行動指針策定と研修強化でマネジメント層の育成に注力【MIXI】

ソーシャルネットワークサービスなどを提供するMIXIは、2020年にマネジメント層の行動指針を策定し、評価制度の刷新や新たな評価者研修の設置などの抜本的な人事施策を行ってきた。取り組みの背景と内容について人事本部人事戦略部部長兼人材採用部部長の杉村元規氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

MIXI 杉村元規 人事本部 人事戦略部 部長 兼 人材採用部 部長

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杉村元規 人事本部 人事戦略部 部長 兼 人材採用部 部長

マネジメント層の人事施策に注力するに至った背景についてお聞かせください。

当社は創設以来、長きにわたり会社として人事を統括する人事部門が存在せず、それぞれの部門が人事機能も担っていました。そのため、会社全体としてマネジメント方針の柱が無く、どのようにマネジメント層を育成していけばよいか定まっていませんでした。

また、各部門の人事機能のメインは採用業務だったため、マネジメント層の育成にまでなかなかリソースを割けていないという課題もあり、現場からはマネジメント業務に戸惑いを感じているという声も上がっていました。

このような背景があったことと、2018年に人事本部が発足されたことを機に、会社全体として人への投資の一環でマネジメント層の育成に注力することになりました。ただ、マネジメント向けの施策を考えようにも何か基準となるものが必要だと感じ、マネジメント層の行動指針を作ろうと考えたのです。

行動指針を作るにあたり、まず2019年に骨組みのようなものを作りました。その頃から、マネジメント層の育成や研修などの人事施策も事業部ごとに始め、そのような場面で行動指針の内容を徐々に伝えるようにしました。 そして、役員や代表も交えて検討を進めた結果、2020年4月にマネジメント層の行動指針である「MIXI Management Beliefs」を策定しました。

マネジメント層の⾏動指針「MIXI Management Beliefs」

「MIXI Management Beliefs」の特徴は何でしょうか。

「MIXI Management Beliefs」は、マネジメント層の役割を「組織成果の最大化」とし、その役割を達成するための行動として「組織のゴールを定める」「組織のフォーメーションを組む」「組織がゴールへ向かえるように指揮する」「組織のメンバーを育成する」の4区分19項目で定義しました。

内容は、ドラッカーが提唱しているマネジメント理論を基にしています。ドラッカーの理論は5つの要素がありましたが、代表の木村とも相談した結果、当社の行動指針は4区分としています。特に、「組織」を意識してほしかったので、行動指針の各名称の頭には全て「組織」という言葉をつけました。 現在は、従業員にとってさらに理解しやすく、日頃から意識しやすい行動指針になるように、役職ごとの役割定義の策定も進めています。

さらに人事制度を改定したということですが、どのような内容でしょうか。

従業員がこれまで以上に活躍し、成長できるように人事制度を改定しました。主に報酬・等級・評価に関わるところを変更しています。

「報酬」では、多様な人材に対応できるように、報酬レンジの上限を引き上げました。レンジ内を最大で3つのゾーンに分解し昇降給テーブルを定めているため、早期に昇格すればベース給は上げやすくなっています。

「等級」に関しては、上位等級に限り能力と職務を掛け合わせた「役割等級」を採用しました。今までは職能給のみだったため、役職に就いて求められる役割が変わっても評価されづらいという問題がありました。そこで、G4以上は「役割等級」とし、能力だけでなく、その人の役割に課された責務や期待された成果を加味した等級になるよう心掛けました。

「評価」については、経営層にヒアリングした「MIXIのリーダー/ 全従業員に期待する要素」の内容を基に、コンピテンシー評価基準を再定義しました。「旧等級定義は⼀般的なものでMIXIでのフィット感が薄く運⽤しづらい」という声があったので、各等級において重要だと思う要素を抽出し、全⾯的に具体化・細分化を⾏いました。

制度改定についての説明を行った際に、半数以上の部室長から「処遇に迷っている部下がいる」という声があがりました。そのため、今回の制度内容を実際の評価で活用したいという人が多数ありました。

