組織・人事

ジョブ型雇用とは?導入事例からメリット、デメリットまで徹底解説

大企業を中心に人事制度として『ジョブ型雇用』を取り入れる企業が増えています。
この背景としては今まで主流であった『メンバーシップ型雇用』がIT化や時代の変化によって合わなくなってきているからです。今回は時代に合った人事制度として注目されている『ジョブ型雇用』とは一体どんな制度なのかについてメリット・デメリットを踏まえてご紹介していきます。

~この記事の結論~

  • ジョブ型雇用とは企業の中で職務内容に対して、その職務に適したスキルや経験を持った人材を採用する雇用方法のこと
  • ジョブ型雇用の評価基準は成果主義。
  • ジョブ型雇用が注目される背景は『事業の成功要因の多種性』『リモートワークの普及』『キャリアの多様化』などが挙げられている
  • ジョブ型雇用のメリットは『無駄な人員の削減』『報酬の適正化』
  • デメリットは『早期転職』『流動的な対処が困難』『人材が見つけにくい可能性がある』

『ジョブ型雇用』とは?

ジョブ型雇用とは、企業の中で職務内容に対して、その職務に適したスキルや経験を持った人材を採用する雇用方法のことを言います。特徴は『成果主義』であることです。給与の評価基準は従来の勤続年数や役職による年功序列制度とは違い責任の重さや仕事量などの成果によって評価されます。
日本ではまず採用をして様々な仕事をさせた上で適性を見極めて、その人に適した職務に配置するメンバーシップ型制度が主流でした。しかし、昨今ではこのメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ採用制度をシフトチェンジする企業が増えており、日本でも注目されている雇用制度になります。

ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用
業務範囲スキルに合った職務総合的
評価基準成果主義年齢や勤続年数、役職における成果
採用方法新卒採用、中途採用新卒一括採用

注目されるようになった背景

ジョブ型雇用が注目されるようになった背景は主に3つあります。

  • 事業の成功要因の多種性
  • リモートワーク普及による成果主義型の働き方の普及
  • キャリアの多様化

それぞれ詳しく見ていきましょう。

事業の成功要因の多種性

まず企業が事業を成功させる要因として、21世紀に入りデジタル化やグローバル化など多種性に富んだことが理由として挙げられます。
『ジョブ型雇用のすべて』の著者でもあるマーサージャパン 人事変革事業責任者の「白井 正人」氏は弊社のインタビューでジョブ型が注目されるようになった背景としてこのように語っています。

21世紀となり、事業の成功要因がデジタル化、グローバル化に変わるとともに、メンバーシップ型雇用の有効性は落ちました。デジタル化、グローバル化の文脈の中では、戦略に必要な組織能力に大規模なシフトが必要であり、人材の入れ替えや個人のリスキル・スキルアップが重要になります。
しかし、メンバーシップ型雇用では人の入れ替えは限られ、個人が自身のキャリア(仕事)を決定しないため、自発的なリスキル・スキルアップが難しいのです。
そこで、ジョブ型雇用の必要性が高まりました。ジョブ型雇用はジョブを介した労働力と報酬の市場取引です。対等取引ですから、個人は売物(ジョブ)を自ら定めた上で、現在また将来必要な能力を得るためリスキル・スキルアップします。法律論は置いておくと、会社はベストな人材を確保するため、個人はより良いキャリアを描くため人材の流出入が発生し、デジタル化・グローバル化に必要なトランスフォーメーションに適しています。

【著者が語る】経営者が知っておくべき ジョブ型雇用のすべて

デジタル化やグローバル化が事業の成功要因に変わりつつある中で、企業の戦略においては必要人材の入れ替えや個人のスキルが重要な要因になっています。メンバーシップ型雇用ではフルコミットメント出来る人材が求められている背景から人の入れ替えは限られ、個人のスキルによって仕事を決定していないため、自発的にスキルアップしていくことも難しいです。
ジョブ型雇用は必要なスキルを持った人材を必要な場所にアサインするので、デジタル化・グローバル化といった職務に適した人材を採用することに適しています。

リモートワーク普及による成果主義型の働き方の普及

コロナ禍によって企業でもリモートワークの導入が急速に浸透しました。
リモートワークによって時間や場所にとらわれない自由な働き方ができるようになった反面、成果主義の働き方が広まったことも事実です。
今までは会社に行くだけで一定の評価を得ることも可能でしたが、会社に行かなくなったことで成果が出ている人と出ていない人が明確になりました。雇用してから仕事を決めるメンバーシップ型雇用よりも、その仕事が出来る人をアサインすることでジョブ型雇用の方が成果が出やすいと考えられており、ジョブ型雇用が注目され始めました。

キャリアの多様化

キャリアの多様化もジョブ型雇用が注目されている大きな理由です。
女性の社会進出や最近では副業を容認する企業も増えてきました。
もはや『終身雇用制度』や『年功序列制度』といった制度は当たり前ではなくなり、メンバーシップ型雇用の一つの企業に長年務め続けることは、キャリアの多様化が進む今の時代では維持が難しい雇用制度になっており、ジョブ型雇用のようなスキルに適した職務を選択することができる自由な雇用制度が注目された理由の一つです。

ジョブ型雇用の2つのメリット

ジョブ型雇用制度のメリット大きく分けて2つあります。

  1. 無駄な人員の削減
  2. 報酬の適正化

それぞれ詳しく見ていきましょう。

無駄な人員の削減

ジョブ型雇用制度ではまず会社の中で必要な職務を全て定義し、それぞれの職務に対して必要な人材、数を雇用していく雇用方法になります。そのため、職務がなく暇を持て余しているような人員をなくし、組織の効率化を図ることが可能です。メンバーシップ型雇用では採用した人に対して仕事を与えていきます。人の数だけ仕事を創出する必要があり、人材の総数が仕事の総量よりも多い場合には人を余らしてしまうケースもあります。ジョブ型制度では仕事に対して人をアサインするため、無駄な人員をなくすことが出来る点がメリットであると言えます。

