人材採用

事業構造改革で専門職種の採用活発化【関西企業の人材採用最新事情】

関西企業で事業成長を目指すための専門職種の人材採用が活発になっている。特に人材不足が顕著になっているのがエネルギー・自動車関連分野のエンジニアや事業担当者、そしてグローバル人材だ。

業績急回復で関西企業の採用意欲が一段と高まる

昨年から関西企業の採用意欲が一段と高まり、今年に入っても求人倍率は高止まりしている状態だ。人材紹介大手のインテリジェンスによれば、関西の今年3月の転職求人倍率は全体で1.27倍となり、企業の採用活動は厳しさを増している。

職種別では、技術系(建築/土木)3.76倍、技術系(メディカル)3.20倍、技術系(電気/電子/機械)2.00倍、営業系1.43倍、技術系(IT/通信)1.43倍、専門職系(コンサルタント/金融/不動産)1.37倍が全体平均を上回り、人材採用が難しくなっている。

ここ数年は電機業界を中心にリストラが相次いでいたが、取り組んできた事業構造改革の効果が現れてきたことで業績が急速に回復。 主要企業の2014年3月期決算の営業利益は対前年度比で神戸製鋼所919.6%増、村田製作所114.7%増、武田薬品工業114.3%増、パナソニック89.6%増、ダイキン工業75.0%増、川崎重工業72.0%、クボタ66.8%増など大幅な増益となった。

こうした業績回復が追い風となり各社とも人材採用に積極的に動き始めた。関西の景況感と人材需要についてインテリジェンスの森宏記ゼネラルマネジャーは次のように解説する。

「大手メーカーの業績回復が本格化したことで、昨年3月頃から採用意欲が高まり始めています。新しい技術分野への進出や積極的なシステム投資を背景とした求人が増加しているほか、外食・流通関連でも消費税増の影響が想定内に収まる見込みとなったことで、しっかりしています。首都圏や中部圏にやや遅れをとっていた関西の求人も、ここにきてようやく追いついてきました」

●関西主要企業の業績(2014年3月期連結決算)

事業構造改革とグローバル展開に伴う求人が急増

関西企業の積極的な採用を支えているのが、事業構造改革に伴う新規事業分野への集中的な投資だ。例えば、関西企業で売上高(連結)7兆7365億円という圧倒的な規模を誇るパナソニックは、2013年から抜本的な事業構造改革に着手している。

13年3月に発表した中期経営計画(13~15年)では赤字からの脱却を掲げ、創業以来の事業の柱であったBtoCの家電事業を再編・撤退して車載事業、住宅事業、デバイス事業への転換を図るとし、自動車と住宅・エネルギー分野に注力することを明確にした。2018年に目指す売上構成も家電が1.8兆円から2.0兆円、デバイスが1.4兆円から1.5兆円と微増なのに対し、車載は1.1兆円から2.0兆円、BtoBソリューションが1.8兆円から2.5兆円と新たな成長領域としている。

このような事業構造改革の過程で出てきた課題がグローバル展開だ。欧米とアジア・中国・中近東などの海外戦略地域を有望市場と見て戦略地域事業推進本部を設置し、代表取締役副社長をインド・デリーに常駐させるなど、「経営リソースを大胆にシフトする」と津賀一宏社長は宣言した。

このような事業領域の転換やグローバル事業拡大は同社に限らず関西の産業界全体に波及し始めており、事業変革に必要な人材の確保は企業の大きな課題だ。しかし、今回の事業変革は、新しい事業領域へのチャレンジや新たなチャネル開拓を伴うもので、これまでの社内の人材リソースでは経営戦略を達成することは実質的に不可能だ。

そこで多くの企業が事業企画、新技術・商品開発、M&Aやグローバル展開を担える人材を探すようになったが、そのような候補者は限られているため採用に苦戦する企業が続出している。関西企業の求人ニーズについてインテリジェンスの柘植悠太ゼネラルマネジャーは次のように話す。

「全体の求人数はリーマン・ショック直前の水準になりましたが、企業が求める人材は以前とは大きく変化しています。リーマン・ショック前のピーク時はいわゆる“第二新卒”などのポテンシャル層の大量採用を行う企業が多かったのですが、現在の求人は特定分野の専門性を持った即戦力人材やグローバル人材の案件がほとんどです」

