DX推進人材の役割・スキルを明確にし、育成施策へ積極投資【森永製菓】

森永製菓は、人材やR&D、DXといった無形資産への投資を積極的に行うことで競争優位性を高めることを目指している。DX推進人材を育成する取り組みなどについて、DX人材開発担当リーダーの大野潤平氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

森永製菓 大野 潤平 DX推進部 DX戦略企画室 DX人材開発担当リーダー

大野 潤平氏
森永製菓 DX推進部 DX戦略企画室
DX人材開発担当リーダー

事業概要を教えてください

当社は、創業126年を迎える総合食品メーカーです。食料品の製造、仕入れおよび販売を行っています。国内においては、キャラメル・ビスケット・ココア・ケーキミックスなどの菓子食品事業、冷菓事業、ゼリー飲料などのin事業、通販事業を展開、海外においては米国事業を中心に展開しています。

特に、in事業、冷菓事業、通販事業、米国事業の4事業を「重点領域」と定め、グループ全体の成長を牽引することを目指しています。

DX人材育成の取り組みを実施することとなった背景を教えてください

2021年に、持続可能な社会の実現に貢献しつつ中長期的に企業価値を高めていくため、2030年に向けた長期経営計画「2030経営計画」を策定し、2030ビジョン『森永製菓グループは、2030年にウェルネスカンパニーへ生まれ変わります。』を定めました。

「ウェルネス」とは、「いきいきとした心・体・環境を基盤にして、豊かで輝く人生を追求・実現している状態」と定義し、顧客・従業員・社会に、心の健康、体の健康、環境の健康の3つの価値を提供し続ける企業になることを目指しています。

その中で基本方針を3つ定めたのですが、2番目に「事業戦略と連動した経営基盤の構築」を挙げています。具体的には、人材やR&D(研究開発)、DXといった無形資産への投資を積極的に行うことで、当社の競争優位性を高めることを意味します。

そのなかでも、DXを推進することで、競争優位性の強化を担うのが、同じ2021年に創設された私たちDX推進部であり、人事部と連動しながら、DX戦略の一環としてDX人材の育成に取り組んでいます。

森永製菓 図表①
●「2030経営計画」の全体像

DX人材育成の取り組みについて、具体的に教えてください

DX人材育成の第一歩として取り組んだのはスキルアセスメントであり、当社のDX推進スキルを可視化しました。アセスメントの項目は、ビジネス変革、テクノロジー、データ活用、セキュリティ、パーソナルスキルの5項目です。

他社のスコアと比較することができるうえに、組織全体における強みや課題を客観的に把握でき、優先的に強化すべき分野が明確になりました。

アセスメントの次に行ったことは、人材定義です。経済産業省が策定した「デジタルスキル標準」に基づき、当社の人材を「DX推進人材」と「デジタル活用人材」の2つに大別しました。DX推進人材は、特定のスキルを身につけ、高いレベルでデジタル施策を推進し、社内のDXを加速させる人材を指します。

一方、デジタル活用人材は、DXリテラシーを身につけて日々の業務に生かし、自身の業務の効率化を行う、いわば全従業員です。今回の取り組みはこの2つのうち、前者のDX推進人材を対象としたもので、2024年度からスタートさせました。

それは当社のデジタル化を先頭に立って進める人材であり、社内では「プロ人材」と呼んでいます。より詳しくいえば、部長を筆頭としたDX推進部員、グループ会社である森永ビジネスパートナーのITグループに所属している従業員を指し、2025年度からはマーケティング本部や営業本部、研究所など、社内6部門における人材も加え、計54人が対象となっています。

森永製菓 図表②
●森永製菓のDX人材の分類

DX推進人材の定義はどのように設定したのでしょうか

それについては、森永製菓グループの2030ビジョンや経営計画を踏まえ、DX推進人材の「あるべき姿」「状態目標」「期待行動」を明文化しました。

さらに、それらをデジタルスキル標準と照らし合わせ、ビジネスアーキテクト(新規事業開発)、ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化)、ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化)、サービスデザイナー、データビジネスストラテジスト、データエンジニア、フロントエンドエンジニア、サイバーセキュリティマネージャーといった、当社に必要な8種類の人材ロールを選定しました。

