人材派遣会社として創業したリスが、人材紹介事業で業績を順調に伸ばしている。4月には自社で開発・運営する求人サイトを活かした成果報酬型の新サービス「エージェントNEO」を開始して事業拡大を目指す。同社のこれまでの取り組みや新サービスの特徴について、木村亮郎社長に聞いた。
リス
木村 亮郎 代表取締役社長
1980年、愛媛でリス設立、社長就任。いよぎんキャピタルの資本参加を得て、拠点拡大・求人求職サイト「しごとナビ」開発運営に注力。派遣から総合人材サービスに転進し、社会的使命を意識した経営に取り組む。
人材事業が順調に成長してきた要因を教えてください。
当社は1980年に愛媛県松山市で人材派遣会社として創業しました。四国発の派遣会社としては第1号だと思います。それだけに当初は人材派遣という仕組みを理解されず、企業を回っても「人を貸すとは何事か」といった抵抗感を持たれたものです。
一方、求職者側、特に女性には歓迎されました。それまではスーパーのレジ打ちといったパートしかなかったところに、会社勤務時代の経験を活かせる仕事が得られるわけですから。そして、そのうちに企業側にも繁閑に応じた人員の調整や人件費を流動化できるメリットが浸透し、一気に広まっていきました。
当社が成長できた要因として、自社で開発・運営している総合求人求職サイト「しごとナビ」の存在が挙げられます。多様化する働き方のニーズに応えられるよう、あらゆる雇用形態を選択し一括登録できる利便性の高さが求職者から好評を得て、事務・企画、サービス・販売、営業、ソフトウエア・インターネット、電気・電子、機械・設備、医療・福祉・介護などの全ての業種・職種にわたって月間5000人以上の新規登録があり、登録者は現在60万人を超えるに至っています。「しごとナビ」の登録者を求人企業に対してスピーディーに紹介できるようになっています。
「しごとナビ」はどういう経緯で生まれたのですか。
創業当時から、派遣社員を募集するのに求人広告頼みという状況がありました。ところが、突然広告料が値上がりするといった事態が何度かあり、求人広告に依存した体質から脱しなければならないという問題意識を持ったわけです。ちょうどその頃、インターネットが普及し始めていましたので、それに着目して何かできるのではないかと研究を始めました。
役員や幹部社員全員で3日間のホームページ制作研修に参加し、自ら手を動かして理解を深めていきました。そして、自前でメディアを持つことができれば、求人広告に頼らなくても求職者を集めることができると気づいたのです。さらに、求人広告サービスも可能になると。そして、自前のメディアを持って人材派遣、人材紹介、求人広告と3つの事業の柱をつくることを目標にしたのです。
早速、専門知識を持つ人材を採用して、自前でメディアづくりを始めました。システムは当初外注していたのですが、トラブルが続いたため、エンジニアを直接雇用して自社開発に切り替えました。それ以来、自社で開発・運営してノウハウを蓄積することが方針になりました。
人材派遣会社が人材紹介で成功するのは難しいとよく聞きますが。
2011年度の売上は人材紹介に関しては前年比80%増、12年度は50%増の伸びです。当社の売上構成は派遣が8割、人材紹介2割ですが粗利益では5対5です。収益力は人材紹介が圧倒的ですね。人材紹介の開始は、2000年代前半の「テンプ・トゥ・パーム(紹介予定派遣)」の制度化がきっかけです。私としては人材派遣の持つ雇用のフレキシビリティという良さが失われることに当初は疑問を感じていました。
しかし、国の意向をよく考えれば、「安定した雇用を生み出せ」という意図、それは派遣の意義が間接雇用だったことにも気づかされ、納得・共感を深められたため、人材紹介に当社も乗り出すことにしました。実は人材紹介よりも先に求人広告の営業組織を立ち上げてスタートしていたのですが、そのプロセスで入ってくる人材紹介案件への対応が中途半端になっていました。
そこで、現場の営業社員に率直な意見を求めたところ、人材紹介に集中したいということでしたので、思い切って求人広告を開店休業状態にして人材紹介の営業に集中することにしました。営業方針を明確にして全員の意識を統一できたことによって社員の力をうまく引き出すことができたと思います。
人材紹介では、メディカル、IT、建設の3分野で専門チームを設けて対応しています。これらの分野はいずれも人材ニーズが旺盛で、専門分野別に情報サイトを設けて登録者を集めています。求職者が登録すると、その情報が求人企業にすぐ伝わるようになっており、スピーディーなマッチングが図れます。
事業を拡大していく上で感じている課題は何ですか。
これまでの求人広告や人材紹介による採用では、必ずしも求人企業から寄せられる費用対効果のニーズに応えきれていなかったと思います。一方、人材紹介にしてもコンサルタントが難しい求人を苦労して紹介する場合でも、交渉によって手数料を下げられてしまうということがあります。
これも現在の紹介料システムに納得されていない顧客心理が潜在している事実を物語っています。専門コンサルタントが対応しなければいけない求人と、システムを活用して効率的にマッチングできる求人の両方に的確に対応できるサービスに改良していく必要性を示唆していると考えます。
今後、スタートする新サービスの内容を教えてください。
4月中旬にリリースする予定の新サービス「エージェントNEO」では、低コストの求人広告サービスから高難度な求人に専門コンサルタントが対応する人材紹介サービスまでをラインナップし、すべて成果報酬で提供します。「しごとナビ」の集客力を活かして様々な人材ニーズに対し、より的確な人材を紹介することができ、料金に対する納得感を高めるための仕組みです。
正社員・契約社員の採用では、求人広告で手数料が理論年収の10~30%の「マルチプラン」、人材紹介で30~50%の「スタンダードプラン」、60~100%の「マスタープラン」があります。高い手数料を払ってでも高度な人材をすぐに採用したいという緊急性の高い求人に対応します。
アルバイトの採用も時給から理論年収を換算し、手数料が理論年収の2・4・6・8%の「バイトプラン」を用意しています。合わせて、15品目のラインナップとなっています。ワンストップで求人広告と人材紹介のサービス内容がすべて揃い、料金もオープンになっていることで、人材採用のスピード、難易度、予算に応じて企業側は自由にプランを選択することができます。いずれのプランも完全成果報酬ですので、利用しやすいサービスだと思います。
今後の目標や事業方針について教えてください。
まずは「エージェントNEO」が受け入れられてどれぐらい利用が広がるかを見極めたいですね。これによって、「しごとナビ」を開発したときの目標でもあった人材派遣、人材紹介、求人広告の3つの事業の柱が確立されることになります。
また、求職者の利便性を高めるために、スマートフォンの専用アプリで制作した履歴書が全国のセブンイレブンで印刷できるというサービスに加えて、撮影した写真もプリントアウトできるサービスを開発しました。企業側への「エージェントNEO」の利用拡大と合わせて、求職者の仕事探しのための支援にも引き続き取り組んでいきます。