医師・看護師の採用を成功させる3つのポイント

高齢化の進展により高まり続ける医療ニーズ、訪問介護などの在宅医療の需要も増加している。こうした中、医師や看護師を中心とした医療スタッフの人手不足は深刻になっている。医療機関の人材採用や経営・人事を支援する専門会社に、最近の採用事情や医療機関の取り組みなどを聞いた。

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広がる医療ニーズに応え、医師の希望も多様化

2008年以降、医学部の定員増が図られており、2016年には過去最高の9262人の定員となっている。医師の今後の需給について、厚生労働省は「2022年に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給される」としているものの、「短期的・中期的に、あるいは地域や診療科と言ったミクロの領域での需要が自然に満たされることを意味しない」とし、医師の地域や科目偏在が進む可能性を指摘している。

最近の医師の求人動向について、医師紹介事業を行うMRTの小川智也副社長は「医師は東京への集中が進む傾向が強まっています。多くの大学病院が立地することに加えて、地方から高齢者が流入し、訪問看護などの求人が増えているからです。急性期病院だけでなく、介護施設や福祉施設の求人も増え、医師に対するニーズは幅が広がっています」と解説する。

こうした医師に対する求人ニーズの広がりに対して医師の転職活動にも変化が見られるようだ。医師の転職を支援するエムスリーキャリアの沼倉敏樹医師キャリア事業部部長は「医師の希望は以前に比べ多様化しています。在宅医療や地域医療、健康経営で注目されている産業医などで活躍する医師のモデルケースが出てきています」と話す。

女性医師の増加が、働き方改革を加速させる可能

医師の採用活動では、人材紹介会社やヘッドハンティング会社が主に活用される。採用の成功を左右するポイントについて、リクルートメディカルキャリアの鈴木昌樹ドクターエージェントサービス部エグゼクティブマネージャーは「『医師や人材紹介会社に対してスピーディーにレスポンスしているか』、『医師のタイプに合わせて適切な面接官をセッティングしているか』といった対応力の差」と説明する。

そのため、採用数が多い大規模病院などは「医師招聘部」を設置したり、企業人事や人材紹介会社の経験者を採用して専任者として配置するケースもあり、採用力を強化する病院が増えている。さらに今後の採用においては、病院の「働き方改革」への取り組みが重要なアピールポイントになるかもしれない。

総務省の調査によると、1週間の労働時間が60時間超の雇用者の割合は、医師が41.8%と全ての職種の中で最も高い割合となっている。夜勤や救急対応などがある医師のハードワークはよく知られているが、今や医療施設に従事する医師の約2割を女性が占めるようになった。

厚労省は今年8月から「医師の働き方改革に関する検討会」を開始しており、労働時間の適正把握や見直しを進めていく方針だ。適切な労働時間管理、柔軟な勤務体制、院内保育所や幼稚園の設置など、働きやすい病院であることが採用力を高める要素の一つになる可能性がある。

週60時間以上働いている医師が4割を超えている

年代別、男女別の週当たり勤務時間60時間以上の病院常勤医師の割合

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(出所)厚生労働省「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」

3割超の病院が、新卒看護師の採用計画を達成できず

次に、病院で最も人数が多い看護師の採用だが、厚労省によると看護職員の需要は2015年で約150万1000人。一方の看護職員の供給は約148万6000人で、需要数が供給数を上回る状況となっている。国の医療施策の動向に左右される部分もあるが、看護師不足の慢性化が予測される中で、医療機関は看護師をどのようにして採用していくべきだろうか。

看護学生の採用支援を行う文化放送キャリアパートナーズの「看護師採用総括レポート」によると、今年4月入職者のうち、「病院付属の学校」と「付属以外の奨学生」が入職者に占める割合は、大学病院、国公立・公的病院、民間病院のいずれも3割を超えており、安定的な人材確保につながっている。