8つの人材ロールは独自で設定されたのですか

8つの人材ロールそれぞれにおいて、デジタルスキル標準に記載されている内容を当社向けに読み替え、スキルの重要度も設定し直しました。その際、各部門長にヒアリングを行っており現場が求める要素も反映されています。

人材ロールごとに必要なスキルが明確になったことで、受講者が「どのスキルを伸ばすべきか」「どのような役割を担うのか」を具体的にイメージできるようになりました。

人材育成は実際にどのようにやっているのでしょうか

2027年度までの育成ロードマップを作成しており、それに基づいて8つの人材ロールごとに、外部の専門講師による集合研修と、オンライン学習を組み合わせて提供しています。

その他、DX推進部内では、他部署からの異動者や新卒での配属者を対象にしたオンボーディング施策を提供しています。具体的には、オンライン学習を通じてDX推進の基礎を身につけられるような講座を定めて、受講してもらっています。また、8つの人材ロールごとにも、同じように受講する講座を定めることも考えています。

それとは別に、前向きな学習文化の醸成を目的とし、ベテラン従業員が講師となってDXはもちろん、他のテーマも含んだ勉強会を、DX推進部やITグループの従業員に対して就業時間内に開催しています。

研修を受講した従業員の感想はいかがでしたか

「苦手意識を持っていた専門用語をより理解できるようになった」「ベンダーとの打ち合わせにおいて自信を持って話せるようになった」など、ポジティブな感想が多いです。

一方で、受講時間がなかなか捻出できないという悩みもあるようです。そのような悩みがあることから、事務局として、受講者の学習スタイルをインタビューした内容や最新動画等の“学びのお役立ち情報”をメールマガジン形式で定期的に発信しています。この情報を参考にしてもらうことで、通勤時間や休憩時間で学習したり、既に知っている情報の動画はスキップしたりと、自身にあった学習を行う人が増えました。

運営側としては、いかに納得して取り組んでもらうかを第一に考えています。本取り組みの説明会を開催し、説明会ではアセスメントサービス提供企業の担当者から、アセスメントの実施意義などについてお話いただきました。

また、アセスメント結果をフィードバックすることも行っています。このような取り組みを通じて、受講者の納得感を醸成しています。

今回の取り組みは人材育成に留まらず、DX戦略の一環なのですね

その通りです。この取り組みはDX戦略の1つとして位置付けられているうえに、他のDX戦略、組織体制とも連動させています。2025年4月、私が所属するDX推進部の組織体制が変更されました。

DX戦略企画室、ソリューションアーキテクトグループ、データドリブン推進グループを設置し、DX戦略を加速させるため、それぞれの機能を意識した体制につくり変えました。

その背景には、戦略に合致した組織体制を構築し、それに合わせた人材ロールへ割り当てを行い、ロールごとの育成施策を推進するといったように、戦略・組織・育成の循環サイクルを回したいという意図があります。

今後の展望を教えてください

より効率的かつ効果的な育成施策とすることを目指し、各従業員のレベルに応じたプログラムの高度化を検討しています。具体的な施策については、これから検討していきます。

今年度プログラムにおいては、受講者ごとに保有するスキルや経験が異なることから、プログラムの受け止め方や育成効果に差が見られました。こうした差を前提としつつ、将来的にはそのばらつきを縮小し、受講者一人ひとりのスキル向上につながるプログラムの実現を目指します。

また、もう一つは、少し先になると思いますが、「デジタル活用人材」向けの育成プログラムについても、開発・実施していきたいと考えています。
(2026年2月26日インタビュー)

森永製菓株式会社

代表者/代表取締役会長 CEO 太田栄二郎、代表取締役社長 COO 森信也
設立/1910年2月23日
資本金/186億1200万円
従業員数/【連結】3153人 【単体】1538人
本社/東京都港区芝浦1-13-16
売上高/【連結】2289億5700万円 【単体】1830億1900万円


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