採用スケジュールが変わった新卒採用、人材不足が慢性化しつつある中途採用、非正規雇用のアルバイト・パート、人材派遣でも採用できない状況が続いている。2015年の日本の雇用情勢と企業の人材採用数の予測を、企業の人材採用を支援する主要人材コンサルティング会社100社を対象にアンケート調査で聞いた。
日本の雇用情勢
2015年の日本全体の雇用情勢について最も多かった回答は「やや良くなる」(47%)、次いで「良くなる」(25%)であった。良くなるとする予想は合わせて7割を超える高水準となっており、改善傾向が続いている。一方で25%が「横ばい」との見方を示している。
悪くなるという回答は、「やや悪くなる」が3%で、「悪くなる」は無かった。しかし、2014年の前回調査では「やや良くなる」が55%、「良くなる」が39%で合わせて9割以上が雇用情勢が良くなると回答しており、比較すると22ポイントの大幅な落ち込みとなっている。
消費増税後の経済成長の鈍化で景気動向の不透明感が増していることが主な要因と考えられる。人材業界最大手のリクルートキャリアの水谷智之社長は、「景気動向の影響を受けつつも人材ニーズは堅調に推移する。人手不足感の高まりに加えて、“グローバル”“次世代”などをキーワードとした人材の採用も一層強まる」と予想している。
新卒採用
2016年3月卒を対象とする採用活動からスケジュールが変更になる新卒採用は、最多が「やや増加」(42%)、次いで「増加」(36%)となり合わせて約8割が増加傾向と予想し高水準である。
しかし、前年調査では「やや増加」(52%)、「増加」(35%)と合わせて87%が増加傾向と回答しており、9ポイントの減少となった。その一方で前年はゼロだった減少が、「やや減少」で8%と急増している。「横ばい」は14%で昨年の13%とほぼ同水準だった。
新卒求人サイトを運営するマイナビの浜田憲尚専務取締役は「選考活動時期が、(学生の)卒業までの期間が4カ月短くなることで、企業の採用意欲が高いにもかかわらず、既卒未就労者の増加が懸念される」とコメントしている。
採用スケジュールが短縮化することによって企業と新卒学生のマッチングが十分に行われず、結果として採用数の減少につながるのではないかとの見方が挙がっている。
初めての採用スケジュールで、企業側は手探りで採用活動を進めざるを得ない状況だ。特に知名度が低いBtoB企業、中堅・中小ベンチャー企業の採用は苦戦が予想される。
また、選考期間が短縮されるために内定が集中し、辞退者が続出しそうだ。これまでの採用手法では採用数の確保が難しいため、インターンを含め様々な採用手法を立体的に活用しなければならないだろう。 その一つとして、より確実な採用数確保を求めて新卒紹介サービスを利用する企業も急増しているようだ。
中途採用
景気動向の影響を受けやすい中途採用では、「増加」(39%)、「やや増加」(39%)が同数で約8割が増加を予想する結果となっている。
高水準ではあるが、前年調査では「増加」(59%)、「やや増加」(35%)を合わせて94%が増加と回答しており、16ポイントの減少となった。一方で「横ばい」は17%で11ポイントの増加、減少は前年はゼロだったが「やや減少」で5%となった。
ホワイトカラーの人材紹介大手のジェイ エイ シー リクルートメントの松園健社長は、「14年上半期の企業の採用動向は非常に活発だったが、消費税や欧州、ウクライナ問題、米国の金融緩和政策打ち切り、中国経済の景気鈍化などの影響により、下半期の企業の採用は若干慎重になった」
「15年は、さらなる日本企業のグローバル化や海外進出等に伴い、その領域の中途採用数は引き続き優秀な人材を中心に上昇することが予想される。また、全国的に経営者の世代交代時期を迎え、事業継承や経営の後継者ニーズが増加すると考えられる」と分析している。
このように事業環境の変化が激しい状況で、中途採用は企業の成長に必要な即戦力人材の確保で不可欠になっている。
しかし、人材不足が慢性化するようになり「良い人がいたら採用したい」というような感覚でいるならば、いつまで経って採用することはできない。
また、昨年からは売り手市場化と求人過多で内定辞退が増加し始めている。中途求人サイトに広告を出すだけでは人材は集まらないため、人材紹介会社も要領よく活用していきたい。
最近、流行しているダイレクト・リクルーティングも一見コストが節約できるように思えるが、実は採用担当者が人材紹介会社のコンサルタントと同じような活動をしなければならない。
そのため、採用担当者を増員するなど社内のリクルーティング体制を構築する必要がある。中途採用でも様々な採用手法を理解して活用していくことが重要だ。
アルバイト・パート、人材派遣
アルバイト・パートは、「増加」(38%)、「やや増加」(38%)と合わせて7割強が増加傾向を予想している。前年は「増加」(45%)、「やや増加」(29%)で2ポイント増となった。「横ばい」は21%で5ポイント減少、前年はゼロだった「やや減少」が3%となっている。
派遣社員は、「増加」(32%)、「やや増加」(40%)で増加傾向は約7割となった。前回の「増加」(43%)、「やや増加」(19%)に対し、10ポイント増となった。「横ばい」は17%で、14年の32%から15ポイントの減少となっている。ただ、「やや減少」という声も11%と14年の6%から5ポイント増加している。
人材派遣大手テンプスタッフの水田正道社長は「業種・職種を問わず、企業の採用意欲は高まっている状態で、人材派遣の受注は前年同月比で2割程度の伸びが続く。特にIT分野は、技術者の派遣や業務受託が顧客の注文に応えきれないほど。この採用意欲は15年も続くだろう」と予想する。
派遣社員の増減については、今年中にも改正が確実視される労働者派遣法の影響が大きく、改正によってこれまで法的制約で手控えていた企業が派遣社員の活用を再開することが期待される。
非正規雇用のアルバイト・パート、派遣社員の確保も厳しさを増している。活用する求人媒体や人材派遣会社によって人材が確保できるかどうか明暗が分かれる。採用したい人材によって利用するサービスや人材会社を使い分けなければならないだろう。
少子高齢化によって労働力人口の減少が確実になる中で、今後、若年層の人材が慢性的に不足する時代に突入していく。人材の争奪戦もさらに激しさを増して採用に苦戦する企業も増えるだろう。
採用における人材の多様化を図ると同時に、企業は採用力を強化するだけではなく、採用した人材を定着させるための様々な人事施策や人材育成にも力を入れていく時期にきている。