2026年春闘の集中回答日(3月18日)を迎え、トヨタ自動車が6年連続、日立製作所が5年連続の満額回答となるなど、大手企業で高水準の賃上げが継続している。また、パナソニック、三菱電機、マツダなどの“黒字リストラ”を実施した企業でも満額回答や過去最高水準の賃上げが相次いており、各社は人材投資を強化している。連合が目標とする全体賃上げ率「5%以上」の3年連続達成に向けた動向が注目される。
物価上昇が長引く中、2026年の春闘がどうなるかは多くのビジネスパーソンにとって気になるところだろう。賃上げ定着のカギを握った2025年を振り返りつつ、2026年の春闘の動向やビジネスパーソンが知っておくべき基礎知識について解説する。(文:日本人材ニュース編集部)

2025年の振り返り
2025年は、大手・中小を問わず賃上げの定着が鮮明になった年だった。主な特徴は次の通りだ。
- 2年連続の5%超、24年を上回る賃上げ
- 連合の最終集計(2025年7月)では、賃上げ率の加重平均が5.25%(月額1万6356円)となり、33年ぶりの5%超えであった24年を上回った
- 厚生労働省の集計でも平均賃上げ率は5.52%と、24年をさらに上回った
- トヨタ自動車は5年連続満額回答、賃上げ額は最大で月2万4,450円、一時金は7.6カ月分
- 大手企業と中小企業の格差は課題
- 中小企業に限ると4.65%と連合が掲げた中小の目標「6%以上」には届かず、大手との格差課題である
- 都市部と地方の差も縮まらず
- 都市部(東京23区・政令指定都市)と地方(東京23区・政令指定都市)で見た場合、都市部の正社員の賃上げ額は加重平均で1万2857円、賃上げ率は4.37%、地方は1万627円、賃上げ率3.94%。地方の小規模企業の場合は、9269円、賃上げ率3.55%であった。
2026年春闘、注目の企業
2026年春闘の集中回答日(3月18日)では、大手企業を中心に満額回答が相次いだ。トランプ政権による関税措置や中東情勢の緊迫化という不透明な環境でも、高水準の賃上げに踏み切った。2025年10月1日から31日の期間に早期退職募集を実施したパナソニックや2025年9月8日に人員削減を発表した三菱電機、2025年4月に500人の希望退職者を募集したマツダでも満額回答が相次いだ。
- トヨタ自動車
トヨタ自動車は労働組合の賃上げ・一時金要求に満額回答した。満額回答は6年連続。賃上げ額は最大で月2万1580円、年間一時金は基準内賃金の7.3カ月分だった。比較可能な一時金は過去最高だった前年を0.3カ月分下回った。賃上げの勢いを維持しつつ、米国の高関税政策など事業環境の不透明さを踏まえた。 - 日立製作所
ベアに相当する賃金改善額について労働組合の要求に対して満額となる1万8000円で回答した。満額回答は5年連続。定期昇給など賃金維持分を含む賃上げ率は6.5%となる。一時金の回答は6.66カ月分とし、賃金と一時金を合わせた平均年収の増加率は6%になる。 - パナソニックホールディングス
ベアに相当する賃金改善分について、月1万8000円で回答した。昨年の1万3000円を上回り、2年ぶりに組合要求額に満額回答した。ベアと定期昇給を含む賃上げ率は6.3%となる。26年4月入社の大卒初任給は28万7000円からと、前年から1万8000円引き上げる。 - 三菱電機
ベアに相当する賃金改善で1万8000円の組合要求に満額回答した。査定による昇給と合わせて賃上げ率は平均7%となる。大卒の初任給は1万8000円増額し28万7000円とする。足元の物価高などを踏まえ、出張時宿泊費の上限を増額するなど労働協約の改訂でも妥結した。 - マツダ
ベースアップ(ベア)を含む「賃金改善分」と定期昇給に相当する「賃金制度維持分」の総額で月1万9000円の賃上げを実施する。回答額は現在の人事制度となった03年以降では過去最高で、満額回答は5年連続となる。 - 日産自動車
ベースアップ(ベア)と定期昇給分を合わせ月1万円の賃上げで、ベア分は4000円程度となる。2.7%の賃上げに相当する。日産は2年連続で巨額赤字に陥る見通しだが、経営再建に取り組む社員に報いる。 - アサヒビール
ベアと定昇を合わせて5%賃上げすると明らかにした。労働組合員1800人を対象に月9000円のベアを実施する。ベアは4年連続で、組合の要求に満額回答した。2026年4月入社の大卒新入社員の初任給は4500円引き上げ、29万3000円とする。
