【2015年 企業人事の課題】経済社会の変化で対応すべき喫緊6テーマ

ビジネスのグローバル化や少子高齢化などの経済社会の変化に応じた人材マネジメントのあり方が問われている。2015年も昨年に引き続き、雇用のあり方に注目が集まる年になるだろう。企業人事が喫緊に対応すべきテーマを挙げた。(文・溝上憲文編集委員)

人事制度

 2015年の企業人事の課題として注目されるのは、すでに昨年来から話題となっているテーマが多い。たとえば突然の解散・総選挙で廃案になった労働者派遣法改正案もその一つだ。

 12年の改正で日雇い派遣が禁止されて以降、民主党と自民党の政権の思惑で何度も改変され、その度に改正案が国会に提出されたが、成立することなく企業と人材派遣業界だけが翻弄された。だが、衆院選挙での自民党の圧勝を受けて再提出され、通常国会で成立するのは間違いない。

 本来であれば、昨年の通常国会で成立し、今年4月1日に施行される予定だった。それに併せて都道府県労働局では企業説明会の準備に着手していた。早ければ今年秋にも施行されることになり、成立直後から全国的に説明会が開催される予定だ。

 その他の重要テーマとして対処すべき課題は次の6つだ。急いで対応すべきものから、今から準備しておくべきものを列挙する。

政府の賃上げ要請に対する春闘対応

 昨年の春闘は安倍首相の賃上げ要請による「官製春闘」と呼ばれた。賃上げ要請の舞台となった「政労使会議」では、復興特別法人税の廃止というアメと引き替えに経済界に賃上げ要請を行った。

 それだけではなく、経済産業省の局長クラスが直に企業のトップと会って賃上げを要請し、地方経産局長も地元企業を行脚して回った。また、財務省・金融庁も銀行・証券各社に同様の要請を行い、政府内では実際に賃上げしたかを“点検”まで行った。

 今年もすでに首相の賃上げ要請に対し、榊原定征経団連会長は「賃上げ容認」の発言をしている。その背景には法人税減税の実施の見返りという側面もある。しかし、いずれにしても昨年同様、経産省など関係省庁による企業への「賃上げ圧力」が行われることは間違いない。

 昨年は大手証券会社も軒並み“賃上げ”に踏み切った。大手証券の人事課長は「定期昇給制度もなく、春闘とは無縁の業界にも賃上げ要請がきて驚いた」と言っていたが、どのように対応していくかは喫緊の課題だ。

女性活躍推進法の成立と推進計画の策定

 安部政権は2020年に女性管理職を30%にする目標を成長戦略に掲げるとともに、昨年廃案になった企業に数値目標の設定を促す女性活躍推進法案を通常国会で通す予定だ。これには与野党も賛成しているが、その影響を受けるのは企業だ。目標数値が一人歩きする危険性もある。

 その結果、女性の登用で四苦八苦している人事担当者は多い。もともと女性社員が少ない企業では、社長命令で高い目標を設定し、暗黙裏に「女性枠」を設定し、2段跳びで課長に抜擢する企業も現れた。管理職候補の男性社員から「逆差別」の声も上がるなど職場の混乱を憂慮する人事担当者もいる。

 女性管理職を増やすには地道な努力も欠かせない。採用枠は拡大するとしても、その後の育成や出産・育児期のフォローと早期復帰に向けた取り組みなど、長期的な戦略も必要になる。同時に男性マネジメントの意識を変えるとともに、長時間労働をいかに是正していくのか、働き方を変革も視野に入れる必要がある。

ホワイトカラー・エグゼンプション導入の検討

 昨年6月の「成長戦略」(日本再興戦略改訂2014)に盛り込まれた「新しい労働時間制度」、いわゆる日本版ホワイトカラー・エグゼンプション制度が今国会で成立する公算が大きい。現在、対象者について年収1000万円以上の高度の職業能力を持つ人材に絞って労働政策審議会で検討されている。

 メディアの批判や野党の反対もあり、衆議院解散が決まってから選挙期間中は審議会がストップしていた。だが、先月24日には審議会も再開し、こちらも自民党の圧勝を受けて審議が加速するのは間違いない。いずれ労働基準法改正案として通常国会に提出されることになるが、注目されるのはエグゼンプションだけではない。

 「企画業務型裁量労働制」の規制緩和と並んで従業員の長時間労働規制など健康確保措置がこれまで以上に厳しくなることが予想される。企画業務型裁量労働制の導入企業は現在0.3%、専門業務型裁量労働制は1.2%と少ない。対象労働者の拡大や申請手続きの緩和が実現すれば、導入企業は増えると見込まれる。

16年卒大学生の新卒採用戦略

 16年度の新卒採用から、採用広報は大学3年生3月から、採用選考は4年生8月からという経団連の方針が出されている。だが、昨年の夏以降、水面下では早くも16年度入社組の学生の争奪戦が始まっている。

 建築設計業の人事課長は「1月以降にインターンシップを活用して新卒採用活動を始める企業が増えるのは確実。昨年に比べて企業の受入数や学生の参加者も多く、どこの社も学生の囲い込みに躍起になっている」と指摘する。

