Eコマースの拡大などで、物流の効率化を課題とする企業が増えている。しかし、将来の事業成長を見据えて物流の改革を実現できる人材を見つけるのは容易ではない。物流分野の採用支援で実績を上げているエグゼクティブ・サーチ会社、兆(きざし)の近藤保代表取締役に企業の人材ニーズや採用の実態などを聞いた。
経営幹部やプロフェッショナル人材の採用支援を専門とされていますが、物流分野では企業からどのような人材ニーズがありますか。
すでに多くのメディアでも取り上げられている通り、物流分野の人手不足は深刻な状況です。低価格で非常に高いレベルのサービスを提供し続けてきた結果、物流の現場には相当のしわ寄せが生じています。すでに再配送や料金などを見直す動きが出ていますが、今はその過渡期です。
近年、消費者に商品をダイレクトに届けるEコマースや通信販売などの事業が大きく伸びていますが、今後の事業成長においては物流がボトルネックになると考える企業が増えています。物流の仕組みを自ら構築するのか、他社の物流サービスを活用するのかといった選択をはじめ、事業戦略を考える上で物流が大変なポイントになっています。
例えば、ある大手ネット企業は過去に自ら物流会社を立ち上げたものの難易度が高いということで一旦手を引いていましたが、物流の重要性がますます高まってくると認識して再度チャレンジしています。
事業戦略における物流の重要性が高まる中で、当社には「今の物流課題を改善するだけでなく、中長期を見据えた成長に耐えられる物流を構築するための人材」、「改善というレベルではなく非連続な成長を目指して改革的な新しい思想を導入できる人材」を探してほしいという相談が入っています。特にEコマースや通信販売のほか、ドラッグストアやスーパーなどのリテール分野の企業は採用を急いでいます。
兆 近藤 保 代表取締役
三和銀行(現三菱UFJ銀行)で支店営業、本部でデリバティブ商品の営業推進、全社ウェブビジネスを企画・推進。2000年、大手エグゼクティブ・サーチ会社に入社。大阪拠点を立ち上げ、西日本責任者、取締役ヘッドハンティング事業部長を歴任。2011年に兆を設立。通算約500件以上のヘッドハンティング実績(うち上場企業の代表取締役ポジションに20件余、取締役・執行役員ポジションで約100件)がある。名古屋工業大学大学院生産システム工学修士。
物流分野の課題と、それらの課題を解決するために必要な人材のタイプを具体的に教えてください。
物流分野には大きく次の三つの課題があると考えています。「物流の最適化を実現するためのサプライチェーンマネジメント企画戦略立案」、「多品種少量の商品を扱う複雑な倉庫内マネジメントの効率化」、「IT活用や自動化などの物流テクノロジーの強化」です。
まず、「サプライチェーンマネジメント企画戦略立案」ですが、こうした仕事を担えるような戦略人材を求めるに当たって、同じ業界から人材を採用してもせいぜい10%程度の改善にしかつながらないことが大半です。
改革を目指すのであれば、例えば、ものづくり企業の生産管理担当者が候補になります。自動車や家電メーカーでは膨大な点数の部品を調達して組み合わせて製造し、期日に遅れることなく指定の場所に納品するという動きを世界標準で実現しています。こうした人材を当社で探し出してEコマース企業に紹介し、高い評価を得ています。
また、コンサルティング会社で物流分野を専門とする人材も経験値がありますので候補になります。いずれにしても同じ業界のライバル企業から人材を引き抜くよりも、自社よりも上流でビジネスを行っている企業から人材を獲得するのがトレンドです。
次に、「倉庫内マネジメントの効率化」を実現できる人材についても、ものづくり企業の生産管理担当者はフィットします。ものづくりの現場は動線のマネジメントが重要で、いかに少ない動線で効率的に部品などを集め、組み立てられるかを徹底的に追求しています。また、多品種少量を取り扱う企業の物流戦略の経験者も適しています。
「物流テクノロジーの強化」では、AI、IoT、データサイエンス、ロボティクスの活用、情報通信の高度化に知見のあるコンサルティング会社やIT企業の人材、自動ピッキングや倉庫の無人化などを経験している人材が求められています。
300人の物流人材リストから適格な候補者を紹介する
●物流分野の課題と課題解決ができる人材
そうした専門性の高い人材を企業は転職市場で見つけることができるのでしょうか。
