【キーンバウム】トップマネジメントにおけるAIとサイバーセキュリティ:企業が今、能力・システム・文化を変革すべき理由
現在、2つの技術的メガトレンドが戦略的企業経営の根幹を揺るがしている。すなわち、人工知能(AI)とサイバーセキュリティである。これらは単なる新しいツールではなく、役割、意思決定プロセス、そしてリーダーに求められる要件そのものを変えつつある。これらの重要性を過小評価することは、経済的損失だけでなく、企業としての舵取り能力そのものを失うリスクを伴う。Kienbaumが主催する「Executive Breakfast」シリーズの一環として、意思決定者たちと以下の仮説について議論を交わした。
ケルン本社で開催された第4回Executive Breakfastでは、次の2つの仮説が提示された。
仮説1:AIはCレベルの意思決定の50%を代替する。これを無視する者は、自らの存在意義を失う。
仮説2:ドイツは、米国およびアジアとの技術競争において後れを取っている。
この2つの主張は、現代における本質的な問いを浮き彫りにする。すなわち、「トップマネジメントはこれらの変化によってどう変わるのか」「今後も影響力を持ち続けるために、リーダーにはどのような能力が必要か」という問いである。
AI:単なる流行からリーダーシップの道具へ
人工知能はもはや未来のビジョンではない。このテクノロジーはすでに企業のオペレーションや戦略的意思決定に組み込まれている。精度の高い予測、客観的な意思決定オプション、シミュレーションに基づくシナリオ分析など、AIは日々のリーダーシップにおける「認知的なサポート役」としての役割を強めている。しかし、その価値はリーダーがAIをどう捉え、どう活用するかに大きく左右される。複雑性を軽減する手段として見るのか、それとも自らの役割を脅かす存在と見るのか。成功している組織は、AIを人間の判断力を補完する存在として積極的に意思決定プロセスに組み込んでいる。
これには、トップマネジメントにおける新たな姿勢と能力が求められる。たとえば、データリテラシーを戦略的資源として捉える力や、テクノロジーへの好奇心を基本姿勢とすること、また、チームやAIと協働して意思決定を行う覚悟などがこれに相当する。Chief AI Officer(※1)の設置はその一環かもしれないが、最も重要なのは、AIの責任を外部に委ねるのではなく、経営陣が主体的に担うことである。
サイバーセキュリティ:ITの問題から経営の課題へ
サイバーセキュリティもまた、従来のIT課題から、経営の中核的テーマへと変化している。今日のサイバーアタックの対象は、ネットワークだけでなく、ビジネスモデル、企業のアイデンティティ、そして評判そのものにまで及ぶ。ここで問われるのは、「企業がデジタル資産のコントロールを失ったとき、どれだけの信頼を維持できるのか」ということである。
求められるのは、トップマネジメントによる明確な姿勢である。
サイバーセキュリティは、危機が起きてから対応するだけでなく、より予防的な、戦略的に組み込まれたリーダーシップ課題でなければならない。そのために必要なことは次の3点である:
- ビジネスレベルでのデジタルリスクへの深い理解
- 透明性と対話に基づくセキュリティ文化
- 変化を受け入れ、オープンに向き合う姿勢
セキュリティを企業文化の一部として根付かせることができれば、レジリエンス(回復力)とともに、従業員・顧客・ビジネスパートナーからの信頼も得られる。
リーダーシップ:信頼・テクノロジー・変革の狭間で
AIとサイバーセキュリティという2つのテーマは、リーダーシップの本質的な変化を示している。従来のようなヒエラルキー型の指示命令スタイルや機会ごとの単独の意思決定は、もはや十分に機能しない。今求められているのは、信頼、方向づけ、能力開発に基づくリーダーシップモデルである。リーダーは、テクノロジーとチームを取り込み、共同的な意思決定を行えるような枠組みを設計する存在へと進化している。この新たなリーダーシップの現実には、感情的知性、システム的思考、曖昧さへの高い耐性、そして不確実な状況下でも行動し続ける能力、が求められる。デジタル時代におけるリーダーシップとは、もはやすべてを知っていることではなく、可能性を引き出し、複雑性を共に乗り越える場を創り出すことを意味するのだ。
この変化の影響は、人材戦略にも深く及んでいる。組織は今、リーダー層にどのようなデジタルおよび戦略的能力が必要とされるのかを明確に定義しなければならない。必要なスキルを特定し、計画的に育成し、テクノロジーに開かれ、安全で協働的な職場環境を整備することが求められる。ここで重要なのは、新しいツールの導入だけではない。役割モデル、キャリアパス、リーダーシップの理解そのものを再構築することが必要である。この変革プロセスは、技術的なものというよりも、むしろ文化的な性質を持つものである。
未来に向けたリーダーシップは「今」始まる
今年のExecutive Breakfastでは次のことが明確になった。すなわち、AIとサイバーセキュリティに積極的に取り組む企業は、技術的優位性を確保するだけでなく、持続可能な経営、効果的なリーダーシップ、そしてレジリエントな組織づくりの基盤を築いている、ということだ。
デジタル時代のリーダーシップとは、不確実性の中でも行動し続け、デジタル分野における信頼を築き、膨大なデータの中でも意思決定を下すことである。必要なのは、すべてを知るヒーローではなく、テクノロジー・文化・戦略を一体として捉える勇気ある変革者である。
執筆
Paula Czichos
Consultant | Executive Search
オリジナル記事(ドイツ語):
https://www.kienbaum.com/blog/ki-cybersecurity-im-topmanagement
本記事はキーンバウム・ジャパンのニュースレターNo.3/2025号に掲載されました。
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2025/06/Newsletter_No_3_2025_JP.pdf
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世界4大陸・26都市に拠点を持ち、グローバルな人材・組織支援を展開する。「人と組織に未来を」という理念のもと、エグゼクティブサーチ、リーダーシップ&マネジメント・コンサルティング、報酬・人事制度設計、キャリア支援など、HR領域全般にわたる総合的なサービスを提供する。日系企業の欧州進出支援にも注力しており、異文化統合や現地人材の活用に強みがある。国際経験豊富なコンサルタントが、言語・文化の壁を越えた支援を行う。
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https://international.kienbaum.com/japan/
(9月16日の同社プレスリリースより転載)