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キーンバウム・ジャパン、リモートワーク・ハイブリッドワークにおけるHRマネジメントの課題 リモートワーク – ピープルアナリティクスで組織変革を容易に

多くの企業でリモートワークが実践されているのは、パンデミック時の働き方として実証済みだからである。しかし、研究によると、リモートワークやハイブリッドワークは、中間管理職にマイナスの影響を与える可能性があることが明らかになっている。リモートワークでリーダーが直面する課題と、ハイブリッドワークを効果的に組織化し設計する方法について分析する。

パンデミックから2年経った今でも、リモートワークは人事部や企業にとっては議題として取り上げられるテーマだ。リモートワークが効果をもたらすという認識は決して新しいものではない。様々な研究により、一部または完全なリモートワークのもとでも生産性とパフォーマンスが低下しないことが示されている(Capgemini, 2020; Kienbaum & Bundesverband der Personalmanagerinnen 2022 ※1)。それでもこの知見は、オフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを効果的するための道筋を示すものだと言えよう。将来的には、週に2~3日のリモートワークが企業にとって好ましい働き方となると考えられる(Kienbaum & Bundesverband der Personalmanagerinnen, 2022)。そのため、人事部門や企業は、リモートワークやハイブリッドワークをどのように効果的に組織化し、設計するかという問題にますます注目するようになっている。ここでいう「組織化」とは、誰がいつリモートワークを行うかなどを、柔軟性の度合いや技術システムを用い組織化する、と言った全社的な取り決めのことを指す。今のところ、そのような規制があるのは46%に過ぎない(Kienbaum & Bundesverband der Personalmanager*innen, 2022)。

リモートワーク、ハイブリッドワーク構想におけるHRマネジメントの課題

ドイツ人材管理者協会(Bundesverband der Personalmanager*innen)(2022)との最近の共同調査(※2)によると、新型コロナのパンデミックの始まりから2年が経過してもなお、リモートワークは効果的に実施されていない。この調査によれば、半数を超える200人以上の管理職が、リモートワークによって業績管理が減り、従業員への信頼(60%)と個人的責任(66%)の移転が増えるなど、リーダーシップに対する理解に変化が生じたと回答している。しかし大多数の管理職はそれに加えて、リモートワークにおいて、仕事量の増加(62%)、過労(50%)、疲労(38%)を経験していることも判明した。これは、特にHRマネジメントの導入が困難であることに起因しているようである。例えば、チームビルディング(75%)やオンボーディング(67%)、そしてそこから派生する従業員の定着(66%)などにおいて、大多数の管理職がかなりの困難を感じていると回答している。したがって、3人に2人(66%)の管理職が離職率の上昇を予想しているのも当然といえる。

社会的相互作用に対する新たな要求

社会的相互作用はリーダーシップの中心的要素であり、目標達成に関する社会的影響力のプロセスとして理解されるものである。したがって、リモートワークにおける社会的相互作用の変化は、管理職にとって大きな課題であり、従業員の定着率と離職率にマイナスの影響を与える可能性があるのだ。チームを形成し、そこからさらに文化を形成するためには、リモートワークにおいては別の対策が必要となる。というのも、例えば、チームメンバーとの日常会話は重要であるはずだが、そのような非公式コミュニケーションの機会は失われ、ほとんどのコミュニケーションは正式に組織化された電話や会議を通じて行われなければならないためである。

同時に、従来の管理方法をリモートワークの状況に一対一で移し替えることはできないことに、多くの管理職が気づかされることとなった。これは特に、指示や相互作用の意味合いの強い、伝統的なリーダーシップのスタイルに該当する。その結果、リモートワークを効果的に組織化するために、管理職にはサポートが必要となるのである。

組織ネットワーク分析(ONA):リモートリーダーシップとハイブリッドワークを設計するためのソリューション

ピープル・アナリティクス(※3)の観点からリモートワークの設計をサポートできるのは、組織ネットワーク分析(ONA)の手法である。ONAは、ネットワーク上の関係を可視化する統計手法である(図1参照)。これをリモートワークに用いることで、どの従業員が誰とどのようなコミュニケーションや共同作業を行っているか、その現状をデータ化し記録することができる。組織、ビジネスユニット、チームなどのレベルごとにネットワークを作成し、分析することが可能となる。ONAに使用するデータは、メールのコミュニケーション、会議のデータ、プロジェクトの共同作業などである。ONAは、非公式な行動データを用いて、現在の半ば形式的な構造(組織図、コミュニケーションチャネルなど)を再現する。これにより、ONAは、意図された正式な構造と、組織内の実際の生きた非公式な現実を対比させるのだ。

