【著者が語る】なぜパワハラは起こるのか

宮本 剛志 メンタル・リンク 代表取締役社長

メンタル・リンク
宮本 剛志 代表取締役社長 公認心理師

【PROFILE】教育系企業(東証一部上場)にて、部長等マネジメント経験、研修や相談対応・社員面談を経験。危機管理やコンプライアンス対策も担当。その後、独立。一般社団法人日本産業カウンセラー協会東京相談室元室長。現在は、「ハラスメント・メンタル対策こそ組織のあり方を変える」をテーマに、研修・カウンセリング・コンサルティングを組み合わせて企業支援を行っている。複数の組織でハラスメント防止委員会の委員、一般社団法人日本産業カウンセラー協会産業カウンセラー養成講座協会認定実技指導者。研修:年間約120回、カウンセリング:年間のべ223人、コンサルティング:年間約70回

私は心理職として、長年にわたり企業現場でパワハラの相談を受けてきました。被害者支援だけでなく、加害者の行動変容プログラムにも携わっています。

実際の現場で感じるのは、パワハラは「個人の資質」だけではなく、「組織の構造」と「マネジメントの在り方」に起因するということです。

多くの上司は、部下の成長を願い叱ったつもりが結果的に追い詰めてしまい、逆に「パワハラと言われたくない」と何も言えなくなるケースもあります。さらに、近年はベテラン部下による“逆パワハラ”の問題も増え、職場の関係性は一層複雑化しています。

本書では、そうした現実を踏まえ、パワハラを「防止のためのマニュアル」ではなく、「組織変革の入り口」として捉えました。

心理学の知見をもとに、ハラスメントの発生メカニズムを整理し、無自覚な加害の構造を可視化しています。単に禁止するのではなく、どうすれば建設的な指導・対話ができるかを具体的に示しました。

例えば、部下を尊重しながら叱るための視点や、感情を短時間で切り替えるセルフマネジメント法など、現場ですぐに使える手法を紹介しています。言いすぎないための「抑制」ではなく、伝わるための「工夫」を重視しました。

また、曖昧な“グレーゾーン”の判断基準を整理し、企業内での相談対応や再発防止にも役立つよう設計しています。無自覚なパワハラ加害者を減らすために自分はどんなパワハラを起こしてしまう可能性があるのかわかるシートや、パワハラを発生させやすい組織になっていないか確認できるものも用意しました。

さらに、加害者の行動変容プログラムも丁寧に紹介しました。パワハラを起こした社員を単に処分するのではなく、どのように再教育し、再び健康的に職場へ戻すか。そのプロセスを体系的にまとめました。これは、離職防止や人材育成の観点からも大きな意味を持ちます。

この一冊でパワハラ対策のすべてを網羅したつもりです。職場がより安心で生産的な場へと変わるきっかけになれば幸いです。

なぜパワハラは起こるのか:職場のパワハラをなくすための方法

宮本剛志 著
ぱる出版
1,600円+税

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