ナレッジワーカーの生産性向上で成長戦略を実現【行動をエンジニアリングする 連載第3回】

カタナ・パフォーマンス・コンサルティング
宮川 雅明 代表取締役

成長戦略を体感していない従業員が大半に

1980年代半ば、プラザ合意による為替調整とそれに伴うグローバルなコスト競争の始まりによって、日本企業は労働時間の短縮やアウトソーシングなどに取り組んだが、それ以降、「仕事をすることによって成長できる」という日本人の働くことに対する肯定的な価値観が揺らぎ始めたと感じる。

そして、社会の高度化やグローバル化に伴って、ナレッジワーカーによる創造性の発揮がより重要になる流れが加速する中で、ビジネスモデルの転換に遅れた日本企業では縮小均衡のマネジメントが長く続き、成長戦略を体感したことがない従業員が大半となっている。

日本人の創造性は決して低いわけではないが、企業組織の中でナレッジワーカーに創造性を発揮させるようなマネジメントが進んでいるとは言えないだろう。ナレッジワーカーとは、知識労働者として自己の成長を組織の成長を通じて成し遂げていく存在だ。ナレッジワーカーの業務を視覚化するために実績を記録したり時間を測定したりするが、ナレッジワーカーの特性を理解せずにマネジメントを行うことは逆効果になりかねない。

ナレッジワーカーの組織にとって需要なことは、何かユニークなアイデアや戦略を立案することではなく、立案した戦略を組織メンバー全員が理解、納得し共有することである。「どうせできないだろうからできる範囲でやろう」と頭の中で思った瞬間に、それなりの行動しか起こさないからだ。

ナレッジワーカーの業務と学習が進まない多くの職場

ナレッジワーカーのマネジメントに対する考え方は、ワークスタイルやツールが変わっても原理原則は変わらない。ナレッジワーカーの業務には戦略的業務、管理的業務、処理的業務がある。戦略的業務とは、組織として将来に向かって何をするべきかを決め、資源配分を行うことだ。その戦略に対して組織全体が共通認識(理解、納得、共感)を持つことが重要で、全員が「よしやろう!」ということがないと、主体的な行動が起きず、戦略を徹底実践させることができない。

管理的業務とは、戦略を実行するための計画を考え、仮説を設定することだ。仮説のない検証は気づきを得ることができず、この仮説設定力の弱さが多くの従業員のウィークポイントになっている。大量の仕事を早く処理したいという気持ちから、仮説を設定せずにとりあえずやってみるという行動を取ることが多い。

確かにやってみないと分からないこともあるが、それを繰り返してしまっていることは問題だ。インプットされる情報を見極めて、自問自答した上で行動計画を立てることが必要なのだが、仕事の量が多いために考える時間が取れないほど追い込まれているのが実態で、仮説の検証による気づきを得ることができないでいる。

こうした学習が進まない職場が急速に増えた結果、10年働いてもプロフェッショナルになることができない従業員が大量に生み出されているのではないか。そして、処理的業務は、管理的業務で立てた計画に沿って正確に進めるものだ。すでにアウトプットが決まっているものを効率的に作り上げるプロセスでツールの適切な選択や習熟が必要とされる。個人の訓練や経験の程度と生産性が比例する。

ナレッジワーカーの生産性の測定と業務計画

3つの業務の生産性を測定するための指標は、戦略的業務は戦略の共有性(Envision)、管理的業務は計画実効性(Execution)、処理的業務は能率性(Effi ciency)になる。仕事の成果(アウトプット)とそれに投入したインプットの関係を見るための実用的でシンプルなものが適しており、業務にどれだけの「時間」を投入しているかを測ることが基本である。

ただし、ナレッジワーカーの業務の中には測定しきれない時間があることにも注意が必要だ。一つは潜在時間で、「ビジネス環境はどうか」「今後どのような製品開発に取り組むか」などということは、ナレッジワーカーであれば四六時中考えていることだ。こうした時間は測定しようとすること自体に無理がある。

もう一つは余裕時間だ。生産現場では機械に油を差すような時間だが、ナレッジワーカーの場合は業務が中断されて思考が途切れる時間や業務内でプロセスを考える時間などに当たる。ナレッジワーカーの仕事はたとえ個人であっても、マネジャーのちょっとした確認で気づきが触発されてアウトプットの項目が追加されたり、分析に広がりが出てくる。生産現場に比べて余裕時間は業務時間のかなりのウェートを占めている可能性がある。

ナレッジワーカーの生産性が高まる状態を考えるならば、1日8時間ではなく5時間程度で計画し、それを徹底して行う方が業務特性に合うだろう。ナレッジワーカーの生産性を高めるマネジメントは、企業の成長戦略を牽引する創造性が発揮できる人材の育成につながるはずだ。

●ナレッジワーカーにおける組織生産性と個人生産性

新規事業への挑戦と基本動作の徹底で人材を育成

全体の事業の中で新規事業がどの程度動いているかは、企業の成長力や人材育成力を見る重要な要素となる。しかし、日本のビジネスエリートは既存ビジネスや組織の中でポジションを確保しようとする意識が強く、新規事業への取り組みが少ない。

企業の人材マネジメントを担う人たちには、将来が期待される従業員が新規事業に挑戦できる機会を大胆に与えてほしい。また、海外に出て仕事をさせる体験も必要だ。同時に、マネジメントの基本である「人を見て仕事をする」「メンバーに声を掛ける」「結果管理ではなく対策を検証する」「仕事に着手する前に目標時間を設定する」などの基本動作の繰り返しを徹底するための取り組みも忘れてはならない。

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