多くの企業がDX推進を重要な経営戦略として打ち出している。サッポログループでは「全社員DX人財化」を掲げ、育成プログラムを展開している。具体的な取り組み内容や現状、今後の展望などをDX・IT 統括本部 DX 企画部 推進グループリーダーの安西政晴氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)
サッポロホールディングス
安西政晴 DX・IT統括本部 DX企画部 推進グループリーダー
貴社グループ全体のDX方針の概要について教えてください
当グループでは、2020年にグループ経営計画2024を策定し、具体的な方策としてBPRやDXの推進を掲げました。この取り組みを加速するため、2022年3月に策定したのが、グループ全体のDX方針です。
当グループに関わるあらゆるステークホルダーと共に成長し続け、お客様と企業の価値最大化を目指し、「お客様接点を拡大」「既存・新規ビジネスを拡大」「働き方の変革」という三つの方針を示しました。
2022年1月に当社の尾賀社長が「全社員DX人財化」を打ち出したことに始まり、続く2月には全社員向けに「DX・IT人財育成プログラム」を開始すると発表。その翌月に、グループとしてのDX方針をリリースしました。矢継ぎ早に仕掛けていったことで、グループ全体がDXに一気に舵を切ることができました。
「全社員DX人財化」について、目的・概要を教えてください
「全社員DX人財化」は、社長とのやりとりから生まれました。「DX やテクノロジーは従来、IT部署や特定部署の仕事であったが、もはやそうした時代ではない。全員がやらないといけない。自分もやるから全社員への教育を進めてほしい」との指示がありました。
初年度は約4000人ものグループ全社員のDXリテラシー向上に向けたeラーニング教育に取り組みました。約7時間の教育で社内全体が変わるわけではありませんが、当グループとしてのDXの捉え方を共通認識にしたいという狙いがありました。
今までは、グローバル人財やマーケティング人財など、特定の人財育成を目指して体系的な研修を行ってきた実績があるものの、グループ全社を巻き込んでの取り組みはこれが初めてで、前例がない試みであったと言えます。
「DX・IT人財育成プログラム」の内容について教えてください
プログラムには大きく三つのステップがあります。まずは、「全社員ステップ」です。ここでは、全社員がeラーニングの講座を履修し、DXやITの基礎を理解します。プログラム開始2年目となる2023年は、前年の1.5倍にあたる約6000 人もの社員が学習しています。
次のステップでは、公募型の研修制度になっていきます。最初が、「サポーターステップ」です。より専門的な内容のeラーニングの講座を通して、DX・IT推進サポーターを育成します。
当初は、2022 ~ 2023年の2年間で650人を公募する計画でしたが、初年度だけで600人も集まり、目標人数を900人へと増やしました。
その中から、アセスメントにより200人のDX・IT推進リーダーを選抜する最終ステップが「リーダーステップ」です。当初は、150人を選抜する予定でしたがこちらも枠を増やし、現在は200人に到達予定です。ここでは、約20日間もの研修を通じて、3カテゴリー4パターンの人財育成を目指しています。
具体的には、自社の戦略に沿ってデジタルビジネスの企画・立案・推進等のプロジェクト推進が担える「DXビジネスデザイナー」、データサイエンティストやノーコード/ ローコード開発を担うプログラマーといった「DXテクニカルプランナー」、ITサービス設計・提供、継続的な改善・保守・運用、サイバーセキュリティ・ガバナンス対応を手掛ける「ITテクニカルプランナー」です。
「DX・IT人財育成プログラム」の3つのステップ
プログラムを行った手応えはいかがでしたか
手上げの成果もあり、かなり順調でした。意外だったのは、公募に手を挙げた社員の年代に偏りがなかったことです。例えば、年代が高くなると手を上げてもらえないだろうと思っていた50代の社員も沢山いました。世の中のトレンドとしてリスキリングが話題になっているからとか、会社のためだけでなく、自分のためにも学びたいという姿勢の方が多かったと言えます。他にも、所属部署が本社部門だけにならないかと危惧していたものの、そんなことも全くありませんでした。
「リーダーステップ」の受講者は、研修が修了したタイミングで全員にDXを活用した企画書を作成してもらい、自分の部署に戻ってから実現したいことを宣言してもらいます。そのため、受講者数と同数の200 本もの企画が走ることになります。
