キーンバウム・ジャパン、Lead the Shift: 今こそ、HRは変革を主導し、その価値を示さなければならない
キーンバウム・コンベンション2026の振り返り
Kienbaum Convention 2026では、HRが大きな転換点を迎えていることが改めて示された。AIの進化、トランスフォーメーションの加速、経済環境の不確実性、そしてリーダーシップへの新たな期待が、企業の人材戦略を大きく変えつつある。「Lead the Shift – People. Future. Value.」をテーマに掲げた今回のイベントでは、ピープルマネジメントがもはや未来を語るだけでは不十分であることが明らかになった。HRは、組織が変化に適応し成果へ結び付けられるよう支援し、ヒューマン・ケイパビリティ、すなわち人の能力を高めるとともに、その取り組みが企業価値にどのように貢献しているのかを示していく必要がある。
Lead the Shift: スローガンから経営アジェンダへ
Kienbaum Convention 2026(キーンバウム・コンベンション2026)は、開催25周年を機に、イベント発祥の地であるケルン近郊エーレスホーフェンのMalteser Kommende(マルタ騎士団コメンデ)に戻った。中世の騎士団の館であるこの歴史ある会場は、キーンバウム・コンベンションの原点回帰という視点から、単なる開催場所以上の象徴的な意味を持っていた。当日は好天にも恵まれ、約280名の参加者が集結した。対面での交流や率直な意見交換、そして戦略的な洞察を得る機会が意図的に組み合わされ、活発な議論が展開された。3つのステージでは、30名のスピーカーによる計22のセッションが行われ、HRと経営を取り巻く重要課題が多角的に議論された。
登壇者には、現代HRマネジメントを代表する世界的なオピニオンリーダーであるDave Ulrichをはじめ、Prof. Dr. Walter Jochmann、Fabian Kienbaumらが名を連ねた。キーンバウムのManaging PartnerであるFabian Kienbaumは、ホスト兼ディスカッションパートナーとして、リーダーシップ、トランスフォーメーション、AIをテーマに、経営者としての視点を提示した。
イベント全体を貫いたのは、「変革を主導せよ。人、未来、価値。(Lead the Shift – People. Future. Value.)」というメッセージである。HRには、何が変わるのかを説明するだけではなく、企業がその変化にどのように対応していくのかを主体的に形づくる役割が求められている。というのも、企業はリアルなプレッシャーを感じているからだ。企業成長の実現はますます難しくなり、AIが仕事や意思決定のあり方を変え始めている。スキル習得は技術の進歩に追いつかず、多くの組織では、「トランスフォーメーション」を繰り返し唱えるだけでは不十分であることを実感している。こうした環境の中で、ピープルマネジメントが今後どのような役割を担うのかが問われている。HRは引き続きプロセス中心の機能にとどまるのか。それとも、組織のパフォーマンス向上、リーダーシップの強化、変革の推進において、より積極的な役割を果たしていくのか。その選択が重要な分岐点となっている。
People:企業の成果は「人」から生まれる
Kienbaum Convention 2026では、「People」、すなわち「ヒト」は「ビジネス」の対極にある概念ではなく、組織のパフォーマンスに関わる重要な要素として位置付けられた。企業がより迅速に学習し、変化に適応し、強靭な組織になることを目指すのであれば、組織構造を変更したり新しいテクノロジーを導入したりするだけでは十分ではない。重要なのは、役割が変化する中でも人々が行動し続けられるかどうかである。人材がテクノロジーを活用してより良い意思決定を行い、新たな業務を引き受け、変化を主体的に形づくることができて初めて、テクノロジーは未来の一部となり得るのだ。
この考え方は、リーダーシップ、企業文化、心理的な安心感、新たに求められるスキルやコンピテンシー、さらにはAIを活用した業務プロセスの中で従業員がどのように責任を果たしていくべきかといった、多くのセッションに共通するテーマであった。
コンベンション・ステージでは、この「People」の視点をさらに深く掘り下げるセッションが多数実施された。Merck社のKhadija Ben Hammadaはインタビュー形式で経験と知見を共有し、Procter & Gamble社のJochen BrennerとEmpionのMaria Zerhusenは共同基調講演を通じて、企業実務と最新リサーチの双方から示唆を提供した。
