グローバルリーダーの確保を急ぐ資生堂と三井物産の取り組み【日本選抜から世界選抜へ転換進む人材マネジメント】

日本企業のグローバル化が進み、ビジネスを牽引するグローバルリーダーの確保が急務となる中、人材育成と人事のグローバル化に取り組む動きが加速している。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

【資生堂】グローバルリーダー、 現法トップの育成を加速

日本の大手企業が本格的なグローバル人材の獲得と養成にかじを切り始めている。旧来の国内事業および日本人従業員を中心とする同質・年功的な序列体系を大胆に変革し、世界規模での人材の採用、育成と登用を目指す人材のグローバル化に取り組む。

化粧品最大手の資生堂も人材のグローバル化に着手している。特に2011年4月の末川久幸社長の就任以来、グローバル人事制度の構築に向けて一挙に加速している。

同社のグループ社員は約4万5000人。うち外国人が2万人を占める。現地法人は約40社あるが、年間十数人の責任者クラスが日本から海外、あるいはフランスから米国という多国間異動を行っている。

現地法人社長の日本人と外国人比率はほぼ半々と拮抗し、次期社長候補の副社長、ダイレクタークラスの幹部役員は日本人約80人に対し外国人約240人であり、経営の現地化も着実に進んでいる。

すでに先行しているのが研修機能だ。その一つが07年から開始した資生堂グローバル・リーダーシップ・プログラム」(SGLP)。資生堂本社の役員の養成を目的に、本社の部門長、現地法人や関連会社の社長クラスを対象にした1年間のプロクラムである。

汐留本社での研修を皮切りに、スイスのローザンヌにある欧州トップランクのビジネススクールIMDと提携した研修が用意されている。

参加者は同社の役員で構成する「人材育成審議会」が選抜した計14人。5期目の今年3月卒業の研修生の内訳は日本人7人と外国人7人。現在までに70人の卒業生がいるが、末川社長も第1期生であり、多くの執行役員を輩出している。

さらに2011年からは米国、欧州、アジア、中国の世界の4拠点で現地の副社長、ダイレクタークラスを対象に現地法人のトップを養成する資生堂リージョナル・リーダーシップ・プログラム(SRLP)をスタートさせている。

【資生堂】日本の管理職と現法幹部社員の人事制度を統一

こうした研修に加えて、資生堂が目指すのは日本を含む世界の国・地域からグローバルリーダー候補を発掘し、世界レベルでの適材適所の配置を実現するグローバル人材マネジメントの構築だ。その土台となるのが2011年4月に策定した資生堂グループの新しい企業理念だ。

ミッション(企業使命)、バリュー(価値観)、ウェイ(行動基準)の3つで構成され、世界の資生堂の社員に共通する価値観として「多様性こそ、強さ」「挑戦こそ、成長性」「革新を続ける伝統こそ、卓越した美を創造する」を掲げている。 企業理念を浸透させるために、価値観や行動基準をさらに社員の行動すべき内容として明文化し、全世界の従業員の人事評価の一部に加えることも予定している。

グローバルリーダー養成も研修と連動した仕組みを構築しつつある。当初は幹部社員層の400人程度をグローバルリーダー候補として位置づけ、主要ポストへの登用を前提にした育成計画を作成。研修と配置による育成を行うというものだ。

グローバルリーダー候補にノミネートされた社員は育成計画に基づいて日本を含む世界の拠点を異動する。しかし、国ごとに賃金体系や人事評価制度が違っていてはスムーズな異動に支障を来すことになる。そのために日本の管理職と現地法人の幹部社員の人事制度を統一することにしている。

現在の管理職の資格等級は年功的な色彩が残る日本的な仕組みで運用しているが「社員を世界レベルで適時・適材・適所に動かそうとすれば、世界共通の仕組みを導入する必要がある。管理職以上は職務や職責など仕事の役割に基づく役割等級制度を導入していく」(同社人事担当者)ことにしている。

もちろん世界の全社員を同一の給与制度や教育体系で動かそうというわけではない。それぞれの国独自のローカルな文化に基づく制度は尊重しつつ、「資生堂人」という企業理念に基づく世界共通の価値観を横串で通す。同時に経営に関わるグローバルリーダー層を形成し、世界の資生堂をマネジメントしていくという戦略である。

