組織・人事

“従業員が突然ダウン”のリスクを防ぐ セルフチェックツールで対応の優先度を見極める【メンタルヘルス特集(3)】

メンタルヘルス対策の重要性が高まる中、職場や人事担当者の負荷が大きくなってきている。メンタル不調者を出さないためには、事前の予防措置が最も効果的な対策だ。相談窓口、カウンセリング、研修などの支援サービスの利用を検討する際には、まず従業員の状況を適切に把握しておくことが欠かせない。 最近は、数少ない人事担当者が従業員の“心の健康状態”を把握するために、従業員が自らのストレス状況を確認できるセルフチェックツールを導入するケースが増加している。セルフチェックツールを活用している人事担当者に、今起きている課題、そして具体的な対策について聞いた。

今回の取材先企業A社

従業員約170人のIT・システムサービス会社。主な職種は営業と開発。
総務・人事部門は3人で、うち人事担当は1人。

メンタルヘルスについて社員から相談を受けることはありますか。

メンタルヘルスということで人事に直接の相談は少ないですが、「仕事量が多い」「上司や同僚と上手くいかない」といった職場での悩みから話が入ってきます。会話の中で「最近よく眠れない」「月曜日が憂鬱」といったフレーズが出てくると、メンタル面の問題を気に掛けるようにしています。

最近はうつ病に対する認知度が高まっていることもあって、体調を少し崩しただけでも、うつ病と結び付けて考えてしまい不安を持つ社員がいます。特に若い社員に多く、今年も職場に配属されて間もない新入社員から相談がありました。

当社では社員の相談窓口を特別に設けていませんが、新入社員研修で「仕事の相談は上司に、仕事以外のことや上司に相談しにくい内容は人事に相談するように」と伝えています。

職場内で解決してもらうべきものと、人事が間に入った方が適切なものは判断して対処できますが、メンタルの問題が背景にあるのか、どこまで職場に介入するべきか判断に迷うことはあります。

うつ病と診断された従業員への休職復職プログラムはありますか。

復職は主治医の診断書をベースに、産業医の意見をもらい、経営陣と人事で判断します。復職に際しては短時間勤務制度を設けています。復職と休職を繰り返す場合には、就業規則に休職期間の通算による退職規定があります。

当社のような規模の小さい企業では、従業員が突然ダウンして休んでしまうことが一番困ります。簡単に人を手当てすることもできませんし、残された従業員の負担も急増してしまうからです。そのため、メンタル不調の兆候を少しでも早く把握するための手段として、ストレス状況のセルフチェックツールを活用しています。

メンタル不調の予防措置に対してコストを掛けることに、社内で理解を得ることが難しい会社も多いようですが、従業員が精神疾患を発症してからの事後対応は、場合によっては生死に関わる状況にもなるので大変です。安全配慮や社会的な責任といった点からも、事前予防の施策をやっていないというリスクが大きくなっていると感じています。

メンタルヘルス対策としてどのような予防施策を行っていますか。

当社では2年半ほど前から独自のアンケートで従業員のメンタルヘルスチェックをいっていましたが、定期健診にメンタルヘルスの問診の追加が検討されているなど、法的にも企業に対して予防対策の強化を促す動きがありますので、定期的かつ簡単に従業員のストレス状況を把握できるツールの必要性を感じていました。

そこで、社内ネットワークで従業員一人一人が簡単に受診できるパイプドビッツ(東京都港区、佐谷宣昭代表取締役社長CEO)が提供しているセルフチェックツール「こころの健康診断」を4月から導入し、毎月1回、社員全員が受診しています。

従業員が手元のパソコンで受診するだけでスピーディーに全体を把握することができます。受診ごとの変化を見ることもできます。注意して観察する必要がある社員には人事面談をし、仕事量や職場環境について上司と連携し状況を確認しながら、状態が深刻化する前に対策に動きます。

従業員個別の事情を考慮する必要があるので、診断結果は本人と人事だけが分かるようになっていて、上司には直接知らせることはありません。従業員個別の問題ではなく、会社全体としてマネジメントの改善が必要と判断した場合は、経営陣から管理職に対して指示が出されます。

「こころの健康診断」導入のメリットは何でしょうか。

当社は従業員170人全員が1つのオフィスに勤務しているのですが、人事が全員の様子を把握するのは困難です。1人当たり30分の人事面談を行ったことがあるのですが、完遂するには1カ月間かかりました。他の業務が止まってしまうため、継続的に面談を続けていくことはできません。

セルフチェックの診断結果を見れば、全体を把握した上で、面談する社員の優先度をつけたり、次の手立てを検討する材料を得ることができます。

そして、「こころの健康診断」を毎月受診することによって、従業員自身もストレス状況、業務量や仕事の進め方について自然と考えるようになってきていますので、メンタル不調を防ぐことに役立っていると思います。

最初から制度を整えて対応していく必要がある大企業とは違って、中小企業ではEAP(従業員支援プログラム)のパッケージを導入するのはコスト面からもハードルが高いので、まずは従業員の状況を把握して今後の対策のきっかけづくりをするために、リーズナブルなツールを活用しようと考えました。

他社の人事担当の方もメンタルヘルス対策が急速にクローズアップされてきたので、どこまでやれば良いのか、ベストなのかベターなのかを図りかねているのではないでしょうか。状況を把握した上で課題に応じて、次のステップとして対策を考えていくというのが現実的だと思います。

今後どのような支援サービスを求めていますか。

予防施策で言えば、人事面談の後、産業医につなぐ間のサポートです。当社の産業医は常駐ではなく、精神疾患の専門家でもありません。そのようなこともあり、産業医に診てもらうというのは従業員にとっては「病気になった」というイメージなのです。

そのようなイメージを従業員に持たせず相談ができる機能として、専門家であるカウンセラーの役割が必要だと思っています。セルフチェックの診断結果の専門的な分析やカウンセリングを自社だけでやるには限界があります。当社の人事担当は私1人なのでリソースが限られるということもありますが、このような仕事には専門的な知識や経験が欠かせません。

従来型からある人事の業務とは質が異なる点があります。従業員や症状によって様々なアプローチが必要で、周りから「人事だからできるでしょう」という目で見られるのは困りますね(苦笑)。人事の業務では、これまで以上に専門的な意見やサポートを得て判断する必要が高まっています。ツールや外部のサービスを上手く組み合わせて活用する能力が、人事担当には求められていると思います。

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