海外高度人材の採用強化とエンゲージメント向上を目指す【イトーキ】

イトーキは海外人材の採用と定着に向けた新制度を導入し、グローバル人材戦略を本格化した。130年の歴史を持つオフィス家具メーカーが、多様性を重視した人的資本強化にどう取り組むのか。同社の人事戦略について、人事統括部 人事部 部長の大井卓爾氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

イトーキ

イトーキ
大井卓爾 人事統括部 人事部 部長

事業概要を教えてください

当社は1890年創業のオフィス家具メーカーです。オフィス空間における価値創造を支援する「ワークプレイス事業」、物流施設、公共施設などに向けた設備、システムの提供や空間づくりを支援する「設備機器・パブリック事業」の2つを軸に展開しています。

サービスとしてオフィス空間の価値創造を行っているだけでなく、自社オフィスへの投資も強化しており、従業員エンゲージメントのスコアも近年大きく伸びています。会社に対して誇りを感じている社員の割合は、2019年の40.4%から2023年には74.7%まで上昇しており、当社で働く社員にとっても満足度の高いオフィス環境づくりができています。

人材マネジメントの方針について教えてください

2024年から2026年までの3カ年にわたる中期経営計画「RISE TO GROWTH 2026」の7つの重点戦略「7Flags」の一つが人的資本戦略です。「社員1人1人の主体的かつ能動的な『創意と工夫』を啓発する」ことを目標にしています。

そして、人事制度の変革におけるテーマとして、「Professional:事業の継続的な成長を生み出す専門性を強化する」、「Retention:貢献意欲の高い人財がイキイキと働き続けられる」、「Pay for Performance:成果を生み出す人財に処遇する」の3つを設定しています。

現在働く社員に対しての目標でもあり、新たに採用する際の人材の指標でもあります。人的資本を高めることが経営目標達成につながると考えているため、それを実現するための人事制度にはさらに力を入れていく方針です。

また、2026年に向けて設定されたKPIとして、従業員のエンゲージメント調査結果で85%以上という高い目標を掲げています。

人的資本戦略の目標として「社員1人1人の主体的かつ能動的な『創意と工夫』を啓発する」を掲げ、人事制度の変革に取り組んでいる

海外人材の採用に力を入れている理由や採用状況を教えてください

「Professional:事業の継続的な成長を生み出す専門性を強化する」というテーマでは、より高度な専門性を有する人材の確保が非常に重要になってきます。

しかし、昨今は理系人材を中心に新卒採用が難航するケースが増えてきました。特に機械・電気・情報系の3分野を専攻する人材は国内での確保が難しくなってきており、2年前からはベトナムのハノイ工科大学生の採用の取り組みを進めています。

まず2022年秋にベトナム国内で理系として最難関のハノイ工科大学で開催されたジョブフェアに出展し、2人の学生を採用しました。現在、滋賀工場で電気や回路設計の技術者として働いてくれています。2023年秋のジョブフェアでは9人の学生を採用し、2024年の10月から順次入社予定になっています。

経営陣は海外人材の採用に積極的で、2023年秋のジョブフェアには社長の湊も参加しています。社長自ら大学側と打ち合わせを行い、海外の高度専門人材との交流や採用に関して非常に前向きです。ハノイ工科大学との関係は一段と密になっており、2023年12月にはパートナーシップ締結に向けた確認書に調印しました。2024年4月にはインターンシッププログラムに関する契約も締結し、7月からは10人の学生を迎え入れ、滋賀県とも連携してインターンシップを実施しました。

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ハノイ工科大学とパートナーシップ締結に向けた確認書調印式の様子
(写真左から)イトーキ 湊宏司代表取締役社長、ハノイ工科大学 フイン・クイェット・タン学長

新設した「海外採用者日本勤務制度」の内容を教えてください

今後さらに海外人材が増えてくると想定される中で、ポイントになってくるテーマが「Retention:貢献意欲の高い人財がイキイキと働き続けられる」です。

そこで、海外人材に定着してもらうために新設したのが「海外採用者日本勤務制度」で、赴任前、赴任時、赴任後のすべてのフェーズで支援していきます。

例えば、海外で採用後の日本渡航にかかる諸費用(旅券・引越・渡航など)はもちろん、日本で住居を選定する際は本人に加えて家族の渡航費用・宿泊費用や、入社後に本人が一時帰国または家族が日本へ渡航する費用も支給します。さらに、赴任後の諸手続のための休暇や、一時帰国の際の特別休暇を付与します。

せっかく入社してもすぐ辞めてしまったら、会社も本人もお互いに不幸です。もちろん、いずれは母国に帰る可能性があるかもしれませんが、せっかく縁があって当社で働くことになったわけですので、できるだけ長く働き定着してほしいと考えています。それが、私たち人事の願いであり、会社の願いです。

当社はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を積極的に推進しています。人事としてその活動をリードしていきたいと思っており、2024年からはさらに進化させるべく、ダイバーシティ エクイティ&インクルージョン(DE&I)を掲げています。エクイティとは公正、公平性という意味です。日本人だけでなく、海外人材にとっても公正な仕組み、処遇にしていく必要があると考えています。

同じ時期に導入した「海外マイプレイス勤務制度」はどのような制度ですか

マイプレイスとは、自分が選んだ場所で働ける仕組みです。これまでは、勤務できる場所が日本国内に限定されていましたが、新制度によって海外にまで拡大されました。これにより、すべての社員が海外でワーケーションすることができるようになりました。海外で採用された社員が母国に一時帰国した際に、現地で勤務することも可能となります。

誰もがイキイキと働ける環境づくりにつながる仕組みを作っていきたいと思っています。

海外人材に活躍してもらうために、どのような取り組みが必要だと考えていますか

2024年7月には、滋賀県との間で高度外国人材の獲得・定着に向けた相互連携に関する覚書を提携しています。インターンシッププログラムでは、当社への採用というよりも、まずは海外人材に日本で暮らすこと、働くことの良さを知っていただくことを一番の目的にしています。実際、外国から日本に来て働くことはハードルが高いと思いますし、海外人材を迎え入れたい企業もどのような仕組みを整えていけばよいのかを悩んでいると思います。海外人材の採用や定着に関する成功事例やノウハウをしっかり蓄積していくとともに、それらを他社にも広く共有していければと考えています。

株式会社イトーキ

代表者:代表取締役社長 湊宏司
創業:1890年12月1日
資本金:52億9400万円
従業員数:(連結)3892人(単体)2153人(2023年12月31日現在)
事業概要:ワークプレイス事業、設備機器・パブリック事業
本社:東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング
売上高:1329億円(2023年12月期)

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