 文部科学省の指針や経団連の指針の手引きでは「インターンシップに際して取得した個人情報をその後の採用選考活動で使用できない」とクギを差しているが、まともに取り合う企業があるとは思えない。すでに大手企業を中心にリクルーター部隊が結成され、個別に学生に接触しているようだ。

 食品業の人事担当者は「いろんな名目をつけて学生を拘束することもあるかもしれない」と語る。このままいけば、特定の有名大学の学生の青田買いで採用余力のある大手企業の内定率が上がり、8月の選考の解禁日はほとんど大勢が決まっている可能性もある。

 学業優先を目的に新卒採用・選考の後ろ倒しになったが、結果的には長期戦の様相を呈している。だが、企業にも読めないのが「学生にいち早く内定を出しても、その後も就職活動を続けるのか、あるいは早めに決めてしまおうとするのか、わからない」(食品業人事担当者)という点だ。学生の動向を読みながらの新卒採用活動が展開されることになりそうだ。

賃金制度の役割給一本化の動きと賃金制度改革

 日立製作所、パナソニック、ソニーといった大手企業が年功要素を廃した「職務・役割等級」に賃金制度を一本化する動きが昨年は話題になった。パナソニックの現行制度は「主事」「参事」など資格に基づく職能資格等級を軸に運用してきたが、同制度を廃止し、新たに担当する役割の大きさに応じて処遇を決定する役割等級制度を全社員に昨年10月から導入した。同様に日立製作所も昨年10月から国内管理職1万1000人を対象に「役割等級制度」を導入した。

 ソニーは15年度から導入する。現行制度は過去の実績や将来への期待を含めた仕組みであり、結果として年功的要素が残っていた。新たに「現在果たしている役割」のみに着目した「ジョブグレード制度」を導入し、年功要素を完全に排除する。新制度の対象者はソニー本体に勤める約1万4000人の全社員だ。

 いずれの企業もグローバル化に対応した人材マネジメント構築の一環と65歳雇用時代を見据えた人事・賃金制度改革という点で共通する。グローバル共通の賃金・評価制度と若手の登用を促す人事のフレキシビリティを確保するには「役割給1本化」による運用しかないと腹を括っている。運用次第では昇・降格、昇・降給が頻繁に発生し、若手の抜擢もやりやすくなる。日立、パナソニック、ソニーの目的の一つもそこにある。

 近年、職務・役割給の導入が進み、日本生産性本部の調査(14年3月)でも管理職の導入率は76.3%、非管理職層では58.0%に達している。しかし、職務遂行能力の高さを反映する職能給と併用している企業が多い。役割給の1本化には労組の抵抗や管理職層の反対も根強く、経営トップのリーダーシップなしには進まない。

 しかし、企業業績が回復している今こそ給与変動の激変緩和措置を高じるなど従業員の納得も比較的得られやすいかもしれない。電機大手の導入で今年から他の日本企業にも同じ動きが広がる可能性もある。

「限定正社員」制度と2018年「無期転換」への準備

 昨年、ファーストリテイリングが傘下の「ユニクロ」で働くパート・アルバイトの半分強に当たる約1万6000人の正社員化を発表。いわゆる店舗や勤務地を限定した「地域限定正社員」化の動きが小売・飲食業界を中心に広がった。

 厚労省の研究会でも職務、勤務地、労働時間限定型の正社員の導入が提案され、安倍首相が主宰する「政労使会議」でも限定正社員を「正規労働者へのステップ型」と位置づけている。ただし、すでに5割の企業がいずれかの限定的な働き方を導入しているという調査もある。しかし、人材活用の整備という点では不十分な企業も多い。

 一方、改正労働契約法の施行により、労働契約の更新が繰り返され、雇用期間が通算5年を超えた有期契約社員は無期契約に転換することになっている。13年4月1日以降に開始された労働契約に適用されるが、無期転換に移行するのは18年だ。まだ先のことと思うかもしれないが、その前に準備することはたくさんある。

 限定正社員への登用基準をどうするのかを決めなければならない。そのためには基準の前提となる期待する役割とは何か、役割を果たすための要件も整備する必要がある。さらに転換後に求められる能力を発揮するための育成や転換後の評価のあり方などを早めに準備しておかないと、ギリギリになって始めては混乱するだろう。

 既存の正社員も含めた就業規則やワークルールの整備、正社員との均衡処遇の整備、社内告知などの準備も求められてくる。とくに有期契約社員が多く、無期転換後は大量の「短時間正社員」の発生が予想される小売・サービス業では喫緊の課題だろう。

 2015年は長期的な従業員の処遇など人材マネジメントの転換を促すきっかけの年になるだろう。65歳雇用を踏まえた人事・賃金制度改革をはじめ、女性活躍のための働き方の改革を含めた雇用制度改革の長期ビジョンの策定は不可欠である。人事担当者にとっては最も忙しい1年になるかもしれない。

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