病院付属の学校、奨学金、実習指定病院によって一定数の看護学生には入学時から採用の囲い込みが行われていることから、こうした採用ルートを持たない病院による採用競争は特に激しく、大学病院の23%、国公立・公的病院の32%、民間病院の36%が、2017年4月入職の採用計画数を達成できていないという状況に陥っている。

このような病院の採用活動では、合同説明会などで一般応募の看護学生との接点をどのように生かすかが重要となる。採用に成功している病院の特徴について、文化放送キャリアパートナーズの麻生信孝専務取締役は「看護部長や先輩看護師が説明会で直接学生に語ることで親近感を持ってもらい、職場の特徴を上手くPRしています」と説明する。

また、職場の雰囲気をよりリアルに伝えるために、「説明用に動画を用意するなど、採用ツールの改善に投資することも必要です」とアドバイスする。

看護学生は職場の人間関係や教育制度を重視して病院を選択

看護学生が就職先を決定する際に、重視していること(複数回答で回答数が多かった内容、2017年卒)

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(出所)文化放送キャリアパートナーズ「看護師採用総括レポート(2017年)」

民間病院の新卒看護師採用数(2017年4月入職)

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(出所) 文化放送キャリアパートナーズ「看護師採用総括レポート(2017年)」

一方、看護師の中途採用でも、2006年の診療報酬改定で入院患者7人に対し看護師1人を配置する新基準が設定されたことを背景として、看護師の奪い合いが行われている。新卒採用に苦戦する病院では中途採用で看護師を確保しようとするため、中途採用の競争はさらに激しさを増す。

最近の求人ニーズについて、看護師採用を支援するマイナビの神戸信康紹介事業本部統括部長は「看護師の求人は急性期を中心とした病院がメインであることは変わりませんが、以前に比べ訪問看護や有料老人ホームなどからの割合が増加傾向にあります」と説明する。

そして、「採用のミスマッチや離職率の高い状況が続いていますので、定着を重視する医療機関が増えています」と話し、定着している看護師の特性を分析して採用時の見極めに生かすことを勧めているという。

採用を成功させるための3つのポイント

医師、看護師のみならず、コメディカルと言われる医療専門職の人材確保も多くの病院で課題となっている。また日本全体が人手不足の状況下で事務職員の採用も簡単ではない。

こうした採用難の中で、専門会社への取材を通して浮かび上がってきた採用を成功させるためのポイントとして次の3つを上げたい。

まず1つ目は、入職前後のギャップの解消だ。今後一層さまざまな医療ニーズが広がり、医師や看護師の働き方に対する希望も多様化する傾向にある中で、「採用面談で病院の理念や職場環境を十分に理解してもらう」(小川氏)、「職場見学の実施などで実態を的確に伝える」(神戸氏)など、病院の方針や職場の実態を十分に理解してもらうための工夫が必要だ。そして、院長や看護部長などのトップが直接語りかけることも欠かせない。科学的なサーベイなどを活用して、活躍できる人材の特性を把握しておくこともミスマッチを防ぐには有効だ。

2つ目のポイントは、採用業務を担う専門スタッフの確保だ。採用に成功している病院の多くは「採用専任者を置いて人材紹介会社とも上手く付き合っており、コンサルタントにスクリーニングなどの判断基準を明確に伝えることによって、採用スピードや業務効率を上げています」(沼倉氏)と指摘する通り、厳しい採用競争に勝っていくためには専門スタッフが必要になる。そうした専門スタッフの確保が難しい場合は、採用代行(RPO)サービスを活用するという方法を検討しても良いだろう。

3つ目のポイントは、採用時のアピールにもなる「働き方改革」への取り組みだ。医療機関のコンサルティングを行う総合メディカルの戸上武執行役員は、「時間外労働への対応など、病院に対しても企業と同じような『働き方改革』の本気度がさらに問われてくると感じています」と話す。

