組織・人事

テレワーク、副業・兼業で労務管理の見直し急務

新型コロナウイルス感染拡大防止を契機として、テレワーク、副業・兼業などの多様な働き方が急速に広がっている。行政手続きの見直しも進みつつある中、労務管理を見直す際のポイントについて、社会保険労務士の山口雄大氏に解説してもらった。

山口雄大 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)

新型コロナウイルスの影響により、多くの企業が従来型のビジネスモデルの転換に直面したのと同時に、従来型の働き方も転換を迫られ、新しい多様な働き方が広がってきています。

テレワークや副業・兼業は、政府の働き方改革実行計画における「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の一つとして挙げられ、多くの企業で導入及び実施が進んでいます。一方で、テレワークを導入した企業では、「押印のためだけに出社しなければならない」や、副業・兼業では、「懸念する点が多いため導入に踏み切れない」という声も挙がっています。

本稿では、テレワークの障壁となっている行政手続きの押印の見直しとともに、副業・兼業を含む多様な働き方として注目されている制度と労務管理上の留意点について解説します。

テレワークの障壁だった行政手続きの押印見直し

これまで、社会保険や労働保険関係の各種手続きを行政機関に対して行う場合、事業主である証明として「記名押印又は自筆による署名」のいずれかを以って届出をする必要がありました。実際には、会社代表印を押印する「記名押印」で届出をしていた企業が圧倒的に多く、テレワークの大きな障壁となっていました。

しかし、厚生労働省より2020年12月25日に公布された「押印を求める手続の見直し等のため厚生労働省関係省令の一部を改正する省令」等により、社会保険・労働保険関係の各種手続きは、原則として押印不要となりました。ただし、すべての押印が不要とされたわけではなく、押印を必要とする特段の事情のある手続については、引き続き省略不可とされていますので、手続きの際は事前に確認するようにしましょう。

この度の見直しにより、押印業務のためにやむなく出社することも少なくなり、テレワークがより普及していく足掛かりになるものと思われます。

36協定届は押印不要?

時間外・休日労働が生じるときは、労働者代表と使用者で合意のうえ、36協定(労使協定)を締結し、協定の内容を記入した36協定届を労働基準監督署へ届出します。

また、36協定の締結については、次の2つの方法があります。
①36協定書(労使協定書)と36協定届を分けて作成する
②36協定書と36協定届を兼ねて、36協定届だけを作成する

2021年3月までは、36協定届については、記名押印または署名を行う必要がありましたが、2021年4月より36協定届における使用者の押印及び署名が不要となりました。そのため、新様式では使用者の署名欄にあった「㊞」が省略されており、押印は省略できますが、記名は必要です。また、36協定届への押印省略は、あくまでも行政機関への届出に対して認められたことになりますので、36協定書については、引き続き記名押印または署名が必要です。

なお、ここで注意が必要なのは、上記2の36協定書と36協定届を兼ねて、36協定届だけを作成する場合です。36協定の締結は、労使双方の合意がなされたことが明らかとなるような方法(記名押印または署名など)で行う必要がありますので、使用者の押印及び署名が省略された36協定届のみでは36協定としての効力が認められません。

よって、36協定書と36協定届を兼ねる場合は、引き続き36協定届に記名押印または署名を行う必要があります。また、新様式では、労働者代表を適正に選出しているかを確認するチェックボックスが追加されています。

36協定届の届出について、厚生労働省はe-Gov(電子政府の総合窓口)のウェブサイトからの電子申請を推進しています。事前にe-Govのアカウントを取得するだけで、無料で24時間・365日オンラインでの申請が可能です。協定の内容を画面に入力し、確認をする作業が発生しますが、窓口へ直接持参する、また郵送する場合と比較すると、届出に係る時間やコストがかからないことはメリットでしょう。

行政手続きの押印見直しが進みつつある

●36協定届の様式の変更点

(出所)厚生労働省「2021年4月~ 36協定届が新しくなります(リーフレット)

情報漏洩のリスクが懸念される副業・兼業と就業規則

副業・兼業(以下、「副業」という)を認めることにより、「社員のスキルアップ」や「優秀な人材の獲得・定着」等、企業側にも大きなメリットがあり、社外で働くことによって、本業だけでは得られなかった知識やスキルを獲得し、それを本業の企業に還元することで生産性の向上に繋がる可能性があります。

最近では、社内研修の一環として、一定期間他社での就業を経験させる「他社留学」や「越境学習」というサービスを活用している企業もあります。中には、「専業禁止」というスローガンを掲げている企業もあり、副業に対する企業の意識は確実に上がってきているといえるでしょう。

ただし、副業を認める場合には、労働時間、健康管理、情報漏洩及び競業避止等に留意しなければなりません。

まず、副業希望の申出があった際には、労働時間に問題がないか、業務内容が安全で健康に支障をもたらさないかを確認しましょう。また、業務量や労働時間が過重になったときの対策として、労務提供に支障がでそうな場合には、副業を制限又は禁止できるように就業規則等に定めておくことが望ましいです。

次に、副業を認めることにより、情報漏洩のリスクが高まることが懸念されます。就業規則等において、情報漏洩があった場合には、懲戒処分として厳正に処分する可能性について規定し、周知を徹底することで、リスク回避に繋げることができます。

最後に、競業避止の観点から、副業に制限を設ける場合は、注意が必要です。労働者が、「使用者と競合する業務を行わない」とする競業避止義務については、入社時の誓約書や就業規則等で定めることが多いですが、これは使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないからです。そのため、競業避止義務違反にあたるかどうかの判断は、副業の業種や職種だけではなく、業務内容等を鑑みることが重要です。

外部出向による雇用シェアの留意点

新型コロナウイルスの影響で経営状態が悪化している企業では、外部出向によって雇用を維持する「雇用シェア」、いわゆる在籍型出向の動きが広がっています。出向を行う会社の社員としての籍を残したまま、外部の会社で働くという仕組みで、出向先と出向元の双方と二重に雇用関係が生じることが特徴です。

出向については、民法や労働基準法等の法律で定義されているわけではありませんが、出向期間や出向期間中の労働時間・休日、給与や社会保険等の取り扱い、就業規則や福利厚生制度の適用等、出向元・出向先の会社間で事前に内容を定め、社員にも労働条件として通知しましょう。

ワーケーションは事前に労務管理のルールを明確に

今、注目されているのが、普段の職場から離れ、リゾート地や帰省先で働きながら休みを取る「ワーケーション」です。「ワーケーション」とは、ワーク(仕事)+バケーション(休暇)を組み合わせた造語です。環境省もワーケーションの推進を支援しており、新型コロナウイルスの影響を受けている地域への補助事業を実施しています。

ワーケーションによる効果として、公私分離志向が強くなる、リカバリー経験により、仕事の生産性が上がる、メンタル不調の改善に繋がるという調査結果が出ています。ワーケーションは、テレワークに加えて、心身の健康保持にも効果のある新たな働き方といえるでしょう。

なお、リゾート地や帰省先であっても、仕事をすると「労働」にあたりますので、当然ながら労働基準関係法令が適用されます。労働時間の管理方法、休日の適正な確保、中抜け時間の取り扱い、費用負担の範囲等、テレワーク同様に事前にルールを明確にしておくことが重要です。

働き方の変化に合わせて労務管理の見直しが必要

●押印見直しのチェックリスト

●多様な働き方と労務管理上の留意点のチェックリスト

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