組織・人事

新型コロナウイルスに関連する労務管理上の留意点

新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、今後の企業活動への影響が懸念される。3月13日に、新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立し、厚生労働省は特設ページを設置して随時情報を更新している。今回は、この中でも「労務」に関する内容について、社会保険労務士の濵田まりえ氏に解説してもらった。

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濵田 まりえ 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)

テレワークや時差出勤の積極的な活用促進

感染リスクを減らすために、テレワークや時差通勤の積極的な活用促進が、厚生労働省から要請されています。

テレワークについては、以前から大企業を中心に導入が進められてきましたが、総務省の調査によると、2018年の企業のテレワーク導入率は19.9%、従業員2000人以上の企業では、46.6%との結果が出ています(平成30年通信利用動向調査)。

テレワーク時には、労働者が通常の勤務とは異なる環境で就業することになりますが、その際も、通常の勤務と同様に労働基準関係法令が適用されます。そのため、業務の遂行状況の確認や情報セキュリティー対策と合わせて、労働時間の管理などにも留意する必要があります。

時差出勤については、就業規則に「業務上の都合その他やむを得ない事情がある場合には、前項の始業・終業時刻を繰り上げ、または、繰り下げることがある」との規定を設けていることが多いと思われます。このような始業・終業時刻の変更権の定めがあれば、始業時刻の繰り上げ、または、繰り下げを行うことにより、時差出勤が可能です。

また、就業規則に定めがない場合でも、労働者の個別の同意があれば、始業時刻の繰り上げ、または、繰り下げを行うことができます。

労働者が安心して休むことができるよう収入に配慮した制度

①休業手当

会社の都合で労働者を休業させる場合は、労働者に休業手当を支払わなければなりません。労働基準法では、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、労働者に平均賃金の100分の60以上の手当を支払うよう定められています。

新型コロナウイルスに感染した場合や高熱が出て働けない場合は、使用者の責に帰すべき事由に該当はしませんが、新型コロナウイルス感染症の疑いがある場合や、37.5度以上の発熱がある場合に、会社が休業を命じたのであれば、休業手当を支払う必要があります。

緊急事態宣言によって一律に休業手当支払いが不要になることはなく、不可抗力に該当するかで判断されます。

②傷病手当金

傷病手当金は、健康保険(全国健康保険協会・健康保険組合)の被保険者が、業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日(休業した期間について給与の支払いがないこと)に対して支給されます。

就労することができない状態の判定は、通常医師の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。しかし、3月6日に厚生労働省から公表された「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」によると、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、発熱によって会社から自宅療養を指示された被保険者が、やむを得ない理由により医療機関の受診を行わず、医師の意見書を添付できない場合でも一定の条件を満たせば傷病手当金の給付を認めるとしています。

やむを得ない理由とは、「帰国者・接触者相談センター」に電話がつながらない場合や、新型コロナウイルス感染症の疑いはあるが症状が軽症のため、医療機関を受診せずに自宅待機を命じられる場合などが考えられます。

医師の意見書を添付しない代わりに、被保険者が療養のために労務に服さなかった旨を証明する必要があるため、会社としては労働者に対して、病状、相談センターへの相談日時、相談センターからの回答を記録しておくことを依頼するなど、申請の際に対応しやすい方法を事前に検討しておくのもいいでしょう。

なお、原則の対象者は健康保険(全国健康保険協会・健康保険組合)の被保険者ですが、国民健康保険の被保険者もコロナウイルス感染症の特例支給の取り扱いの対象者となりました。こちらの詳細については、各自治体に確認することになります。

一定の条件を満たせば傷病手当金の給付が認められる

●状況ごとの傷病手当金の支給有無

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労働者が安心して働ける環境整備のための支援

厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける労働者が安心して働くことができるように、各種助成金制度などで支援を行っています。

①雇用調整助成金

前述のとおり、「使用者の責に帰すべき事由による休業」により、労働者を休業させる場合は休業手当を支払う必要があります。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により従業員を休業させた際、会社が従業員の給与を補償した場合に、休業手当に要した費用を補助する雇用調整助成金があります。

雇用調整助成金とは、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される助成金です。今回の新型コロナウイルス感染症の対策として、要件の緩和や、特例措置の拡大が行われています。

要件の緩和や特例措置の拡大が行われている

●雇用調整助成金の特例措置の拡大

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(出所)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大」(別紙)4月1日現在の情報のため、今後変更になる可能性があります。

②小学校休業等対応助成金・支援金

新型コロナウイルス感染症への対応として、小学校等が臨時休校した場合等に、その小学校等に通う子どもの保護者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規・非正規雇用を問わず、有給休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金を創設しました。事業主については、労働者の休暇中に支払った賃金相当額の全額が支給されます(支給上限有り:1日当たり8330円)。

また、年次有給休暇や欠勤、勤務時間短縮を、事後に特別休暇に振り替えた場合でも対象になります(ただし、労働者本人に説明し、同意を得ることが必要です)。なお、小学校の休業が延長になることから、休暇取得期間が延長されており、4月1日から6月30日までに取得した休暇等についても対象になりましたので、ご注意ください。

保護者に有給休暇を取得させた企業に対する助成金を創設

●コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金

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(出所)厚生労働省「コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金」4月1日現在の情報のため、今後変更になる可能性があります。

労働関係法令への対応の方向性

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、労働関係法令の対応が困難になるとの声により中小企業への配慮を徹底する通達が、3月17日に、厚生労働省より出されています。

①災害等による臨時の必要がある場合、時間外労働等の延長の解釈を明確化

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、人命や公益の観点から緊急に業務を行わなければならない場合も想定されます。今回の通達では、新型コロナウイルス感染症に感染した患者を治療する場合及び新型コロナウイルスの感染・蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液、医療機器等を緊急に増産又は製造する場合などが該当し得ます。

なお、上記のような臨時の必要がある場合に時間外労働等を延長したとしても(労働基準法第33条)、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。また、過重労働による健康障害を防止するため、やむを得ず80時間を超える長時間にわたる時間外労働・休日労働を行わせた労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じることが重要です。

②36協定の特別条項の考え方を明確化

36協定においては、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、限度時間を超えることができるとされています。

今般の新型コロナウイルス感染症の状況については、36協定の締結当時には想定し得ないものであると考えられるため、例えば、36協定の「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」に、繁忙の理由が新型コロナウイルス感染症とするものであることが明記されていなくとも、一般的には、特別条項の理由として認められます。

なお、現在、特別条項を締結していない事業場においても、法定の手続を踏まえて労使の合意を行うことにより、特別条項付きの36協定を締結することが可能です。

最後に、新型コロナウイルスを巡る混乱はいまだ終息の見通しが立ちません。そのような状況で、事業への影響を最小限に抑えつつ、感染拡大の防止に努める必要があります。自宅で子どもを保育しながら行う在宅勤務などの課題もありますが、最新の動向に注意しながら、新型コロナウイルスに対する自社にとって適切な労務管理の対応をされることをお勧めします。

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