「ジョブ型人事制度」を導入し、専門人材を市場価値で評価・処遇【三井住友カード】

三井住友カードは、特定分野における専門人材を対象に「ジョブ型人事制度」 を導入した。より専門性の高い人材の採用・育成と活用を目的とする新たな人事制度の内容について、常務執行役員の林貴子氏、人事部グループ長の山口真一郎氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

三井住友カード 林 貴子 常務執行役員 戦略人事部 担当 Head of DE&I 兼 人事部 共管 兼 マーケティング本部 共管 兼 三井住友フィナンシャルグループ   執行役員(CHRO 補佐)

林 貴子氏

三井住友カード
常務執行役員
戦略人事部 担当 Head of DE&I
兼 人事部 共管 兼 マーケティング本部 共管
兼 三井住友フィナンシャルグループ
  執行役員(CHRO 補佐)

三井住友カード 山口 真一郎 人事部 グループ長 兼 戦略人事部 グループ長

山口 真一郎氏

三井住友カード
人事部 グループ長
兼 戦略人事部 グループ長

事業概要と近年の事業動向について教えてください

山口 当社は、クレジットカード等の決済事業を中心に、信販事業やトランザクション事業など、SMBCグループのペイメント事業の中核を担う事業者として幅広いソリューションを展開しています。2025年3月末時点で、カード会員数は約3900万人、カード取扱高は約40兆円に達しています。

社会のキャッシュレス化やデジタル化の進展に伴い、多様化するお客さまのニーズにお応えするべく、決済情報から得られるデータの活用やAI活用などにも注力しています。

2021年に人事制度を改定されていますが、今回の「ジョブ型人事制度」導入の背景を教えてください

山口 2021年、従来のメンバーシップ型の人事制度から、ジョブ型の要素を一部取り入れた制度に改定しました。具体的には、年功序列の廃止やマネジメント職に就かなくともスペシャリストとしてキャリア形成が可能な処遇設計、業務領域(ディビジョン)と等級(ビジネスレベル)毎に会社が求める業務遂行レベルを定義した評価制度の導入などを行いました。

しかし、外部環境の変化が激しく、現在の制度では特定のジョブに特化した専門人材を処遇や評価等の面で公平に遇せないという課題が出てきました。また、そういった専門人材は労働市場での流動性が高く、採用競争力を高めるためにも新たな制度の導入が必要だと考えました。

 私は2021年の制度改定が終わった後に入社しました。当社は比較的早い段階でジョブ型の要素を取り入れており、それは画期的であったと評価しています。

ただ、その土台にあったのはメンバーシップ型の制度であり、新卒採用中心かつ長期雇用が前提でした。それでは立ち行かない分野が出てきたので、今回抜本的に制度を変革したわけです。当社にとって大きな試みだと思っています。

「ジョブ型人事制度」を導入した目的を教えてください

山口 目的は3点です。1つ目は採用の質向上です。専門人材に刺さるよう、専門スキルが存分に発揮できることと合わせ、さらなる成長に注力できる制度としています。

2つ目は適切な労働流動性の確保です。市場価値を反映した処遇やメリハリのある賞与制度を導入し、市場における需給バランスを反映した設計としています。

3つ目は当社が掲げている中長期ビジョン実現への貢献です。「お客さまに選ばれ、お客さまの決済をあらゆるシーンで支える“デジタル”&“イノベーション”カンパニー」を実現するためには、戦略領域において専門性の高い人材を迎え入れやすい制度や環境を作り上げていく必要があると考えました。

「ジョブ型人事制度」の検討はいつ頃から始まったのですか

 今回導入した制度という意味では2024年からですが、その前段となる検討は2022年頃から行っていました。ただ、この時点では、あくまでもビジネス主導でした。キャッシュレス分野で新たなビジネスを創出するためには、テクノロジーやデータ分析の専門知識が必要です。さらには、次世代ビジネスのグランドデザイン戦略を描くスキルも求められます。

しかし、社内にはそうした人材が少なかったため、外部から採用していく方針を取りました。そのためには従来の人事制度では対応できないという認識がありました。社内での処遇と市場価値との乖離があまりにも大きかったからです。だからこそ、就労環境や報酬体系を整えないといけないという話になりました。

山口 2023年10月、高度な専門性を有する人材に対して、既存の報酬体系にとらわれない柔軟な処遇を実現するため、まず有期の年俸制の職種を新設しました。そのあたりから、ビジネスの展開に合わせて制度を作り変えていかないといけないと意識していました。