●職種別の転職求人倍率

(出所)インテリジェンス「DODA転職求人倍率レポート」

人材不足が顕著なエンジニアとグローバル人材

特に人材不足が顕著になっているのがエネルギー・自動車関連分野のエンジニアや事業担当者、そしてグローバル人材だ。EVや燃料電池など次世代の技術分野を担うエンジニアの確保は、関西の産業界を支える大手メーカーが最も力を入れている分野だ。

エンジニアの求人について技術者特化の人材紹介会社テクノブレーンの能勢賢太郎社長は採用の難しさを指摘する。「事業再編に伴って社内に不足している新しい技術分野の獲得、グローバル展開を加速されるための拡充の二つがあります。いずれもピンポイントな採用条件のため、綿密なリサーチを行った上で候補者にアプローチしていかないと採用ができない案件です」

新事業を展開する企業でも積極的な採用が行なわれている。例えば、太陽電池パネル事業では技術者だけでなく、事業を展開する責任者が求められているという。エグゼクティブサーチのイーストウエストコンサルティングの室松信子社長は、「最近の例では、太陽電池パネルを設置するために、不動産に詳しく自治体や地権者との交渉を担える人材という案件がありました。こうした特別なスキルを持つ人材は転職サイトで募集しても集まらないため、サーチで人材を確保しなければなりません」と話す。

海外事業拡大に必要な専門性と語学力を持つ人材

海外に活路を求める企業も多い。これまで国内を中心に展開してきた外食、流通、サービス業などでも、消費者となる人口の減少や店舗スタッフの人手不足からグローバル展開を模索しており、海外の成長戦略を支える経営幹部の獲得が喫緊の課題となっている。

「国内市場が縮小する中、事業の多角化や海外展開などを進めないと今後の成長は厳しい。経営企画や海外従業員の採用・育成を行える人材などが必要ですが、純血主義を貫いてきた企業では、そうした経験を持つ人材が不足しており外部からの獲得を急いでいます」インテリジェンス柘植氏)

経営戦略に海外事業の拡大を掲げる企業はM&Aにも積極的だ。ダイキン工業の米空調機器大手グッドマン・グローバル買収やサントリーの米大手蒸留酒メーカーのビーム社買収など、M&Aを活用して成長スピードを上げている。こうしたグローバル事業の拡大や再編に伴って、海外子会社の財務や人事を担える専門性と語学力を持つ人材の確保も必要になっている。

経理・法務・人事などの管理部門専門の人材紹介会社MS-Japanの久住憲市マネジャーは、「求人数は前年比1.3倍程度で推移しています。特に採用ニーズが高いのは経理職のマネジャークラスで、海外子会社の管理ができる人材、採用後に海外現地法人に赴任し、管理部門のマネジャーが任せられる人材といった条件です」と話す。

今後のグローバル人材の企業ニーズについて外資系人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパンでは次のように分析している。「日系製造業が経費削減と国際競争力の強化に取り組んだことで、国内外の拠点でプロセス管理業務の経験を持つバイリンガルのプロセスエンジニア、プラントエンジニアの求人が増加。輸入原材料の価格上昇と日本製品の需要増大が予想され、グローバルサプライチェーンと経費削減の両分野で豊富な経験を持つ人材の需要が高まるでしょう」

●輸出・海外進出の課題

(出所)日本貿易振興機構「2013年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

慢性的な候補者不足で採用戦略の見直しが急務

本社機能が集中し、一定の転職市場が確立している首都圏に比べ、関西企業の人材採用はより難易度が高い。首都圏の企業から関西企業への転職を考える人材が増えている様子は特段見られないこともあって、最適な人材を獲得することを一層困難にしている。

高い専門性を持つ人材に対しては複数の企業からオファーがあり、競争力のある条件が提示できない企業は採用に苦戦している。高度な人材を奪い合う状況となっている中途採用においては、「転職市場にはなかなか現れないような人材を全国から探し出して、説得して入社に導くことも必要」(テクノブレーン岡本哲男関西支部長)になる。

経営戦略を達成するための人材採用を実現するためには、専門的で質の高いサービスが提供できる人材紹介会社を見極め、パートナーとして活用していく必要があるだろう。

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