事業の統廃合で30代の利用者が増加【再就職支援の現状】

企業業績の悪化により、各社は雇用調整を進めている。正社員の希望・早期退職者を募集する企業から再就職支援(アウトプレースメント)会社への依頼も増加しているが、知識の乏しいまま制度運用することは、社員・企業の双方にとって不幸な結果を招く懸念がある。再就職支援の現状を取材した。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

製造業の雇用調整が加速

世界的不況の影響を受け、派遣社員に限らず正社員の雇用調整に乗り出す企業も相次いでいる。

希望退職募集などの雇用調整に当たっては、退職割増金と並んで再就職支援会社と提携した再就職支援プログラムをオプションとして提供するのが主流である。それに伴い、昨年末から再就職支援会社への依頼も増加している。

再就職支援ビジネスが日本で本格的に普及したのは97年以降。国内市場規模はITバブル崩壊後の02年に約350億円に達した(矢野経済研究所)。その後は景気回復により縮小し、05~06年は170億円前後で推移していた。しかし、昨年後半から今年にかけて企業の依頼件数が急速に増加。09年の国内市場の200 億円突破は確実と見られている。

依頼企業の業種も多岐にわたる。メイテックグループの日本ドレーク・ビーム・モリン(日本DBM)では昨年下期の相談件数は前年比30%増、今年に入り約50%増で推移している。

08年初頭以降は建設・不動産業の依頼が増えたが「初夏以降は外資系金融機関を中心に引き合いが相次ぎ、昨年末からはメーカーの相談件数が増えている」(米田洋日本DBM社長)状況だ。

サービス利用が急増、30代も対象に

さらに今年に入っても「外資系を中心とするIT企業、半導体、金融、不動産企業が圧倒的に増えた。更に関連の日本企業を含む大手製造業の依頼が増えるだろう」(伊井伸夫パソナキャリア常務執行役員)と見込む。

実際に大手町にあるパソナキャリアのフロアに足を運ぶと、大勢の利用者でほぼ満席に近い状態である。 「昨年であれば大体7割ぐらいの席が埋まっていたが、今は8割、時には9割の席が埋まっている。企業と契約する前に当社を選ぶかどうかを決めるために事前に相談に訪れるプレカウンセリング相談者も増えているという事情もある」(伊井常務執行役員)。

同社の08年の年間利用者数は約9000人であるが、現在では1万人強にまで増加する見込みという。

もう一つの変化は利用者の若年化傾向である。パソナキャリアでは過去の45歳以上の利用者は全体の7割、44歳以下が3割を占めていたが、現在では44歳以下の層が4割を占めているという。

同様に日本DBMでも「もともとは40代、50代が中心だったが、07年と08年を比較すると30代の比率が明らかに高くなっている」(米田社長)という。

さらに最近の特徴として金融機関を中心に20代も増加傾向にあるほか女性の比率も高くなっている。その背景には、日本企業は希望退職募集の対象を45歳以上とするのに対し、外資系企業は35歳以上が多いこと、また、部門の閉鎖や工場・研究所の撤退など事業の統廃合による雇用調整が増加しているという事情がある。

支援会社は制度設計から参画

再就職支援ビジネスは企業の恒常的な早期退職制度もしくは臨時的な希望退職制度の受け皿として定着してきた。

再就職支援サービス流れを説明しよう。まず企業の制度設計段階から関わり、希望退職制度の導入に際しては検討前の1年ないし半年前の準備段階から参画。導入に伴う法律上の問題や労働組合対策などのコンサルティングを実施し、企業の最終的な制度実施決定を経て契約を締結する。

雇用調整実施のプレス発表時にはすでに契約は締結されており、発表と同時に再就職支援会社の担当者が全国の事業所を訪問。現場の上長に対するコンサルティングを行う。

希望退職制度の内容説明はラインマネージャーを通じて個々の社員に行われるが、再就職支援サービス利用の有無は社員の判断に委ねられるのが一般的だ。また、近年では会社が複数の再就職支援会社と提携し、社員はその中から選ぶ方式が増えている。そのため社員は事前に再就職支援会社を訪問し、サービス内容を確認して、自分に合う会社を選択することになる。

最終的に社員が希望退職に応募し、支援会社のサービスを受けることを決定すると企業から支援会社に費用が支払われる。利用者1人当たりの費用はかつては100万円を超えることもあったが、現在では支援会社によって価格は異なるが、大体60~80万円の範囲で推移している。

支援開始から再就職決定までの期間も選択できる。多くは無期限が主流であるが、最近は1年ないし半年を選択するケースも増えている。支援サービスは担当コンサルタントが張り付き、再就職決定までをサポートする。

