組織・人事

経営層と従業員の直接対話を続け、企業文化改革を推進【協和キリン】

キリングループの製薬会社である協和キリンは、企業文化の抜本的な改革に着手している。どのような取り組みを行っているか、詳しい内容について執行役員・戦略本部経営企画部長の板垣祥子氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

協和キリン
板垣祥子 執行役員 戦略本部経営企画部長

企業文化改革に取り組まれている経緯を教えてください

企業文化改革の発端は2019年12月に当社が原薬の製造を委託しているグループ会社の協和発酵バイオにて発覚した品質問題に起因しています。本件の根本原因究明および再発防止策の提言が必要であると判断し、客観性と独立性を担保した第三者が主導するグループ調査委員会を組成して調査した結果、様々な指摘をいただきました。

報告書を受けてから経営陣でワークショップを9回開催し、何度も議論を重ね、この問題の背景に企業文化からの影響が大いにあると結論づけました。

このような背景から、再発を防ぐために、2020年に抜本的な改革を行う「改革イニシアチブ」を立ち上げました。これは、①強固な品質保証体制の構築、②製造部門の改善、③薬事ガバナンス体制の整備、④リスクマネジメントの改善、⑤人材育成委員会、⑥オペレーショナル・エクセレンス、⑦企業文化改革の7プロジェクトから構成されています。

問題となったのはどのような企業文化だったのでしょうか

改めるべき点として挙がったのは、「対話不足」「枠に閉じる」「他人事」といった傾向です。こうした企業文化は前々から感じ取ってはいましたが、改める動きが顕在化することはありませんでした。

一方で良い点としては、「信頼関係・団結力」「価値観への共感」「真面目さ」などがあると整理されました。そこから、改めるべき点は改め、良い点をさらに進化させるための企業文化改革を推進していくことになりました。

但し、企業文化改革は簡単ではなく時間がかかる取り組みであり、これを支える制度や環境として、人材育成やオペレーショナル・エクセレンス(業務効率化)も併せて推進していく必要がありました。

企業文化改革について、具体的にどのような施策を講じてきたのでしょうか

先述の改めるべき点の改善、良い点の進化のための具体的行動として、「よく聞き、よく話し、よく知る」「多様な意見を受け止め、活かす」「責任感をもってやり切る」の3つの行動を実践目標に掲げ、これらの行動の連鎖によって人間関係や組織の壁を超える文化づくりを目指すことにしました。これを社内でKABEGOEと呼んでいます。

具体策としてまず、「対話不足」を解消するために役員が担当部署の従業員と改めて膝を突き合わせ、会社の現状を踏まえ、企業文化改革の必要性について話したり、ありたい企業文化に向けて何を改め、何を進化させたいのかを語り合う、直接対話を始めました。そして、社長の宮本が従業員と直に話す場として「Meet Up」を企画しました。

やり始めてから従業員にアンケート調査をしたところ、「社長と直接話ができたのは貴重な時間だった」といった反響が非常に多くありました。これは形を変えながら現在も続いており、社長だけではなく、役員一同、従業員から招かれればどこでも赴いて対話を実施しております。これまで国内にて33回、のべ410人の従業員が参加しています。そして現在国内には約4000人の従業員がいて、開催を待っている状態にあります。

この「Meet Up」のテーマは自由で、招く側の職場からボトムアップ的に寄せられてきます。例えば、男性の役員と女性従業員が女性の生理や不妊治療といった、これまで職場では日頃タブー視されていたようなテーマについてもオープンにディスカッションするといった展開を見せています。この内容はホームページでも大きく取り上げていますが、一つの進化の表れであると受け止めています。

その他に、当社がビジョンに掲げる「病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出」を実現する人材と組織づくりとして患者さんに直接お話を伺う『病気と向き合う人々の今を知るセミナー』、部門間交流会、各職場において「組織としてどうありたいか」を語り合い、会社ビジョンや組織ビジョンとKABEGOEを紐づける機会とする『ありたい職場の言語化』、『KABEGOEグッドプラクティスレポート』による取組事例紹介の共有、「ありたい企業文化」の実現に向けてKABEGOE活動を推進していくための『改革リーダー』の選任、などの取り組みを行っています。

2020年7月~2022年8月までの主な取り組み

これまでの成果と今後の取り組み課題を教えてください

成果としては、企業文化改革への認知が広がりつつあり、以前に比べてチャレンジ風土が浸透してきていると感じます。

当社では2021年度から年3回の簡易調査を行っているのですが、「よく聞き、よく話し、よく知る」「多様な意見を受け止め、活かす」「責任感をもってやり切る」の3つの行動の連鎖によりKABEGOEができていると認識している組織の数をKPIとして設定しており、この数値は大幅に増えてきています。

今後の課題としては、「現場に余裕がなく、KABEGOE活動をしている時間や余力がない」といった声が上がっています。余裕のなさは、そもそものコンプライアンス問題の原因の一つでもあったので、引き続きオペレーショナル・エクセレンスプロジェクトとの両輪で改善に取り組んでいきます。さらに、KABEGOEは特別なものではなく、日常業務の中で従業員が行っている目標達成のための努力や工夫そのものがKABEGOEである、というマインドセットの醸成も課題であると考えています。

また、KABEGOEのグローバル展開もこれからの課題です。これまでは、当初の国内における品質問題を二度と起こさないために、という“マイナスからゼロへ”のステージとして取り組んできました。現在はこれが一段落し、真のJ-GSP(日本発のグローバル・スペシャリティファーマ)になるための“ゼロからプラスへ”のステージに変化しつつある段階と認識しています。

当社は、「イノベーションへの情熱と多様な個性が輝くチームの力で、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出を実現します」というビジョンを掲げ、北米、ヨーロッパ、APACにそれぞれリージョン統括機能を置き、グローバルで事業を展開しています。企業文化改革は日本国内だけでなく、グローバルの各拠点にも広げていきたいと考えており、まずはオンラインでの「Meet Up」を始めています。

当初は日本国内の品質問題に端を発した改革についてグローバルからの共感も得られるのか、そもそもKABEGOEという概念はグローバルには理解しにくいのではないか、といった心配もありましたが、実際にヒアリングしてみると「遠慮して言えないことがある」「忖度して発言している」といった実情があることが分かり、また、「(更なるJ-GSPの高みを目指すには)コンフォートゾーンから抜け出さなければならない」といった声も寄せられました。このようにグローバルでも日本国内同様の課題があり、国内外を分け隔てせず取り組んでいく必要があると再認識しています。

簡易調査のKPIについてお話ししましたが、目標値を達成したら終わり、とは考えていません。企業文化改革は環境変化によって軌道修正する必要もあります。重要なことは、現在進めている取組みを通じて、社員一人ひとりの行動変容を促し、KABEGOEが常態化しているというありたい企業文化が醸成されていることであり、これは終わりのない取り組みだと認識しています。そのための基盤として、会社のビジョンと組織のビジョン、そして従業員個人のビジョンをしっかり重ね合わせる必要があると考えています。

協和キリン株式会社

代表者:代表取締役社長 宮本昌志
設立:1949年7月1日
資本金:267億4500万円
従業員数:5,982人(連結ベース、2022年12月31日現在)
事業内容:医療用医薬品の研究・開発・製造・販売および輸出入等
本社:東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ
売上高:3983億7100万円(2022年12月期)

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