ネットワーク分析に重要となる指標

作成されたネットワークは、主要な指標を使って分析される。ネットワーク全般における重要な指標は、直径(Graph Diameter)、平均距離(Average Distance)、密度(Density)などである。直径は、ネットワーク上の2人の間の最大距離を表す。平均距離は、ネットワークにおいて形成されるすべての2人組の点間の平均距離を記述する。密度は、既存の経路とネットワークの最大可能経路の商を表す。つまり、密度は、ネットワーク内の点、つまり人が、どの程度互いにつながっているかを、それらの間の相互接続の可能性の最大値に対して測定して記述するものである。

中心性測定

加えて、特定の人物、つまりネットワーク上の点を指す指標も、ネットワークをさらに深く理解するのに役立つ。例えば、各人(ネットワーク上の各点)がそれぞれ他の何人とネットワークでつながっているのか(Degree Centrality)を読み取ることができる。また、それぞれの直接・間接的なつながりの数(Closeness Centrality)もONAにより把握できるため、これをを用いれば、ネットワーク内のどの人物が最も効果的に情報を発信できるかが判明する(McNulty, 2022)。もう一つ興味深いのは、ある人物が他のネットワーク(2人組)にとってどれだけ重要であるか(Betweenness Centrality)を示す指標である。Betweenness Centralityが高い人物があまりいないネットワークは、緩やかな構成要素、すなわちサブネットワークに分離してしまう危険性がある。

コンポーネント、コミュニティ、クリーク

ONAでは、中心性の分析に加えて、個々の未接続のネットワーク、いわゆるコンポーネントを特定することも可能である。さらにクラスタリングを行うことで、密接につながった、つまり密度が高い点または人物を、いわゆるコミュニティやクリークに分類できる(図1の色分けされた点を参照)。これにより、ONAは、ネットワークの中でどのような人が密接に絡み合っているかを導き出すことができるのである。そして、互いに強いつながりを持つグループが、グループ外ではほとんどネットワークを持たなかったり、またそのようなグループが複数存在するのかなどを把握することができる。

ONAはリモートリーダーシップやハイブリッドワークの観点から価値を高めている

リモートリーダーシップという点では、ONAは次のような役割を果たすことができる。

  1. チーム内の社会的相互作用を可視化して理解を深める
  2. キーパーソン、主要なコミュニティやクリークを特定する
  3. リモートワークやハイブリッドワークを形成するための方法や対策をデータによって裏付ける
  4. 上記の方法や対策が成功しているかどうかを可視化する

実際の運用は多岐にわたる。

・リーダーシップのスタイル
ONAは、リーダーシップの行動評価(キーンバウム・リーダーシップ・コンパスなど)と組み合わせて使用することが可能だ。その際、高密度あるいは顕著な中心性測定値のチームにおいて、どのようなリーダーシップスタイルが優勢であるかを調べ、そのリーダーシップスタイルに特化して開発、推進を行うのである。これは必要性に対応した方法と言える。

・イノベーション
また、ネットワークの可視化は、イノベーションの面でも有効である。イノベーションには、交流と新しい視点が必要である。つまり、チーム内と他のチームとのコミュニケーション、そして知識の共有がイノベーションには不可欠なのである(Arena et al.、2022)。ONAは、このようなチーム内、チーム間のつながりがどの程度あるのかを可視化する。これをもとに、従業員やチーム間のコミュニケーションや交流を改善するための施策を導入することができるのである。

・エンゲージメント
従業員のエンゲージメントは、定期的な短時間の調査(Peakon社など)で測定できる。ONAと組み合わせることで、どのネットワーク構造がエンゲージメントを促進するか、あるいはスタッフのエンゲージメントが特定のネットワーク構造にどのように有利に働くかを調査することができる。このような関係性を把握することで、離職率を下げるだけでなく、リテンションの形成に役立てることができる。

・生産性向上
ONAのネットワークデータからは、生産性を把握することも可能である。例えば、ある種のネットワーク構造が生産性と相関しているかどうかを調べたり、リモートワークの一環として導入されたコミュニケーションや共同作業のための特定の技術が、本当に仕事や生産性を向上させたかどうかを分析することも可能だ。経営者や組織はこれを用いて、どのような対策を講じるべきか、どのような技術が有効かを判断することができるようになるのである。

・健康
また、リモートワークのデメリットも研究により明らかになっている。孤立、仕事量の増加、それに伴う残業は、精神疾患の増加につながることが示されている(Capgemini, 2020)。ここでもONAを活用することが可能だ。ONAは孤立したチームメンバーを特定し、不要な変動、病気休暇の増加、モチベーションの低下を防ぐことにも役立つ。