現職で活躍している人材は、まず転職市場には出てきません。また、物流分野に特化して転職支援を行っている人材会社もないと思います。そして先ほどお話したように、物流分野の課題を解決できる人材は他の業界にいることも多いため、企業が独力で候補者を探し出すことが非常に困難です。
当社は既に、現職で活躍している物流分野の人材をリサーチし、発掘しています。約300人をリストアップし、その多くの方と面談も終えています。そのため、私たちはクライアントの課題を解決することができる適格な候補者をスピーディーに紹介することができるのです。
採用のミスマッチを防ぐためにも、コンサルタントのサポートが必要になりますね。
入社後に活躍してもらうためには、候補者の能力や経験だけではなく、人柄や価値観、企業風土との相性まで深く読み取って評価する高度なアセスメントスキルが必要です。当社には多くの企業の物流課題に向き合い、物流分野の専門人材と数多くの面談を重ねて採用を支援してきた百戦錬磨のコンサルタントがそろっています。
最近の事例ですが、サービス業のクライアントに対して物流の効率化を推進するための幹部人材を異業種から紹介し、その方は高い対応力を発揮して大活躍されています。このような業界を越えた物流人材の採用支援についての経験も豊富に持っています。
どのような企業からの問い合わせが多いのですか。
企業規模を問わず、積極的な事業成長を目指す企業からの問い合わせが多いです。つまり、物流人材の確保が今後の成長に欠かせないということの表われです。Eコマース、通信販売、小売業を中心に、物流の効率化は喫緊の課題となっています。
小売業は経営者から、Eコマース関連企業は経営企画担当役員から相談が入るケースが比較的多いように思います。中期経営計画を立案する際に、必ず「物流をどうする」という話が出てくるからです。
毎日の物流を問題なく動かすことに精一杯になっている企業もあると思いますが、物流部門が「今日も1日頑張ったな」という意識に留まっていてはいけないという経営者の危機感が高まっています。将来の成長を見据えて物流の強化を急がなければと考える経営者が人材を求めているのです。
物流効率化を課題とする企業の人材獲得を成功に導く
●物流分野の人材サーチの最近の事例
・専門商社の倉庫内オペレーション責任者として、自動車メーカー生産管理人材を招聘
・大手BtoB通販企業に庫内物流改革人材として、戦略コンサルティング人材を招聘
・大手BtoB通販企業の物流IoT人材として、ITコンサルティング会社人材を招聘
・大手ネット通販企業の物流子会社にデータサイエンティストを招聘
・大手薬局チェーンの物流改革推進人材として、物流ITコンサルティング人材を招聘
物流分野の人材サーチを専門とする会社は聞いたことがありません。この分野に着目した理由を教えてください。
私は約20年前からヘッドハンターとして活動していますが、誰でもできる領域をやっていると参入者も増えて競争力がなくなってしまうと常に考えてきました。たとえ難しい領域であっても企業が本当に必要としている分野の人材であれば、先んじて手掛けることによってクライアントの事業成長を支援することができます。
例えば、4-5年前からAI・IoT人材を開拓し、採用支援のノウハウを蓄積してきました。その結果、大手メーカーやサービス企業などの非常に難しい採用を相次いで成功させています。
そして、物流分野についても他社に先駆けて約300人のリストを作り上げ、企業の人材ニーズに応えられるようになっています。難しい分野であるだけに、この分野を専門とする人材会社はありませんし、当社は他社にはないノウハウがあると自負しています。
当社は経営幹部やプロフェッショナル人材を対象としたリテイナー型のサーチ会社として、CXOや事業責任者、社外取締役などの実績も豊富です。単純なスペック合わせではなく、候補者の価値観とクライアントとの相性までも総合的に勘案して適材適所を実現していくのが特徴です。
そして、ほとんどのコンサルタントが10年、20年以上の経験を持ち、広範な人脈と独自のネットワークが強みとなっています。
私は日頃からコンサルタントに対して、自らの仕事の中で何が付加価値になっているかを考えるべきだと伝えています。成功報酬型の人材紹介とは異なり、リテイナー型のサーチ会社である私たちは採用の成功にコミットします。私たちの「処方箋」を信頼していただけるクライアントに対して、さらに貢献していきたいと考えています。