AIによって定型的な管理業務が自動化されたとしても、それだけで企業価値が高まるわけではない。新たな役割の設計、絶え間ないスキル開発、そして変化の中で組織に方向性を示せるリーダーシップの強化が不可欠である。こうした観点から、Peopleに関するテーマはもはや経営アジェンダを補完する存在ではなく、ビジネスそのものを支える中核的な要素となっている。人材が持つ能力を引き出し高める「ヒューマン・ケイパビリティ(Human Capability)」は、企業の競争優位性を左右する重要な経営資産として位置付けられている。
また、米国を代表するHRの第一人者であり基調講演者でもあるDave Ulrichは、HRの価値を評価する際にはステークホルダーの視点が欠かせないと強調した。HRの成果は、制度や施策の実施状況だけで測られるべきものではない。最終的に重要なのは、その取り組みが顧客、投資家、従業員、そして組織の将来性に対して何をもたらすのかである。
Future:AIを単なるツールとしてではなく、変革の原動力として捉える
Kienbaum Convention 2026におけるもう一つの重要なテーマは、「Future of Work」、すなわち仕事の未来であり、議論は自然とAIへと向けられた。多くのセッションで共通していたのは、AIを単なる新しいテクノロジーとしてではなく、働き方や役割分担、業務プロセス、さらには組織における責任のあり方そのものを変える要素として捉える視点であった。キーンバウムのパートナーであり、長年にわたりHRトランスフォーメーションを牽引してきたProf. Dr. Walter Jochmannは、毎年恒例の「HRの現状と未来」に関する講演で、この課題がどれほど重要であるかを強調した。先行きが不透明な経済環境の中、多くの企業が効率化や組織の最適化に取り組む一方で、HRに期待される役割も大きく変化しているという。AIは、特に管理業務、学習・人材育成(Learning)、採用(Recruiting)の分野で大きな効率化をもたらす可能性がある。しかし、その結果として生まれた余力が自然に価値創出に結び付くわけではない。HRには、今後どの業務に重点を置くべきか、どのようなスキルを強化すべきか、そしてHR組織自身をどのように高い生産性と影響力を持つ組織へ進化させるかを明確にすることが求められている。
Futureのパネルディスカッションでは、Stefanie Peters(NEUMAN & ESSER)、Iris Prüfer(MediaMarktSaturn Retail Group)、Dagmar Reinhold(Klosterfrau Gruppe)が登壇し、テクノロジーと組織の変革がリーダーシップにどのような新たな要件をもたらしているのかについて議論を交わした。さらに、ドイツ連邦刑事庁(BKA)の副長官であるHelen Albrechtは、公共機関におけるAI活用の現状を紹介した。同庁では、AIは業務効率化の手段であるだけでなく、脅威環境そのものを変化させる存在となっている。サイバー攻撃はより迅速かつ高度化している一方、AIは大量のデータ分析や捜査・業務支援に大きな可能性を発揮している。ただし、AI活用を一部の実証実験や個別ユースケースにとどめず、組織全体で持続的な成果につなげるためには、ガバナンスや運用体制を含めた統合的なAIオペレーティングモデルの構築が不可欠であるとの見解が示された。
Value:HRの価値創出力がこれまで以上に問われる時代へ
「Value」セッションは、Vonovia社のCHROであるRuth WerhahnとWalter Jochmannによる対談からスタートした。その後、Dr. Gregor Imelauer(KraussMaffei)の講演や、Angelika Kambeck(TKMS)とのインタビューを通じて、HRが企業変革や事業成果に対してどのように価値を生み出せるのかが議論された。
今回のテーマである「People. Future. Value.」の中でも、「Value」、すなわち価値創造は、おそらく今回のテーマの中で最も難易度の高い要素であった。それは、HRにおける価値創出が新しいテーマだからではない。現在の環境下では、その価値がこれまでとは異なる形で問われているからである。予算が厳しくなり、生産性への注目が高まり、さらにAIが業務のあり方を変える中では、「People」に関するテーマの重要性を説明するだけではもはや十分ではないのである。
Walter Jochmannは講演の中で、この課題を明確に指摘した。人件費が企業のコスト構造において大きな割合を占める一方、HRには組織変革を推進する役割も期待されている。だからこそ、制度やプロセスの改善にとどまらず、事業に直結する問いを設定することが重要になる。例えば、将来の事業に本当に必要なスキルは何か。どこに人材不足や組織上のボトルネックが存在するのか。どの職種や役割が変化の影響を最も受けるのか。そして、将来の成長に必要な人材基盤を維持しながら、パフォーマンス向上や後継者育成、コスト管理をどのように実現するのか。こうした問いに答えることこそが、これからのHRに求められる価値である。
