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【キーンバウム】イコールペイ実現への道:活動は活発化する一方、問いも増えている

EU賃金透明性指令(EU-Entgelttransparenzrichtlinie)は、もはや抽象的なコンプライアンステーマではなく、具体的な業務課題として、主要な論点の一つとなっている。このことは、現在HRに携わる者であれば、誰もがはっきりと感じているはずである。同指令を国内法へ転換する期限は2026年6月7日と明確に定められている。そして、仮にドイツにおいてその時点までに国内法が成立していなかったとしても、多くの企業にとって行動可能な時間が着実に短くなっていることは明白だ。今回、私たちは「キーンバウム・イコールペイ・レディネス・チェック)」のデータを改めて分析し、組織ごとに取り組み状況がいかに異なっているか、そして、今なお様子見を続けることがなぜリスクとなり得るのかを確認した。

この動きは、主に二つの側面に表れている。第一に、コンサルティングに関する問い合わせの件数および内容の深さが明確に増加している点である。EU賃金透明性指令は、すでにHRの日常業務の中に入り込んでいる。第二に、キーンバウムの「イコールペイ・レディネス・チェック(※1)」の利用が継続的に増えている点である。このツールは、企業は自社の現状を初期診断するために開発されたものである。

2025年9月に行った最初の分析以降、データ基盤は大きく拡大し、現在では約900社分に達している。引き続き、EU賃金透明性指令への対応状況に応じて、「様子見の楽観派」「ナンバークランチャー」「プロ/上級者」という3つの典型的な企業グループが確認できるものの、その構成比は変化しつつある。

企業のイコールペイ成熟度の変化

注目すべきは、企業グループの分布における明確なシフトだ。特に、イコールペイに対応するプロセス構築の初期段階にある企業が大幅に増加している点が特徴的である。多くの組織が、ようやくこのテーマを本格的に経営・人事アジェンダに載せ始めた段階にある。

一方で、数か月前には「十分に準備ができている」と自己評価していた企業が、現在ではより慎重かつ多角的に自社の状況を捉えるようになり、不確実性の高まりを感じていることも明らかになっている。具体的な実装段階に踏み出すことで、結果を信頼性のある形で報告し、説明し、必要に応じて正当化できるようになるまでには、想像以上に多くの細かな意思決定が求められることが明らかになっている。

その結果、一見すると逆説的な状況が生まれている。すなわち、賃金透明性に真剣に取り組めば取り組むほど、論点は複雑化する※のである。これに加え、ドイツにおける国内法化の具体像がなお不透明であり、「官僚主義を抑えつつ、EU法に適合する制度設計」が求められている点も不確実性を高めている。特別に設置された専門家委員会の報告書(※2)も、残念ながら十分な明確性を提供するには至っていない。

楽観派は「明確化」を待っている

今回の分析によれば、「様子見の楽観派」の割合は増加している。これらの企業は、基礎的な準備がまだ整っておらず、全体として対応が進んでいない層である。EU賃金透明性指令の期限が迫っていることを考えると、一見すると意外に思われるかもしれない。しかし、詳しく見ていくと、この動きは十分に理解できるものである。これらの企業の一部は、これまで優先順位やリソース上の制約を理由に、要件に踏み込んだ検討を行ってこなかったが、現在になって初めて体系的にこのテーマへ取り組み始めている。また別の企業は、国内法がいまだ制定されていない状況を受けて、様子見姿勢を取ることが妥当であると判断しているのだ。

「ナンバークランチャー」を巡る多様な実態

「ナンバークランチャー」は、すでに信頼性のあるデータ基盤を整備しており、初期的な分析を実施できる段階にある。しかし、ここでも状況は一様ではない。これらの企業の一部は、ここ数か月を有効に活用し、すでに高度なレベルで取り組みを進めている。一方で、データだけでは十分ではないことに気づく企業も少なくない。同一価値労働の定義、情報開示請求への対応、さらには多様なステークホルダーをどのように巻き込むかといった課題は、当初想定していた以上に難易度が高いことが明らかになっている。こうした認識は、当事者にとっては「後退した」という感覚を伴いがちであるが、実際にはそれ自体がこの課題に対する専門的かつ真摯な向き合いの表れであると言えよう。

「プロ」から「上級者」へ

昨年「イコールペイ・プロ」と分類していた企業の割合は、減少しているように見える。これらの企業は、すでに構造的な対応を進めてきた。すなわち、ロードマップの策定、役割分担の明確化、プロジェクトチームの構築、分析の実施および施策の導出までを一通り行っている。同時に、コミュニケーション、ガバナンス、従業員参画(共同決定)といった領域において、未解決の課題が残っていることも明確に認識している。つまり、評価の基準そのものが変化しているといえるのだ。実装段階が近づくにつれ、実際の運用に耐えうる「実行成熟度」に対する基準そのものが引き上げられている。そのため、現在ではより正確な表現として、これらの企業を「イコールペイ・上級者」と表現している。

