組織・人事

初任給42万円!高給の裏の真実。固定残業代を取り入れる企業が増えている理由

溝上憲文

溝上 憲文 人事ジャーナリスト
新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)など。

サイバーエージェントが7月末、2023年春の新卒入社の初任給を42万円に引き上げると発表した。新卒入社で42万円の給与は高額に見えるが、蓋を開けてみると月額基本給(残業代別、ボーナス別)ではなく、年俸504万円を12カ月で割った金額であり、ボーナスという概念はなく、給与には固定残業代が含まれる。近年固定残業代を取り入れる企業が増加傾向にあるが、どのような背景があるのか、背景を踏まえて説明していく。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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サイバーエージェントの初任給は42万円、固定残業は80時間

サイバーエージェントが7月末、2023年春の新卒入社の初任給を42万円に引き上げると報道されたことが大きな話題になった。ところが初任給42万円は基本給ではなく、その中には固定残業代が含まれていることがわかり、ネット上で大騒ぎになった。

だが募集要項にはちゃんと書かれている。たとえば同社のビジネスコースは「42万円/月(年俸制504万円)」とあり、月給制職種の場合は「固定残業代の相当時間:時間外80.0時間/月、深夜46.0時間/月」と書かれている。つまり残業代込みの月給であることがわかる。

固定残業代で給与を引き下げるケースが多発

一時期、固定残業代を基本給に組み入れて給与を実質的に引き下げるケースが増えて、社会問題になった。例えば基本給25万円だったものを20万円に引き下げ、差額の5万円を固定残業代として支給する手法だ。しかし労働者の合意なしに基本給を引き下げることは、労働契約法9条で禁止している労働条件の不利益変更に当たる。

あるいは「基本給(残業代込み)○○円」の表示によって長時間労働をさせるブラック企業も発生した。今では具体的な残業時間などを明示することが求められ、実質的な賃金の引き下げを目的とした固定残業代の導入は違法性が高い。

基本給据え置きで固定残業代支給、働き方改革による残業抑制が背景

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一方、近年では基本給は変わらず、一定時間の固定残業代を支給する企業が増加傾向にある。例えば1カ月30時間分の固定残業代だと、残業時間がゼロでも支給される。つまり仕事を早く終え、残業時間が30時間以内だとその分、得をすることになる。もちろん30時間を超えて残業した場合は超過分の残業代は支払われるので、労働者にとってはメリットがある。

労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年2~5月)によると、「定額残業手当」を支給している企業は2010年には7.7%にすぎなかったが、2013年に10.7%、2018年に12.5%と徐々に増加し、2022年には23.3%に上昇している。その背景には2019年4月施行の時間外労働時間の上限規制など「働き方改革関連法」の影響も大きい。

効率のいい社員とだらだら残業社員の給与差の不公平を解消

例えばトヨタ自動車が2017年12月に導入した固定残業制も話題になった。同社の制度は①入社10年目以上の係長級の希望者が対象、②残業時間45時間分として月17万円の固定残業代を支給するもの。残業時間が少なくても17万円が支給されるため、残業など長時間労働の抑制効果もある。

また、固定残業制を導入しても社員の労働時間は把握する必要もあるが、45時間の基準に満たない社員の残業代を計算する必要がなく、給与計算業務の効率化につながるというメリットもある。何より以前から指摘されていた、仕事を効率よくこなし、残業が少ない社員と、だらだらと残業し、残業代稼ぎの社員との間の給与差の不公正を解消するメリットもある。

では企業は固定残業代の時間数をどのくらいに設定しているのか。前出の労務行政研究所の調査によると、最も多いのは30時間の37.7%、次いで20時間の14.8%、45時間の11.5%である。「その他」は14.8%もあるが、打ち分けは16時間、22時間、23時間などである。冒頭のサイバーエージェントの80時間というのはさすがに少ない。

固定残業時間を超えた場合は虚偽の申告をする社員も

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ただし、固定残業代も長時間労働抑制の観点からは完璧な仕組みとはいえない。例えば固定残業代の時間数が45時間に設定されていれば、それ以上残業を禁止していると思い込み、45時間を超過しても社員が申告しない可能性もあるからだ。

実際に60時間以上の残業を禁止しているサービス業の人事担当者は「長時間労働の職場ほど月間の残業時間を59時間とか59.5時間にするなど、明らかに虚偽の申告をしている社員がいる」と語る。

それを人事が見過ごせば時間外労働上限規制違反につながるばかりではなく、残業代の未払いなどのリスクも発生する。それを防止するには、やはり残業時間削減の地道な取り組みが不可欠だ。

長時間労働を抑制する施策も必要

例えばシステム開発を手がけるSCSKは2012年度から「残業半減運動(年休取得推進も含む)」に部署ごとに取り組んだ。その結果、半数の部署で前四半期比半減をほぼ達成した。具体的に効果を上げた施策のトップが「業務の見直し・負荷分散」。他部署からの異動や応援などによる多忙なプロジェクトに対する人員投入や組織統合による業務の集約・合理化などを実施した。同時に全社的なノー残業デイ以外にもう1日追加し、定時退社を促進するために管理職による声かけやオフィスの巡回なども実施し、地道な取り組みで着実に成果を上げてきた。

その上で、平均残業時間が20時間を下回ったことを契機に2015年度から、残業の有無に関係なく平均残業時間を目安に新入社員から一律に月次手当として支給する固定残業代制を導入している。これがインセンティブとなり、残業時間を抑えようという意識が醸成され、2017年度の平均残業時間は16時間に減少、有給休暇取得日数も13日から19日に大幅に改善した。

固定残業代制度を導入するのは結構だが、それだけでリスクを排除することは難しい。長時間労働を抑制するための施策と固定残業代制を組み合わせるなどの取り組みが望ましい。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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