組織・人事

【相次ぐ労働関連法令の改正】人材活用見直し急務

安倍政権の下で労働関係法令の改正作業が進んでいる。いずれも近年にない重要法案であり、企業の人事・労務管理の対応が急務となっている。(文・溝上憲文編集委員)

人事制度

人材派遣の専門26業務廃止、個人単位で3年が上限に

改正労働者派遣法は通常国会に提出され、成立後、来年4月1日の施行を予定している。現行の派遣法は専門26業務を「業務遂行のために専門的な知識、技術又は経験を必要とする」と定義し、常用代替のおそれがないとして派遣期間の制限がない。それ以外の業務は業務ごとに原則1年(最長3年)という上限を設けている。

しかし、専門性は「事務用機器操作」のように今ではパソコンの操作ができるのは常識であり、入力作業だけをする派遣労働者を専門家と呼べなくなっている。また、26業務に該当するかをめぐり関係者の間で解釈の違いが生じるケースや付随的業務は1割以下とされている。

だが、時間数を測って全体の1割以下にするのは困難という意見もある。そのため、26業務や業務単位での期間制限を廃止し、個人単位や派遣先単位での期間制限を設けることにした。

有期雇用の派遣労働者については、派遣先が同一の組織単位で継続して利用できる期間の上限を3年とする。「同一の組織単位」とは業務のまとまりがある単位を想定しており、例えば3年後に就労する部門が変われば、同じ派遣先企業で就労することを妨げるものではない。

また、期間制限の3年を超えて受け入れた場合、派遣先の直接雇用契約となる「労働契約申込みみなし制度」を適用する。個人単位の派遣労働期間の上限が3年になれば、就業機会が失われ、雇用が不安定になる可能性がある。

派遣元に対しては、①本人の希望を聞いた上で派遣先に直接雇用を依頼、②新たな就業機会(派遣先)先の提供、③派遣元事業主において無期雇用、④その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置―の四つのいずれかの雇用安定措置を講じさせる。

仮に①を講じて直接雇用に至らなかった場合は、②から④のいずれかを講じる。また、派遣先は派遣元から直接雇用の依頼があった場合、新たに事業所内で労働者を募集する際に、その情報を派遣労働者に周知することを求めている。

そのほか、派遣先は1年以上継続して同一の組織単位に派遣された派遣労働者について派遣元から直接雇用の依頼があった場合、派遣労働者が従事していた業務と同一の業務に従事させるために労働者を募集するときは派遣労働者への労働契約の申込みをする努力義務を課している。

一方、無期雇用の派遣労働者については、期間制限がなくなるほか雇用安定措置も適用されない。このほか、①60歳以上の高齢者、②現行制度において期間制限の対象から除外されている日数限定業務、有期プロジェクト業務、育児休業の代替要員等の業務―も除外される。

メンタルヘルス対策でストレスチェックを義務化

改正労働安全衛生法は現在、国会に提出されている。改正案では「メンタルヘルス対策」「受動喫煙防止対策」「型式検定等の対象危惧の追加」のほか、新たに12次労働災害防止計画において検討することとされた事項が含まれている。

企業のメンタルヘルス対策についての改正案の最大のポイントは、労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を義務づけたことである。具体的な法改正の内容は以下の二つである。

①労働者の心理的負担の程度を把握するための、医師又は保健師による検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務づける。

②事業者は、検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないこととする。

ストレスチェックは年に1回行うものであるが、改正案では事業者にストレス検査を義務づける。ストレス検査の内容は「疲労」「抑うつ」「不安」の三つ。この三つについての質問に労働者本人が自ら記入して回答する形式で行う。厚労省は標準的なストレスチェック表を用意する予定だ。

法律では医師または保健師が検査を行うことになっており、成立後に医師や保健師の講習を予定している。ストレスチェックの結果について医師や保健師は、本人の同意なく事業者に検査の結果を通知してはならない。ただし、本人が同意しない場合でも、統計的データについては職場のメンタルヘルスの状態を知り、対策に活用することは構わない。

労働者が医師による面接指導を受けることを申し出た場合は、事業者は面接指導を受けさせなければならない。従業員50人以上の事業所であれば産業医を置くことになっている。50人未満の場合は地域産業保険センターの医師に面接指導を依頼することが可能だ。また、法案要綱では「事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と規定している。

