【キーンバウム】ピープルトレンド2023:永続的な危機の連続、転換期、VUCA²
HRの未来を探る
昨今よく耳にするVUCA時代は、世界的な動きにより新たな局面を迎えている。本稿では、高度にダイナミックな環境が社会や企業に与える影響と、そこから導き出される2023年のピープルトレンドを6つのポイントにまとめている。
2022年、コロナ危機はほぼ収束したかに見えたが、早くも人々と組織に広範囲な影響を及ぼす新たな危機の到来を告げていた。ヨーロッパでの戦争という致命的なニュースは、昨年2月までは想像するのも難しいように思われた。それ以来、ウクライナにおけるロシアの侵略戦争は世界を緊張させ続け、グローバル貿易の利点がグローバル依存という欠点に変わることを実証している。
パンデミック、ウクライナ戦争、気候変動、米国・中国・欧州の経済圏の争い、サプライチェーンの変化など、世界的な動きによって、よく耳にするVUCA時代は新たな局面を迎えている。これらの動きに伴う変動性、複雑性、不確実性、曖昧さは増大し、世界と経済の秩序の崩壊へと凝縮され、企業に深刻な影響を及ぼしているのである。
この環境のダイナミズムは社会やビジネスにどのようなインパクトを与え、そこからどのような人事トレンドを導き出せるのだろうか。このような状況下ではあるが、今年もあえて予測してみたい。このダイナミズムを「VUCA²」と呼び、図式化することにしよう(図①:https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2023/03/Newsletter_No_1_2023_JP.pdf 9ページ )。
高度にダイナミックな状況下での環境要因
冒頭で述べた世界的な危機は、ドイツの経済界に大きな試練をもたらした。エネルギー価格の高騰とインフレは、差し迫った不況の危機を生み出し、多くの企業に新たな不安と変革の必要性、さらに人々には生活と将来への不安を突きつけている。ロシアや中国といった経済拠点への依存が爆発的速度で問題に変わった。このスピード感は、まさにこうした依存を回避するための経済の地域化につながるであろう。
こうした新たな数々の問題に加え、ドイツ経済は既存の課題にも直面し続けている。特に行政の分野ではデジタル化が遅々として進まず、またスペシャリスト不足も確実に深刻化しているため、企業は頭を悩ませている。Z世代やアルファ世代に顕著な価値観の変化、サステナビリティの重要性の高まり、社会的公正のための再分配論、パンデミック関連の影響、「フューチャーオブワーク」の形成といった社会的相互作用が企業を動かし、ピープルマネジメントの新たな課題を定義している。
企業への影響
現在の非常にダイナミックな環境は、企業に様々な行動領域をもたらしている。企業としての行動力を維持するためには、主要なビジネス領域とイノベーションビジネスの両方をこなせる、いわゆる「両利き」の能力がますます重要になってくる。特に、危機管理と言う観点においては、新しいビジネスモデルやイノベーションマネジメントの分野を疎かにしてはならない。しかし、このような「二刀流」型や市場のダイナミズムに対応するためには、より高度な戦略マネジメントが要求されることになり、そのためには役員や管理職のポジションに優れた人材が必要となる。経営幹部は、優れたマネジメント能力とリーダーシップを持ち併せた人物で構成される必要があり、かつコアビジネスとイノベーションビジネスの双方の領域において、それぞれ必要なマネジメントの役割と適合するものであるべきだろう。
同時に、危機の連続やスペシャリスト不足により、「人」の要素がますます重要になってきていることが企業にも示された。特に新しい人材の獲得とそのリテンションは、市場競争を勝ち抜くための決定的な要因になりつつある。
ここで特に課題として挙げられるのは、ワーカーレス(熟練労働者の不足が、引く手あまたの技術者やデジタル人材だけにとどまらず、今やすべての職種に浸透し、特に有資格スペシャリストが不足していることを表す)、労働力の潜在的変動リスク(例えば2022年10月のキーンバウムとWirtschaftsWocheとの調査では、1000人超の対象者のうち31%が転職を考えていると回答)、社員のリスキリング(今後5~8年の間に50%以上の職種が大規模に入れ替わることが予想される)、そして最後に、いわゆる「要」である中小企業(ミッテルシュタント)における後継者の確保である。
このような発展の前提となるのは、確固たるエンプロイヤーブランディング、共感できるパーパス、価値観、そして、人を中心とした企業文化である。柔軟なキャリアパスやフレキシブルな労働形態、仕事環境のデジタル化、仕事の意義、仕事と家庭の両立、などのいわゆるニューワークの導入も、これに含まれる。
2023年のHR:6つのトレンドと課題
上記で紹介した展開とそれに伴う影響に基づき、2023年における6点の重要なピープルトレンドを特定した。
1. あらゆるレベルの人材の獲得
HRは、ソーシング、リクルーティング、オンボーディングにおいて革新的なプロセス(※1)を必要としている。さらに、適切な潜在能力の診断、更に企業の価値観やビジネスモデルとの整合性が重要な役割を果たす。
2. 社員のリテンション、特にトップパフォーマーのリテンション
