世界第2位の人材会社ランスタッドによるフジスタッフの買収から、まもなく3年が経過する。日本オフィスを率いる代表取締役会長兼CEOのマルセル・ウィガース氏に、ランスタッドグループにおける日本オフィスの役割、経営統合後のマネジメントや今後の事業方針について聞いた。
ランスタッド
マルセル・ウィガース 代表取締役会長兼CEO
オランダ・アムステルダム出身。ランスタッドオランダ法人派遣スタッフを経て、1985年にコンサルタントとして入社。イタリア法人、日本法人の事業立ち上げなどに関わった後、アジア地区担当マネージング・ディレクターを経て、2011年2月より現職。
グローバルな人材市場の状況をどのように見ていますか。
欧州はここ数年の経済危機により、どの国も厳しい状況が続いています。特にスペイン、イタリア、ギリシアなどの南欧諸国では深刻です。しかし、改善の兆しも認められるので、さらなる悪化は食い止められるのではないかと見ています。北米はやや減速しているものの、成長を続けていることに変わりありません。
一方、アジア地域は非常にポジティブですね。シンガポール、インド、マレーシアをはじめ、多くの新興国が力強い成長を続けており可能性を感じています。そして日本では、輸出産業などが盛り上がってきましたので、この先楽しみな状況になっています。世界全体では前向きに見通すことができる状況と言えるのではないでしょうか。
ランスタッドグループの中で日本オフィスはどのような役割を期待されているのでしょうか。
日本オフィスには大きく3つの役割が求められています。1点目は日本の人材サービス市場は世界で2番目に大きく非常に重要なものと位置付けられていますので、そこでしっかりと業績を上げることです。ここ1~2年で高い実績を残していますので、さらに期待が高まっています。
2点目は、サービス品質が非常に高い日本でビジネスノウハウを蓄積し、グローバルに展開してグループ全体のサービス品質のレベルアップに貢献するということです。そして3点目は、日本固有の優れたビジネスモデルを世界中に伝える役割です。例えば請負というサービスは日本特有のものです。欧州などでは固定費をいかに削減するかというソリューションが求められる傾向にあるのですが、日本の請負の仕組みは、労働力の管理に留まりません。
需要変動に応じた労働力の調整、製造工程など、顧客のビジネスへの深い理解、高いレベルの品質管理までも含めたアウトソーシングです。グループ内からは、大変洗練されたサービス形態であると受け止められています。また、日本の再就職支援サービスは人材の流動化をスムーズに促進させるものとして注目されています。当社ではこのサービスを取り巻くイメージを変えたいと願い、2年前に事業部の名称を「ニューキャリア事業部」に変更しました。新しいキャリアを見つけることをサポートするサービスであるという側面を強調したいからです。
フジスタッフとの経営統合後のマネジメントについて教えてください。
2003年に日本市場を任された直後から、国内市場でのポジションを早期に確立させるためのパートナーを探し始めました。そして、04年に初めてフジスタッフの経営層と会い、時間をかけて相互理解に努め、徐々に事業協力を進めてきました。ですから、M&Aは自然な流れで成立させることができ、双方の社員にも特に大きな驚きはなかったと思います。
経営統合後のマネジメントについては2つの方針を決めました。1つは、人材サービスは質の高い社員がいることが命であると考え、優秀な人材を流出させないよう施策を取りました。今後のビジネス展開において軸となる人材を50人ほどリストアップし、存分に活躍してもらうための処遇、キャリアプランを準備しました。その結果、現在までの間に退職したのは、その50人のうち2人だけです。多くの社員は世界有数の人材サービス企業グループの一員になるということで、モチベーションを高めてもらえたのではないかと思います。
もう1つは、そもそも優れた会社と一緒になるわけですから、経営上の変更は必要最低限にとどめるということです。例えば、限られた時間で高い成果を出すために、社内決裁のルールを見直すなどの様々な改革を行っていますが、ルールを変える場合は、コンセンサスを取りながら慎重に進めるように留意しています。一方で、一般的に日本人は変化を嫌うというイメージを持っていましたが、フジスタッフ・ホールディングスのメンバーは変化に前向きな人ばかりで驚きましたね。
日本企業がこれから必要とする人材マネジメントについてはどのように考えていますか。
少子高齢化という人口構造が企業経営に与える影響に対して早く対応すべきだと思います。企業経営に最も大きな影響を及ぼすと考えられるのは、専門的かつ高度なスキルを有する人材が不足するということです。対応策は2つあると思います。1つは十分に活用されていないものの、貴重なビジネス経験を持つ女性やシニア層にもっと活躍してもらうことです。
もう1つは、日本だけではなく、海外から優秀な人材を受け入れるということです。規制緩和に積極的な安倍政権が誕生し、こうした可能性が広がっていると認識していますが、日本の成長を促進するために人材サービス業界が担う役割も大きく変化することが予想されます。労働市場に参加する人材を増やしていくための責務がより大きくなるでしょう。
強化していく事業やサービスはどういったものを考えていますか。
総合型の人材サービス企業として幅広い領域で様々なサービスを引き続き伸ばしながらも、今後は特にIT、金融、医療・薬品といった成長分野でニーズが高まるプロフェッショナル人材を専門的に扱えるようになるということが必要だと思います。また、グローバルに展開する人材サービス企業グループとして、同じく海外展開を進める日本企業が力を入れている海外事業を担える人材や現地での採用支援をもっと手掛けていきたいと考えています。
事業を拡大する上での課題や方針はどういったものでしょうか。
課題とともにビジネスを拡大する機会がたくさんあると考えています。おかげさまで昨年度の日本オフィスの業績は6%の伸びを達成することができました。とはいえ、市場に占めるシェアはわずかです。逆に言えば、まだ大きな機会があると捉えています。
当社は人材派遣のほかに人材紹介、再就職支援、アウトソーシングなど多様なサービスを提供できる能力があるのですが、まだまだ多くのお客様からは人材派遣など一部のサービスを提供する会社であると受け止められています。そこで、まずはそうしたお客様に対して当社を理解してもらい、より多くのサービスをさらに活用いただけるように働き掛けていかなければなりません。
経営統合からそれほど時間が経っていないこともあり、日本での認知度がまだ十分ではなく、多くのお客様の選択肢に加えていただける存在になりえていないと自覚しています。ランスタッドグループは世界各国で特定の地域に集中的に広告を投下する“マイクロマーケティング”というブランディング手法を実践し効果を上げていますが、これを日本でも行うことを計画しています。
またそれ以外にも、モータースポーツF1チームへのスポンサー協力、企業魅力度を測る世界最大規模の調査イベント「ランスタッドアワード」の開催などによってブランディング力向上に重きを置いています。こうした施策を日本での認知度の向上のために積極的に活用していきたいと考えています。