断片的な構成要素を極力抑え、高密度のネットワークを構築するために誰がキーパーソンとなるのか?また、最適な情報共有のためのキーパーソンは誰か?これらをリーダーや企業がより深く理解するため、ONAの測定基準は総じて役立つものである。これにより、ONAはリモートリーダーシップとハイブリッドワークが及ぼす影響だけでなく、必要なトランスフォーメーションについても可視化することができるのだ。このようにONAは、リモートワークやハイブリッドワークの状況下で、リーダーや企業の人材マネジメントの課題をサポートすることができるのである。

ハイブリッドワークのコンセプト設計に用いる調整方法と施策

リモートワークにおいてONAを使用する場合、ハイブリッドワークをうまく設計するためには、使用ケースや結果によって異なる対策が必要となる。JochmannとFastenrothは、すでに2022年の初めに「COVID-19におけるモバイルオフィスの影響要因」の概要を発表していた。これは、大企業および中小企業の経営者への統一したインタビューと集中的な文献調査に基づき、影響要因をテーマ別に分類し、「企業が強く影響を与えるもの」「部分的に影響を与えるもの」「ほとんど影響を与えないもの」に分けたものである。今回はこの図にインパクト軸を追加した(図2参照)。

このインパクト軸は、企業が置かれている状況において、どの施策が必要となり得るか、また、いかに迅速かつ効果的に実施できるかを示すものである。純粋なリモートワークからハイブリッドワークへの変革において、まず初めに、企業の影響力が大きく、かつインパクトの強い影響要因、いわゆるクイックウィンが企業に示される。誰がいつ、どれくらいの頻度でリモートワークを行うことができるのか、統一された透明で公平な規制を整備するこのようなクイックウィンは、ガバナンスの観点からも理にかなっていると言えよう。部分的に影響を与えることができ、中程度または強い影響に結びつく影響要因は、主にストラテジックウィンとして示される。ストラテジックウィンとは、コストは高いが、組織と従業員に長期的にプラスの影響を与える施策のことである。例えば、リモートワークに適した新しいリーダーシップの手法の開発・導入なども、そうしたストラテジックウィンにつながるものと言える。
(図2 キーンバウムのハイブリッドワーク・インパクト・モデル)

結論

リモートワークは、導入自体はほとんど強制的なものであったが、うまく機能し、その結果、仕事の組織が根本的に変わることとなった。今求められているのは、新しいリーダーシップの発揮と人材マネジメントの変革を迫る、長期的なハイブリッドワークのコンセプトである。ONAの手法は、特にデータ主導の方法で、この変革の形成に決定的な役割を果たすことができるものである。リモートワークにおける重要な調整要素の影響力とインパクトを知ることにより、ハイブリッドワークの長期的なコンセプトの開発は可能となるのである。

参考文献

Arena, M. et al. (2022). The Adaptive Hybrid: Innovation with Virtual Work. Management and Business Review 2(01). 2-10.
Capgemini (2020). The Future of work: From remote to hybrid. Online:
https://www.capgemini.com/wp-content/uploads/2021/03/The-Future-of-Work_Final.pdf 
Kienbaum & Bundesverband der Personalmanager*innen (2022). Remote Leadership. Online: https://institut.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/24/2022/10/Studie_Remote_Leadership_2022.pdf 
McNulty, K. (2022). Handbook of Graphs and Networks in People Analytics. Online:
https://ona-book.org/gitbook/index.html 

注釈

※1 https://www.kienbaum.com/de/publikationen/remote-leadership-2022/
※2 https://institut.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/24/2022/10/Studie_Remote_Leadership_2022.pdf 
※3 https://www.kienbaum.com/de/leistungen/hr-transformation/people-analytics/ 
図1 https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2022/12/Newsletter_No_6_2022_JP.pdf , Page 12
図2 https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2022/12/Newsletter_No_6_2022_JP.pdf , Page 16

執筆

Prof. Dr. Walter Jochmann
Managing Director

Lukas M. Fastenroth
Senior Consultant & Akademischer Leiter Consulting, Kienbaum Institut

オリジナル記事(ドイツ語):

https://www.kienbaum.com/de/blog/remote-work-so-hilft-people-analytics-bei-der-organisationstransformation/

本記事はニュースレター2022年No.6に掲載されたものです。ニュースレターは下記よりご覧いただけます。
https://media.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2022/12/Newsletter_No_6_2022_JP.pdf 

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