組織・人事

賃上げ、ジョブ型、テレワークの実態など、2023年人事のできごとを解説

2023年は物価の高騰を受けた賃上げに始まり、それに対応する人事・賃金制度改革も進んだ。今回は、物価高による賃上げやジョブ型の導入、テレワークの実態など、2023年人事関連の話題について解説する。(文・溝上憲文編集委員)

賃上げは労働組合のない企業にも波及

2023年の春闘の賃上げ率は連合の発表で前年比3.58%。額にして1万560円だった。

厚生労働省が11月28日に「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査」(常用労働者100人以上、1901社)を公表したが、この調査は労働組合のない企業が約8割を占める。調査(9月~12月予定を含む)によると、「1人あたりの平均賃金を引き上げた・引き上げる」企業は89.1%(前年85.7%)だった。

産業別では、「建設業」が99.7%、次いで「製造業」が97.4%と高くなっている。

問題の賃上げ率は3.2%(前年1.9%)だった。前年より1.3ポイント増え、3%台は初。現在の調査方法となった1999年以降で最も高かった。

引き上げ額は9437円(同5534円)で、前年から3903円増えた。連合の集計より低いが、賃上げの動きが労働組合のない企業にも広く波及していることが分かった。

一般職、管理職共にベアを実施した企業が大幅増

企業規模別では常用労働者5000人以上で1人平均賃金の改定率は4.0%(引き上げ額1万2394円)と最も高い。

100~299人の中小企業でも2.9%(同7420円)と、比較的高い。100~299人の企業の9割には労働組合がないとされるが、前年より1.0ポイントも増えている。

賃上げは主に定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)で構成されるが、定昇制度がある企業の一般職の「ベアを行った・行う」企業の割合は49.5%(前年29.9%)、「ベアを行わなかった・行わない」は18.2%(同33.8%)だった。

管理職については「ベアを行った・行う」企業の割合は43.4%(同24.6%)、「ベアを行わなかった・行わない」は21.0%(同35.6%)。一般職・管理職ともにベアを実施した企業が前年より大幅に増えていることがわかる。しかし、毎月勤労統計調査によると、18カ月連続(2023年9月)で実質賃金のマイナス状態が続いている。岸田文雄首相が言う「物価に負けない賃金」はいまだ道半ばにある。

進むジョブ型導入

一方、賃上げ圧力が高まるなかで、職務給、いわゆるジョブ型賃金の導入も進んだ。日本能率協会の「当面する企業経営課題に関する調査」(2023年8月21日)によると、すでに「ジョブ型」の人事・評価・処遇制度を導入済(または導入中)の企業は22.3%、導入を慎重に検討中の企業が42.4%となっており、関心の高さがうかがえる。

ジョブ型は理論的には、飛び級など抜擢もでき、職務スキルに応じた中途採用者の賃金設定がしやすいメリットがあり、高額の年収での優秀人材の獲得も可能になる。

また、完全な脱年功賃金なので、定昇の廃止による従業員の平均年齢の上昇、高年齢化によって増加する固定費の人件費を中・長期的に変動費化できるメリットもある。今後の賃上げも含めた人件費増加を見据えて、ジョブ型賃金に踏み切った企業も多いのかもしれない。

コロナ5類移行によりテレワーク実施率は低下

コロナ禍で急速に浸透したテレワークだが、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行した5月中旬以降、原則出社とするオフィス回帰も始まった。東京都の9月の調査によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は45.2%と半数近くの企業が実施。今年3月の51.6%から低下しているが、それでも半数近くが実施している。ただし、全国レベルではもっと低くなる。

日本生産性本部の調査によると、全国のテレワーク実施率は2020年5月は31%だったが、2023年7月は15.5%にまで減少している。従業員1001人以上は22.7%となっている(第13回働く人の意識調査)。

5類移行後もテレワークを実施している企業が一定程度存在する一方で、在宅か出社かで揺れた企業も多い。

たとえば上場企業の都内の建設関連会社では、出社を巡って社内で議論が巻き起こった。従来のルールの「週3日」推奨の在宅勤務を「週2日」に変更。加えて出社か在宅かは部門やグループ会社の裁量に任せるルールに変えた。従来のルールを存続させるのかについては社内で賛否の議論があった。

テレワーク派と出社派で意見分かれる

同社の人事担当者はこう語る。

「各部門の責任者や役員クラスにヒアリングしたところ、営業部門や現場の作業部門は『お客さんも出社し始めているのに、在宅か出社かなどと悠長のことを言っている場合ではない。完全出社に切り替えるべきだ』という意見が圧倒的に多かった」

「一方、デザイン部門や企画部門の幹部は在宅で仕事ができることもあり、『少し減らすぐらいはいいかもしれないが、完全になくすのは反対だ』と言い、意見が真っ二つに分かれた。結果的に出社派とテレワーク維持派の間をとって全社の方針は週2日推奨とし、運用は部門の判断に任せることに決めた」

お客さんが出社しているのに在宅でオンラインで対応するのはおかしいというのが営業部門の理屈だが、「実はコロナの最中でも課長以上の責任者クラスは出社している人が多かった。管理職の中には『ずっと出社している身からすると、週3日在宅というのはよく理解できない』と本音を漏らす人もいた」(人事担当者)と語る。

営業はオンライン商談も可能だが、オンラインでは伝え方、伝わり方が難しいという声、あるいはお客さんと直接対面するのが営業の仕事という価値観にこだわる管理職もいた。テレワークをめぐって若手社員と年輩社員の亀裂も生じている。

若手社員や子育て中の女性、転職者の中には、テレワークを含めた柔軟な自由度の高い働き方を求める傾向がある。人材の確保と定着が大きな課題となっているなか、来年以降も人事部の悩みはつきそうもない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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