| 企業名 | 賃上げ内容 | 備考 |
| トヨタ自動車 | 最大で月2万1580円 | ・満額回答は6年連続 ・年間一時金は7.3カ月分 |
| パナソニックホールディングス | 月1万8000円 | ・2年ぶりの満額回答 ・ベア分は4000円程度 |
| 三菱電機 | 1万8000円 | ・賃上げ率は平均7% ・出張時宿泊費の上限を増額 |
| マツダ | 月1万9000円 | ・03年以降では過去最高 ・満額回答は5年連続 |
| 日産自動車 | 月1万円 | ・2.7%の賃上げに相当 |
| アサヒビール | 月1万9000円 | ・ベアと定昇を合わせて5%賃上げ ・ベアは4年連続 |
| 日立製作所 | 1万8000円 | ・満額回答は5年連続 ・一時金の回答は6.66カ月分 |
2026年春闘の3つのポイント
2026年の春闘の注目ポイントは次の3点だ。
- 実質賃金のプラス定着は実現するか
- 3年連続で5%超の賃上げが視野に入るが(第一生命経済研究所は連合集計ベースで5.45%と予測)、最大の焦点は「賃上げ率>物価上昇率」の実現にある。
※出所:第一生命経済研究所「2026年・春闘賃上げ率の見通し(改訂版)」新家義貴 - 連合は「2026春季生活闘争方針」において、全体の賃上げの目安は、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上を要求目安とし、中小労組などは、この間の賃上げ結果や賃金水準を点検し、格差是正分を積極的に要求する。
※出所:連合「2026春季生活闘争方針」2025年11月公表
- 3年連続で5%超の賃上げが視野に入るが(第一生命経済研究所は連合集計ベースで5.45%と予測)、最大の焦点は「賃上げ率>物価上昇率」の実現にある。
- 「脱一律」賃上げ
- 産業界では「脱一律」の動きが定着しており、同じ電機連合の統一要求額に対しても個社の業績や戦略によって対応が分かれている。鉄鋼大手3社(日本製鉄:ベア1万円、JFEスチール:7000円、神戸製鋼所:1万3000円)がいずれも要求額(1万5000円)を下回ったことが、業績連動型賃金決定の広がりを象徴している。
※出所:東京新聞「大手春闘、満額回答相次ぐ」2026年3月18日
- 産業界では「脱一律」の動きが定着しており、同じ電機連合の統一要求額に対しても個社の業績や戦略によって対応が分かれている。鉄鋼大手3社(日本製鉄:ベア1万円、JFEスチール:7000円、神戸製鋼所:1万3000円)がいずれも要求額(1万5000円)を下回ったことが、業績連動型賃金決定の広がりを象徴している。
- 中小企業への波及
- 金属労協(JCM)の集中回答日時点での回答額平均は1万5450円(5.1%)。5.1%の賃上げに相当し、比較可能な14年以降で最高額となった。3月23日の連合第1回回答集計結果が中小への波及を占う重要な指標となる。
※出所:日経新聞「金属労協の49組合、ベア回答平均1万5450円 14年以降で最高に」2026年3月18日 - 中東情勢の緊迫化による原油価格の高騰は製造コストの上昇を招き、中小企業の労使交渉に影を落としている。
※出所:東京新聞「大手春闘、満額回答相次ぐ 賃上げ率5%確保へトヨタや日立」2026年3月18日
- 金属労協(JCM)の集中回答日時点での回答額平均は1万5450円(5.1%)。5.1%の賃上げに相当し、比較可能な14年以降で最高額となった。3月23日の連合第1回回答集計結果が中小への波及を占う重要な指標となる。
春闘の基本知識
春闘は、日本の労使関係における重要な制度として長年定着しているが、その仕組みや意義について正確に理解しているビジネスパーソンは意外と少ないのではないか。ここからは、ビジネスパーソンが押さえておくべき春闘の基礎知識を解説していく。
そもそも春闘とは何か
春闘とは、労働組合が企業に対して賃上げなどを求めて行う交渉のこと。毎年春に行われることから「春闘」と呼ばれている。
日本における春闘の始まりは1955年。当時の労働組合が春に一斉に賃上げ要求を行ったことがきっかけだ。以来、春闘は日本の労使関係における重要な慣行として定着している。
春闘では、基本給の引き上げを中心に、一時金(賞与)の支給額や諸手当の改定、さらには労働時間や休暇などの労働条件についても交渉が行われる。近年では、働き方改革に関連した制度改定なども、重要な交渉テーマとなっている。