働き方改革で労働生産性の向上を図るには、マネジメントの強化や体系的な教育制度を整える必要がある。日本コンサルタントグループの茂木信地域経営研究所医療・福祉室室長は「人材の質が『医療の質』や『経営の質』に直結します。医療技術は当然のことながら、経営マネジメントの実践力を強化する必要があります」と強調する。

人材育成について、教育支援会社デジタル・ナレッジの渡辺雅俊メディカル研修事業部コーディネータは「一人一人の研修履歴や取得資格などの情報を一元的に管理して、適切な職場配置やキャリア形成に役立てようとする病院が増えている」と話し、人材への投資がより活発に行われそうだ。

さらに人事評価制度の構築と適切な運用も重要だ。「近年、病院から人事評価制度について相談を受けることが増えています。人事評価制度の運用で鍵となるのは中間管理職ですので、評価者研修の実施など、人事評価制度の目的に対する正しい理解と適切な運用に向けた取り組みが必要です」(戸上氏) 医療機関では人事評価や労働時間管理が適切に行われているとは言えない職場が多いという。それだけに、しっかりと制度を構築して上手く運用できれば、他の病院との大きな差別化につながる可能性が高い。

今回の取材では「病院経営」という言葉が頻繁に聞かれ、医療機関の経営や人事の姿勢が変わりつつあることがうかがえた。とはいえ、戦略的に動いている医療機関はまだまだ多くないのも実態のようだ。医療機関を取り巻く環境の変化に対応できる病院経営を実現していくためにも、採用体制の見直しや教育の充実、人事評価制度の適切な運用などに早期に着手すべきだろう。

職員の能力開発や離職防止を目指し、人事施策を強化する病院が増えている

人材育成プログラムの取り組み事例

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(出所)日本コンサルタントグループ 地域経営研究所 医療・福祉室への取材を基に本誌作成

専門家に聞く「採用成功のポイントと定着・活躍に向けた取り組み」

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渡辺 雅俊 メディカル研修事業部コーディネータ

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情報を管理して、適切な職場配置やキャリア形成に役立てる

集合研修やeラーニングの受講履歴などを適切に管理したいという病院からの相談が多くなっています。定着や活躍につなげていくために、一人一人の研修履歴や取得資格などの情報を一元的に管理して、適切な職場配置やキャリア形成に役立てようとする病院が増えているからです。複数の研修システムを併用している病院が多いため、情報を上手く統合する仕組みを導入することによって、研修担当者の運用の負担を軽減したいという狙いもあります。
また、忙しい医師や看護師が効率的に学べるように、PCだけでなくスマートフォンやタブレットの環境も用意し、院内利用だけでなくクラウドを利用して自宅でも学習ができるようにするなど、時間や場所にとらわれない学習環境を整える病院が増えてきています。

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茂木 信 地域経営研究所医療・福祉室室長

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優秀な人材の採用だけでなく、資質向上への取り組みが不可欠

現在の医療機関の経営において、人材の質が「医療の質」や「経営の質」に直結します。「機能分化と連携」などの変化に対応し、より良い医療を提供するためには、優秀な人材の採用だけでなく、人材の資質向上への取り組みが欠かせません。医療技術は当然のことながら、経営マネジメントの実践力を強化する必要があります。
また、職種や役職を問わず職員に定着して活躍してもらうためには、患者と接する時間を増やし、職員が患者のためにやりたいことを実現できる環境づくりが鍵です。
当社は人材の資質向上の視点から、医療の質向上や目標達成のためのマネジメント力の強化、人材育成につながる人事評価制度の整備、職場の問題解決や業務改善の実践、接遇などの患者サービス向上の支援に力を入れています。

