働くことになる。すでに日本で働く外国人は多いが、生活支援を含めて日本人以上に丁寧な対応が求められる。

前出のフルキャストグローバルは食品製造業や外食、量販店の接客業などに留学生を中心に派遣している。佐藤課長は「外国人の皆さんは言葉の壁もあり、日本人以上に仕事に不安を抱えている。実際に働いて見て、聞いていた内容と違うとか、日本の慣習を理解できないという人もおり、事業者との調整などフォローが必要になる。外国人の受け入れと定着を図るには、処遇面での日本側のインフラの整備が必要。日本人と同等に扱うのは当たり前のようだが、それができていない企業も少なくない。日本人と同じ処遇にして積極的に外国人を雇っている企業ほど定着率も高くなる」とアドバイスする。

対応は自治体にまで及ぶ

また、外国人に対応するのは企業だけではない。外国人が暮らす自治体にとっても重い課題がのしかかる。人口30万人超の中国地方の市の幹部はこう語る。

「企業で雇われている外国人も少なくないが、子供がいれば学校に行かせないといけないし、医療機関にかかる場合は手続きも自治体の役割になる。また、地域で暮らすとなると文化が違うのでコミュニティなど受け皿づくりも必要になる。今後外国人が増えるとなると。自治体が全部引き受けるのは限界があるだろう。国の支援が不可欠だが、具体的な支援策がまだわからない状況だ」

現時点では国・企業・自治体の受け入れ体制は十分ではない。具体的な支援策が早急に求められる。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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