すでに社員の国内外での活躍の場を広げるための能力を底上げする施策も展開している。その一つが社員がこれまで積み上げたキャリアや人事評価を含む個人のデータベースの構築である。

人事情報のITインフラの整備はグローバル人材マネジメントを行う上での不可欠なツールであり、すでに国内2万5000人と海外の幹部社員のデータベース化を完成。いずれ全世界の社員を対象にする計画だ。

【三井物産】国籍問わず優秀人材を採用 幹部候補は部門を超えた異動

三井物産もグローバル人材マネジメントの構築を急ピッチで進めている。すでに採用では国籍に関係なく世界中から優秀な人材を獲得するための活動を海外法人や日本でも積極的に展開。海外大学出身者の日本での採用は25人前後だが、外国人を含めて現地で選考を実施するなどして採用を増やしている。

さらに現地法人の優秀人材を日本の中途採用枠に応募してもらい、本体で採用することも行っている。広く世界から人材を採用するのは、今のビジネスを回していくには日本人だけでは絶対数が足りないという危機感からだ。

採用と並行して取り組んでいるのが優秀な人材を世界の拠点に最適な配置を行うことだ。そのための仕組みとして海外拠点の経営を担うグローバルリーダー候補の約1000人のデータベースを構築している。日本人や現地採用の外国人の名前と所属、職務経歴と評価結果などが随時インプットされている。今後は外国人社員の登用を積極的に進めていく予定だ。

また、日本人の社員についても「人材ポートフォリオ」と呼ぶ同社の次世代経営幹部候補の育成システムを構築している。三井物産本店の社員は約6000人。そのうち海外領域での活躍が期待されている社員が4800人。その中から入社間もない若手と40歳以上の社員を除いた1600人のうちの10%に当たる160人の社員が経営幹部候補に選抜されている。

そして経営幹部候補の160人は、他の社員と違い、部門を超えた異動と配置による業務を経験する仕組みになっている。「管理職になっているか、その一歩手前の社員から選抜し、一つの施策として商品や業務領域を超えて数年で異動させながら経験を積ませることをやっている」(同社人事担当者)。

【三井物産】次世代幹部研修に現地法人や取引先の選抜社員が参加

さらに同社は2011年度から従来の次世代幹部養成研修を一新した。最大の特徴は米国のハーバードビジネススクール(HBS)と提携して独自のカリキュラムの作成したことだ。マイケル・ポーター教授ら著名講師の指導によるHBSでの2週間の研修を組み入れた。

もう一つの特徴は、参加者に本店採用の選抜組だけではなく、海外現地法人や関係会社の社員、さらには同社の取引先企業の社員も加えたことだ。今年度の研修参加者34人のうち16人は次世代経営幹部候補の10%から選抜された社員だ。さらに海外支店から10人、取引先のパートナー企業の8人が参加している。

HBSでの講義の狙いは、世界トップレベルの講師陣と練り上げた実践的なテーマについてハーバードの対話形式の“白熱講義”を通じてグローバルな経営感覚を身につけさせることにある。

【三井物産】新評価制度の導入で外国人の幹部への登用が増加

同社は現在、グローバル人材マネジメントを機能させる最後の仕上げとも言える人事制度の構築に着手している。国・地域で異なる評価制度を統一し、グローバルな評価と異動を可能にしようというものだが、世界のすべての社員を同一の仕組みにするつもりはない。

評価制度や賃金制度をグローバルで統一すれば組織運営はやりやすいが、国・地域で労働法や年金などの社会保障の仕組みは異なる。従って、国の文化に根ざした人事制度はそのまま残し、上級幹部を対象に新しい評価制度を導入していく予定だ。

対象となる現地の幹部はゼネラルマネジャークラス以上を想定している。人事評価制度が統一されれば、能力と実績を踏まえた異動による最適な配置が可能になる。この仕組みが始動すれば、本店の部長や役員に登用される外国人も今まで以上に増えることになる。

資生堂や三井物産に限らず、世界的な人材の採用・育成と人事のグローバル化を目指す動きが加速している。ビジネス環境はグローバル規模で複雑化・高度化している。激しい国際競争を勝ち抜いていくには“人材競争力”を強化することが重要であることは間違いない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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