現代の春闘で話し合われる主要テーマ
・賃金関連:ベースアップ、定期昇給、賞与、各種手当
・働き方改革:労働時間、休暇制度、在宅勤務制度など
| 用語 | 意味 | 特徴 |
| ベースアップ(ベア) | 基本給の基準額引き上げ | 恒久的な賃金上昇 |
| 定期昇給(定昇) | 年功的な給与上昇 | 自動的・固定的な昇給 |
| 一時金(賞与) | 期間業績連動報酬 | 変動的・年2回支給 |
なぜ春に行われるのか
春闘が春に行われる背景には、日本の企業社会における独特の事情がある。最も大きな理由は、多くの企業で4月が新年度の始まりとなっていることだ。新年度から新しい賃金体系を適用できるよう、その準備期間として春が選ばれている。
また、多くの企業が3月期決算を採用していることも重要な要因だ。前年度の業績見込みが立つ1-3月に交渉を行うことで、適切な賃上げ原資の検討が可能となる。さらに、4月の新入社員入社に合わせて新しい賃金体系を整備する必要があることも、春闘が春に行われる理由の一つとなっている。
春闘に影響を与える要素
春闘の結果には、様々な要因が影響を与える。まず経済的な要因として、GDP成長率や物価動向、為替相場などのマクロ経済環境がある。また、企業の売上高や利益といった業績も重要な判断材料となる。
労働市場の状況も大きな影響を持つ。有効求人倍率や失業率といった指標は、労使双方の交渉力に影響を与える要素となっている。加えて、政府の経済政策や労働政策も、春闘の方向性を左右する重要な要因である。
近年では、産業構造の変化も無視できない影響を与えている。デジタル化の進展やグローバル化、新産業の台頭により、従来の春闘の枠組みも徐々に変化を求められている。
| 要因区分 | 具体的要素 | 影響 |
| マクロ経済 | GDP成長率 | 賃上げ余地の判断材料 |
| 物価動向 | 実質賃金への影響 | |
| 為替相場 | 企業収益への影響 | |
| 企業業績 | 売上高 | 直接的な賃上げ原資 |
| 営業利益 | 支払い能力の指標 | |
| 労働市場 | 有効求人倍率 | 労使の交渉力に影響 |
| 失業率 | 雇用情勢の判断材料 |
春闘の年間スケジュール
春闘は年間を通じた一連のプロセスとして進行する。準備は前年の11月頃から始まり、経団連が経営労働政策特別委員会報告を発表し、連合が春闘方針を決定する。各産業別労働組合はこれらを踏まえて要求内容の検討を行う。
| 時期 | 主な実施事項 |
| 準備期 (11月-12月) | 経団連が経営労働政策特別委員会報告を発表 連合が春闘方針を決定 各産業別労働組合が要求内容を検討 |
| 要求期 (1月-2月) | 労働組合が要求書を提出 要求内容の説明 団体交渉の日程調整 |
| 交渉期 (2月-3月) | 労使交渉の実施 業界大手企業から順次回答 妥結内容の発表 |
| 実施期 (4月-) | 新賃金の適用 社員への説明 給与システムの更新 |
まとめ:ビジネスパーソンにとって春闘とは
春闘は、労使関係における重要なコミュニケーションの場として機能している。経営課題の共有や従業員の声の集約、相互理解の促進など、その役割は多岐にわたる。
企業経営の観点から春闘は重要な意味を持つ。従業員満足度の向上や人材の確保・定着、モチベーション管理など、人材マネジメントの重要な機会となっている。また、人件費計画や投資計画、中期経営計画にも大きな影響を与える要素となっている。
特に近年は、働き方改革や人的資本経営との連動も意識されるようになっている。賃金水準の見直しだけでなく、働き方の改善や福利厚生の充実など、より包括的な経営課題の解決に向けた機会として捉えられている。
ビジネスパーソンにとって、春闘の役割を理解して関心を持つことは、自身のキャリアを見直す契機になる。企業が示す賃上げや制度変更の狙いを正確に理解すれば、自ずと自身が果たすべき役割やスキルアップに向けて何をすべきかを考えられるはずだ。
重要なのは、春闘の結果を受動的に受け止めるのではなく、能動的に生かしていく姿勢だ。企業が求める成果は何か、どのような仕事が評価され賃金が上がるのか、自身に役立つ制度はないかなど、自身の成長を考える機会として前向きに捉えれば、これからのキャリアをより充実したものにしていくことができるだろう。




