事業と人事戦略をつなぐHRBPの役割が拡大【2026年 育成・研修計画】

事業の中核を担う人材を確保していくために、人事機能の一つとして注目されているのがHRBP(HRビジネスパートナー)だ。HRBPを導入し、事業運営に必要な人材の発掘や育成、人事制度の運用・改善、社員のキャリア自律の促進などに取り組んでいる企業を取材した。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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管理職や次世代リーダーをどう育成していくか

多くの人事部から管理職や次世代リーダーの育成をどうすればよいのか悩んでいるという話をよく聞く。そもそも候補者のプールとなる若手社員にそうした役割を担うことを志向する人が少なくなっているという事情もある。

人材サービス大手マイナビの「管理職のキャリア意識と昇進意欲に関する調査」によると、正社員全体の昇進・昇格意欲は46.2%。現在の役職別にみると「課長級」(61.1%)が最も高く、「部長級」(59.0%)、「係長・主任・職長級」(57.8%)が続き、「一般社員」は41.0%にとどまっている。

一般社員は「どちらかというと昇進したくない」(31.8%)、「昇進したくない」(27.3%)を合わせて約6割が昇進に興味を示しておらず、管理職や次世代リーダーを選ぶ土台が脆弱化しつつある。

人材育成を支援するリクルートマネジメントソリューションズの「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」によると、人事担当者が管理職(中間管理職)に感じている課題で最も多かったのは「管理職候補が不足している」(46.8%)との回答だった。

次いで「管理職育成が十分に行えていない」(44.1%)である。管理職候補が不足している上に育成もままならない状況は危機的とさえ言える。

各事業領域に入り込み、組織・人材開発をリードするHRBPを導入

1990年代後半以降に生まれたZ世代が30歳に到達し始め、事業の中核を担う人材として一層の活躍が期待されている。しかし、Z世代は働くことやキャリアに対する価値観もこれまでの世代とは変質しているとも言われる。

また、入社5年目以降になると、仕事やキャリアに対する不安からモチベーションが減退し、昇進・昇格への関心が薄れ、離職・転職を考える時期でもある。

社員にどのようにキャリア意識を芽生えさせ、自律的な育成を促していくかを課題とする企業は少なくないが、そうした取り組みを支援するためのツールは整備されてきている。現在の人事部門はHRテクノロジーの進化により、個々の社員の経験や知識・スキルがデータベース化され“見える化”が可能になった。

研修も従来の年次別・階層別研修から、スキルレベル応じたeラーニングなどの選択型研修に移行し、メニューも豊富に揃えている。

そこで求められるのは人事部門の役割の変化だ。人事部内にとどまることなく、各事業領域に入り込み、一人一人の働き方やキャリアをどのように形成していくのか、プロスポーツ選手のコーチのように個々の社員に寄り添った仕事にシフトしていく。

そして、事業責任者のパートナーとして組織開発や人材開発などをリードする。そうした人事機能の一つとして注目され、導入する企業が出てきているのがHRBP(HRビジネスパートナー)だ。

●人材育成施策を強化している企業の取り組み

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事業本部長と連携し、必要な人材を発掘・育成

大手IT企業では、2020年から事業本部ごとに50人以上のHRBPを配置している。

同社の人事担当者は「HRBPの最も重要な役割は事業本部長との連携による人材マネジメントだ。例えば必要な人材が不足しているのでポスティングで採用しようとか、人材の発掘と育成が役割となる。HRBPには自分が担当する事業本部のビジネス状況を理解し、現場の社員とコミュニケーションを取りながら組織のカルチャーの課題を分析し、解決策を含めて主体的に事業本部の人材マネジメントのあり方を提案していく役割が求められている」と語る。

HRBPと従来の人事パーソンと大きく違うのは事業領域のビジネスに通じていることだ。ビジネスを知らずして個々の社員がどういうスキルを磨き、ステップアップしていくかを導くことはできない。

人事制度を運用・改善するために現場から信頼を得る

大手通信業では人事部に約60人のHRBPがいる。

同社の人事担当者は「HRBPは個人的には人事の中で一番大変な仕事だと思っている。現場の人事評価の運用をはじめキャリア採用と育成や異動の調整から労務案件への対応、もちろん役員との折衝や組織づくりまで現場の人事業務の大半を担っている。HRBPは、まず人と組織をしっかりと理解し、一人一人の社員に寄り添わないといけない。その上で組織づくりなど人事戦略について役員と真摯に語り合い、強い組織にしていくためにCoE(Center of Excellence:人事戦略を組織横断的に推進する組織)とビジネスの現場をつなぐ本当に必要不可欠な役割を担っていると身に染みて感じている」と語る。

