人材派遣市場全体の成長が鈍化する中で、急成長しているのが人材派遣と求人サイトを手がけるセントメディアだ。同社の経営の特徴は、今後も成長が期待される人材市場分野に特化型のビジネスを数多く生み出していくという“オクトパス戦略”にある。 大手量販店を中心とした販売職の派遣や外国語を使った仕事を探す求人情報サイトの運営という特化したビジネス領域で業績を伸ばしている。また、人材に対するモチベーション重視の教育もサービスの質を向上させている。大原茂同社社長にこれまでの事業展開と今後の成長戦略について聞いた。
セントメディア
大原 茂 代表取締役社長
セントメディア設立の経緯と現在の事業の概要を教えて下さい
セントメディアは、97年にBtoB向けの市場調査を行うテレマーケティングの会社として大阪で設立されました。2000年に、製造業向けの人材アウトソーシング会社ビッグエイドとシナジー効果を狙って合併し、この時、私はこの会社に合流しました。当時は両社あわせて、9億円程度の売上規模でした。本格的に人材ビジネスに参入したのは02年からです。
テレマーケティング自体が装置産業であることもあり、ベンチャーで資本のない会社では事業継続は難しいと判断して、テレマーケティング事業から撤退し、コールセンターへの派遣と製造業向けの人材アウトソーシングに事業を集中しました。
様々な事業をやってきましたが、最終的に会社が厳しくなったときに、本当に自分たちが現場に入ってやりたいことは“人材ビジネス” だと考え、この選択をしたのです。クライアント企業の成長やスタッフの喜びを実感していましたので、この選択には迷いはありませんでした。
現在は、セールスアシスト事業部、コールセンター派遣事業部、ファクトリーアウトソーシング事業部、メディア事業部の4つの事業部があり、約190人の従業員がいます。いずれもカテゴリーに専門特化した事業が特徴となっており、家電量販店及び携帯ショップへの販売員の派遣、コールセンターへの派遣、製造業向けの派遣・請負、求人サイトの運営を行っています。昨年度の売上は、セントメディア全体で99億円でした。今期は124億円を計上する予定です。
派遣業界全体の伸びの鈍化がいわれていますが、成長の秘訣はどのようなところにあるのでしょうか
大手がやっているような総合型のビジネスでは、勝負することはできないと考えていますので、ブティック型で事業を拡大する方針です。 販売やコールセンターの業界も、基本的にマーケットが拡大しており、そこに特化していることが好業績を残せる一番大きな理由です。
いくら努力したとしても、下りのエスカレーターで市場が縮小していたら、業績は拡大していないでしょう。上りのエスカレーターを最速で駆け上がることを考えていますので、常に市場を意識しています。人材の供給面では、未経験者に対し自社でモチベーションを重視した教育・研修を行い、意欲的な人材を供給できるところが強みになっています。また同時に、この教育システムがスタッフの定着率向上につながっています。
未経験者の教育では、どのようなことをしているのですか
キャリアマネジメントカレッジを開設して、未経験者の方には商品研修等、2日間の基礎的な講習を実施します。研修内容には座学もありますが、大きな狙いは、“ 何故この仕事をするのか”という目的意識を持たせることです。「どうして、この仕事が重要なのか」というところを理解してもらっています。
最初は、クライアントの入社前研修を代行するところからスタートしたのですが、スタッフに求められるのは単調業務ではなく、能動的にコミュニケーションを必要とする業務なので、知識研修ではなく、マインド研修を中心に行っています。ですから、未経験者だけでなく経験者もこの研修を受けてもらって、目的意識をしっかりと理解してもらっています。
基本的に、人間の能力にはあまり差はありません。仕事に対する目的を理解させることによって、仕事の中で創意工夫が生まれ、成長を促進させるものです。 3カ月の経験があれば、必要な知識は覚えてしまいます。それ以降は、個々人の仕事に対する意欲で働き方に差が出てきますので、モチベーションを非常に重視しています。
派遣社員に対するニーズも変わり、3カ月という短期間ではなく、1~2年、それ以上働いて欲しいと希望されるクライアントがほとんどです。紹介予定派遣も増えてきていますが、スキルが上がった結果として、正社員になれるというキャリアの中でうまく位置づけていますので、意欲的に働ける一つの動機になっています。
当社のスタッフに対する教育は非常に好評で、即戦力で経験者というこれまでの採用基準を下げても、中長期的にはセントメディアのスタッフが一番だということを理解して頂いています。研修を見学してもらうこともありますが、他社の派遣社員が現場に入るときにも、有料でいいから当社の研修を使わせてくれという要望もでるなど、絶賛して頂いています。
もう一つの事業の柱となっている求人サイト「グローバルキャリア」の運営について教えて下さい
英語や外国語を使って仕事をする人に特化した正社員、派遣、アルバイトの求人サイトです。昨年まで、翻訳会社が約5年間運営していた「グローバルキャリア」という実績のあるサイトの事業譲渡を受けたものです。3月にはリニューアルを実施して、一般企業や人材紹介会社に営業を推進する計画です。既に登録者が1万3千人おり、その半数以上がTOEIC600点以上の方です。
高度で専門的な能力を持った人ほど、その他大勢が集まるポータルサイトに登録することを嫌がります。自らの仕事に特別感のある人ほど、やはり、専門サイトに登録しているのです。様々な人が集まるポータルサイトの中では、自分の専門性が埋没してしまい、不利になると考えるからです。
今後の成長戦略を教えて下さい
当社では、オクトパス戦略と呼んでいますが、専門的に特化した事業をさらに増やしていくことで、事業を拡大していきたいと考えています。5年後のビジョンでいうと、特化した分野でナンバー1の分野を作ること、カテゴリーシェア・ナンバー1を獲得していくことです。そのためには、人材が自然に集まる仕組みを作ることが重要で、ブランディング戦略が非常に重要だと考えています。
また、カテゴリーシェア・ナンバー1になるためには、当然インストアシェア・ナンバー1にならなければ実現しませんので、主要クライアントには、定期的に責任者が訪問してヒアリングを実施し、クライアントの要望に沿うカスタマイズした提案を行うようにしています。来期はさらに全国展開を進め、これまでの事業にとどまらない広範な展開を目指す計画です。また、教育と育成を通じて未経験スタッフでもクライアントに選ばれ続ける事業モデルを確立していきたいと考えています。