春闘の行方を左右するトヨタ自動車は2月19日に第1回労使協議会を開催した。労組は最大2万4450円の賃上げ、一時金は7.6カ月分を要求する方針だ。金利上昇で好業績が見込まれる金融業界では、三菱UFJ銀行やみずほ銀行が3%のベースアップを要求すると見られる。
物価の上昇も続く中、2025年の春闘がどうなるかは多くのビジネスパーソンにとって気になるところだろう。賃上げや初任給アップが実現した2024年を振り返りつつ、2025年の春闘の動向やビジネスパーソンが知っておくべき基礎知識について解説する。(文:日本人材ニュース編集部)
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2024年の振り返り
2024年は多くの企業で賃上げが行われ、初任給の引上げを表明する企業も相次いだ。主な特徴は次の通りだ。
- 大手企業の積極的な賃上げ
- 2023年秋から経済同友会代表幹事でサントリーホールディングス新浪剛史社長が賃上げを訴え。サントリーHDは2年連続で約7%の賃上げ
- 春闘で満額ないし要求額以上の回答続出
- 業種を超えた賃上げの広がり
- 製造業だけでなく、小売業やサービス業でも積極的な賃上げ
- 外食産業でも5%前後の賃上げが実現
- 賃金や処遇の格差が拡大
- 賃上げ率(連合集計)は、300人以上企業で5.19%、300人未満企業で4.45%
- 初任給アップをはじめ若手に手厚く、黒字経営でも中高年はリストラ
<2024年は多くの企業で賃上げが行われたが格差も拡大>
- 賃上げ・初任給の格差が拡大した2024年、最低賃金1000円以上が16都道府県に倍増
- 2024年春闘、大幅賃上げの裏に潜む格差~中小企業と中高年層の苦悩
- 黒字企業がリストラを進める理由は? 雇用の流動化により政府お墨付きのリストラ増加か
2025年春闘、注目の企業
2025年春闘に向け、大手企業による賃上げの動きが本格化している。サントリーホールディングスが7%の賃上げを表明したほか、電機連合は1万7000円以上の統一要求を掲げ、外食、アパレル、建設など幅広い業界で賃上げ競争が加速している。
- サントリーホールディングス
人材確保に先手を打つことを狙いとして、ベースアップと定期昇給を含め3年連続で7%程度の賃上げを行う方針を2024年9月という早い段階で明らかにした。 - 電機連合
電機メーカーの労働組合から組織される電気連合は、2025春闘での統一要求額を月額1万7000円以上で調整する方針を発表。 - ワタミ、モスフードサービス
外食産業でも賃上げの動きが広がっており、ワタミは平均5%の賃上げ、モスフードサービスは平均5%の賃上げを発表。 - ファーストリテイリング
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、2025年3月入社の新卒社員の初任給を3万円増やし33万円に、年収も1割増しの500万円強にすると発表。 - 建設業界
大成建設と西松建設が先陣を切って、大卒初任給30万円への増額を発表。
企業名 | 賃上げ内容 | 備考 |
サントリーホールディングス | 7%程度 | ・ベースアップ+定期昇給 ・3年連続 ・2024年9月に方針発表 |
電機連合加盟企業 | 月額1万7000円以上 | ・2025春闘での統一要求額として調整中 |
ワタミ、モスフードサービス | 平均5% | |
ファーストリテイリング | ・新卒初任給:33万円(3万円増) ・年収:500万円強(1割増) | ・2025年3月入社の新卒社員対象 |
大成建設、西松建設 | 大卒初任給:30万円 |
2025年春闘の3つのポイント
2025年の春闘の注目ポイントは次の3点だ。
- 持続的な賃上げの実現
- 物価上昇を上回る賃上げが継続できるかが最大の焦点。政府は、企業の賃上げを促すための政策を強化しており、その効果にも注目が集まる。
- 中小企業の賃上げ
- 大企業だけでなく、中小企業における賃上げも重要な課題。価格転嫁対策や生産性向上支援などを通じて、中小企業の賃上げを後押しできるかが鍵となる。
- 多様な働き方への対応
- 非正規雇用労働者や多様な働き方に対応した賃金体系の見直しも求められる。同一労働同一賃金の原則に基づいた賃金格差の是正も重要なテーマになる。
<人材獲得競争が激化、採用・定着策を強化する企業が増えている>
春闘の基本知識
春闘は、日本の労使関係における重要な制度として長年定着しているが、その仕組みや意義について正確に理解しているビジネスパーソンは意外と少ないのではないか。ここからは、ビジネスパーソンが押さえておくべき春闘の基礎知識を解説していく。
そもそも春闘とは何か
