深刻さ増す 被災地の人材不足

震災2年を経た被災地では、求人過多による人材不足という新たな雇用問題が復興に影を落とす。東北経済と被災地の雇用の実態を取材した。

工場を再開しても人材を採用できない

石巻市魚町。石巻港に隣接する漁業、水産加工工場、卸業者が集積する地域だ。震災による津波で漁港は地盤沈下し、工場や倉庫はすべて流され、魚町に隣接する住宅地域も壊滅状態となった。

一年半前は周辺から集められたがれきで巨大な山がいくつもでき上がっていたが、2年を経過した今はがれきの山もほぼなくなり住宅地一帯は更地となっている。 漁港周辺は更地のままの住宅地とは異なり、多くの水産関係者が新たに加工工場や倉庫を建て直して操業を再開している。被災した沿岸部の復興計画も定まらない中でこのがれきを片付け、二重債務問題という不安を抱えながらも事業を復旧している経営者らの行動や精神力には感動するばかりだ。

ところが、ようやく事業を開始して人材の採用を始めているにもかかわらず、従業員が集まらないのだという。被災地域を多く抱える宮城県全体の1月の有効求人倍率は1.25倍であったが、石巻ハローワーク管内の求人倍率はさらに高く1.63倍。求人数5411人に対し、求職者3217人と大幅な求人過多が続いている。

石巻市周辺の雇用情勢について石巻ハローワークの担当者は次のように話す。「震災後、石巻市の人口は1万7000人も減少しています。魚町周辺の水産会社で働く人たちの多くは隣接する住宅から徒歩や自転車で通っていましたが、震災後は遠く離れた仮設住宅に住んでいたり、住民票を残したまま親族の家に身を寄せたり、高齢者が引退したりと住環境の変化が大きく影響しています」

「そのため地場産業の水産会社が求人を出してもなかなか人が集まりません。また、これまで働いていた人たちの中には海の近くでは怖くて働けないというメンタルの問題を抱える人もかなり出ています」

石巻管内では「製造業・食料品」の常用有効求人数587人に対して、求職者は203人といまだに多くの会社が従業員を採用できないでいる。特に魚町周辺は漁港、水産加工、卸、住宅と職住近接して形成されていたため、このうちの一つが欠けても町として機能に支障を来たす。

そのため「工場は稼動し始めているものの石巻の水産加工の生産はいまだ4割程度しか復旧していない」(水産関連会社の社長)のが実情だ。

被災地の復興の遅れが業績回復に影響

こうした被災地復興の遅れの影響を受けているのが、被災地の沿岸部の産業を取引先としていた企業だ。仙台港から1キロメートルに位置する多賀城市の王子コンテナー仙台工場もそうした会社の一つだ。

同社の主要製品は加工食品などを包装するダンボールで、宮城県周辺を販売エリアとしている。地震の直後4メートル超の津波が襲い工場内にがれきやヘドロが流れ込み、設備はすべて損壊した。同工場の被害額は在庫なども含め、40億円以上に上った。

幸いにも、当時、就業していた従業員全員が工場長の指示のもと数台の車に分乗し無事高台に避難して難を逃れた。 震災後の復旧も速かった。がれきは破砕して埋設し、敷地をかさ上げして工場を建て直した。一部製造ラインも1年後には復旧した。だが、工場は再開したものの石巻のような水産・食品加工会社の業績回復の遅れによる影響を受けている。

松澤純一常務執行役員・工場長は、「震災によって一年近く供給できなかった食料品などは、小売店では別の産地の食品に置き換わってしまっています。このような店舗の商品陳列を元に戻すことは容易ではありません。また、回復の遅れには原発事故の風評被害も影響しています」と販路確保の難しさを語る。

同社では仙台工場が稼動するまで一部業務をグループ関連会社に委託し、社員を出向させるなどの措置をとって雇用を守ってきた。その後も製函設備、印刷機などの段ボール製造設備を復旧させ、出向していた社員を呼び戻し始めている。

しかし、取引先となる被災地の会社の業績がかつての水準には戻らないため工場の稼働状況はかつての6~7割程度の水準だ。「グループ会社などに出向している社員を全員呼び戻してからが本当の復興の日になる」(松澤工場長)。同社の業績回復は、被災地の本格的な産業復興なしにはありえないのだ。

人材不足が地域経済の復興に暗い影を落とす

一方、求人過多の状態には被災地の復旧段階による人材需要の変化も影響している。がれきの一次処理が最終段階となり、次の段階でがれきの二次処理、がれきや復旧資材の輸送や運搬、宅地造成にかかわる人材が大幅に不足するようになっている。