これはHR責任者にとって何を意味するのか

「すでに手遅れなのではないか」と不安を抱く人事責任者に対して、明確に伝えられるメッセージがある。現在、状況は大きく動いており、企業ごとに出発点は大きく異なっているということである。ドイツにおけるEU賃金透明性指令の期限内実装は、現時点では遅延する可能性が高いと見られている。その結果、必要となる構造面およびプロセス面の重要な整備を、より計画的かつ的確に進めるための新たな余地が生まれている。そして、ドイツの立法府がいまだ十分な詳細を提示していないからこそ、制度の有無にかかわらず不可欠な要素を前に進めることが重要である。具体的には以下が挙げられる。

  1. 同一価値労働を定義するための信頼性のあるロジック: 多くの場合、職務体系(ジョブアーキテクチャ)、グレーディング、そして透明性と一貫性のある評価基準を基盤とする。
  2. 整合性の取れたデータ基盤: 単発の分析ではなく、報酬の各構成要素を一貫して反映できる、繰り返し可能なプロセスとして整備されたもの。
  3. 意思決定を明確に文書化し、説明・共有できるガバナンス体制

まとめ

EU賃金透明性指令に積極的に向き合う企業は着実に増えている。しかし、問われている内容は変化してきている。もはや「対応義務があるのか」「いつから適用されるのか」ではなく、比較グループの設計や文書化といった、極めて具体的な実装上の意思決定が中心となっている。一方で、ドイツの立法府が最終的な明確性を提示するまで、規制面の不確実性は依然として残る。企業はすでに動き始めている。今後求められるのは、この動きを適切に方向づける明確な法的枠組みである。それによってこそ、HRは単に迅速に対応するだけでなく、より確実で、根拠に基づいた対応を行うことが可能となる。

※1 https://www.kienbaum.com/equal-pay-readiness-check/ 
※2 ニュースレターNo.6/2025内記事「『待つこと』、そして指針への期待」参照
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2025/12/Newsletter_No_6_2025_JP.pdf

キーンバウムのイコールペイ・レディネス・アップデート2026

EU賃金透明性指令をめぐり、企業の対応は新たな局面を迎えています。Kienbaumの2026年版「Equal Pay Readiness Check」最新分析では、施行時期が迫る中で企業の取り組みがどのように進展しているのか、その実態を明らかにしています。調査結果は、イコールペイ対応の成熟度を多角的に可視化するとともに、今まさに求められる具体的なアクションと課題領域を示しています。制度対応に向けて、どこから着手すべきかを考えるHR・経営層にとって、実践的な示唆を提供する内容です。
https://www.kienbaum.com/publikationen/equal-pay-readiness-update-2026/

執筆

Dr. Michael Kind
Director | Compensation & Performance Management

Dr. Vera Bannas
Manager | Compensation & Performance Management

オリジナル記事(ドイツ語):
https://www.kienbaum.com/blog/equal-pay-auswertung-studie-mehr-aktivitaet-mehr-fragen/

本記事はキーンバウム・ジャパンのニュースレターNo.2/2026号に掲載されました。 
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2026/05/Newsletter_No_2_2026_JP.pdf

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キーンバウムは1945年にドイツで創業された、欧州発のHR専門コンサルティング会社です。世界4大陸・26都市に拠点を持ち、グローバルな人材・組織支援を展開しています。「人と組織に未来を」という理念のもと、エグゼクティブ・サーチ、リーダーシップ&マネジメント・コンサルティング、報酬・人事制度設計、キャリア支援など、HR領域全般にわたる総合的なサービスを提供。日系企業の欧州進出支援にも注力しており、異文化統合や現地人材の活用に強みを持っています。国際経験豊富なコンサルタントが、言語・文化の壁を越え、キーンバウムの高品質なサポートを提供いたします。

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キーンバウム・ジャパンは、2006年に設立された日本法人で、グローバル人材に特化したエグゼクティブ・サーチを中心にサービスを展開しています。また、報酬制度設計やパフォーマンスマネジメントなど、コンペンセーション領域のコンサルティングも提供し、企業の人材戦略を多面的に支援しています。外資系企業やグローバル展開を目指す日本企業を対象に、経営層や専門職の採用支援を実施。異文化理解や海外経験を重視した人材の発掘に強みがあり、欧州・アジア市場への進出支援においても高い専門性と実績に定評があります。リテイナー型のサーチを基本とし、採用後も継続的なパートナーとしてクライアント企業をHRのすべての面からサポートいたします。
https://international.kienbaum.com/japan/

(6月10日の同社プレスリリースより転載)