Conventionの最後を飾ったのは、ドイツの有力経済紙「Handelsblatt」の人気ポッドキャスト「So klingt Wirtschaft」(「これが経済の響きだ」)の公開収録であった。大手スーパーマーケット、REWEのCEOであるLionel SouqueとFabian Kienbaumが、「未来のスーパーマーケット」をテーマに意見を交わした。議論では、AIが商品ラインアップの最適化、顧客ごとのニーズに合わせた提案、セルフレジ、店舗運営の効率化などにどのように活用されているかが紹介された。同時に、スーパーマーケットは単なる買い物の場ではないという点にも焦点が当てられた。多くの人々にとって、それは社会的な接点でもある。そのため、テクノロジーが価値を生み出すのは、人を置き換えるからではない。より良い意思決定を可能にし、仕事を効率化しながらも、顧客相談などの人とのつながりや信頼関係のための余地を残すことにこそ意義がある。
このセッションは、「Value」というテーマを象徴的に示すものであった。価値はHR施策の数によって生まれるのではない。人材、組織、そしてビジネスが交わる重要な局面において、より質の高い意思決定を実現することで創出されるのである。
結論:変革の波はHRを待ってはくれない
Kienbaum Convention 2026を通じて示されたのは、HRがもはや変革を支援するだけの存在ではいられないという現実である。AIはすでに仕事の進め方や意思決定のあり方を変え始めており、市場からはこれまで以上のスピードと変革が求められている。さらに、多くの企業では、不透明な経営環境の中で生産性向上とイノベーション創出を同時に実現することが課題となっている。そのような状況において問われているのは、「HRが必要かどうか」ではない。
「これからのHRは、企業にどのような価値をもたらすのか」である。もしHRが制度運用やプロセス管理にとどまるのであれば、その存在意義は徐々に薄れていく可能性がある。一方で、「Lead the Shift – People. Future. Value.」という理念を真剣に受け止めるならば、企業の未来を形づくる重要な役割を担うことができる。今回のConventionを通じて発信されたメッセージは明快であった。AIの進化によってHRの役割が小さくなるわけではない。むしろ、HR自身が変化し、その価値を証明することが求められている。変革を主導するためには、明確な方向性と勇気、そして単なる善意を超えたHuman Capabilityへの深い理解が求められているのだ。
キーンバウム・コンベンション
Kienbaum Convention は、Kienbaumが主催する経営層・人事責任者・変革リーダー向けのエグゼクティブカンファレンスです。組織変革、リーダーシップ、人材マネジメント、AI活用、企業価値創造などをテーマに、企業経営者、HRリーダー、研究者が知見を共有し、議論を行う場として開催されています。
このイベントは2000年代初頭に始まった Kienbaum年次大会を発展させたもので、現在ではドイツ語圏の経営・人事コミュニティにおける重要な交流の場となっています。
執筆
キーンバウム編集部
オリジナル記事(ドイツ語):
https://www.kienbaum.com/blog/lead-the-shift-kienbaum-convention-2026-rueckblick/
本記事はキーンバウム・ジャパンのニュースレターNo.4/2026号に掲載されました。
https://international.kienbaum.com/wp-content/uploads/sites/13/2026/09/Newsletter_No.4_2026_JP.pdf
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【キーンバウム・コンサルタンツ・インターナショナル】
キーンバウムは1945年にドイツで創業された、欧州発のHR専門コンサルティング会社です。世界4大陸・26都市に拠点を持ち、グローバルな人材・組織支援を展開しています。「人と組織に未来を」という理念のもと、エグゼクティブ・サーチ、リーダーシップ&マネジメント・コンサルティング、報酬・人事制度設計、キャリア支援など、HR領域全般にわたる総合的なサービスを提供。日系企業の欧州進出支援にも注力しており、異文化統合や現地人材の活用に強みを持っています。国際経験豊富なコンサルタントが、言語・文化の壁を越え、キーンバウムの高品質なサポートを提供いたします。
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https://international.kienbaum.com/japan/
(10月14日の同社プレスリリースより転載)



