【キーンバウムの報酬予測2022】コロナ・パンデミックが報酬制度を変える? 2022年ドイツの報酬:傾向と予測

報酬は激変をもたらすような分野ではない。給与の予測可能性と信頼性は、個人的、ひいては社会的にも非常に重要である。労働協約で規定されている多くのドイツの従業員のみを考慮すれば、報酬は多くの部分で高度に制度化されている。

これは、いくら支払われるかという問題と、報酬が基本的にどのように構成されているか、という2つの問題の両方に関わるものである。実際には、報酬に大きな、あるいは急激な変化が見られるのは、ほとんどが個々の企業間のレベルであり、その場合でも特定の部門やグループの従業員に限られることが多い。とはいえ、今後数年間に予想される変化は、かつてなく大きなものとなり得る

これには、コロナ危機も影響していると言える。危機の数か月間、多くの企業や従業員が変化への対応に追われたが、当初の即興性から脱却し、徐々に新しい状態、いわゆる「ニューノーマル」期に踏み込んでいるためである。以下は、このような変化や疑問点について簡単に説明したものである。

インフレの影響

Kienbaum社では、毎年夏に次の年の給与展開の予測(*1)を発表する。本サーベイは、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、という異なる国民経済の地域から選択した国々に焦点を当てたものであるが、そこで示される結果は明白である。すなわち、期待インフレ率と給与水準の間に強い相関関係があるということである。伝統的にインフレ率の高い国では、実質賃金の上昇を実現するためには、インフレ率の低い国よりも給与の名目展開を高くする必要がある。今年の例では、トルコはインフレ率が11.8%と高い数値を示したが、平均給与の上昇率も14.4%と高い。

また、ドイツでも、今後数カ月の間にインフレ率の上昇が予想されている。例えば、2021年10月のドイツのインフレ率は4.5%であった。しかし、欧州中央銀行(ECB)や欧州の多くの国の財務大臣は、現在の比較的高いインフレ率が来年中に再び横ばいとなり、近年の標準的な水準である1.5~2.0%になると想定している。それでも、エネルギー価格のさらなる上昇が予想されることなどから、インフレ率が恒常的に高い水準に落ち着く可能性があるとの声も増している。そのため、特に重要な職務ポジションにおいて(限定ではないが)、より大幅な報酬の調整を求める圧力が高まることは十分に想定できる。これは、コロナ危機の影響を受けている一部の企業にとって、コスト面での課題となる可能性がある。そのため、2022年という早い段階で、スマートかつ総合的な解決策が必要となる。

仕事の意義の変化

コロナの大流行中は、例えば飲食業、旅行・レジャー産業、店舗型小売業などで働く多くの労働者が失業したり、長期にわたる時短労働を余儀なくされた。特にパンデミックの初期には、多くの労働者にとってこれらの経験は苦痛であった。副次的な効果と呼んで良いものがあるとすれば、(多くは他の業界で)新しい仕事を探す機会が得られたことであろう。多くの人は、パンデミックの時期に、転職の際に新たに重視すべき点に気づいた。つまり、仕事とは、現在の生活状況に合わせていくべきものであり、仕事に自身の生活を合わせるのではない、という認識である。これは、パンデミックの状況により、多くの人が家族と過ごす時間が増え、自分のニーズが顕著になったことも要因の一つである。このように、労働者のアイデンティティの核心は、再び仕事から離れ、家族や社会といった領域に見出されているのである。また、転職は、もはや仕方なく行うものではなく、多くはより良い生活環境を得るためのステップなのだ、という新しい考え方も徐々に生まれてきた。このような新しい認識と労働力不足とを背景に、企業はこれらのニーズを満たすために大きなプレッシャーを感じている。この効果は、冒頭に述べた通り、労働協約で規定されている比較的低賃金労働の分野で始まったが、今では他の社会階層にもどんどん広がっている。現在、特にスペシャリストレベルにおいては、ほとんどが仕事を自ら選べる立場にある。これにより、2022年の労働者は多くの分野で強い交渉力を持ち、雇用主に対して単なる給与以上の魅力的な労働条件や報酬を提供するよう圧力をかけることができるのである。

社員のリスク志向の変化

それぞれの企業タイプに合った報酬戦略を選択するために、報酬制度の二極化が進み、企業が発するインセンティブ効果も二極化していることがわかる。まず一方で、多くの中堅企業において、基本報酬の重視とそれに伴う変動報酬の減少などが見られる。これらの企業では、変動報酬を一括して設定するケースが増えている。ここでは、一体感の強化、共同行動、雇用の確保が重視される傾向にある。その一方で、特に若い成長企業やスタートアップ企業で見受けられるのは、非常にリスクの高い報酬制度である。ここでは、業績が良い場合には、時に莫大な変動報酬が報酬全体を占めることになる。このタイプの報酬は、社会としても、また個人的にも、業績重視の報酬を求める傾向のある、特に若く独立心を持った高学歴の人々の意識に働きかける。このため、新しさを特徴とする現代的な企業は、若く優秀な人材にとって特に魅力的となる。

