組織・人事

副業・兼業の解禁 事前チェックリスト

働き方改革の一環として、副業・兼業の普及促進が図られている。副業・兼業を解禁するにあたり実務に役立つチェックリストを使って、社会保険労務士の池田優子氏に解説してもらった。

日本人材ニュース

池田 優子 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)

50%近い企業が副業を容認

政府の働き方改革実行計画の一つに、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」があり、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」ことが決定しました。

2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、同省が公表している「モデル就業規則」において、副業・兼業を禁止している規定が削除され、容認する内容に改正されました。現在も、事前の届出を前提に副業・兼業ができるとの文言が記載されています。

これまで、正社員については、本業に支障があったり、情報漏洩が危惧され、多くの会社が副業・兼業(以下、「副業」という)を禁止してきたと思います。しかし、これから先は解禁する方向で進んでいく気配があります。

2019年5月20日付の日本経済新聞の記事によると、東証一部上場などの大手企業120社のうち、副業を認め制度化している企業の割合が19%、制度はないが副業を認めている企業が30.6%で、50%近い企業が副業を認めているという調査結果が出ています。普及促進に関するガイドラインが公表されてから1年が過ぎ、副業に対する企業の意識は確実に変化していると言えるでしょう。

「モデル就業規則」から副業・兼業禁止規程が削除

●モデル就業規則と解説

日本人材ニュース
(出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

モチベーション向上や人材確保・定着に一役

副業を解禁するメリットとして、まず「社員の成長やモチベーション向上」があります。社員が必要なスキルを身につけ、自分で学び成長していけるように、また、社員のモチベーションを上げて、生産性向上や離職防止等につながるように、これまで企業はいろいろな取り組みを実行してきたと思います。

それらの取り組みの一つとして、副業解禁は捉えられているようです。

柔軟な働き方がしやすい環境を整備することにより、本業だけでは得られなかった知識や経験が、社員をさらに成長させ、より一層モチベーションの向上にも効果があると考えられているのでしょう。

次に、「社員のセカンドキャリアの形成」があります。現在、日本の経済界のトップから終身雇用を維持していくことは難しいとの発言が相次いでいます。戦後、日本の高度経済成長を支え、社員とその家族に生活の安定をもたらした終身雇用制度。日本経済が大きく変わってきた中で、崩壊しつつあるとも言われてきましたが、このような発言が相次ぐということは、日本の雇用環境も大きな変革の時期にきているのでしょう。

定年間近になってから、「さあ、セカンドキャリアを作ろう」と考えても、なかなか難しそうです。長年勤めた会社を離れ、どこで、何を目標に働き、社会とどう関わっていくのかを考えて実行するのは、時間と労力を要します。そこで、もっと早い段階から、本業以外の自分のキャリアを考え、副業等でスタートすることができれば、事前に定年後の生活がイメージできるかもしれません。

政府は、70歳まで就業機会を確保することを努力義務とする方向で検討しているため、さらに意識していくことが必要になる可能性があります。

そして、「優秀な人材の確保・定着」についても、今注目されています。入社してほしい人材に出会ったのに、副業を解禁しているかどうかとの質問をされ、副業禁止と回答したところ、副業解禁の会社に入社したいからとの理由で内定を辞退される、また、既に活躍している優秀な社員から、今後の副業解禁の可能性を質問され、その可能性は低いと伝えたところ、どうしても副業がしたいので、副業解禁の会社に転職したいと言われる等、副業解禁の有無が人材の確保・定着に関わってくることが予想されます。

そこで、競業他社に遅れをとらず、優秀な人材を確保・定着させるという観点から、副業を解禁する企業も出てきています。

副業解禁のリスクにいかに対応するかが鍵

様々なメリットで注目される副業ですが、健康管理や情報漏洩の点でリスクがあり、導入に踏み切れないという声もあります。

まず、健康面で「過重労働となり、本業に支障をきたす心配がある」という点については、副業希望者から副業に充てる時間を申告してもらい、労働時間を管理する中で、本業に支障をきたすような働き方をしているようであれば、改善するよう話し合うといいでしょう。また、明らかに支障をきたしている場合は、会社から副業の制限や中止を命じることができるよう就業規則等に定めておくのも一つの方法です。

次に、「組織内の知識や技術等、情報の漏洩が懸念される」というリスクについて、本来、社員は業務上知り得た機密情報や個人情報等について守秘義務があり、それらを漏洩してはならないことになっています。よって、副業の有無にかかわらず、社員はそれを守らなければなりません。

情報管理・情報漏洩等のセキュリティの観点から、銀行が副業を解禁することは難しいとされていましたが、2018年4月より、新生銀行が副業を解禁しました。また、他の大手企業の副業解禁も増えてきています。

副業解禁と情報漏洩の問題を切り離すことは難しいのですが、社員に対し、守秘義務の重要性と万が一情報を漏洩させた場合には、就業規則等の規定に基づき、厳正に処罰するということも含めて周知を徹底することで、会社全体のリスク回避につなげることができます。

その他にも、「労働時間の管理・把握が困難になる」という管理面においても、懸念点が挙げられます。確かに現行のルールでは管理することが多く、副業解禁に消極的になってしまうことがあります。

政府は、副業やテレワークの普及・推進を進めていますが、実際にはなかなか広がらないため、その原因となっているものを探り改善していく目的で、議論をしています。

2019年5月10日の政府の規制改革推進会議で、働き方の多様化に資するルール整備に関するタスクフォース主査である八代尚宏氏の「働き方の多様化に資するルール整備について」の資料において、「(前略)労働時間の通算規定は同一事業主の範囲内でのみ適用し、自己の自由な選択に基づき働く労働者を雇用する、他の事業主には適用しないこと」「主たる事業主は健康確保のための労働時間の把握に努めるものとすること」等の意見が出されています。

また、30日以内の短期派遣(いわゆる日雇派遣)は、2012年から原則禁止とされていますが、副業の場合は、例外措置として認められています。ただし、主たる業務(自身のメインである仕事)における年収が500万円以上のものに限る、と年収要件が課せられているため、その年収要件を見直し、副業の雇用機会を広げようという意見もありました。

同会議では、これらの内容を答申に盛り込むこととしていますので、これからの動向にも注目です。

副業・兼業解禁前に自社の状況を把握

●副業・兼業解禁に向けてのチェックリスト

日本人材ニュース

人生100年時代を契機に、副業は拡大するか

2018年9月11日に独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査」によれば、労働者の40%近くが副業を「新しくはじめたい」「機会・時間を増やしたい」と回答しています。

日本人の寿命は伸び、100歳以上の高齢者は30年前より約50倍に増えました。ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。人生100年時代の到来です。

100歳まで生きるのであれば、いくつまで、どのように働きたいでしょうか。強い日本経済のために、日本の国民が豊かに、かつ、幸福に生きていくために、これを機に、様々な角度から「副業」について考えてみてはいかがでしょうか。

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