報酬の適正化

給与の評価基準もジョブ型雇用は明確になっています。ジョブ型雇用の評価基準は『成果』が基準になります。割り振った職務に対してどれだけの成果が上げられたが主な評価基準です。逆にメンバーシップ型雇用では職務における成果だけでなく、年齢や勤続年数、役職まで評価基準となり成果を上げられていなくても勤続年数が長ければ、年功序列制度で成果以上の評価を得ることもあります。
ジョブ型雇用制度では、成果に応じて評価をするので、職務の難易度や責任に応じた適性な報酬の設定が可能です。

ジョブ型雇用の3つのデメリット

ジョブ型雇用のデメリットは以下の3つがあると言われています。

  1. 早期転職されてしまう可能性
  2. 流動的な対処が困難
  3. 職務によっては人材が見つけにくい

詳しく見ていきます。

早期転職されてしまう可能性

ジョブ型雇用の評価基準は成果に応じてものとなります。評価は明確ですが、その分より良い条件の企業に転職されてしまうというデメリットがあります。メンバーシップ型雇用では年功序列制度などにより、勤務し続ける理由を見出だせますが、ジョブ型雇用では成果に応じた評価になるため、同様の成果でも好条件の企業に転職されてしまうリスクが伴っています。

流動的な職務への対処が困難

ジョブ型雇用では、仕事に対して人材をアサインするという雇用制度です。そのため、あらかじめ指定した職務以外への転勤や配置転換などが出来ないデメリットがあります。逆にメンバーシップ型雇用では新卒一括採用などで総合職として経験を積ませることで、ある程度の柔軟な職務への対応が可能です。

職務によっては人材が見つけにくい

ジョブ型雇用が主流な欧米では、転職などが活発で人材の流動性が高く、専門性のある人材が多くいます。しかし、メンバーシップ型が依然として主流である日本では求める人材が見つからない可能性もあります。

ジョブ型雇用の導入を検討している企業はどうすべき?

メンバーシップ型雇用を採用している企業がジョブ型雇用を導入するには採用だけでなく社内文化など含めて抜本的な見直しが必要になります。
一つの例として、経団連では2020年版「経営労働政策特別委員会報告」でジョブ型雇用を提唱しており、その中でメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を組み合わせたハイブリッドな組み合わせ方法を説いています。

2020年版報告では、『メンバーシップ型雇用』のメリットを活かしながら、特定の仕事・職務、役割・ポストに対して人材を割り当てる『ジョブ型雇用』を各企業にとって適切な形で組み合わせた『自社型雇用システム』の確立を呼びかけた。この基本方針を念頭に置きながら、各企業において検討を進めていくことが望まれる

2020年版「経営労働政策特別委員会報告」

また、KDDIでは段階を踏んだジョブ型人事制度導入を行っています。
2020年8月:中途採用者や新卒採用者に適用
2021年4月:既存社員の管理職層に導入
2022年4月:労使協議を経て一般従業員に導入

段階を踏むことで徐々に社内に浸透させていくプロセスを経て実施しています。

ジョブ型雇用導入企業の事例(KDDI)

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ移行している『KDDI』の事例をご紹介します。

上記の通りKDDIでは2020年8月に段階を踏んだジョブ型人事制度導入を開始しています。
新制度では管理職層を「経営機関基幹職」とし、リーダーとエキスパートの2つの区分に分けて処遇。一般従業員は従来の資格等級制度から、2段階のジョブグレード(職務等級)に移行します。
グレードはいくつかのゾーン(給与レンジ)に分かれ、グレード・ゾーンは職務記述書で定義されていますが、職務内容が厳密に書かれているわけではありません。職務範囲を広くすることで異動による育成と成長も考慮しているそうです。
KDDI労働組合の幹部の方はジョブ型雇用への移行について以下のように語っています。

当初導入の背景と目的についての会社の考え方が組合員に腹落ちできるかという観点から時間をかけて議論してきた。現在は新制度の評価項目の詳細な確認について議論しているが、今後は新制度への移行に伴う賃金水準の協議を行っていく。制度を変えたからといっても給与が下がることがあってはならないというのが第一の基本だ。
昇給・昇進し給与が上がる人が出てくる一方で、昇給せずにとどまる人や下がる人が出てくることを最も危惧している。仕事基準の中でプロ人材になれと言われても難しい部分もある。しっかりした教育や育成も必要になるし、評価の適正化も求められる。誰もが再チャレンジできるような人材教育などの環境を整えていくべきだと考えている。組合としてもエンプロイアビリティを高めるような動機付けのセミナーを提供したり、全体の底支えをしていく必要があると考えている。

KDDI労働組合の幹部

移行に伴い昇給・昇進できずに給与が固定化ないし下がる懸念もあり、社員が以下に納得できるかを第一に考慮スべきだと語っています。

まとめ

リモートワークの普及により、企業の雇用制度も高度経済成長から採用されてきた『メンバーシップ型雇用制度』から『ジョブ型雇用制度』へと変わりつつあります。ジョブ型雇用には無駄な人員の削減や報酬の適正化などのメリットがある反面、早期退職の可能性や流動的な対処が困難になるなどのデメリットがあることも押さえておきましょう。
自社にとってジョブ型雇用制度のの導入が最適なのかは慎重に検討してから導入の判断をしてください。
『ジョブ型雇用制度』についてご紹介しました。

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