「ジョブ型人事制度」において、特定分野における専門人材とはどういう人材を指すのか教えてください

山口 今の段階では、エンジニアやデザイナー、AI・データサイエンティストとして採用した社員が対象となりますが、今後対象範囲を拡大させていく予定です。

 エンジニアやデザイナーなどのスキルは、従来はカード会社の中だけでは身につけられませんでした。そこで、当社も外部委託やパートナー企業との連携で対応してきました。デジタル投資が拡大する中、今後は内製化していこうということで専門人材を採用していくことにしました。

「ジョブ型人事制度」のポイントとして挙がっている3点について

まずは「専門スキルの発揮と伸長に専心できる制度」について教えてください

山口 「専門スキルの発揮と伸長に専心できる制度」ですが、会社主導で職務内容の変更を伴う異動は行わず、メンバーシップ型の基幹職社員とは別の評価制度で、専門スキルのレベル充足度やそのスキルを活用した成果を正当に評価する制度となっています。

次に「労働流動性を前提とした制度」について教えてください

山口 「労働流動性を前提とした制度」は、あくまでもジョブのスキルレベルに応じて市場価値を反映した処遇体系としており、労働市場の需給バランスも反映しています。

 私たちは労働流動性を担保することを重視しています。これによって、資本主義における需給関係が雇用側だけでなく、被雇用者側にも出て来るからです。日本の伝統的な大企業でジョブ型人事制度を取り入れている企業もありますが、当社の制度はより米国企業に近いところがあると思っています。

最後に「成果に応じたメリハリのある処遇制度」について教えてください

山口 「成果に応じたメリハリのある処遇制度」は、賞与に大きな変動幅を設け、成果が出なければゼロもあり得る一方、成果が出れば2倍程度になる可能性もあるという設計にしています。

●三井住友カード「ジョブ型人事制度」のポイント

三井住友カード

制度の構築をどう進めましたか。苦労した点があれば教えてください

山口 外部のコンサルタントには頼らず、骨子はすべて自社で作成しました。その後、さまざまな企業にインタビューを行い、「実際の運用がどのようになっているか」「困っていることはないか」などをヒアリングしました。

 基本的な仕組みは米国では当たり前のものですが、日本型の雇用環境の良い点も考慮し、調和させることを意識しました。面白かったのは、制度を構築していく最終段階で、先行して採用していたハイレイヤー人材からも助言を得られたことです。それらも参考にしました。

山口 その都度悩むことはありました。例えば、処遇設計です。特に外部市場の金額をどう反映させるかは難しかったです。コンサルティング会社からデータは取り寄せられますが、それが本当に正解なのか、実際に転職で入社する人の金額と違う場合にどちらを基準にするかなど、判断が難しい部分がありました。

取り組みに対して経営層から何かリクエストはありましたか

山口 「採用の競争力や労働市場の流動性を考慮すると、このような制度が重要だ」という説明に対して、特に反対意見はありませんでした。

2025年11月、ベトナムの大学でAI・データサイエンスを専攻した新卒者を本制度で採用していますが、「国内向けの新卒採用にもこの制度を適用できないか」という要望が出ており、2027年ごろから国内でもジョブ型の新卒採用を検討しています。

社員の声や反応はいかがですか

山口 今回ジョブ型人事制度への移行対象としなかったジョブからは「私たちも対象としてほしい」という声が寄せられています。我々としても試行的な部分があり、まずはスモールスタートで検証したかったという側面から移行対象ジョブを限定していますが、今後を見据えジョブ型制度に職種移行できる仕組みを検討しているところです。

 確かに今回特定したジョブに類似性の高い部署からはそういった要望が届いていますが、実際のところ選別はかなり難しいと言わざるを得ません。私たちとしては日本型の人事運営や長期雇用を全否定するつもりはないのです。

新しいジョブ型を導入する際に、急いで全社的に導入するのではなく、まずは職種や部署を限定して革新的で実効性の高い仕組みを作ろうと考えました。一方で、今までのような組織も併存させています。その上で、これから時間を掛けて最適解を探っていこうと思っています。

今後の展望を教えてください

山口 現在はジョブの範囲を限定していますが、今後さらに広げていきたいと考えています。また、現在の制度が完璧だとは思っていませんので、働き方に即した制度・福利厚生の見直しも行いたいです。

あわせて、基幹職とジョブ型制度の棲み分けを整理しつつ、「基幹職からジョブ型に移りたい」という社員のための転換方法も検討していきたいと思っています。

(2025年11月18日インタビュー)

三井住友カード株式会社

代表者/代表取締役 社長執行役員 CEO 大西 幸彦
設立/1967年12月26日
資本金/340億3千円(2025年3月末時点)
従業員数/5,196人(2025年3月末時点)
本社/東京都江東区豊洲2-2-31 SMBC豊洲ビル

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