組織・人事

「シニア社員制度」改定で、技能承継とキャリア自律を促す【カルビー】

カルビーは2024年4月から「シニア社員制度」を改定し、熟練したスキルや高度な専門知識を備えた人材の処遇を改善する。多様性を尊重した“全員活躍”を図るための取り組みについて、人事・総務本部戦略総務部部長 兼 全員活躍推進室室長の石井信江氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

カルビー
石井信江 人事・総務本部 戦略総務部 部長 兼 全員活躍推進室 室長

貴社の事業概要について教えてください

当社は、スナック菓子の「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」、シリアルの「フルグラ」に代表される食品メーカーとして、国内スナック菓子・シリアルで高いシェアを占めています。海外においては、現在北米や英国、豪州、中国など9つの地域に展開しています。

こうした事業のベースとなる強みとして、主力商品の主原料である馬鈴薯の開発・育種や調達における専門力、時代の変化を捉えた商品企画・開発力、そして自然素材を活かす加工技術があります。

この時期に「シニア社員制度」を改定するに至った背景をお教えください

2023年2月に発表したカルビーグループの成長戦略「Change2025」(2023 ~ 2025年度)に掲げているように、2030ビジョン実現の事業基盤として“全員活躍”を目指しています。当グループの競争優位性を支え、企業価値を創造する源泉は人財であり、持続的な人財の確保や育成を図ることが最も重要な経営課題であるとの認識がベースにあります。

当社の社員構成は女性が約半数を占めているため、女性が活躍できなければ会社の半数が力を存分に発揮できていないことになります。そのため、以前からダイバーシティへの取り組みを本格化させ、女性管理職比率の向上などに努めてきました。

一方、多様性という観点で言えば、性別や年齢、国籍といった属性によらず誰もが同様に活躍できることが本来の姿だと思います。まさしく“全員活躍”のコンセプトです。しかしながら、60歳の定年を超えるシニア社員の処遇に関しての取り組みは、遅れているという実情がありました。

シニア社員は、それぞれのポジションでカルビーの事業を支え、牽引してきてくれた存在です。定年後も貴重な経験やスキルを活かし、会社に貢献してくれる存在の処遇を改めるべきではないかとの思いがありました。

また、政府が産業界に定年延長を要請し、世の中としてこのような動きが進展しているという情勢があります。こうした課題・背景に対して、当社としても定年後の処遇を見直すことになりました。

シニア社員のどのような処遇を見直したのでしょうか

当社は2020年度から複線型の人事制度を導入し、一定の段階に達した一般社員は「マネジメント職」と「エキスパート職」とに分かれます。したがって、一般社員・マネジメント職・エキスパート職の3 つの給与テーブルが存在しています。

マネジメント職は、会社が所定の組織管理能力を持つと判断した社員に対して任用しますが、エキスパート職は本人の手挙げ式で、会社が審査を行い認定する形です。エキスパート職として期待される役割は、「社外でも通用する専門性(技術/ スキル)を持ち、本部や全社の組織業績に貢献し、かつ後継者への伝承に取り組んでいる」というものです。

マネジメント職に関しては、その役割に年齢は無関係であるとの観点から、従来から60歳以降も同じ給与水準で処遇することにしています。一方、専門性を重視するエキスパート職と一般社員に関しては、現役時に対しての給与の約70%水準で処遇しています。2021年に現在の70%に給与水準を引き上げ、一般的には30 ~ 50%程度での再雇用が多い中で、多様性を重視する当社として世の中と比較すると標準以上の処遇に改善したものの、シニア層を中心に「なぜ70%なのか」という疑問や不満が少なからず寄せられました。

他にも、当社の定年は60歳ですが、それ以降は65歳を上限年齢として1年単位で雇用契約を更新しています。この1年単位の雇用契約延長に対して、「来年度も延長してもらえるだろうか」との不安を持たれるケースも多くあったのです。一方で、素晴らしいスキルを持ちながら、泣く泣く65歳で雇用満了しなければならない人財がいたことも確かです。加えて、65歳という雇用上限に対し、“人生100年時代”に鑑みると残りの時間がまだまだ長いとの見立てもありました。