受動喫煙防止対策では、10年の改正労働安全衛生法案には一般の事務所や工場等については全面禁煙や空間分煙とすること、飲食店等については労働者の受動喫煙の程度を低減させるための措置を講じることを事業者の義務とすることが盛り込まれていた。しかし、今回の法案では努力義務とするなどトーンダウンしている。

育児休業給付やキャリア形成支援が充実

雇用保険法の一部を改正する法律案は、3月28日に可決・成立し、4月1日から施行された。主な改正の一つは育児休業給付の充実だ。現行の育児休業給付は休業開始前賃金の50%を支給しているが、休業開始後6カ月について休業開始前の賃金の給付割合を67%に引き上げた。これは4月1日から施行される。

もう一つは、教育訓練給付金の拡充および教育訓練支援給付金の創設である。これまで教育訓練給付は受講費用の2割(給付上限10万円)を支給していたが、中長期的なキャリア形成を支援するために拡充する。

具体的には、専門的・実践的な教育訓練として厚生労働大臣が指定する講座を受ける場合、受講費用の4割を支給する。さらに資格取得等により就職に結びついた場合、受講費用の2割を追加的に給付する。金額的には1年間の給付額は48万円が上限で、給付期間は原則2年とし、資格につながる場合などは最大3年とする。

対象者は2年以上の雇用保険被保険者期間を有する者とし、2回目以降に受ける場合は10年以上の被保険者期間が必要になる。教育訓練支援給付金は、45歳未満の離職者が先の教育訓練を受講する場合に、訓練中に離職前賃金に基づき算出した額(基本手当の半額)となる。教育訓練給付金の引き上げおよび教育訓練支援給付金制度は10月1日から施行される。

その他、昨年11月に男女雇用機会均等法の省令改正も行われた。一つは同法第6条(配置、昇進等における性別を理由とする差別の禁止)の指針の追加である。「女性労働者についてのみ、婚姻を理由として一般職から総合職への職種の変更の対象から排除すること」「定年年齢の引上げを行うに際して、既婚の女性労働者についてのみ、異なる定年を定めること」を差別に該当する措置として追加した。

もう一つは同法第11条に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」、いわゆるセクシャルハラスメントの指針の改正だ。新たに「職場におけるセクシャルハラスメントには、女性労働者が女性労働者に対して行うもの及び男性労働者が男性労働者に対して行うものも含まれるものであることを明示する」ことになった。いずれも7月1日から適用される。

労働時間法制の見直しなど重要法案の検討が続く

現在、労働時間法制の見直しが労政審の労働条件分科会で議論されている。テーマの一つは、月60時間超の時間外割増賃金率50%以上の中小企業への適用の有無である。

08年の労働基準法改正により、月60時間超の時間外労働に対しては50%以上の割増賃金率が定められたが、中小企業については「当分の間」適用されないこととされた。施行後3年経過後に、施行状況や時間外労働の動向等を勘案し、検討を加えることになっていた。

もう一つは、企画業務型裁量労働制の適用拡大やフレックスタイム制の見直しである。日本再興戦略に盛り込まれた規制改革会議の答申(13年6月5日)ではその必要性について「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制を始め、時間外労働の補償の在り方、労働時間規制に関する各種適用除外と裁量労働制の整理統合等労働時間規制の見直しが重要な課題になっている」と述べていた。

どのように見直すのかについては、1月21日に開催された第24回規制改革会議で雇用ワーキンググループの改革内容が示されている。それによると、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大に関しては「事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査及び分析の業務」という現行の業務制限を撤廃し、労使委員会で決議した業務であれば、裁量労働制を適用できるようにするというものだ。

また、手続きの見直し・簡素化については、労使委員会決議の内容が同じであれば、企業単位での一括届出を認めるとともに、労働基準監督署長への定期報告書の届出義務を廃止すべきであるとしている。フレックスタイム制の見直しについては「1カ月単位のフレックスタイム制を週休2日で運用する場合、時間外労働となる時間の計算方式の変更」「精算期間は1カ月より長い期間を設ける」など、より柔軟な運用が可能になることを求めている。

現在、労働条件分科会で審議されているが、政府は今年秋に一定の結論を出す予定で動いている。14年度に成立ないし施行予定の一連の労働関連法令の改革は企業の人事にとっても見逃すことのできない重要なテーマだ。今後の法改正の動きを見極めつつ、制度をうまく使いこなすことで人材の獲得や戦力化につなげていくために人事・雇用管理の対応を検討していく必要がある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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