具体的にはカウンセリングにより自分の強みを知るための自己分析を実施し、その上で何をやりたいのかという目標設定を行う。また、目標とする業種・職種に向けた戦略的な職務経歴書の作成や効果的な自己紹介などのノウハウ修得の支援、さらには募集案件の紹介や新規開拓などの支援を行いながら再就職決定に導いていく。

精神的なフォローや再就職に対するモチベーション喚起も必要

利用者の中には不本意ながらも退職を余儀なくされる人もいる。一般的な転職希望者と違い、精神的なフォローや再就職に対するモチベーション喚起も必要だ。 サービスの基本は「ご利用者様の考え方に共感し、ご利用者様が描く次の人生を共有し、その夢の実現を支援する。共感・共有支援するためにコンサルタントは自分の価値観をゼロにし、ご利用者様の価値観を100%受け入れる」(伊井常務執行役員)ことにある。

就職活動においても既存の案件以外に、利用者の希望に沿って開拓し、本人の納得いくまでフォローする点に通常の人材紹介業との違いがある。

現在、国内には大手を含めて約10社の再就職支援会社があるが、雇用調整の拡大を背景に他業種からの参入も相次いでいる。どの再就職支援会社と契約するかは個々の企業の事情にもよるが、本当に退職した社員の満足のいく再就職を願うのであれば、支援会社選択に当たり以下の点に留意したい。

1.実績と特徴を精査

決して契約料金の高低に惑わされてはいけない。雇用調整に際しての支援会社の担当者の提案力、過去の利用者がどういう業種・職種に再就職しているのかという実績、また再就職者の満足度や評価を検証する。

2.個人に立脚したサービス

具体的にどういうきめの細かいサービスを提供してくれるのかについて念入りにチェック。担当コンサルタントの経験と実績、コンサルタントの技能を向上させる評価・資格制度の有無の確認も必要。加えてコンサルタント1人が担当する利用者数も少ないほどよい。

3.地域と密着した豊富な紹介先

求人先ルートをいかに豊富に抱えているか。グループ企業および提携人材紹介会社の実績。とりわけ首都圏に限らず、地方に事業所・工場を持つ企業にとっては全国各地の企業といかに密着した関係を築いているかが重要になる。さらに既存の求人案件だけではなく、利用者の希望に応じて新規開拓し、再就職につなげた実績をどれだけ持っているかもチェックしたい。

経営環境の変化によっては第2、第3の雇用調整も

では実際に企業の雇用調整の実態はどうなっているのか、人事担当者に聞いた。業績が低迷しているIT関連会社の人事課長は「まだ、雇用調整するかどうかは未定だ。仮に希望退職をするといっても、今の中高年の社員は02年前後のリストラを見聞きしており、人事部が期待するほど希望退職に手を挙げてこないのではないか。手を挙げてもわずかばかりの退職加算金をもらって、一体どこに再就職できるのかと考えると先が見えない」と不安を隠さない。

すでに数百人規模の人員削減を発表している電機関連メーカーの人事部長は「今回の雇用調整は中・長期目標に基づいて計画したが、場合によっては1回で終わらない可能性もある。経営側はこれぐらいの人数を削減すると、来期の決算は大丈夫だろうと予測を立てているが、今はまったく読めない状況だ。実際にうちを含めて甘い読みで削減数をはじきだしている会社も少なくないのではないか」と危惧する。経営環境の変化によっては第2、第3の雇用調整も待ち受けている。

雇用調整の受け皿をどう確保するか

雇用調整を控え、再就職先の開拓を始めている企業もある。希望退職制度の準備を進めている精密機器メーカーの人事部長は「すでに人材開発部署に対して担当役員から人員削減数が示され、引き取ってくれそうな企業の情報収集をしている」 「並行して以前につきあいのある再就職支援会社とも連携する準備をしている。ただし、02年当時と異なり、支援を頼んでも社員が望む再就職先を見つけてくれるかどうかを心配している」と語る。

世界同時不況による急激な需要落ち込みに対し、昨年から今年にかけて企業各社は雇用調整を含む再建計画を相次いで発表している。02年当時に比べて企業の動きは早いが、問題は雇用調整の受け皿をどう確保するかである。

計画のノルマ達成のみにとらわれ、安易な削減を強行すれば、仕事のしわ寄せを受ける残された社員にも不安感を与えかねない。経営トップを担ぎ出し、これまでの貢献を謝する誠心誠意の姿勢を示して社員の納得を得ると同時に、再就職支援会社の選択を含めて、再就職決定までのできる限りのフォローが不可欠だろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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