また、会社として後継者の育成の重要性に関するメッセージが浸透できていなかったという反省もありました。こうしたことをすべて取りまとめて改善すべく制度化したものが、今回の「シニア社員制度」の改定です。

「シニア社員制度」改定の具体的な内容を教えてください

大枠は従来の「シニアエキスパート」の内容の改定と「シニアマイスター」の新設です。

シニアエキスパートの報酬は、前述の通り、以前は約50%、2021 年度より70%程度の給与水準としていましたが、今回の制度改定により現役と同等の報酬に引き上げます。また、契約期間は3年を上限に変更、加えて雇用上限年齢の65歳を撤廃し、会社と本人の双方合意で決定します。つまり、現役時代の給与水準のまま、働き続けられることになります。

シニア社員制度改定の概要

新設された「シニアマイスター」とはどういった職制でしょうか

期待される役割の定義は「(特定の業務における)社内で右に出る者がいない強み、習得に長期間を要する熟練のスキルや専門知識等の高度な専門性を持ち、それらを活かして組織業績に貢献し、かつ後継者への伝承に取り組んでいる者」というものです。会社が該当者を任用し、本人の合意を取る形です。

職制としては、一部を除いて一般社員に該当し、給与テーブルも一般社員のものを適用、60歳定年後の報酬は、定年到達時の処遇を以降もそのまま引き継ぎます。契約期間、再雇用の上限年齢はシニアエキスパートと同様です。

シニアマイスターを新たに設けた理由としては、シニアエキスパートのように社外にも通用する高度なスキルを持つ者だけでなく、社内に限定したスキルかもしれないが、カルビーブランドの独自性を担保するために必要な高度な技術・専門性を持つ者はエキスパート同様に処遇すべきとの考えからです。

生産ラインにおける作業手順書やマニュアルの類はもちろん整備していますが、例えば原料の状態や気温・湿度といった日々の状況の変化に応じて生産設備をコントロールし、カルビーブランドとして商品の品質を基準内に保つスキルはマニュアル化できない、一定期間の習熟を必要とする“職人の勘と経験”的な部分も残っているからです。このような当社ならではのスキルを持つシニア社員を処遇するための制度となります。

シニアマイスターの職種は限定せず、当社独自のスキルが発揮される領域はすべて対象としています。

シニア社員制度の改定について、社内の反響はいかがですか

50代、60代を中心に、将来に希望を繋ぐ社員が確実に増えています。

また、シニアエキスパートやシニアマイスターは、カルビーグループの競争優位性を支える強みとなる専門性をもち、発揮すること、後継を育成することを明確に定義したことで、若年層やミドル層に対してこそ制度改定の大きな意味があったと感じています。それは、シニアエキスパートやシニアマイスターとして習熟するには一定の時間を要するため、早い段階で自らの将来像を主体的に考える重要性が増したことです。

この制度改定には、社員にめざす目標を提示することで、今からそのための準備を始め、スキルアップに努めてほしいというメッセージも込めており、キャリア自律に関する取り組みの1つでもあります。

今後は併せてキャリア自律に関する意識づけやスキルアップ支援などの施策も考えているのでしょうか

すでに副業の解禁や、社内外における学びの場の設定などをしていますが、今後は若年層やミドル層へのキャリア自律を促す一環として、さらなる施策の拡充をしていきたいと考えています。 今後も当社では“全員活躍”の実現に向けて、性別、年代に関わらず、全ての社員が活躍できるよう、制度改定に留まらず、様々な取り組みを行い社員と共に成長していきます。

カルビー株式会社

代表者:代表取締役社長 兼 CEO 江原信
設立:1949年4月30日 
資本金:120億4600万円
従業員数:(連結)4839人 (単体)1960人(2023年3月31日現在)
事業概要:スナック菓子及びシリアル食品の製造・販売等
本社:東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館22F
売上高:2793億1500万円(2023年3月期)

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