リクルートメディカルキャリア 
鈴木 昌樹 ドクターエージェントサービス部エグゼクティブマネージャー

リクルートメディカルキャリア

採用力を高めるために採用専任者を配置する病院が増加

医師の転職マーケットは医師に有利な状況にありますので、「医師や人材紹介会社に対してスピーディーにレスポンスしているか」、「医師のタイプに合わせて適切な面接官をセッティングしているか」といった対応力の差が、採用の成功を大きく左右しています。採用力を高めるために採用専任者を配置する病院は増えており、人材会社の採用代行サービスを活用する病院もあります。
採用のミスマッチを防ぐには、医師がその病院で働く魅力を的確に伝える必要があります。そのためには、今、病院で働いている医師が感じている魅力を十分に把握しておくべきです。医師から挙がってきた声を採用面接で自信を持って伝えることによって、その魅力に共感する医師と出会える可能性が高まると思います。

文化放送キャリアパートナーズ 
麻生 信孝 専務取締役

文化放送キャリアパートナーズ

看護部長や先輩看護師が学生に対して職場の特徴を上手くPR

看護学生の採用難は変わらずですが、近年は比較的採用力のある200床超の病院を中心に、優秀な人材を選んで採用したいという機運が少し出てきています。一方、看護学生の採用ルートは病院付属の学校、奨学金、実習指定病院などが占める割合が大きく、そうしたルートが弱い病院が採用数を充足するための競争は激しい状況が続くことが予想されます。
採用を成功させるには、合同説明会などで看護学生との接点を生かすことが大切で、説明会後のフォローも欠かせません。採用に成功している病院では、看護部長や先輩看護師が説明会で直接学生に語ることで親近感を持ってもらい、職場の特徴を上手くPRしています。説明用に動画を用意するなど、採用ツールの改善に投資することも必要です。

MRT 
小川 智也 代表取締役社長(医師)

MRT

採用面談で病院の理念や職場環境を十分に理解してもらう

医師の東京への集中が進む傾向が強まっています。多くの大学病院が立地することに加えて、地方から高齢者が流入し、訪問看護などの求人が増えているからです。急性期病院だけでなく、介護施設や福祉施設の求人も増え、医師に対するニーズは幅が広がっています。採用条件として患者とのコミュニケーション能力を重視する病院が増えていますが、病院もサービス業の意識がないと生き残れない時代になったということでしょう。
当社の医師紹介サービスに登録する医師は増加しています。スキルアップ、ワークライフバランスなど医師の希望条件も多様化していますが、採用面談では医師が希望する条件をヒアリングするだけでなく、病院の理念や職場環境を十分に理解してもらうことが重要です。

エムスリーキャリア 
沼倉 敏樹 代表取締役

エムスリーキャリア

中長期の事業計画に沿って必要な医師を明確にする

最近の医師採用では、「勝ち組」「負け組」の病院がややはっきりしてきています。病院経営の中で人材採用を重視し、中長期の事業計画に沿ってどのような医師が必要なのかを明確にしている病院は採用に成功しています。
そうした病院の多くは採用専任者を置いて人材紹介会社とも上手く付き合っており、コンサルタントにスクリーニングなどの判断基準を明確に伝えることによって、採用スピードや業務効率を上げています。また、客観的に病院の現状を把握して、医師が転職を検討するために必要な材料を豊富に提供しています。
医師の希望は以前に比べ多様化しています。在宅医療や地域医療、健康経営で注目されている産業医などで活躍する医師のモデルケースが出てきていることも理由の一つでしょう。

総合メディカル 
戸上 武 常務執行役員

総合メディカル

人事評価制度に対する正しい理解と適切な運用が必要

近年、病院から人事評価制度について相談を受けることが増えています。人事評価制度の運用で鍵となるのは中間管理職ですので、評価者研修の実施など、人事評価制度の目的に対する正しい理解と適切な運用に向けた取り組みが必要です。
職員の活躍を引き出していくために、病院の理念に沿って行動した職員が報われるような人事制度を導入したり、職員のメンタルケアのために臨床心理士や保健師を採用して健康管理を行っている病院も出てきています。
時間外労働への対応など、病院に対しても企業と同じような「働き方改革」の本気度がさらに問われてくると感じています。経営・人事機能を強化するための人材の採用や育成を強化することも重視されていくべきでしょう。

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