ある従業員の給与を新しい制度に沿って下げた時に、「その理由を細かく説明できる評価制度になっているため、相手が納得しやすくて助かっている」という声が多く聞かれました。納得感の醸成については、かなり意識したポイントだったので、有効に機能していて嬉しかったです。 ほかにも、「役割による給与の引き上げもしやすくなった」との声もありました。従来であれば、同等の能力がある従業員であれば優劣をつけづらいという課題がありました。しかし、新しい人事制度ではG4以上は「役割等級」が導入されているので、能力が同じでも「この人は担っている役割があり、重責や期待される成果が異なるため、給料を上げよう」と客観的な給与の引き上げがしやすくなり、マネジメント層に喜ばれています。

新たに導入された評価者研修について、詳しい内容を教えてください。

評価者研修は、新たにマネジメント層に就任した人を対象に行っています。まずe-ラーニングを受講してもらい、人事制度のポリシー、等級・報酬制度、評価者の役割とメンバーへの関わり⽅などの基本的な内容をインプットしてもらいます。

その後、会場型研修と説明会を半期ごとに計4回行います。4月から始めた場合は、方針・期待をメンバーに伝える方法、人材育成を踏まえた「目標設定」について、まず学びます。続いて6月に、メンバーに行う中間面談やフィードバックの方法・意義・構造などを学び、8月には評価の付け方と、その評価を伝えるフィードバックの意味や事前準備について学びます。

ここまでで、部下を評価する際のポイントを一通り学ぶことができます。また、新任のマネジャーとしての実務も半年ほど行っていますので、どういったことがマネジメントの課題になるのかも見えてきています。

そうした自身の課題や悩みが見えてきた段階で、9月に最後の説明会を受けてもらいます。この回では、初めての評価を迎える前に抑えるべきポイントや、評価者からの質問や悩みを元にしたケーススタディについてグループディスカッションしてもらい、考察を深めてもらいます。 評価者研修は2020年11月から新人マネジャー研修の受講必須プログラムとして取り入れ、一連のサイクルを現在までに6回ほど行ってきました。受講者からは好意的な評価が多く、「自己流でつけていた評価やフィードバックの方法を体系的に学べてよかった」「部下に期待を伝えるのに苦労していたが、適切な伝え方を学べた」「ネガティブフィードバックを伝える意義や方法など参考になった」などの声をいただき、手ごたえを感じています。

評価者研修の概要

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評価者研修のほかにマネジメント向けのプログラムなどはありますか。

評価者研修の前に「新任マネジャーキックオフ」「新任役職者オリエン」を⽤意しています。就任前のマインドセットから始まり、労務・予算管理などの実務、情報セキュリティー・機密情報取り扱いの適切な理解などを勉強できる内容になっています。

ほかにも、評価者研修と並行して任意プログラムも用意しました。例えば「1on1アカデミア」というプログラムがあります。当社では上司と部下が1対1で行う面談である1on1の実施率が高いのですが、これまでは自己流で行っているマネジャーが多くいました。

そこで、1on1をより効果的に行えるように、ノウハウなどが勉強できる「1on1アカデミア」を作りました。普段実践していることを振り返りながら、トレーニングを通して体系的な知識を取り⼊れられる内容にしています。 また、各部署のマネジメント層から「このような研修を受けたい」などの相談があった場合は、その人に合った適切な外部研修を紹介しています。

今後の展望について教えてください。

さまざまな人事施策を行っていくことで、マネジメント層の意識の高まりが予想されます。そうすると評価の仕方や、部下の育成方法も自然と沁みついていくと思いますので、最終的には人事から手離れといいますか、マネジャーの自発的な行動に変容していくことに期待していますし、その兆しも見え始めており手応えも感じています。

当社は、人的資本経営の文脈から、新たな人事戦略を再構築している段階です。役員も含めて人事本部では「MIXI流の人的資本経営とはなんだろう」という議論を進めています。現在は、「MIXI Management Beliefs」や今まで行ってきた人事施策の成果など、土台となるものが出来上がった状態です。 今後は、何を指標に成果とするか。人事施策の成果がどうすれば業績につながっていくのかなど、数値の可視化などを行い、「MIXI流の人的資本経営」を実現していければと考えています。

MIXI

株式会社MIXI

代表者:代表取締役社長 CEO 木村弘毅
設立:1999年6月3日 
資本金:96億9800万円(2023年3月末現在)
従業員数:1556人(2023年3月末現在)
事業内容:スポーツ、ライフスタイル、デジタルエンターテインメント、投資
本社:東京都渋谷区渋谷2-24-12渋谷スクランブルスクエア36F
売上高:1468億6700万円(2023年3月期)

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