それに関連した職業の石巻地区における求人倍率を見ると、「建築・土木技術者」(9.53倍)、「保安・警備の職業」(8.78倍)、「運輸・通信の職業」(2.65倍)、「建設機械運転」(1.96倍)、「電気工事者」(3.61倍)、「建設躯体工事」(28.20倍)、「建設の職業」(3.58倍)、「土木の職業」(3.99倍)と求人が求職者を大幅に上回っている。

また復興関係者の流入でホテルなどの宿泊施設が増設されたため「サービスの職業」(2.50倍)も求人倍率が高い。

震災で被害を受けた医療機関も「薬剤師等」(24.0倍)、「看護師・保健師等」(3.28倍)、「医療技術者」(7.75倍)、「社会福祉専門職」(1.81倍)が不足しており、医療・介護福祉の機能を全面的に回復できないでいる。

被災地の人材不足は深刻で、地域経済の復興に暗い影を落とす。塩釜市に本社を置く地元企業の三陸運輸も震災後の人材採用では苦戦している。同社は、主に仙台塩釜港で船舶貨物の積卸や陸海空一貫輸送の作業、通関業務など東北の物流の要となる事業を行っている。

震災では、同社が所有する荷役機械55台のうち41台、トレーラー183台のうち115台、そして200台以上の車両や設備など約8割が流出して使用不能となった。被害額は約24億円に達する。

それでも被災地への緊急支援物資の輸送には仙台塩釜港を早期に再開させる必要があり、「不撓不屈の精神で何が何でもやり抜く」(布施義光社長)という思いで復旧作業を行い、震災から6日後の3月17日には仙台港区に第一船を入港させた。

仙台石巻港のインフラ復旧につれて業務量は増加している。従来事業では8割程度が回復し、復興関連の売上を含めると震災前の約110%程度にまで上昇している。

この3月には被災した仙台港第一事務所の跡地に新しい仙台港新事業所を開設した。こうした業務量の増加にともなって、採用数を今年から増やしたのだが、とにかく人材が集まらない。

これまでは高卒者4~5人の採用枠に30人程度の応募者があったのだが、今年は15人の採用枠に数人の応募があっただけだという。

「いつもはやらない会社説明会を数回開催しているのですが応募者が集まりません。子会社の運送会社はもっと深刻で運転手などの職種はいくら募集をかけても集まらない。人材を採用することさえできれば業績はさらに向上するのですが…」と布施社長は肩を落とす。

そして人材が集まらない要因について、「仙台市が近く、専門学校などへ進学する生徒が増えていることや震災で海の近くで働くことにメンタルな部分で抵抗感があるのかもしれません。実際に当社の従業員も、震災後に精神的にまいってしまった人が仕事を辞めています」と話す。

人材不足を解消しなければ復興計画も機能不全に

こうした被災地の状況とは異なり仙台市周辺の雇用は地方都市特有の問題を抱えたままだ。地域経済団体の東北生産性本部の中村嘉一郎事務局長は訴える。

「仙台周辺の経済は復興需要もあって改善してきていますが、仙台市や石巻市を含めた周辺地域の雇用は正社員の『事務的職業』を希望する求職者が多く、求人は慢性的に不足しています。これは震災前からの課題で、どの地方にも見られる雇用問題の一つです」

「このようなミスマッチを解消するためには復興にともなう一時的な雇用だけではなく、正社員の仕事を増やしていくような事業の移転や創出が必要なのです」

東北地方の採用事情に詳しい人材会社アクティベイト社の會田誠統括部長は、ミスマッチの理由を次のように話す。

「正社員の求人は決して多いわけではありませんが、復興需要が波及してきている建設会社、住宅メーカーなどでは増加してきています。しかし、募集が増えている建築士などの資格保有者が少なく、営業マンの募集でも業界経験がある転職者が不足しています」

また、同社の佐々木正士人材紹介事業部長は、「金融円滑化法案が終了することで経営改善を指導できる会計士や税理士などが必要になるなど正社員採用は今後増加していくと思われます。しかし、ここ一年で増加している求人は採用基準が高く、当面、ミスマッチが続くのではないでしょうか」と指摘する。

被災地の雇用問題は、がれき処理や宅地造成のような短期的な雇用となる「インフラの復旧」と石巻市魚町のような中長期的の雇用が必要な「地場産業の復旧」、そしてこれまでも地方にあった「正社員雇用の受け皿の少なさ」という三つを考える必要がある。

このようなミスマッチに対してどのような解決を図っていくのか、雇用のスペシャリストとして民間企業の人事担当者や人材会社が課題解決に貢献できることが多々あるのではないだろうか。

また、アイデアにあふれたベンチャーや新規事業として、より積極的に復興を支援するような起業があってもよい。今後、本格化する被災地の復興を考えたときに人材不足が一層深刻になるのは明らかである。人材不足を解消しなければ、復興計画も機能不全に陥ってしまうだろう。

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