新入社員の獲得だけでなく、既存社員のリテンションも重要な要素である。この点では、企業の価値観やビジネスモデルに則した独自のリーダーシップモデルを策定した上で、それに基づくリーダーシップの質の向上と明確な従業員エンゲージメントを図ることが重要である。
3. 戦略的なワークフォース・トランスフォーメーション
ワークフォース、すなわち労働力は、少子高齢化や労働スキルのシフトという形で、顕著な変容を遂げつつある。この推進要因として特筆すべきは、コアビジネスとイノベーションビジネスの2点に焦点を当てた新しい企業戦略、デジタル化とオートメーション化の進展、そしてデジタル化に則したビジネスモデル領域の拡大であろう。このトランスフォーメーションを戦略的に遂行するために、人事部は、特にビジネスパートナーとしての役割で参画すべきである。
4. 「ニューワーク」と「リモート・リーダーシップ」の具体化
ニューワークとリモート・リーダーシップの導入は、多くの企業にとって中心的な課題となっている。これは、ニューワークを単に「可能にする」のではなく、ニューワークとリモート・リーダーシップが今後どのように実現されるべきかについて、全社的に具体的に取り組むことを意味する。これは、例えば、オフィスワークとリモートワークのジョブグループ間の公平を保つことや、デジタルワークツールを使いこなすためのトレーニングなどの問題であり、ピープルマネジメントとパフォーマンスマネジメントの課題となる。この中で人事部は、とりわけ共同決定の仲介、業績管理システム(※2)、大胆なキャリアパスのモデル作り、また部分的にはデジタルワークプレイスの分野において、責任を持つことになる。
5. 重要なポジションにおける適切な人員配置
人事の重要な能力とは、選考プロセスにおける明確な診断能力に沿った、根拠のある未来志向型の要求分析である。データに基づくアプローチと評価に裏打ちされて、人事は重要なポジションに個人や部署に沿った適任配置を行うことができるのである。
6. アジャイル・ラーニングと変化に対する心身の準備
あらゆるレベルにおける絶え間ない変革には、主として、すべての従業員がすべての職務において学習のための機敏さと変化への意欲を持つことが必要である。ここでは、人材育成とチェンジマネジメント(※3)が求められている。
キーンバウムのPeople Conventionでは、ピープルトレンドやその影響について、より詳しくご説明します。今年のPeople Convention ライブストリーミング(ドイツ語)は2023年5月11日です。登録は無料です。
https://www.kienbaum.com/de/veranstaltungen/people-convention-2023/
注釈
※1 https://www.kienbaum.com/de/leistungen/hr-transformation/#HR-Prozessoptimierung-HR-Produktportfolio
※2 https://www.kienbaum.com/de/leistungen/compensation-performance-management/performance-management/
※3 https://www.kienbaum.com/de/leistungen/executive-consulting/change-management/
執筆
Prof. Dr. Walter Jochmann
Managing Director
Lukas M. Fastenroth
Senior Consultant & Akademischer Leiter Consulting, Kienbaum Institut
オリジナル記事(ドイツ語):
https://www.kienbaum.com/de/blog/people-trends-2023-dauerkrise-zeitenwende-und-vuca2/
本記事はニュースレター2023年No.1に掲載されたものです。ニュースレターは下記よりご覧いただけます。
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2023/03/Newsletter_No_1_2023_JP.pdf
ニュースレターの定期購読は下記までお問い合わせください。japan@kienbaum.co.jp
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全世界4大陸に計22の拠点を持つドイツ最大手、ヨーロッパ有数の人事およびマネジメントコンサルティング会社。創業以来75年以上、クライアント企業との信頼関係を基礎に、組織における人材の能力を最大限に引き出すことを目標とする総合的コンサルティングを提供。
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キーンバウムのコンサルティング業務のノウハウを活かし、日本におけるエグゼクティブサーチを目的に設立。豊富な海外ビジネス経験を背景に、クライアントのニーズを徹底的に把握し、一貫した信頼関係の中で候補者を絞り込む。雇用契約締結だけでなく長期的な人材コンサルティングのパートナーであり続けることを目標とする。
https://international.kienbaum.com/japan/
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