2018年5月10日

就業規則の見直し待ったなし  残業上限規制、同一労働同一賃金対応チェックリスト

2019年4月以降に順次予定される働き方改革関連法案の施行に向け、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金への本格的な対応に迫られる。これらを実践する上で、就業規則をどのように改訂するかについて、特定社会保険労務士の小宮弘子氏に就業規則改訂のポイントを解説してもらった。

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小宮弘子 特定社会保険労務士 トムズ・コンサルタント社長

時間外労働の上限規制と就業規則の改訂

 労働基準法の改正法案要綱では「時間外労働の上限規制」の施行が予定されています。これは働き方改革実行計画の「長時間労働の是正」対策として講じられるものです。(大企業は19年4月、中小企業は20年4月)

 労働基準法では、従業員に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めており、この時間を超えて労働してもらうには、36協定を締結し、労働基準監督署に届出することが必要とされています。しかし、この届出には法定労働時間を超える労働に対する免罰効果があるだけで、従業員に時間外労働をさせるには、別途就業規則に命令できる規定を設けることが必要です。
このようなことから就業規則には「時間外労働・休日労働」を命じる根拠規定が設けられ、一般的に次の内容が規定されています。

・会社は、業務上必要がある場合に時間外労働や休日労働などを命じること(時間外は命令によるものであることを明確に、時間外をする権利はない)

・従業員は正当な理由なく命令を拒否できないこと

・時間外労働の時間数は労使協定(36協定)の範囲内とすること
 今回の長時間労働に対する規制強化への対策として、多くの企業が時間外労働の申請承認制に取り組んでいます。形骸化しやすい制度ですが、時間に対する意識改革や適切な業務管理が実践されるといった効果があります。時間外労働の申請承認制を就業規則に規定する場合は、次のような記載内容になります。

・従業員が業務上やむを得ず時間外労働や休日労働をする場合は、会社(所属長)に事前申請のうえ承認を得なければならない。
 また、生産性の向上を目指すという働き方改革の趣旨、時間外労働に対する規制強化を踏まえると、上司・部下ともに、業務の目的や期待される成果の水準、時間や労力とのバランスを考えて、効率的に業務を進めることが求められます。

 就業規則は会社のルールブックですから、是非、会社が従業員に期待する行動やして欲しい行動を記載したいものです。服務規律や時間外労働の条項に「従業員は、効率的に業務を遂行しなければならない。管理職は、効率的に業務を運営しなければならない。会社は、従業員に対して業務遂行方法の改善、効率化を指示することがある。」といった内容を追加したいところです。

●図表1:残業上限規制対応チェックリスト~管理方法の見直しと時間外抑制

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同一労働同一賃金で企業が迫られる対応とは

 同一労働同一賃金においては、先行して政府が16年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」を策定しています。そして、今後の国会で働き方改革関連法案が成立すれば、実質的にガイドラインが法制化されたことになります。

 「同一労働同一賃金ガイドライン案」の基本的な考え方をベースに、労働契約法、パート労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に名称変更)、派遣法が改正されます。特に非正規雇用者(派遣を除く)の待遇確保については、改正に伴いパート労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に名称変更)に集約されます。
 正規雇用者と非正規雇用者との不合理な待遇差禁止については、現在でも法規制(労働契約法やパート労働法)があり、不合理か否かの判断基準は、①職務内容と責任の程度、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情とされています。

 法改正により、これら判断基準に「待遇の目的や待遇の性質」といった視点が加わります。この基準を先取りしたような判例(ハマキョウレックス事件大阪高裁 H28.7.26判決)も実際にありますから、これから同一労働同一賃金への対応を検討するうえで、この追加基準に注意して検討する必要があります。
 また、これから企業が同一労働同一賃金対応を検討するにあたり、「図表2:同一労働同一賃金ガイドラインの全体像」を確認しておきます。

 ここで注意すべき点は、ガイドラインの「正規雇用労働者」は、「正社員を含む無期雇用フルタイム労働者全体を念頭においている」とされていることです。“無期転換したフルタイム労働者”対“有期雇用労働者”間で不合理な待遇差問題が発生しないよう注意しましょう。

●図表2:同一労働同一賃金ガイドラインの全体像

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同一労働同一賃金対応による見直しの方向性

 待遇差について、①職務内容と責任の程度、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情、④その待遇の性質・目的に照らし、客観的かつ具体的な実態から合理的と言えないものが、見直しの対象となります。

 筆者が考える見直し対象となる待遇を整理したものが「図表3:同一労働同一賃金対応による見直し対象となる待遇」です。

● 図表3:同一労働同一賃金対応による見直し対象となる待遇

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 正社員の給与規程、福利厚生関連の規程で定める待遇について、同一労働同一賃金の観点から見直しが必要と考えられる制度、合理的な待遇差とする場合の考え方を「図表4:同一労働同一賃金による待遇見直しチェックリスト」にまとめています。

● 図表4:同一労働同一賃金による待遇見直しチェックリスト

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