これはひとつの問題提起につながる。つまり、このように多様で流動的な労働市場の中で、企業としてどの立ち位置を目指しているのか、ということである。伝統的な社風の企業も、リスクを厭わない若い人材を取り込むためには変化せざるを得ないのではないだろうか? また、成長企業であっても、高齢化社会に配慮して、少なくとも中期的には、リスクを苦手とする中高年者にとっても魅力的な報酬を提供すべきなのではないだろうか? 20代半ばで成果主義的報酬一択、という考えの人も、数年後に生活環境が変わり、自分の家族ができたことで、もう少し安心感や計画性を望むようになるかもしれない。この2つの世界のどちらかを選ぶのではなく、双方と向き合い、統合していくことが、2022年にすでに始まっている課題なのではないだろうか。明確なのは、労働市場が逼迫する中で、報酬制度は人材のニーズにもっと合致し、彼らの好みに合わせたものとしなければならない、ということである。一方で、報酬哲学の観点での明確な位置づけは、差別化のきっかけにもなり得る。このように、明確な報酬哲学を策定し、それを伝えることは、優秀な人材を惹きつける手段として積極的に活用することができるはずだ。多くの企業において、正にこの部分のコミュニケーションが、透明性に欠けているのである。

個人化から集団化、そして差別化へと移行

それでは、報酬制度を選択可能にし、適用を差別化するためには、どんな手段を用いたら良いであろうか。直近では、個人のパフォーマンス管理から集団的目標への移行が多くの企業で見られる。集団的目標を設定し、見直すことにより、個別の目標合意に費やす管理プロセスを削減することができる。それだけでなく、エゴイズムを抑え、集団的志向を強調するためにも、多くの企業がこの方法を選んでいる。また、業績を測定・管理するために、報酬とは直接関係のないその他の手段も選択されている。このような課題を背景に、企業は個々のキーパーソンの付加価値を個別に評価する必要性に迫られている。個々の従業員のパフォーマンス、貢献度、スキルに応じて報酬を与えるためには、創られた価値を差別化して捉えることが必要となる。

この理由から、年度ごとに厳格に設計された目標合意制度とは異なり、個人の業績貢献に柔軟かつ明確に報いることができる新しい制度の導入が必要となる。ここで求められているのは、スキルに基づいた、差別化された報酬システムである。

対象となる人材が持っているはずのホットスキルに対しては、ベーシックスキルとは異なる報酬が与えられるべきだ。ここでは、社員が仕事の中で経験する成長度も重要な役割を果たす。そして実際の活動よりも、その社員が人間として総合的に貢献できる価値の方をより重視することができる。平均以上のパフォーマンスと貢献が提供された場合、スポットボーナスの支給によって、適切な報酬を与えることができる。この方法は形式的でないため、年度中でも支給が可能である。

このように考えると、必ずしも金銭による報酬でなくとも良いのではないだろうか。従業員のニーズに合わせた差別化されたシステムは、今後ますます重要になってくるであろう。

報酬は持続可能な人事管理の一部

報酬は、常に持続可能な人事管理の一部であり、決して単独で捉えることはできない。採用前から始まり、Hire(採用)からRetire(退職)まで、報酬は企業と従業員の全サイクルをサポートする。ここで述べた報酬制度の課題に加えて、働き方の変化がさらに多くの課題をもたらしている。将来の課題を見据えた、持続可能で戦略的なタレントマネジメントは、最新のパフォーマンスマネジメントと同様に重要な要素である。ここにおいて人事部は、既存的役割から逸脱した、新しく、時にアジャイルな役割にうまく対応できなければならない。より柔軟で流動的な新しい組織構造では、従業員の機能、内容、役割、能力を明確に区分しにくい。人事関連の課題の多くはジョブグレーディングに基づくものだが、変化に対応するためには、ジョブグレーディング自体の部分的な見直しが必要となろう。将来的には、ポジションの価値や評価に、担当する個人の特性を加えたハイブリッドモデルが登場するかもしれない。

結論

これは、2022年以降に多くの企業が直面し得る課題のほんの一例である。これまでの機能的なモデルや構造は、多くの場合、現在の形では機能しなくなり、雇用主は従業員のニーズの変化を把握し、できるだけ積極的に対応していかなければならない。新しい組織やシステムでは、差別化されたアプローチの開発が必須となり、報酬は全体的な人事管理の一部として捉えなければならない。これが、変化する労働市場の状況にうまく対応するための第一歩となる。

 

この記事はComp&Ben 6号/2021年12月号に掲載されたもの。
https://www.totalrewards.de/comp-ben/magazin/

【注釈】
(*1) https://shop.kienbaum.com/produkt/gehaltsentwicklung-in-europa-weiteren-laendern-gehaltsentwicklungsprognose-2022/

【執筆】
Moritz Kinkel
Business Analyst | Compenstion & Performance Management

Moritz.Kinkel@kienbaum.de

Giuseppe Costa
Manager | Compensation & Performance Management
Giuseppe.Costa@kienbaum.de

Dr. Sebastian Pacher

Director | Compensation & Performance Management

Sebastian.Pacher@kienbaum.de

オリジナル記事(ドイツ語):
https://www.kienbaum.com/de/blog/corona-als-zeitenwende-bei-der-verguetung

本記事はニュースレター2021年No.6に掲載されたものです。ニュースレターは下記よりご覧いただけます。
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2022/01/Newsletter_No_6_2021_JP.pdf

ニュースレターの定期購読は下記までお問い合わせください。
japan@kienbaum.co.jp

 

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全世界4大陸に計22の拠点を持つドイツ最大手、ヨーロッパ有数の人事およびマネジメントコンサルティング会社。創業以来75年以上、クライアント企業との信頼関係を基礎に、組織における人材の能力を最大限に引き出すことを目標とする総合的コンサルティングを提供。

【キーンバウム・ジャパン】
キーンバウムのコンサルティング業務のノウハウを活かし、日本におけるエグゼクティブサーチを目的に設立。豊富な海外ビジネス経験を背景に、クライアントのニーズを徹底的に把握し、一貫した信頼関係の中で候補者を絞り込む。雇用契約締結だけでなく長期的な人材コンサルティングのパートナーであり続けることを目標とする。
https://international.kienbaum.com/japan/

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