春闘とは、労働組合が企業に対して賃上げなどを求めて行う交渉のこと。毎年春に行われることから「春闘」と呼ばれている。
日本における春闘の始まりは1955年。当時の労働組合が春に一斉に賃上げ要求を行ったことがきっかけだ。以来、春闘は日本の労使関係における重要な慣行として定着している。
春闘では、基本給の引き上げを中心に、一時金(賞与)の支給額や諸手当の改定、さらには労働時間や休暇などの労働条件についても交渉が行われる。近年では、働き方改革に関連した制度改定なども、重要な交渉テーマとなっている。
現代の春闘で話し合われる主要テーマ
・賃金関連:ベースアップ、定期昇給、賞与、各種手当
・働き方改革:労働時間、休暇制度、在宅勤務制度など
用語 | 意味 | 特徴 |
ベースアップ(ベア) | 基本給の基準額引き上げ | 恒久的な賃金上昇 |
定期昇給(定昇) | 年功的な給与上昇 | 自動的・固定的な昇給 |
一時金(賞与) | 期間業績連動報酬 | 変動的・年2回支給 |
なぜ春に行われるのか
春闘が春に行われる背景には、日本の企業社会における独特の事情がある。最も大きな理由は、多くの企業で4月が新年度の始まりとなっていることだ。新年度から新しい賃金体系を適用できるよう、その準備期間として春が選ばれている。
また、多くの企業が3月期決算を採用していることも重要な要因だ。前年度の業績見込みが立つ1-3月に交渉を行うことで、適切な賃上げ原資の検討が可能となる。さらに、4月の新入社員入社に合わせて新しい賃金体系を整備する必要があることも、春闘が春に行われる理由の一つとなっている。
春闘に影響を与える要素
春闘の結果には、様々な要因が影響を与える。まず経済的な要因として、GDP成長率や物価動向、為替相場などのマクロ経済環境がある。また、企業の売上高や利益といった業績も重要な判断材料となる。
労働市場の状況も大きな影響を持つ。有効求人倍率や失業率といった指標は、労使双方の交渉力に影響を与える要素となっている。加えて、政府の経済政策や労働政策も、春闘の方向性を左右する重要な要因である。
近年では、産業構造の変化も無視できない影響を与えている。デジタル化の進展やグローバル化、新産業の台頭により、従来の春闘の枠組みも徐々に変化を求められている。
要因区分 | 具体的要素 | 影響 |
マクロ経済 | GDP成長率 | 賃上げ余地の判断材料 |
物価動向 | 実質賃金への影響 | |
為替相場 | 企業収益への影響 | |
企業業績 | 売上高 | 直接的な賃上げ原資 |
営業利益 | 支払い能力の指標 | |
労働市場 | 有効求人倍率 | 労使の交渉力に影響 |
失業率 | 雇用情勢の判断材料 |
春闘の年間スケジュール
春闘は年間を通じた一連のプロセスとして進行する。準備は前年の11月頃から始まり、経団連が経営労働政策特別委員会報告を発表し、連合が春闘方針を決定する。各産業別労働組合はこれらを踏まえて要求内容の検討を行う。
時期 | 主な実施事項 |
準備期 (11月-12月) | 経団連が経営労働政策特別委員会報告を発表 連合が春闘方針を決定 各産業別労働組合が要求内容を検討 |
要求期 (1月-2月) | 労働組合が要求書を提出 要求内容の説明 団体交渉の日程調整 |
交渉期 (2月-3月) | 労使交渉の実施 業界大手企業から順次回答 妥結内容の発表 |
実施期 (4月-) | 新賃金の適用 社員への説明 給与システムの更新 |
まとめ:ビジネスパーソンにとって春闘とは
春闘は、労使関係における重要なコミュニケーションの場として機能している。経営課題の共有や従業員の声の集約、相互理解の促進など、その役割は多岐にわたる。
企業経営の観点から春闘は重要な意味を持つ。従業員満足度の向上や人材の確保・定着、モチベーション管理など、人材マネジメントの重要な機会となっている。また、人件費計画や投資計画、中期経営計画にも大きな影響を与える要素となっている。
特に近年は、働き方改革や人的資本経営との連動も意識されるようになっている。賃金水準の見直しだけでなく、働き方の改善や福利厚生の充実など、より包括的な経営課題の解決に向けた機会として捉えられている。
ビジネスパーソンにとって、春闘の役割を理解して関心を持つことは、自身のキャリアを見直す契機になる。企業が示す賃上げや制度変更の狙いを正確に理解すれば、自ずと自身が果たすべき役割やスキルアップに向けて何をすべきかを考えられるはずだ。
重要なのは、春闘の結果を受動的に受け止めるのではなく、能動的に生かしていく姿勢だ。企業が求める成果は何か、どのような仕事が評価され賃金が上がるのか、自身に役立つ制度はないかなど、自身の成長を考える機会として前向きに捉えれば、これからのキャリアをより充実したものにしていくことができるだろう。