その上でHRBPが仕事を行う際の大切なポイントについてこう指摘する。

「人事制度の運用をいかに大事にするかが決め手ではないかと思っている。しっかり運用するのは当たり前だと思われるかもしれないが、制度は完璧ではないので運用している中で綻びや現場の思いとのズレも発生する。それでも制度だからと現場の声を無視して終わらせるのか、あるいは一旦回した上で問題点や課題を見つけてCoEにフィーバックして改善していくのか。そこで問われるのが信頼関係だ」

信頼を得るには、誰のための制度なのかという本質を隅々まで正しく理解することだという。その上で、現場の声に耳を傾けつつ、言うべきことは言うような柔らかさと強さを使い分けながら人事制度を円滑に運用し、人材育成につなげていくことが肝になる。

社員の成長を促進する任務や支援が欠かせない

●リーダーが望む学習手法と組織が提供している学習手法

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(出所)マネジメントサービスセンター「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025

人事部門以外の役職者をHRBPに選び、現場で社員のキャリア自律を促す

人材育成のためにHRBPを活用している事例を紹介しよう。大手食品加工メーカーでは育成担当のHRBPをあえて人事部門以外の役職者から選んでおり、現在は生産調達本部、営業本部、コーポレート部門から各1人の計3人が任命されている。具体的な仕事は社員のキャリア自律を促すためのコーチングなどだ。

社員の指導方法について同社の人事担当者はこう語る。「現場の個々の社員と面談し、たとえば社員が受講しているeラーニングの講座を見て、どうしてこれを受講しているのかを聞いていく。社員が『いやなんとなく』と言えば、『なんとなくではなく次は何をしたらよいと思っているか』を聞くようにする。その場合、『こういうことをしたらいいじゃないの』という回答は絶対に言わない。言ってしまったらキャリア自律につながらない。何をやりたいのか、そのためにどのようにすればよいか、whatとwhyを次々に繰り出し、自分で気づかせるようにしている」

相手にどんな研修あるかと聞かれれば、「こういった研修があるが受けてみますか」というアドバイスにとどめる。あくまでも本人の自律を促すことに徹するのがHRBPの仕事だ。こうしたプロセスを通じて学ぶ意欲を喚起するが、実際にeラーニングの受講率は高まっているという。

eラーニングの受講だけでなく、昇進・昇格など次の仕事への意欲を引き出すのも役割だ。

「上司は人事評価とそのための指導を行うが、HRBPの仕事は現場に出向き、本人の主体性を引き出してタレントマネジメントをうまく回していく役割を担う。例えば『次の仕事はこういうのを希望しているようだが、そのために何をしているのか、次は何をやりたいのか』をどんどん聞いていくことで本人にキャリアに対する気づきを与えるようにしている」と語る。

HRBPは誰でもよいというわけではない。同社の人事担当者は「管理職経験豊富な人に加えて、人脈が豊富であり、かつ人間性が豊かでコミュニケーション力が高いというのが絶対条件」と語る。

実際に3人のHRBPを選ぶに当たっては、人事部長自ら本人と直接面談するなど、1年間かけて、現場での働きぶりを観察し、その能力を検討した上で選んだという。

人事担当者いわく「現場のコミュニケーション能力が高く、現場から信頼され、この人であれば基本的に何でも話せる人が適任」と指摘する。人事部内にとどまらず社員からメンター役やコーチング役を選ぶ際の重要なポイントともいえる。

冒頭に述べたように若手社員の価値観は変質しつつある。社会経済環境が目まぐるしく変化する中でビジネスの将来も不透明さが増し、事業成長のためには新しいことに常にチャレンジしていく必要もある。しかし、従来の人事制度や上意下達型のマネジメントではビジネスアイデアも生まれないという課題に直面している企業も少なくない。

事業と人事戦略をつなぐHRBPの役割は拡大しているが、社員一人一人が自律的に働き、活躍できる組織にしていくためにどうしていくべきなのか、人事部門の役割が改めて問われている。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
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人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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