DXやデジタルによって業務を改善する企画は、2021年までは1本もありませんでした。それが、今では200本のうち100本以上もの企画が進行中で、何10本かは既に結論が出ています。全社的にDX、デジタルを使って何かしらの業務改善が万遍なく走っており、そうした状態にあることが、今の成果です。
学びだけでなく実践する環境も整えているということですね
200本の企画がどこまで進んでいるのかは、社内でモニタリングしています。さらには、進捗しているかしていないか、グループ各社の状況を取りまとめ、定期的に経営報告するシステムにしています。このように、各案件の進捗を全社的に可視化することで、積極的な取り組みを促しています。要は、企画を進めざるを得ない環境を作っているわけです。それぐらいやらないとダメだと、我々としても気合いを入れています。
加えて、「リーダーステップ」研修修了者の意欲や行動を最大化するために、直属上司を対象としてDX 推進支援の研修も行っています。所属長が、DX企画の実現に歯止めをかけないようにすることにもこだわりました。
プログラムを実施したからこそ見えて来た課題はありましたか
「リーダーステップ」研修では、3カテゴリー4パターンの人材育成を目指していたのですが、一番の課題となったのは「DXテクニカルプランナー」の育成です。この研修だけですぐに実践できるようにならないからです。何となく覚えて自分の部署に帰ったとしても、すぐにその技術を使える場面があるわけではないので忘れてしまいます。
なので、技術を身に付けるという意味では、この研修だけでは駄目だという結論に至りました。学んだことを継続的に実践に活かしていける場面をどんどん提供していかなければいけないと考えています。
他にも、「リーダーステップ」研修修了者のネットワークコミュニティ的なオプションを作り、お互いが横でつながっていく必要があるという気づきも得ました。
課題解決に向けて、2023年に挑戦したポイントは何ですか
3点あります。1つ目は、人財育成プログラムの進化です。特に、「DXテクニカルプランナー」のところはハンズオン型の研修に切り替えました。また、各コースに専門性の高い研修会社による研修プログラムを導入しています。
2つ目が、人財活躍支援です。「リーダーステップ」で育成した人財に活躍の場を積極的に提供するようにしています。
3つ目が当グループ社員が自発的に起案したDX企画の検討・実現を支援するプラットフォーム「DXイノベーション★ラボ」の本格化です。
「リーダーステップ」研修修了者が、それぞれの現場に戻りDX案件を推進・具体化させていくとなると、色々な悩みや課題に直面します。それに、社内の他部署がどんなことを行っているかを知りたいはずですし、大手のクラウドベンダーや外部のスタートアップ企業と連携したいという要望も出てきます。それらに対応し、成果に向けて動きを加速してあげたいというのが、ラボの基本的な考えです。2023年2月に社内オープンさせ、5月からは20社以上もの外部パートナー企業にも参加してもらっています。
これ以外に、2023年4月には組織変更も行いました。やはり、DXを進めるにはITが大きなポイントとなります。『DXとITの組織・機能融合による多面的な業務シナジーの創出』を目指さなければいけないと考え、新たに「DX・IT統括本部」を創設し、DX推進専門部署として「DX企画部」を新設することにしました。
「DXイノベーション★ラボ」の概要
育成後、人財にどのように活躍してほしいか、今後の展望などについて教えてください
「リーダーステップ」研修修了者には、それぞれの部署でのリーダーであり、エヴァンジェリストとしてDXを推進してもらいたいと考えています。
来年以降は人財育成のフェーズから成果を創出するフェーズに入っていきます。DX・IT人財育成プログラムの3ステップも一旦完結して、来年は新たな人財育成プログラムを内製化したいと思っています。
既存のビジネスやプロセス・モデルの変革、新規顧客価値の創出、新規ビジネスの創出などに向けてDXをいかに絡め、どう成果を導きだしていくか。そのためには、さらに違った形での育成が必要になると考えています。
サッポロホールディングス株式会社
代表者:代表取締役社長 尾賀真城
設立:1949年9月1日 (創業1876年9月)
資本金:538億8700万円
従業員数:118人
本社:東京都渋谷区恵比寿4-20-1
売上高:4784億円(2022年12月期)
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